62.ほんのちょっとしたパーティ
リアルパートお疲れ様会、後半。
「せーのっ、DCOベータ版」
「「「「「「おつかれさまでしたー!」」」」」」
リビングのテーブルを囲み、朱音の音頭と共にジュースの入ったグラスを六人で鳴らします。
春菜が朝から仕込んでいたという多くの料理と、一昨日のカレーの残りが少し。かなり豪華なディナーに仕上がって、千夏は早速喰いついていました。
「最後ほんと盛り上がりましたね」
「ねー。従来のMMOだと居ても五十人は行かないプレイヤーで攻略するコンテンツばかりだもん」
「あそこまで集まるのがさすが最新式、世界初のVRMMOらしいというか」
話題は早速DCOの話へ。挙がったのは最後の梨華さん戦の話ですね。
従来のMMOであればデータの管理の面からほとんどが最大四十八人、だいたいは六人から八人でボスに挑む形でした。
それがDCOでは四桁に迫るプレイヤーが大挙してレイドに参加できましたからね。特に最終戦は七つに分散してた数も総集合しての参加でしたのでまさに圧巻。
その総大将を務めた朱音も流石ですし、補佐した橙乃も流石の指揮力といいますか。
「朱音、あれだけの人達の前に立つ経験は少なからずでしたけれど、指揮をするのは初めてだったのでは?」
「他にやる人がいないことはわかってたから。小規模だけど指揮は初めてじゃなかったし、周りが優秀だったの」
「正式版だとこう上手くは行かなさそうかも? なのかも?」
「どうだろう。人が増えればそれだけ難しくなるけど、例の件はベータ組以外にも知れ渡ってるから……」
「もしやるなら、一癖二癖ある人達をまとめなきゃいけないから大変だね」
正式版になるとベータテストよりも人が一気に増えますからね。次のレイドはこうもいかないでしょう。
とはいえ、いよいよ夜の世界も追加されるのでタイミングによっては総大将が二人ということもありそうです。
……きっちりと指示してくれる人だといいのですけれど。え? 私はしません、斬り込むの大好きですから。
「秋華も指揮官向きですよね。戦略ゲーム上手いですし」
「んー、深冬ほどじゃないわ? 素直に従ってくれるのなら、って条件がつくのよお。それなりの実力を見せつけてる深冬の方がいいと思うわあ」
「そういうものでしょうか……?」
「自信持っていいと思うよ。少なくとも掲示板ではべた褒めだったし」
「……うーん、斬って殴ってが本領なので……。機会があれば、ですね」
「そうそう、深冬も一回やってみればいいんだよ」
朱音に橙乃から背を押されれば、機会があればですね……。そういう場面に巡り合えば。
どことなしに名声頼りになってしまうような気もするのですが、桜街道のボス戦にて朱音がチームプレイを乱すとどうなるかの実例は見せつけているので従ってくれるとは思うのですが。
あれはあれで一波乱あったようですが、今は全面的に朱音支持で決着しているようです。運営も動きましたし、その後が酷かったですから。
「そういえば深冬、蓮華ちゃん達八葉の巫女って結局どういう子達なの?」
「ああ、あれですか……梨華さんと翠華さんから直接聞く事は出来ましたけど、結構重いですよ」
「え、重い話だったの? お姉ちゃんあたし聞いてないから聞こうと思ったのに」
「はい。掲示板にもまとめておこうかと思ったのですが、結構重くて悩んでるんですよね」
「深冬がそこまで悩むって相当ねぇ? 相当よぉ?」
「それはいいから、とりあえず聞かせて聞かせて」
結構序盤、特に蓮華さんと出会ってから、意外と追う機会の多かった夜草神社に住む八葉の巫女の情報。
まず、蓮華さんの話から蜜姫さんの話。そこから他無神宮のへの道程で見た祠の様相、翠華さんと梨華さんの話を順を追って。
……祠の話までは良かったのですが、やはり八葉の巫女へと成る過程がやっぱり効いたようですね。千夏は好奇心半分悲し気半分といった顔ですし。
「いやぁ、やっぱり流石だね。あの設定班……」
「結構ヘビーねぇ。前もって言われはしたけれど……」
「じゃあ、アルラウネとドリアードの進化条件はそれってことでいいんだろうね」
「そうなるかと。それに付いては何かしらの前提がありそうですが」
「関わるとしたら神庭か……なんだろう、私遠からず行くことになりそうな気がしてきた」
「朱音が? でもアルラウネかドリアードじゃなくて、今日精霊に進化したし……」
「なんとなくだけどね」
謎の勘ですね。私も場所の理由や名前から推察して、精霊も絡んでいそうなので行くことになりそうな気はします。
いつ行くことになるのかというのはさすがに目途も付きませんけれど……その前に、関東中を走り回ることになりそうですから。
「お風呂湧いてるから、交代で入ってね。夜には最後のイベント見に行かなきゃ」
「じゃあ、もうちょっと食べたら入ろうかな。余裕があるうちにね」
「私達は後で大丈夫ですよ。春菜は最後に入るんでしょうから」
「それまではゆっくりねえ……あー、ポテトがおいしいわあ」
「どれどれ……んっ、塩辛っ!?」
「秋華が真っ先に食べると思って合わせた味付けにしてあるの。他の人だとちょっと塩辛いかも」
「秋姉相変わらずだなぁ……」
散々述べてましたけれど、秋華は塩辛い物を好みます。それこそ酒飲みが好みそうな物を中心として。
こうやって集まったりした時にお菓子を持って集まった時、いつも秋華の周りは裂きイカとかサラミとかなんですよね……
私はチョコ類、千夏はチップス系で春菜はアメなど。橙乃は煎餅など和菓子類で朱音は辛めのお菓子といったラインナップ。みんなの個性が出てていいと思います。
「そういえば、コシネさんのところ見たことない食材いっぱいあったけど」
「あ、うん。前にも言いましたけれど、私達が行った他無神宮の道中が多種多様な食肉が落ちたので、それを全部」
「ああ、それで。……そこ、肉以外の素材は?」
「……? いえ、取れてませんけれど」
「ドロップに制限がかかっている……のかな」
「かもですね。牛革とか他にも取れれば装備の幅も広がりそうですから」
「いい意味であそこは人気になりそうよねぇ、少なからず巫女ちゃん達人気あるみたいだし」
あの時は半分急ぎ調子でしたからそこまで気にしていませんでしたね……祠の様子も気になりますし、いずれサクさん達に呼ばれて行くので、その時ですね。
本当に肉類以外が取れれば、一気に製作品の幅も広がるでしょう。あまり手には取りたくないですが猪から腸が取れるようになるかもですし。
獲れたらソーセージとかの類も作られそうですからね。個人的には期待はしています、主にコシネさん達もですが春菜にも。
「それじゃあ、そろそろ私は先に入らせてもらうわぁ」
「はーい。やっぱり六人もいると、これだけ作っても無くなるの早いね……」
「それはだいたい千夏が原因だと思いますよ。紫音がいるともうちょっと緩いのですけど」
「んふぇ?」
あれだけ沢山あった料理はものの一時間でほとんどなくなり、残ったものを摘まみながら思い出を語り合う事になりました。
もっとも、一時間で無くなったのはほとんど千夏が食べ尽くしてしまったからなのですが……ほんと食いしん坊なんですから。
それからは食べ終わった食器類を片付けながら適当に雑談をし、交代で入浴してからいつも寝室として使っている大部屋へ。
各々VR器具を繋いで調整をすれば、クローズドベータ最後のイベントを見届けるために《デュアル・クロニクル・オンライン》へとダイブしていくのでした。
さて、リアルパートのお疲れ様会でした。
『魔剣精霊』側で言うと、ちょうどフリューがプラクティスでタンタタンと狼と戦っているルヴィアを呼びに行ったあとの頃合いです。
この後は共通の場面となります。もっとも二人からはまた別のアプローチがあったようですが。
いよいよ次回、ベータテスト編最終回となります。
途中『魔剣精霊』側をお読みになった方ならわかりますが、一部まったく同じシーンになるためこちらではカットしてあるシーンがあります。
そこのところについてはご了承くださいませ!