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76.夜の「サナ」

「あああっ、大丈夫ですかぁっ!?」

「あ、はい。これぐらいでしたら……」


 あわあわとしている少女を落ち着かせ、散らばった無数の封筒をかき集め。それを申し訳なさそうに自分から集めていますが……

 少女と言っても、リアルでの(ジュリア)よりも小さい子なのでそのまま持ってあげましょう。カウンターにいた受付の女性がそれに気づいて私と少女を手招きしているのでそちらに書類束を渡し……


「毎日ありがとうね、サーニャちゃん」

「いえっ、これがサーニャのおしごとですので!」

「こんなに小さいのに頑張り屋さんなんだから……はいこれ、受領印ね」

「えへへ……はい、受け取りました! それと、冒険者さんもありがとうございました!」


 サーニャと呼ばれた少女はこちらにも向き直ってぺこりと頭を下げます。子供らしい可愛い笑顔と頭のヘットドレスが可愛いですね。

 さて目の前の少女の名前は《サーニャ・フランドル》。改めて容姿を見れば、金髪に紅眼を持つ子供のようなメイド少女であり……おっと、頭と背に小さな蝙蝠の羽根が見えます。

 吸血鬼の子でしょうか。はにかみ顔に見える口の中に鋭い犬歯が見えますね。


「いえ、いいんですよ。ところで、ええと……少しお話いいでしょうか?」

「おしごとに差し支えないくらいでしたら!」

「はい、では……」


 私はぐるっと見回して、空いているテーブル席を見つけてと歩いて行きます。その後ろをちょこちょこと付いてこられると、どうにもやはりリアルのジュリア(千夏)を思い出しますね。

 よく私の後ろをちょこちょことついて歩いて来ていましたから。その感覚をよく覚えているので……

 席に座れば、対面にサーニャちゃんが座ります。座る見た目は本当に幼女……吸血鬼幼女とはまた《九津堂》は属性をたっぷりと盛ってきましたね。

 それは置いて、本題に入りましょうか。


「《神奈》さんからお聞きしましたが、サーニャさんはこの夜王都のサナ……でいいのでしょうか」

「はいっ、この《ヴァナヘイム》のサーニャ・フランドルで、お城でメイドさんをしてます、いちおーそういうことになっています! かんなさんはお元気でしたか?」

「お知り合いの方でしたか。はい、元気になさっていました」

「よかったー、門が開くまでは頑張って貰っていましたので!」


 笑顔を崩さないまま、はきはきと答えるサーニャちゃん。元気の良さは顔立ちもあって《紗那》さんの姿もを思い出します。

 まるで洋風の紗那さん、というイメージがぴったり。受け答えもしっかりしている……ように見えてちょっとだけ舌足らずなのがまた子供っぽさを強調してますね。


「あ、私は《来訪者》のクレハと申します。あちらで受付をしている竜人がジュリアです」

「くれはさんにじゅりあさん……あっ、先日ツィルさまが言っていらした方ですね!」

「それも伝わっているんですか……」

「はいっ、あの試練を潜り抜けれたつよいひとたちだって」


 どうやら既に私達の事は知られている……というより、この時点でエクストラ種族に進化しているのは私達だけなので、必然的に目立ちますよね。

 たぶんそれを思慮してくださって報せてくださっていたのでしょう。話がちょっと早くて助かります。

 では聞きたい事をどんどん聞いていきましょうか。ふと思いますが、紗那(さな)とサーニャって名前の感覚が似ている気がします。ちょっとした繋がりでしょうか。


「あ、あははは……で、ええと。もちろん裏の方も……?」

「リーシャのこと……でいいんですよね、お城でまたべつのおしごと……ししょ? をしてます」

「なるほど、リーシャって名前で……司書ですか。それでお二人の種族は……」

「そろって《吸血鬼》ですっ!」


 椅子の上に立ってドヤっとした感じの顔を見せます。周囲のプレイヤーは何のことか、と思ったでしょうけども、私が対面にいるということで察してくれたようです。

 ……私を知らないプレイヤーからはNPCと思われたようですね。何の情報も無ければ、《龍人》なんてNPCの一人かな、と思ったことでしょうから。

 しかし《吸血鬼》……と聞くと、もっとセクシーなものを想像しますが、こんな可愛らしい子が初出ですか。うーん、なんでしょう……さすが《九津堂》?

 ついでに裏の子の名前もゲットですね。《リーシャ・フランドル》でしょう、名前が似通っているのはそのまま"()紗那"からという安直なものではないと思いたいですが。


「なるほど……あ、《フィア》さんと《セレニア》さんは……?」

「フィアおねえちゃん達は《人間》だよ。でも、ちょっとサーニャたちとちがって違う目的を持ってて、担当のばしょを持ってないみたい……」

「ちょっと変わった目的……ですか、その一環に冒険者を?」

「うんっ、サーニャはそうきいたの。詳しいことはフィアおねえちゃんからか、《綾鳴》さまとか、お隣の地域に住んでる《サナ》なら知ってるかも……」


 なるほど、あの二人はまた少し事情が違うということでしょう……ついでに、口振りから秘匿してる様子もないので同じ《サナ》の中でも結構持っている情報量に差があるようですね。

 ちょっとずつ警戒が解けてきたのか、もしくは知っている人の話が出たからか。敬語が抜けて来始めたところを見るに、本来の喋り方はこちらなのでしょう。

 それにしてもどんどん追えば追う程深くなるこの《サナ》という存在の謎。うーん……もう少し伝手や知り合いについて聞いておきましょう。

 城のメイドであれば、多少は顔も広いとは思いますし……たぶん、ですけれど。


「《幻夜界》の他の地域にいる《サナ》達について聞いても?」

「あっ、うん。いいよ。でもサーニャは実際あったけど、あんまりなまえおぼえられてないけど……」

「いいですよ、それでもちょっと色々聞いておきたいですから」

「えっとねー……じゃあー…」


 可愛らしく頭に手を当てて、ゆっくりと思い出そうとしているようです。まだゲーム上で設定されていない情報だったらだったで思い出せなければそれでもいいのです。

 いくつか思い出したのでしょう。笑顔になるなり彼女が口を開きました。


「まずはおとなりの《アスガルド》にいる《スノウ》さん! ふわふわとしたしろいかみをしてて、すらっとしたやさしいお姉さんなの!

 どこかの港町にすんでるってきいてて、いろいろと人助けをしたりしてのびのびと過ごしてるにんげんのひと!」

「スノウさん、ですか。《アスガルド》というと……この《ヴァナヘイム》の西側ですね」

「うん! そお! 海をつかったこーえき? と、ひろいはたけでおいしいパンをたくさん作ってるところ!」


 まずは一人目。隣……欧州西端部、現実に照らし合わせればフランス南西部とスペインの場所に位置するのが《アスガルド》。

 その場所に住むのがスノウさんという方だそう。外見的な特徴で言えば、ふわふわな白髪をしたスタイルのいいお姉さん、という事だそうですが。

 サーニャちゃんの情報だけだと……見つけるの、苦労しそうですね。さておいて、立地に関する情報も教えてくれました。

 海に面していることから数多くの港町を持っていて貿易も活発。内陸部ではおおよそ大規模な農園が多くあって、パンを始めとした穀物などを栽培している……ということでしょう。


「で、つぎがー……ここから北の《ミッドガルド》、《アズレイア王国》よりも北にある場所にすんでる《ぬえ》さま!

 紗那さまといちばんそっくりだけど、とってもつよいひと。日夜つよい魔獣と戦ってるすごいひと!」

「次にぬえさん、と……そして《アズレイア王国》ですか。《ミッドガルド》はどういった場所なんですか?」

「えっとね、《アズレイア王国》を中心としていろんな国があつまってあたらしい領地を広げてるの! でも、つよい魔物もいっぱいいるから、なかなかひろがらないみたい……」


 次は……《ぬえ》さんですか。和名で当て嵌めると、鵺……でしょうね。和と洋が入り混じっているのは《幻双界》という行き来が出来る環境だからでしょう。

 とても戦いに向いているとは思えない紗那さんに比べて、言葉の通りなら戦い慣れている……という方なのでしょうね。

 《ミッドガルド》はフランス北部、ドイツ、そしてブリテン島の一帯。そして、そこに《九津堂》の前作である《セイグリット・サーガ》の舞台となった《アズレイア王国》があるとのこと。

 既にその作品では聖女であった《アメリア》の名前も挙がっているので、どこかにあるとは思われていましたが……なるほど、その地ですか。


「それでね、えっと……サーニャがしってるのは最後なんだけれど、とってもとおく《ニヴルヘイム》の姫様の《シャルル》さま。

 シャルルさまはあんまりお国から出て来ないんだけれど、その娘達、《蛇姫姉妹》がよくあちこちにあそびにでてるの」

「《蛇姫姉妹》ですか。どんな方達なのですか?」

「今回のぼうえいせん? で一番活躍した姉妹で、みんな蛇をモチーフにした力を持ってるの。特に、三女の《夜津》さまは《ステラ》さまよりつよいって」

「《幻夜界》のトップより強いってどれだけの……ええと、《ニヴルヘイム》は……」

「ずーっと霧に覆われたところで、へんな生物がいっぱいいるって聞いたことがある!」


 《シャルル》さまと《蛇姫姉妹》を口にする時、一番嬉しそうな顔をしました。サーニャちゃんにとっても憧れるような方々……なのでしょうね。

 あちこちに遊びに出ていると聞くと、この辺りでも遭う機会がありそうですが……気になるのは《幻夜界》の神様であるステラ様よりも強いということ。

 それは一体どういうことなのかは……まあ、顔が広くもありそうですから、情報を集めているうちに明かされそうなことでしょう。


 《ニヴルヘイム》は手元でマップを開いて位置を確認……フィンランド南部に位置する地域ですね。

 《幻夜界》は元となった欧州と比べ、かなり地域の特色や様相が変化しているのが見て取れましたが……その北の地、《ヨートゥンヘイム》と西の《ムスペルヘイム》の影響で霧に覆われていると思われます。

 もちろんそんな環境であれば当然ながら高温多湿ともなるでしょうから、サーニャちゃんの言う通り、変な生物がいっぱいいるというのも納得できます。


「お姉様、お待たせいたしましたわ」

「ジュリア。ようやく終わりましたか」

「何しろ人がまだ多いんですもの、登録自体はすぐでしたが。……それで、こちらが?」

「あっ、こんばんは! わたしサーニャ・フランドルっていいます!」

「私はジュリアですわ。よろしくお願いしたしますわね」


 と、一通り聞き終えたところでジュリアが戻ってきました。あの行列で時間をだいぶ取られたようですね。

 サーニャちゃんとジュリアが挨拶をしますが……ああ、この二人は並ぶと……やっぱりどことなく似ている感じがしますね、主に根っこの雰囲気が。


「さてと、これでこちらで活動する準備が整いましたわ。いよいよ別行動ですわね」

「とは言っても、常に通話ツールを使うのでそこまでになりそうですけれども」

「あっ、じゅりあさんはこちらで動かれるんですね! それなら、さっそく腕を見込んでお仕事をお頼みしたいのですが!」

「ふふふ、任せなさい! お姉様は先にログアウトしておいてくださいませ。それで内容は……?」


 そろそろログアウトする時間も近いというのに、サーニャちゃんのお手伝いを受け持つジュリア。

 内容は……あはは、どうやらここから城への荷物運びなようです。まあそれくらいでしたら大丈夫でしょう。

 二人はカウンターに行きますが、その際にジュリアから言われたように私も追って立ち上がり、冒険者組合の外へと出ます。


「……それじゃあ、私も行きますか」


 私も自分の冒険の地である《幻昼界》へと戻るために《転移門》のある広場へと向かいます。

 一人でこの世界を歩くというのも久方ぶりですね。いつもジュリアが傍にいたので、それはそれで新鮮でもあり……ようやく、スタートラインに立ったとも感じますが……


「たぶん、私もまたこちらに呼ばれそうな気がしますね」


 なんて、《転移門》を潜る前に空を見上げてそう感じながら……門を潜り、《幻昼界》へと戻るのでした。

夜界のサナ、一気に4人出てきましたがそのついで夜界の各地にもちょちょっと触れました。

どれも個性的ですが昼界のサナ達に比べてかなり個性的な面々が多くなっています。

次回以降から予め最序盤で示していた通り、クレハの一人旅が始まります。

とは言っても現実では隣でプレイしてるんですけどね、通話も出来てたりします。


では、もし面白い!今後に期待するぞ!と思ってくださった方は評価、ブックマーク、そして更新通知をぽちっとしていただけると大変嬉しく思います。

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