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77.ひとりたびの準備

 5日目になりました。午前のトレーニングメニューは千夏との試合と基礎体力のトレーニングでした。

 珍しく春菜と秋華も参加してきましたが……基礎だけでぐったりでした。腹筋、辛いですからね。わからなくもありません。

 シャワーを浴びてから早速のログイン。現実よりも昼界の日差しは緩いですね。


「よしっ、それじゃあ何からしましょうか……」


 今日からはソロプレイのスタートです。というわけで先ずは何から……ログインして早々に考えるようにしつつ、こちら側の王都にある冒険者組合へと歩きます。

 確か、六番街にあるんでしたね。《バージョン0》でもあったのですが、前を通る事はあっても結局訪れる事もなくでしたし。

 掲示板も並行してチェックをー……なんて思っていれば、今日から導入した通話ツールのコール音。あちらも設定が出来たようですね。


『一応繋がってるみたいですわね』

「はい。ちゃんと初期設定は?」

『さくさくと。とは言っても、私の方はすぐに《サーニャ》嬢からのご依頼に取り掛かりますが……』

「そこは午前に聞いていた通りですね、わかりました」


 通話の相手はジュリアであり、普段はこういう形で常に連携をしようと思います。

 とは言ってもお互い常に喋っていられるとは限らないので、簡単な情報交換と言った形になるでしょう。

 ちなみにこの使っている通話ツール、一応ですがフリューやルプスト、ミカン……それに、まあまず利用することはないでしょうけれど、ルヴィアも入っています。

 《九津堂》公式の連携用外部通話ツールなので、ゲーム内でもそこそこ使っている人はいるのではないでしょうか。

 もっとも、常にパスワード制なのもあって本当に身内向けというのもあるのですが……ほぼラグもなく通話できるので、私達はこれを使うことにしたわけです。


「《リーシャ》ちゃんにも逢えたのですか?」

『えぇ。白髪メガネにちんまりとした、寡黙なタイプの少女……と言った体でしたわね。そのうちお姉様にも逢ってくださると』


 《リーシャ》というのは先の話に出たサーニャちゃんの《裏サナ》に当たる子で、実は昨日、私がログアウトした後に逢えたそうなのです。

 もっとも、サーニャちゃんが冒険者組合に来ていたのが、組合に貸し出された書籍の回収だったそうでそのまま城内へと通され、彼女が司書を務める書庫に通されたとの事。

 今日はまた明日に依頼を頼みたいと言われていたらしく、私にSS(スクリーンショット)をドヤ顔で見せてきたので、容姿もばっちりと。

 その写真……あー、色白でアルビノっぽさも拍車を掛けてのがっつり引き籠り系少女ですね。でも仕事はきっちりこなすタイプの。


「それは嬉しい限り。では、そちらも頑張ってくださいね」

『わかりましたとも。《ポルテグランド》への救援ですから、私もこれから忙しく―――第一モンスター発見っ!』


 通話がオフになりました。どうやら奪還作戦中の街への加勢のようですね。

 なんだかこう……こうして明確に離れてみると、ゲーム中ジュリアはずうっと傍にいたので(リアルでは傍にいるのですが)騒がしい相棒が消えたような。そんな感覚があります。

 ある意味では普段の感覚に戻ったのですが……なんやかんやと考えていると、冒険者組合の前までやってきました。

 まずは改めての掲示板チェックをしつつ、ゲーム内でもNPCから情報収集、それからどう動くか決めましょうか。


「……んーと、関東西部は行き止まりで《万葉》がもうすぐ大規模な奪還作戦を起こす予定で……」


 どうやらこの四日間、私達がやる事やっている間に結構現状が進んでいたようですね。

 ルヴィアの配信ではちょうどその《万葉》……関東東部にある街へとイベントで向かっているようでした。

 今日の分の《翡翠堂》のクエストは……一応急げば間に合いますが、相当急がないと間に合わない時間ですね。これなら明日の分に参加を回して散策していた方がいいでしょう。

 その他は順調に進んでいるようですね。どの戦線に向かってもある程度見返りはありますが……


「他に情報は、と……特にないですね。西側の方もそのうち行ってみないとですが」


 現在の西部の方は、初心者達が主立って動いているのでしばらく置いておくとして……やはり《万葉》の方ですね。

 なので……そうですね、今日は《他無神宮への道中》でレベル上げをしてみましょうか。ソロでの戦いに身体を慣らさないとですし、《万葉》への移動はまずその後に考えましょう。


 ですが、その前に……


「露店広場の方に行ってみますか」


 皆さんにまだ真っ当な到達者が少ない《他無神宮への道中》で拾った素材をお渡ししたいのもありますし。

 何より昨日一昨日と突貫して行って帰って来てをしたのもあってまだ荷物が非常に多いのと、《唯装》である《白雲》を見せられてないというのもあります。

 これに合わせた装備を作りたくてウズウズしていると思いますからね。特にホーネッツさん。

 確認を終えれば、組合を出て露店広場へ。つい三日前の事なのに、なんだか行くのがちょっと久々な気がします。




――◆――◆――◆――◆――◆――



 さて。私が広場に姿を見せた途端どうなったかというと――――



「いやあ、レア素材の山だなこりゃあ」

「わー、《牛革》に《鶏の羽》……これホント新素材になるよ」

「「「「肉だ肉!新鮮な肉の供給だ!」」」」


 まず囲まれました。次に持っている素材を要求されました。


「《バージョン0》の時はゆっくり採寸できなかったからね、今日はいいよね?」

「これが刀の《唯装》か……博物館かなんかで展示してあってもおかしくねえくれえ綺麗だな」

「ジュリアが持ってる槍も見てみたかったな、別行動になったのが残念だ」


 あとは《進化》による体型変化や《唯装》の検分。まるで追いはぎのような目に遭いましたが、契約は契約ですし待ちわびていたのでしょう。

 いやー……初日は皆さんがそれどころではなかったのですが、今は皆さん依頼された物を消化し終えてちょうど手の空いていた頃だったようです。

 なので、皆さん溜まりに溜まっていた分だったのでしょう。私の《唯装》である白雲はガインさん達武器作りの面々に、私はホーネッツさん達服飾系の人たちに引き摺られ。

 持って来た素材は彼らの連れの面々に渡されて検品と分配、食材は調理に……ああ、早速調理祭りになって住民にもこの場にいた人たちにも振る舞われてますね。


「《唯装(これ)》、ありがとうよ」

「ああいえ、大丈夫ですよ。っと」


 許可を出した途端に始まった採寸を掻い潜るようにしながら、白雲を佩けば……なんでしょう、白雲からようやくあるべきところに戻って落ち着いた、といった感覚が伝わってきます。

 ルヴィアも口にしていましたが、《唯装》には意思らしきものが宿っていると言っていましたが……こういうことなのでしょうか。なんだかお爺ちゃんめいた存在感ありますけど。

 白鱗に覆われた尻尾を軽く揺らし、ホーネッツさんが触りやすいように……ううん、やっぱり尻尾を触られるとくすぐったいような、なんというか……

 と、くすぐったさに耐える事に意識を向けていれば、採寸が終わったようで解放されました。


「ふぅ……」

「ありがと! やっぱり《進化》すると、身体も細部が変わって来るわね……」

「特に《龍人》と《竜人》は肌から変わっているので……これから他にも《進化》する人達も似た感じになるかと」

「なるほどねー、覚えておくわ! じゃあ、この礼いずれ……」

「えぇ、期待しておきます」


 喜々としたホーネッツさんとエルジュさんから解放されました。その手にはメモ帳で……ふむ、ちらりと見たところ、色んな人のサイズを記録しているようです。

 きっと新しい装備に使われるのでしょうね。ということで楽しみにしておきましょうか。

 まだ私達とルヴィア以外に《進化》した人はいませんからね。傾向的なものもしっかりと、改めて見ておきたかったのもあったのでしょう。

 採寸中の彼女達二人によれば、前にやった時よりも結構違いが出ているとのこと。私の場合は特に身体の表面に浮き出た鱗にどう合わせるかを考えないといけないとか。

 細かい衣服の崩れを直し、近くにやってきていたガインさんとクリヌキさんへと向き直ります。


「さて、ひと段落付いたところでだ……あー、やっぱりもうちょっと素材が欲しいって声が大きい」

「……やっぱり肉ロードで取れる《牛革》や《鶏の羽》ですか」

「あとはそこで取れる上質な爪や牙……勿論だが肉類とサーモンだな」

「言ってしまえば全部ですか」

「特に深部で取れるもん全部だ。まだお前達含めて数人ぐらいしか取りに行けねえからな」


 まあでしょうね……判っていた事ではあるのですけれど……。掲示板からの情報でも、私達二人以外でも数名ほどあの最後の道で戦えている人がいるそうです。

 レベルの差を物ともせずに奮闘して、こちらに素材を数多く持って来ているとか。先駆者として私も見習わなければいけませんね。


「わかりました。これからソロプレイの慣らしもあるので行く予定でしたから」

「すまんな、頼む。その分良い装備を作る」

「最初からそういう契約でしたからね。ちなみに先に頼んでおいた物は……」

「《格闘武器》の方はある程度形は出来上がってる。あとは《弓》もだが、組み込みたい素材になりそうなモンだな」

「ということは仕上がり待ちですか……《鉄刀》に使った《水蛇の額玉》とか使えませんか?」

「お? それでいいんなら考えとくが……」

「ではそれでお願いしますね。仕上げをお願いするのは明日でいいでしょうか?」

「おう、それでいいぞ。多分数分と掛からねえから、チョーカーの方は代わりを準備させとく」


 使わないまま、というのも勿体ないですからね。《バージョン0》で酷使した《鉄刀》もまた新たなものに生まれ変わるのならそれはそれでよし。

 よもやとは思いますが、打ち直しを含んでも同じ武器を使い続ける事で付喪神が宿り、《唯装》に変わる……という可能性も考慮してですけれど。

 白雲など《唯装》が意思を持つのであれば、ないとは言い切れない可能性ですからね。ちょっとだけ試してみましょう。


「では、コシネさん。《焼き鳥串》と《唐揚げ》、《ベアステーキ》と……携帯できる容器で《ボアスープ》頂けますか?」

「まいど! 原価価格分は差し引いとくよ!」

「ありがとうございます。ハイムさんもポーションを幾つか買いたいのですが……」


 では、最後に準備を整えるのに、使い切っていた食料品の補充……あとは《錬金術》担当のハイムさんからポーション類を購入。

 最近は効果の高めのポーションが出回るようになり始めたので、あまり多くの量を仕入れなくても良くなったんですよね。

 ただ、私も《八卦》によってMPを積極的に使うようになってきたのでマナポーションの分も出費が嵩んでくるのがちょっと痛いですが。

 ちゃちゃっと必要なものを揃えてアイテムの在庫をチェック。……これだけあれば十分ですね。


 ガインさん達に見送られながら露店広場を離れ、《王都西門》から出て以前使った分岐路を使って肉ロードへ。

 途中、今日の分の《夜草神社からの輸送護衛》を行う面々とすれ違い―――今日の引率は懐かしい顔で、《水田迷宮》を共に攻略した大剣使いのサスタさんと斥候のアマジナさんでした。

 私に気づいて一瞬手を振ってくれたので、すぐに振り返し。ついでに護衛の巫女は桜色の髪を持つ《桜草》さんと以前も一緒にいた《陽華》さんのようでした。

 目的の角を抜け、裏道を越えれば肉ロードこと《他無神宮への道中》はすぐ。それに、ちょうどいいレベル帯の地点でもあります。


「それでは、慣らしと行きますか……」


 ほぼ中間地点である《蓮華の祠》から出て、神社へと向かう側の道……《蕗薹の祠》へと続く道の方へと出て、抜刀。

 《八卦》で属性を纏わせ、その日はログアウトするまで存分にレベリングと慣らしをしたのでした。

相変わらず肉ロード後半は高レベルMob対象が多く、なかなか対等に進めているプレイヤーは一握りのようです。

それでもクレハとジュリアだけに限らず他にも何名か戦えてるとか。ルヴィアも行かないだけで結構いけるそうですよ。


次回から本編にも登場したある少女についてのお話、そして桁の一つ増えた万葉へと向かいます。


では、もし面白い!今後に期待するぞ!と思ってくださった方は評価、ブックマーク、そして更新通知をぽちっとしていただけると大変嬉しく思います。

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