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81.一方その頃の最前線

 翌日、《幻想昼界》の夕暮れ時。私が立つ場所は《万葉》の最前線。わいのわいのと騒がしかった前線組も、時間が近づくにつれ口数も減り始めます。

 今回は《万葉》の《勢力域奪還》。ベータ終盤の《夜草神社奪還作戦》以来の大規模メインイベントクエストですからね。

 後方の防衛線では《明星の騎士団》が主となって防衛線を敷き、最前線の私達が討ち漏らしたものを後方で処理するとか。


「……ふー……」

「クレハもルナも、やっぱり緊張するかの?」

「実力者でも、ここは緊張する」

「まあ、私達はあの戦線ではボスを倒したくらいですから」


 傍にいたカエデさんとルナさんが話しかけてきます。今日ログインしてからこの最前線に向かうまでにベータ振りに再会し、今日はパーティを組むことにしました。

 カエデさんはバフを張る《巫術》使いの狐人ヒーラーであり、ルナさんは《雷魔術》を主体としたキャスター職の猫人ですね。どちらもジュリアの影響で若干ロールプレイが入っています。

 他にもアマジナさんとサスタさんとも出会いましたが、私が紹介したカルパさんとタラムさんと組むとのこと。色んな人とパーティを組んでみたいとの言でしたが。


「ジュリアが一緒ではないというのは、ちょっと不思議な気分じゃのう」

「元からその予定でしたから。《フィーレン》の方もそろそろ進捗があるそうですから、頑張ってるみたいですね」

「……ここが終わったら行くのも視野。カエデはどう?」

「そろそろ私も《唯装》を探したいからのう。そっちが優先じゃな」

「まあ、両方を行き来していればそのうち出会うでしょう」

「聞いておる限り、あちこちを飛び回っているようだしのう」


 大規模なクエストではありますが、ジュリアはこちらに来ていません。むしろ、夜界で次に進みそうな地域を最優先で手伝っているとか。

 本当は来てほしかったのですが、あちらもあちらなりに動いているので好きにさせておきましょう。次にゲーム内で会う時が楽しみですね。

 そして、防衛線の始まる時間が近づいてきました。夕暮れ、昼と夜の境界……逢魔が時。


「……来たぞ―――ッ!」

「始まりましたか」

「よおし、頑張るのじゃよー!」


 最も昼界で暗くなる陽の落ちる一瞬の後、遠くを眺めていた《鷹眼》持ちの斥候プレイヤーから声が上がります。

 その場にいた前線プレイヤー全員の視線が地平線へと向き、その魔獣たちの群れを視認しました。運営も多分、この一瞬を狙って調整しましたね?

 各々が群れの姿を捉えるなりそれぞれの得物を手にして構えます。私も《白雲》の柄を握り、いつでも抜刀できる姿勢になり、腰を落とします。


 両世界とも、昼と夜が移り変わる時は三十分の短い時間で入れ替わります。十五分かけて陽か月が沈み、十五分かけて月か陽が昇る。

 その境目こそが《逢魔ヶ時》と呼ばれ、この世界においても重要な時のひとつなのだとか。何かしらこれに絡んだイベントがありそうですね……

 と、それはさておいて。


「出遅れないうちに……!」


 周囲が同時に駆け出すのに合わせて私も《飛行》を起動し、《獣人》ゆえ素早さの高めな二人の前に立って先行します。

 二人に合わせるため、私は前衛でアタッカーとタンク両方を兼ねた動きを行う予定ですからね。なのですが……

 魔獣の数があまりにも多い。たぶんこれ、私達を素通りとまでは行きませんがそれなりの数が後方に流れるのは間違いないでしょうね。

 それでも、最前線組は後方に流れる数を出来る限り減らす事が仕事。なので、私達がやるべきことはひとつ。


「《八卦・火》、《月輪(げつりん)》―――"火炎月輪(かえんげつりん)"!」

「《マグネフレア》」

「《陽散(ヨウサン)》!」


 先陣を走って来ていた猪の群れへと対して三人一斉に範囲攻撃を繰り出します。私の繰り出した《月輪》は新しく習得した《刀術》のスキルですね。

 繰り出したアーツは抜刀と同時に紅蓮を纏い、燃える月を描くようにまとめて薙ぎ払い―――同時に、私へと攻撃威力を上昇させるバフが付与されました。

 これは《月輪》の発動の際にバフが付与されるというもので、切れ間なく維持することで更に火力を上げる……というもの。

 現状《刀術》と《居合術》は難易度が高いので使いやすくなるように、という要望は送りましたが、余計に難しくなってませんか……?


「覚えたてじゃがなかなかイケるのう……!」

「同意。範囲もそれなりに広い……《ダブル・ライトニングバレット》」


 二人が放ったのはそれぞれ《火魔術》と《雷魔術》の六つ目。前方扇状に対して魔術を放つというフレア系です。

 おおよその範囲や仕組みは散弾、または私の《八卦・土》の付与で使える《岩突》に近いものになっているとか。

 続けて放ったものは、先日ルヴィアのイベントにて解放された《魔術学》に含まれていた《並行詠唱》を使った、連続して放つ《連唱》とは違い、複数を同時に放つスキルを披露してくれました。

 放たれた二発の雷弾は二人が魔術を当て弱っていた魔獣に当たり、トドメとなり魔獣が崩れ落ちました。

 群れが来ている、としても密集しているわけではなく、雑魚でもそれなりに耐久があるので疎らな群れが来ているという表現が近いですね。

 ソロやパーティで一体一体でもいいし、まとめて仕留めてもいい。そういった意図を感じますね。


「さ、ではさくさくと倒していきましょうか」

「うむ! では早速バフを掛けるのじゃよ」

「私達は後方支援。その方が、一体ずつ仕留めるのが早い」

「それでいきましょう。後方も動き始めたみたいですからね」


 私達から遠く離れた後方でも声が上がり、ルヴィアの配信でも戦闘が始まったようです。こうなれば本格的に戦闘が始まったも同然。私達も出来る限りの量を倒さなればいけません。

 ジュリアがいればどちらが数多く倒したかの競争が始まるところでしたが……まあ、いないので私が倒した数をカウントするだけですね。

 《八卦》の属性を氷に切り替え、カエデさんからのバフを受ければさらに一歩前線へ。

 先程お披露目された《魔術学》による《並行詠唱》ですが、私も《水魔術》の習得と併せて《魔術学》を習得しておきました。なので、こういうことも。

 近寄って来ていた大鹿(ハイホーン)へと掌を向けて、詠唱。


「……《二撃(アル)・氷針》!」


 二本同時に地面から突き出された鋭い氷柱が大鹿を貫き、一瞬で瀕死にまで持ち込みます。そこに私が飛び掛かって首へと《薄月》による斬撃の一撃。

 続けて横合いから突っ込んできた熊へと振り返り様に《円月》を。冷気を帯びた刃がざっくりと斬り付けたところに、更に踏み込んで刃を突き刺し。

 すぐに一歩下がったところで……


「《ダブル・ボルトプロード》」


 ルナさんがピンポイントで凍った傷口へと雷の爆破魔術を当て、致命傷を与えました。

 どうやらこの《八卦・氷》による付随効果は《凍傷》という状態異常ならしく、これを付与した相手には雷属性のダメージが多く通ります。

 検証は……まあ、私とルナさんでやったんですけれど。現在これ以外では《凍傷》は《氷魔術》のスキルレベル50で習得する状態異常魔術フロストペインでしか付与できないのですが。


「ルナさん、ナイスです。次行きますよ」

「どんどんいこう。経験値、なかなかおいしい」


 三人で頷き合えばすぐに次の魔獣へ走り寄って、距離を詰めるなり《剣閃一刀》で再び大ダメージを与えると同時にルナさんが追撃を仕掛けます。

 ほとんどのものはこれで仕留められるのは、ほぼ三人揃って最前線組でもトップクラスのレベルをしているからでしょう。

 現在の私のレベルが32で、ルナさんとカエデさんが30です。他の面々がまだ25から28あたりだったことを考えると結構突出している事を知ったのは、《万葉》の方へ来て三日目の事でした。

 ちなみに、ガインさんが言っていた肉ロードこと《他無神宮への道程》の後半へと行けていた数名の内二名がカエデさんとルナさんなんだとか。

 アマジナさん達も挑んだそうですが、三番目の祠である《蒲公英の祠》までしか行けなかったそうで。またリベンジすると言っていました。


 最前線での戦闘開始から二十分もすれば、既に周囲は大きな真ん丸の月が浮かぶ《幻昼界》の夜であり、既に慣れた戦場へと変わっていきます。

 少なからず通り過ぎた魔物の群れは後方でも戦闘を始めた防衛線の方で順調に仕留められている様子。そんな中、その二十分の間で戦闘した面々とはまた違った魔物が顔を見せました。


「……っ、と。新顔ですね」

「《メイルベア》に《ボアファイター》、なるほど鎧を纏った熊と立つようになった猪系」

「弱点はどちらも雷属性ですか……私も属性を変えましょう、《八卦・雷》」


 大きな足音を伴って現れたのは、全高二メートルほどありそうな鉄製の鎧を纏ったメイルベアと、猪頭を持つ大男のような風体で格闘攻撃を仕掛けている《ボアファイター》の二種。

 まだ数は片手で数えれるほど少ないですが、大きさも相まって他とはまた違う雰囲気を持っているのが伝わります。

 ……ついでに、たっぷりと経験値を持っていそうな。レベルも相応に高そうな……ちょっとした軽度のレイドボスと言った雰囲気ですね。


「では、先手―――」


 《瞬歩》の一跳びで近くにいたボアファイターとの距離を詰め、クールタイムの明けた《剣閃一刀》を放ちます。

 抜刀と同時に雷の弾ける音を響かせつつ、その胴体へと強烈な斬撃を叩き込むも―――私を視界に捉えたボアファイターがまだ平気といったその様相のまま、私へと拳を振り下ろしてきました。

 飛び下がりながらその振り下ろしを避け、続け様に放たれる踏み込みを込めた力強い突きを横に避け。そこに追撃としてルナさんが放った雷魔術が当たり、ようやく仰け反りました。

 最初の一撃で三割、追撃のそれでようやく半分ですから結構タフなようですね。ですが、その一瞬の隙さえあれば……


「《二撃・天鳴》!」

「グオオオ!?」


 《並行詠唱》を使って、二発の落雷を同時に直撃させます。《白雲》による強化でこれもまた見た目も音も威力も派手になっており、相当の体力を削ります。

 が……これでもなお体力が空にならず、まだ残っていました。こうなってくるとこの手の大物を相手にするにはそれなりに火力を集中させないといけないようですね。

 再び踏み込みつつ、丸太のような筋肉質の腕による攻撃を避けつつ腹まで潜り込み、《月輪》で斬り上げ……これでようやくトドメになったのか、体力を削り切り、その巨体が倒れ伏しました。


「……クレハの大技、あれだけ直撃して耐えるの、流石にタフ」

「狙うのは諸々クールタイムが明けた時ですね、でないとジリ貧になるか、一撃を貰って大事になるか」

「リソースは長持ちさせたいからのう。その方向で頼むのじゃ」


 雰囲気は《万葉》への道中にいた大熊よりちょっと弱いくらい、ですね。ただちょっととはいえど、大技に結構耐えるだけの体力があるのが厄介ですが。

 体格もいい魔物ですから、先程はすべて避けられましたが……こちらも掠っただけでも体力が結構持って行かれそうな予感がします。


「メイルベアの方は、殆ど普通の熊系と変わりないようですが……」

「熊は威力と引き換えに、硬いみたい。その代わり、魔術が通りやすい」

「なるほどわかりやすいですね。リソースの猶予を見て狩る相手を相談して決めますか」

「わかったのじゃ。余裕のあるうちにできるだけ倒しておきたいしのじゃ、現に経験値が結構おいしいからの」


 近場にいたメイルベアの一匹が他パーティの魔術攻撃の集中砲火を貰い崩れ落ちますが、同パーティの近接組は周辺の魔物を相手にしていたところを見るにそういうことなのでしょう。

 傍目でちらちらと見ていましたが、最初の方こそ近接組も参加していたものの硬い鎧に弾かれている様子でしたからね。

 私達であればどちらを相手にすることも容易ですから、そう考えなくてもいいのですが……なんて言っていれば、メイルベアの一匹がこちらに向けてやってきました。


「……なんて言ってたら、来ましたね」

「どちらも雷弱点だから、まだいいかも知れない」

「クレハ、前衛頼むのじゃよ」


 まだ諸々クールタイム開けてないのですが……まあ仕方ないでしょう。刀を構えて二人より前に立ち、動きを観察します。

 ……まず先手を取ってメイルベアが大振りで私へと向けて右爪を振り下ろしてきましたが、難なく回避。続けて右手、再度左と振り下ろしますが、ボアファイターよりも鈍重で避けるのは楽ですね。

 その分狙う箇所が絞られるのですが……動きをしっかりと見ながら、鎧に覆われていない部分を狙って―――


「《薄月》!」


 関節部分へと向けて、狙い澄ましたように斬撃を放ち。上手く腕の裏を斬り付けますが、そう多くダメージは通らず。手応えもあまり良くないので、物理ダメージに対する耐性自体が高いようですね。

 そうなら、《天鳴》を撃つかルナさんの《雷魔術》で一気に削り落とした方が楽でしょう。ですけれど、その前にひとつ試す事にしました。


「……なら、《新月》から―――《斬月》!」


 今度はわざと、鎧に覆われた部分(・・・・・・・・)に対して雷属性を纏った強烈な一撃。すると―――


「グルァァァ!?!?!?」

「ふむ、なるほど?」


 弾かれると同時に火花が散りますが、刃が触れると同時にメイルベアが咆哮を上げて身体を震わせ、毛を逆立ててダメージを喰らい体力ゲージを大きく減らしました。

 雷属性であれば鎧のある部分をわざと狙った方がダメージの通りが良いようですね。もしかしたら、雷属性に限らず他の魔術ダメージが通るのであればどれでもいけるのかも知れませんが。

 メイルベアはそのまま動きを止めた瞬間にルナさんからの魔術攻撃……《サンダーアロー》の《連唱》による連射、通称マシンガン撃ちの直撃で、いとも簡単に仕留められました。


「クレハは良く見抜く……」

「物理攻撃だけの通りが悪いように感じたので、まさか、と思っただけですよ」

「確かにそうでないと釣り合いは取れぬしのう。《速治》」

「ありがとうございます。兎も角これでどちらも倒し方は確立出来ましたね」


 弱点だけを的確に突けば、大型でもあっさり沈むものですね。もう少し耐え切るものかと思ってはいたのですが……

 なんて言っていれば、それなりにこの二種も数が出始めたようです。連携を出来るだけ維持しつつ、数を狩っていきましょうか。

万葉攻防戦、実のところ中型の魔物がいましたとさ!

どちらも攻撃か防御に振った性能をしているので厄介極まりなかったようです。

それでも最前線級はパーティの強みを生かして駆逐していくのですが。

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