87.自己紹介と波乱の予感
「では、お互いまずは自己紹介と参りましょうか」
「ですわね。懐かしき《水田迷宮》攻略組は知っていても、初めて見る方もいますものねえ」
ぞろっと揃い踏むと私側もジュリア側も、良質の装備を身に着けた面々がずらりと並びます。
殆どは知っているとはいえ、私から知らないのはジュリアが連れて来た三人。知らない人も多いので、自己紹介の時間を設ける事にしました。
荷台の方もプレイヤーの人数と平均レベルによって増減するので、私達の到来で本当にもう二台増えるそうです。その準備で時間はありますからね。
「おっし、んじゃア俺達からだ。俺はカルパ、人間の大斧使いだ。主に最前線で武器を振うのが役割になってる」
「僕はタラム、カルパに付いて後方からのサポートをしているエルフの弓術士だ。カルパはいつも突撃してるから、タンクの役割もしてるんだ」
「おう! 何にも考えず斧を振り回してる方が気楽だからよォ! がっはっはっはっは!」
「クレハさんとは《万葉》の戦線で逢ったんだ。中距離のサポートが欲しかったから、二人でよく暴れてたよ」
「おや、お姉様も意外と暴れてたのですわね。ともかく、よろしくお願いしますわね」
まず自己紹介の先陣を切ったのはカルパさんとタラムさん。ホント突撃好きですね……
カルパさんは野性的に戦い、尚且つ攻撃を受け止める事が出来ましたから。私とタラムさんはその後方で撃ち漏らしを狩るのが主な動きでしたね。
タラムさんは弱っている敵を即判別して正確に射るので、残党処理と後方支援に特化した弓使いの立ち位置をしています。カルパさんと長く組んでたそうなので、サポートが得意になったと零していました。
「じゃあ次は私が。ジュリアさんの盾役を務めさせて頂いておりました、魔族で大剣使いのウケタと申します」
「続いて。鬼族で大槌を使わせて貰ってるフロクスだ、一応バフも使える。元々はウケタと二人で組んでて、ジュリアさんがパーティ入りを申請してきたんだ」
「ウケタさんにフロクスさん……よろしくお願いしますね。妹が何か失礼を働いてないか、姉としては心配でしたが」
「そっ、そんなことしてませんわよ!?」
「……ふふ、実に礼儀正しい姉君だ。心配なさらずとも、私達よりも率先して敵を誘導し、それを私達が受け持って各個撃破……という手段が楽でしたから」
「そうそう、機動力がすごいからね。本来なら火力役は盾役の後方にいることに徹するべきだろうけど……常識を簡単にぶち壊されたよ」
「ふふふ、私だからこそできる戦術ですわ!」
次に声を上げたのは大剣を持ち、黒染めの全身鎧に身を包んだ藍色の髪をした魔族の青年。そして大槌……というより金棒に近いそれを持った和装鬼族の薄紫色の長髪をした……女性ですね?
ウケタさんはとても礼儀正しく執事を彷彿とし、フロクスさんは背の高く大柄に見えての姉御肌っぽい方です。特にフロクスさんは大きめに設定しているだろう胸が無ければ、男に見えてたかも知れません。
というか、ジュリアも大概な動きをしてたんですね……よっぽどそのスピードには自信を持っているようです。
まあ、以前手合わせした時でもその飛行スピードを武器に引っ掻きまわしてきましたから。よりそれに磨きを掛けて来たという事でしょう。
「はいはーい! 次はあたしの出番! あたしは魔族で氷魔術をメインに使ってるトトラなのだ! 解禁されたら魔銃に持ち替えるつもり!」
「魔族で魔術師と聞いておったからの、ルプスト殿かと思ったら違ったのじゃ。あ、余は殆ど知っておるじゃろうが狐人で火属性魔術と巫術をメインに使うカエデじゃ」
「……私も説明不要。雷魔術使いのルナ。ロールプレイ気味になってるのは、だいたいジュリアのせい」
「トトラも私の影響をちょーっと受けてるらしいですわね……どうしてこう……あと、ルプスト姉様のファンだそうですわ」
「へえ、ルプストの……?」
「配信で見たルプストねーさまが格好良かったのだ、だから真似したのだ!」
続いてジュリア組にいた小柄な魔術師であるトトラさんの自己紹介。それに続いてどちらとも既にほとんど顔を合わせているお馴染のカエデさんとルナさん。
いきなりキャラが濃いと思ったら更にルプストのファンというさらにヘビーなものを乗せられました。見た目は無邪気な子供魔術師なのですが。
しかもちゃんと追っかけとして魔術師型魔族のビルドをしているとのこと。進化して悪魔になるなら……この子の場合、小悪魔になりそうですけど。
カエデさんは以前のままですが、ルナさんは余裕が出来たからでしょうか、衣装がオーダーメイド品、黒のゴシックドレスになってます。
そして魔術師組が自己紹介をすれば、後に続くのは彼女なわけでして。
「はいっ、はいっ、次は私です! 弓使い兼巫術ヒーラーをしていますイチョウです! クレハさんの追っかけをしてます!」
「噂は姉から聞いておりますわ。とても心強いとか……」
「負傷は! させません!」
「実際、弓の腕は相当なものでしたよ。ヒーラーとしても後方からの弓術士もどちらもこなせます」
「だろ? それを見て俺もあん時誘ったからよ」
「なんだか本当にフリュー姉みたいでございますわねえ」
「実際そうだと思いますよ」
弓術士であり、ヒーラーもこなせるというイチョウさんですね。私の追っかけをしているというのはまあその通りなので何とも。
例に挙げたフリューは前線に出るタンクをしつつヒーラーを兼ねる剛の者なので、そちらとはまた違った役割を持てる事になりますね。
腕に関しては先日《如良》に連れて行った時、しっかりと見れましたからね。私からも太鼓判を押します。
最後は《水田迷宮》からの付き添いである二人の自己紹介で、二人はようやく喋れるか、と言った感じで口を開きました。
「それじゃあ最後、剣盾でタンクをしているサスタだ。元々は大剣使いだったんだが、二人と初めて組んだ《水田迷宮》の都合で盾スキルが上がって、その流れで転向した」
「その相棒の双剣使い斥候をやってる狼人のアマジナだ。実際、盾に転向して良かったと思うぞ?」
「ははは、実際やっててこっちの方が取り回しが良いもんだしな。タンク組はよろしく頼むぜ」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。二枚盾が出来れば後方への攻撃もしっかり受け止められますからね」
「おう! 俺も加われば三枚盾だ、後方もこんだけ揃えば安心だなあおい!」
「信頼してますよ、サスタさん、ウケタさん、カルパさん」
最早説明不要と言った信頼感のある剣術士のサスタさんと、斥候のアマジナさんですね。どちらの腕もしっかりと信頼できるところ。
話に出た通りサスタさんは《水田迷宮》の攻略時は大剣で懐かしき《弾丸ゲンゴロウ》の群れを受け止め続けた結果、サスタさんの盾スキルが大幅に育ち、それ以降剣盾に持ち替えたのだとか。
アマジナさんは今でも斥候スキルを伸ばしており、前線に出るサポート役といった立ち位置を獲得しています。《万葉》戦でも忙しなく動いていました。
盾役同士で気が合うのか、三人はもう仲良く色々と会話しているようです。結構デコボコな性格はしてると思うのですが。
さて、これで一通り連れて来た面々の自己紹介が終わったわけで……その視線は私とジュリアに向けられます。
私は参加した方になりますが、一応このグループの頭目の扱いになっているようですからね、私からもしておくべきでしょう。
……先にジュリアにやらせるのに、視線をちょっと送りますが。
「こほん、では私でございますわね。昼側の面々は初めましてでございますわ、クレハの妹で竜人のジュリアと申します。以後お見知りおきを」
「超スピードと高火力を兼ね備えたスーパーアタッカーなのだ……攻撃の魔術の命中率もすごいのだ」
「噂にゃちょいちょい聞いてた"紅炎の通り魔"がこんな娘だったとはなあ。ちっと驚きだぜ」
「あら、そんな通り名が付いてましたの? ふふ、名に恥じぬ活躍をさせてもらいますことよ」
「ちなみに余とルナの口調、トトラの口癖はジュリア発じゃ」
「ふふん、一応ロールプレイ勢でもあるのですわ!」
「あー、それでそんな特徴的な……姫騎士っぽい……」
相変わらずどやりとした勢いで自己紹介を済ませてしまうジュリア。自信家ですからね、こういう時は先にさせるに限ります。
前々から通り魔みたいな事をする竜人が夜界の噂になってましたが、掲示板由来でほぼ個人特定の通り名が付いたのはこないだの《フィーレン》の後なのだとか。
おそらく先程ウケタさんとフロクスさんが言っていた戦術の所為でしょう。それまでも結構な通りすがりに魔物を仕留めるとか結構やってたみたいですし。
まあロールプレイは相変わらず、ついにカエデさんルナさんの他にも感染者が出てしまったのは初耳でしたけど。
最後に私ですね。適当にジュリアの話題が落ち着いたころに口を開きます。
「では、最後になりましたが……龍人で刀術士をしています、クレハと申します。夜界組の方は初めましてですね」
「こっちも噂はよく聞いてるよ。妹に負け劣らずのアタッカーで、あのルヴィア相手に勝った超人ってね」
「あれはお互い進化した直後でしたし、勝てたと言っても僅差でしたから、色々と育って来た今だと真正面からぶつかるとちょっとわかりませんよ」
「動画での動きも拝見しましたが、あれは我々でも到底真似は出来ないものになっていました。今はそれよりも磨きが掛かっているのでしょう?」
「おうよ、その動きはこっちで組んでた俺達が保証するぜ? 気づいたら中型魔物を無傷で一人で仕留めてるんだからよ」
「お姉様もお姉様で相当やってるみたいですわね……」
あははは、なんというか目の前で自分の話題で盛り上がられると妙にくすぐったい気分になりますね。
フロクスさんが口にした通りだと、やはりルヴィアとの《決闘》が一番のハイライトになっている様子。まあ大々的に表舞台に出たのはあれくらいですから。
そういえば最近は戦闘風景を録画する事はありませんね? 次のイベントはちょっと配信してみましょうか。
《千歳姫》さん戦や《ミズチ》戦で味を占めたとかそういうわけではありませんよ?
「これで自己紹介は一通り終わりですわね。それではここからは交流会を兼ねて、今日の《夜草神社からの輸送護衛》をやっていきましょうか」
「パーティはちょうど六人と六人で分けられますね。余程偏らない限りは盾役もヒーラーもバラけるとは思いますが……」
「こういう時はどうする? やっぱりくじ引きか相談か?」
「相談で終われば手っ取り早いですが……」
そろそろ荷車への積み込みも終わって出発しそうですからね、パーティ分けもしないと。
こちらのメンバーはタンクが三人でヒーラーは二人、近接は四人と遠隔が三人。
ヒーラーであるカエデさんとイチョウさんはまず別として……キャスターも割り振った方が良くて、そうなると……
「そうだな……こういう時はクレハに任せるのが一番なんじゃないか?」
「えっ、私ですか」
どう振り分けるが最適かと考え込んでいれば、アマジナさんがその一言を発し。途端に視線が私へと集中しました。
……えっ、いやいや、それは考えてはいたんですけれど……そう突然振られるとそれはそれで困るのですが……
「賛成ですわ。我が姉ながら、こういう時はしっかりと考えて振り分けをしますので」
「俺も賛成だ、経験があるならどういった動きをすりゃいいかも考えて分けてくれそうだしな」
「私も賛成だよ。空が飛べて頭が使えるなら司令塔もやってくれそうだしね」
「ほら姉様、どちらサイドからも賛成の声が上がっていますわ?」
満場一致であっさりと私がこの二つのパーティの司令塔に決まったようです。
こうなっては素直に頷かざるを得ません。よく総大将に担がれるルヴィアの気持ちがちょっとだけわかった気がします。
「……わかりました。それでは少し待っていてくださいね」
「ふふふ、適材適所に振り分けるのは姉様も得意ですものねえ」
「平均レベルも人数も大分増えていますから、それでも想定外には備えておいてくださいね?」
「何時もの事だろ、気にすんな」
「戦闘では何が起きるか分かりませんから、皆その辺りの心得は出来ていますよ。ご安心ください」
ここまで背中を押されるとプレッシャーを感じてしまいますが……まあ私なりにやってみましょう。
数分程考え、メンバー振り分けが決まって発表。そう組んで貰う事にしました。
「では、私の方、クレハ組はウケタさん、イチョウさん、フロクスさん、トトラさんにアマジナさん」
「私、ジュリア組はカルパさん、サスタさんにルナさんとカエデさん、タラムさんですわね」
「一応先ずはリーダーを変えた形での編成になりました。お互い全力で動いたところを見せてから入れ替えたりがいいと思いますから」
「判り易い編成だが、確かに趣旨にはあっているな……これなら動きやすそうだ」
「ただ、パーティは分けてもそれぞれの役割ごとに動いて貰うと思うので、その辺りはよろしくお願いします」
「「了解!」」
「では、そろそろ始まるようですから行きましょうか」
パーティを組んでから、出発準備が整った荷車のところへと向かいます。
こちらの他の参加者たちも私が最初期に粗削りに構築した指揮系統を真似し、洗練されて使っているようですから準備や班の振り分けもばっちりな様子。
陽華さん達巫女の先導の下、王都に向けての何度目かの輸送が始まったのでした。
新キャラクターが3人増えました。またどれも個性的な面々です。
示唆したとおり、初回と今回以外にもクレハもジュリアも度々このレギュラークエストに参加しています。
大方その際はソロでやっていますが、フルメンバーでパーティを組んで……というのは今回が初めてだったりします。
二回目以降はギルドの指令担当が指揮を受け持ってくれているので、二人は遊撃として回っていたようで。