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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
0-3幕 龍の試練開幕、そして決戦へ
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53.遅れてきた主役と中心にいた主役達

「はい、これでOK」

「ありがとうございますですわ、ホーネッツさん」

「いいのよ、さすがに無理に開いちゃったのは気になるし」


 午後九時半前。私達は最後のセーフティであるダンジョン前の祠から一度王都へと転移し、ボス戦前の最後の準備をしていました。

 既にレイド戦自体が始まってしまっていますが、私達はしっかりと準備を整えてから来て欲しいとルヴィアから通知があったためです。

 それにここまで強行軍でしたからね。道中のMobだけでなく懐かしの《弾丸ゲンゴロウ》を撃墜しながら来ましたので……あれ、飛行していると優先的に狙ってくるんですね。


「ほら、クレハちゃんのも。尻尾が生えたから修正ね」

「ありがとうございます。はい、これなら尻尾も動かしやすいですね」

「私もかなり翼が動かしやすくなりましたわ。えぇ、これでなら存分に翼も尻尾も使えそうですの」


 王都にいたホーネッツさんに装備の細部を調整してもらい、酷使した武器をガインさんに修繕してもらいながら。

 肉ロードこと《他無神宮への道程》で採れた大量の肉類は持つにしても邪魔なので、コシネさんが戻ってきたら渡してくれ、と言伝。その前に他の料理勢が喜び勇んで持って行きましたけれど。

 最後の出撃の準備にポーション類も補充。特にジュリアは道中よほど楽しかったのか魔術を連射しまくっていたのでMPポーションの残数が怪しかったんですよね。


「大分順調だけど、ルヴィアちゃんがあっちこっち駆けまわって救援に行ってるみたいね」

「ルヴィアとユナさんの隊で立て直して回っているようですけれど……」


 ……そうなると、多数のパーティが一気に瓦解した時が一番不味い状況になるやも知れません。

 今回対峙するのは七体のボス。ちょうど、あの肉ロードにあった力を失った祭壇の数と一致する数です。順に……


 《豊穣・陽華(ようか)》……大鎌を手にした土属性のトレントであり、恐らく象徴するものは向日葵。他の六体に比べて小柄ですが、ドレイン攻撃を多用するとのこと。

 《幻惑・雪花(せっか)》……幻影を武器にした氷属性のアイスゴーレムで、象徴するものは水仙。実体による攻撃と幻影のサイズを判別をしなければいけない高難易度系のボス。

 《増殖・白菜(しろな)》……真っ白な水属性の白蛇、象徴するのは蘿蔔(すずしろ)。フィールド中で増殖し続ける草木から《植物魔術》を放ってくるとの事。

 《策謀・吹野(ふきの)》……道化人形のような火属性で、象徴しているのは蕗薹(ふきのとう)。ボス自身が撒く罠に引っ掛けないと攻撃が通らないのだそう。

 《誘惑・蒲公英(たんぽぽ)》……魅了攻撃を得手とする光属性の大猫で、名前の通り蒲公英が象徴でしょう。頻繁に放つ魅了攻撃に対応できるヒーラーが多く回されています。

 《復讐・桜草(さくらそう)》……桜を象徴とする名前どおりの花そのもので、雷属性を持つ。一定周期で蓄積した被ダメージを放出するそうで、タイミングを間違えるとそれに呑まれるとか。

 《再誕・稲花(いなか)》……複数の食虫植物の姿を取り、一定ダメージごとに種から再び成長し始めるという《再誕》の名に恥じない闇属性のボス。象徴するべきは最初の祠にあった稲の花でしょう。


 うん、こう並べてみると完全にアノ作品の八相(オマージュ)ですね。もっとも大きく設定を変えてあったり、植物に由来する名前に置き換えられていますが。

 ここに《予言・蓮華》が加わるのでしょう。おそらく大蓮の花に乗ったヒトだったりとしそうです。

 追従型の攻撃や移動先に攻撃判定を用意したり、未来予知染みた攻撃を持っていたりしたのでしょうね。現時点ではどうあっても対処できないプレイヤーが多く、非常に難物になるのは間違いなしですけど。


 このうち既に《幻惑・雪花》がつい先ほどに討伐され、もうすぐ《復讐・桜草》も討伐されるでしょう。

 そろそろ私達も出陣しましょうか。あまり手を込んでいると折角のこの七体で戦果を挙げられませんから。


「待たせたな、修理終わったぞ。いやしかし、牛ステーキはうめぇな」

「ありがとうございます。かなりの数を渡したので、どんどん振る舞ってくれると思いますよ」

「ああ、料理屋連中が大はしゃぎしてっからな。ああ、それは現地で喰ってくれと」

「……《マッスルチキン》の鳥串と《クレイジーボア》の豚串ですか」

「そいつなら喰いやすいだろうってな」


 ガインさんから修理の終わった武器類を受け取り、料理班から出来たての食料を受け取り。これで出陣の準備が整ってきました。

 装備と道具類を最終チェック。武器ヨシ道具ヨシ食料ヨシ、と問題なし。


「それでは行ってまいります」

「おう、しっかり見せつけてこい。その姿と武器な」

「ふふ、言われずともですわ」


 少し離れてから、軽く《飛行》を使って浮き上がり。ジュリアも翼を広げて飛行状態へと移りました。

 最終ダンジョン《生い茂り過ぎた樹海》内の道については前線の方から地図が回ってきているため、休憩中にすでに頭に叩き込んであります。

 まずは第5レイドの《策謀の間》へと行く予定となっていて、詳しい話は最終セーフティで聞くことになっています。

 空が飛べるので、足を狙わずともいけると思うので、いけるものならということです。


「では、行きますよ」

「目指すは最初の祠、ですわね」


 王都の広場から飛び立ち、まずは転移が出来る最初の祠へと向けて全速力で移動を始めます。

 ホーネッツさんに調整して貰ったお陰で尻尾も動かしやすく、ジュリアの方も翼を大きく羽ばたかせて飛んでいきます。

 西門から出れば広がる景色が移り変わり、一瞬だけ城門前にいた《サク》さん達とすれ違いました。

 一瞬だけですが、その後に吹いた追い風をエールとして贈られたかのように感じましたが、さて……



――◇――◇――◇――◇――◇――



「急ぎますわよ! お姉様!」

「わかっていますとも!」


 最後の祠へと転移すれば、私達は一気に加速して《生い茂り過ぎた樹海》へと突入。ひしめくMob達を《飛行》による速度と高さによって強引に突破しながら進んでいました。

 理由は簡単。つい先ほど残る半数の戦線が崩壊し、手が足りなくなったようでこのままいけば壊滅もあり得る状況へと激変したためです。

 ゲージが割れた際の大技、あるいは割れたあとのモードチェンジが原因なようです。ルヴィアのことですから、周知はしておいたのですがそれ以上が来たということでしょう。


「ここを抜ければ……」

「ふふ、これがあると神社って感じがしますね……!」


 ダンジョンの前半部分をあっと言う間に突破すれば後半、ボスが待つ後半の神社部分へと突入。

 長い千段階段を駆け上がりながら、時折階段上から転がってくる《タンコロリン》を斬り払いながら進み続けます。

 上に上がるにつれだんだん死に戻り勢による戦闘の音や補給班による喧騒が大きくなり、ひどく慌ただしくなっているのが伝わってきました。

 何人かとも既にすれ違い……おそらく死に戻りしたり今ちょうど駆けつけている面子でしょう。お先に行きますよ。


「ここが最後のセーフティです、のっ!」

「来た! 二人とも!」

「コシネさん!?」


 ダンジョン後半部である木製造りの神社へと突入し、廊下を進めば最後のセーフティエリア……各ボスのいる場所へと通じる部屋へと辿り着きます。

 セーフティに設営された補給隊の人々が私達の到着と同時に声を上げます。幸い、強引に突破してきたので薬の消費もなくこのままボスに突っ込むつもりですが。

 補給隊に混じっていたコシネさんが、それぞれを指差して進行方向を示します。おそらくルヴィアからの指示です。

 残留している予備戦力がごっそりいないということは、それらも全て割り振って事態に対応しようとしているのでしょうね。


「クレハちゃんは八番! ジュリアちゃんは一番!」

「そちらですね、了解しました」

「では、姉様……後ほど、ラスボス前で逢いましょう!」

「えぇ! そちらも死に戻る事もなきよう!」


 私は半壊したという第7レイド、《再誕の間》へ、ジュリアはルヴィアが今持たせているという第1レイド《豊穣の間》へ。

 セーフティの中央にある柱を足場に、一瞬視線を交錯させてから互いの向かうべき廊下へと蹴り飛びます。まだあまりにも急な方向転換は難しいので、応急です。

 同時にジュリアとのパーティも一時的に解除。確か第7レイドはフリューとルプストの管轄でしたね。

 フレンドメッセージであと三十秒で辿り付くと送れば、すぐに返しでパーティ招待が飛んできました。さすが、して欲しい事が分かってる。


「クレハ! ありがとー!」

「状況は?」

「半数が壊滅。ちょっと前にボスは種に戻った状態からあと三十でハエトリソウ完成」

「建て直しは進めてるけど、防御力の激増と人員の減少で与えられるダメージはすごく減ってる。メインのダメージソースが壊滅したの」

「では、全力で切り込むからフリュー、必要な時は守って」

「わかった!」

「ジュリアちゃんの代わりは任せなさいな」


 フレンドメッセージからパーティチャットに切り替えて短く状況確認しながら《再誕の間》へと突入。

 八角形のフィールドというよりは大きな部屋であり、端の廊下部分から一段降りた地面の露出した場所、その中央へと植わった状態のハエトリソウの化け物がまるで蛇のように蠢いて。

 群がるレイドメンバーへと対してその大きな葉をひっぱたくように振るい、または枝葉に付いたハエトリソウの大口が噛み付こうとしていたりと中々凄まじい光景ですね?

 そんな動き回る《再誕・稲花》を視界の中心に捉えれば、突入したままの飛行速度を維持したまま《八卦・光》を発動してから挨拶代わりの《薄月》で枝葉の一枚に斬りかかり。

 突然の一撃に周囲が湧き立ち、ボスはその一撃に困惑し。ふむ、これだけではやはり少しも削れませんか。


「さて、お待たせいたしました。クレハ、参りますよ」

「ひゅーひゅー、さすがクレハよねぇ? ねえ?」

「守りと後ろは任せるから好きに攻めて! ほら、ルプも援護援護!」


 なんだか茶化す声が聞こえた気がしますが、私の参戦というだけでもプレイヤー達が湧き上がって落ちていた活気が上がるのも感じ取れます。

 一度着地すれば、髪を《千歳姫》さんと対峙した時と同じようにポニーテールへと変えてから再び突貫。パーティの誰かが《アタックブースト》を掛けてくれたので、バフ欄に表示が増えました。

 まるでアサガオのような蛇。どうにもこのゲームでは蛇型の敵に縁がある様に思えます。もっとも、すぐにボスには姿を変えて頂くのですけれど。


「……《新月》、《斬月》」


 今度は太い幹の部分を狙い、無数の枝葉の間を縫うようにしてから斬り付け。有効打を与え防衛本能でなのか、それとも成長が進んだのか幹をモウセンゴケの繊毛が生え覆い始めました。

 確かこれに触れるとこちらの行動が鈍くなるうえ、表面の属性が一定周期で変わるようになるんでしたか。下の面々も声を上げて形態変化を知らせてくれます。

 すぐに対処ができる属性のプレイヤーが前線に出て、不利属性のプレイヤーが一旦下がりました。この入れ替えが隙になりやすいのでしょうね。


「フリュー、周期は」

「張り直し含めておおよそ一分だよ。あの属性違いの表皮に一定ダメージを与えたら一時的に闇属性に戻るけど……」

「ついでに割れて頭がウツボカズラになったら《再誕》完全形態よお。そうしたら酸を撒くから気を付けて頂戴ね」

「それだけあれば十分ですね」

「あともし失敗したらその属性の液体を針のように撒き散らすから気を付けてね!」


 それだけ分かってしまえば十分。表皮の属性を見て《八卦・風》を使い攻撃属性を変化。

 空中での接近戦を挑むために接近すれば、飛んで来たモウセンゴケに覆われた葉によるビンタに対して《居合術》のカウンター。

 大きく弾かれた葉が硬直し、そこを突くように《八卦・風》の付随効果で攻撃速度の上がった《月天》による四連撃。表皮の露が削げた頃についでに蹴りを入れてもう一度叩き飛ばし。

 限界まで張った枝へと大きく縦回転をしながらの《円月》の刃を叩きつければ、ミシミシとその枝が悲鳴を上げて裂け目が入っていきます。


「いけますね。フリュー、皆に葉を攻撃して露を払い、ある程度枝にダメージを与えればもぎ取れると」

「うぇ、そんなことできたの!? わかった、通達する!」

「なら私もそっちに攻撃を集中するわあ。風属性、まだあんまり上がってないのよねぇ……《アトモスロア》!」

「まあ実演するのは今からですが。できる限り私が相手をしている葉を攻撃してください」


 本体への攻撃に目が行きがちですが、枝葉を無力化することで安全を確保して攻撃するのも重要でしょう。尤もやや高所にあるのもあって届かなかったと見るべきでしょうが。

 とりあえずまずは目前の葉の処理。モウセンゴケが再生し、再び振り払おうとしてきたところにルプストからの援護射撃が炸裂し弾かれます。

 背面から襲い掛かって来たハエトリソウの枝葉は―――カウンターが発動する前に召喚されたであろう騎士体が大盾で防ぎました。これはフリューの援護ですね、ありがたいことです。

 その隙に目前の《新月》からの《薄月》を使い、厄介だったであろう葉の一枚を切断。切断した葉は急速に枯れながら落下していき。


「―――まずは、一枚」

いよいよ決戦編。ジュリアは『魔剣精霊』にあった通りに第一レイドに参じています。

さて、再誕の化け物ですが。種の状態から始まり成長してハエトリソウの蛇に、ウツボカズラの頭とモウセンゴケの繊毛を生やして完全体になります。

そこから一定以上のダメージまたは時間経過で本体が枯れ落ちて種に戻ると同時に枯れた部分を四散させて攻撃、そして種からまたハエトリソウに……の繰り返しになります。

最終形態だと纏う分泌液でランダムな属性耐性を作るので異常なまでに硬くなります。厄介ですね。

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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜
相方、杜若スイセン氏によるDualChronicleOnlineのルヴィア側のストーリーです。よろしければこちらもどうぞ。
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