52.New Skill Practice
「では、余達はここまでじゃな」
「はい、ありがとうございました」
「がんばって。私達は王都で待ってる」
「任せてくださいませ、ちゃんと討ち取ってまいりますわ」
《サクとツィルニトラがパーティから離脱しました》
《蓮華の祠》前にて。ここで行き先が異なる私と《サク》さん、《ツィル》さんの二人と別れました。
いやあ、サクさんが途中から先に出て力を振るっていましたがなんだったんでしょうかね、あの暴風雨のような。
まさに《応龍》の名に恥じないくらいの暴れっぷりでした。呪いの所為で動けないのもあって、相当鬱憤が溜まっていたのでしょう。
二人が遠く《蕗薹の祠》のある方向の道へと飛び、姿が見えなくなるほどまで離れるまで見送ってから、私達は祭壇の裏手にある分岐路へ。
「ここからは二人ですわね」
「道すがらに聞いた話だと、ここからは敵のレベルががくっと落ちるそうですし」
「折角ですから、新しいスキルも試しながら進みましょう。流石にボス戦でぶっつけ本番は不味いですし」
「そうしましょう。ジュリアのは見せて貰ったのに、私のはまだ見せていませんからね」
「そういえばそうでしたわね。《竜眼》と《飛行》が楽しすぎて忘れていましたわ」
二人同時に軽く地を蹴って浮遊。それから進行方向へと向けて滑空するように移動を開始。
大分《飛行》のスキルレベルも上がってきているのでしょうか、最初の頃に比べればより速度が出るようになってきました。
先程の移動中であれば走るよりちょっと速いくらいでしたが、今では全力疾走しているくらいの速度が出るようになってきてより細かい操作もこなせるようになりつつあります。
「さてこちらは何が湧くのでしょうかね」
「《鷹目》スキルなら取ってありますもの、索敵はお任せくださいませ」
「そういえば取っていたんでしたね。ルヴィアの配信でまちまち見てましたけれど、あの妙に視野が一瞬近寄るのが苦手で」
「お姉様は素で見えてしまいますもの。私としては、飛び掛かる時の弱点っぽいところを見るためですけれど」
ぐいっと視野カメラが近寄るの、どうしても苦手というか。周囲を常に見渡せる状況にしておきたい身としてはその一瞬が苦手なんですよね。
この辺は要望として書き入れておくつもりではありますけれど。やっぱりそれでも《鷹目》が欲しい状況も少なからずありますから。
セーフティエリア内から色々見渡す際に細かい物を見たり、街の景観の細かいところを見たり。そういう程度のものですけれどね……
「第一発見Mobですわよー、お姉様」
「早速ですか……ええと、鹿と猪ですね」
「レベルも20前後と本当に難易度ががくっと下がりましたわね」
確かにこのくらいのレベル差であれば、STRが極端に高すぎるジュリアであれば弱点を突ければほぼ一撃でしょうか。
《種族値》を教えて貰いましたがVIT4/STR6/AGI4/DEX1/MND2でなんとINTは0だそうで。なんという脳筋仕様、と一瞬思ってしまいますが、《竜眼》がそれをカバーしているのだと思われます。
私であれば《八卦》で好きに属性を付けられますからね。きっちりと切り替えて使っていきましょう。まずは抜刀して、と。
「では、先に……《八卦・火》」
スキルを発動すれば、刀身が薄く紅色に染まり火を纏いました。ステータス欄にも[八卦:火属性付与][八卦:攻撃力上昇(微)]が付与されていますね。
そこから移動方向の下方にいた風属性の猪に向けて上空から縦回転して振り下ろすように《円月》を放ちました。それはまるで火炎車輪のような、そんなの勢いで。
「せっ!」
「ピギュイ!」
振り下ろしの勢いと《円月》のアーツ威力による補正、そして上空からの落下攻撃に弱点属性。もちろん肉ロードの高レベルの猪でもないのですから、耐えられるわけもなく一撃必殺。
ついでに深々と刺さったままに持ち上げ、移動しながら《解体》してしまいました。残っていた僅かな手持ちもすぐに埋まってしまいそうなので、ほどほどにしないとですが。
しかし初使用でしたが、ダメージ加算がこれだけ噛み合えばタフな方のMobである猪が一撃ですか。ジュリアの《ジャンプアタック》の破壊力もそれなりに目にしてましたが、これはなかなか気持ちいい。
「今のが新しいスキルですの?」
「ええ。《八卦》という武器に属性付与と追加効果を付けてくれるスキルですね。追加効果は属性ごとに決まっていますが、かなり強力かと」
「なんともまあ、姉様らしいスキルですこと。やっぱり私は《竜人》を選んで正解でしたわねぇ……」
さくさくと解体し終えて手に入れた肉類をインベントリへと入れつつ。飛行速度を維持したままに考えるようにしながら。
ルヴィアの方も順調に進軍しており、《バージョン0》ラストダンジョンである《生い茂り過ぎた樹海》に突入し順調に進軍しているとのこと。
私達も後続としてこのダンジョンを突破しないといけない訳ですが、まあ飛行があればその速度も段違いになるでしょう。
「姉様、フィールドと敵が切り替わりましたの。ここからは河登りになるようですわね」
「もうですか。やはりほとんどのMobを無視できるというのは強みですね……と、河と言えば」
「えぇ、案の定ですわ。いくらか跳ねてますもの」
《他無神宮》への参道から森を隔てた草原道を抜けて河川を登るようで。水面には《天竜十二水路》で見た影がいくらか目に出来ます。
案の定、水面下からこちらを狙う影が幾つか見えますね。いいでしょう、迎撃しようではないですか。
「ジュリア、盛大に迎撃してやりましょう」
「食べられないのは勿体ないですけれどもね、いいですわよ」
「では……《八卦・雷》」
水面下に潜む《トビトビウオ》の影のステータスを見て、弱点属性の雷を選択。雷属性らしい貫通力に秀でた付随効果もありますからね。
さて、ジュリアは早速《竜眼》を生かして片っ端から《ヒートホーミング》でこちらを狙う素振りを見せた魚を叩いていますが、私は……まあこれですよね。
慎重に相手の動きを見てから、《三日月》―――を撃ったつもりでした。
「なっ!?」
「わとっ!?」
刀を振るった際に放たれたのは、上空からの稲妻。着弾と同時に短い破裂音と爆発音を伴って対象とした魚を穿ち、水面に浮き上がらせました。
ああ、そうでした。《八卦》の説明文に"一部アーツが属性が付与され名称が変化する"とあったのを思い出しました、《刀術》では《三日月》が変化する対象なのでしょう。
少し狙われ辛い高空へと移動し、習得アーツリストを確認。確かに《三日月》の名称が《天鳴》という対象に落雷を落とすものに変わっていました。なるほど、こういうことですか……
「……ああ、ごめんなさい。《八卦》付与中は一部アーツが置き換わるんですよ」
「びっくりしましたわ……そういうのがあるならもうチェックしているものかと」
「流石に忘れてましたね……ちょっと色々付け替えてみますか、《八卦・風》」
苦笑しつつ、今度は風属性へと変更。今度は忘れずアーツ名を確認……《三日月》は《鎌鼬》に変更されていますね。
試しに放ってみますが、風魔術の《グリーンエッジ》……いえ、和風スキンに変更した《緑刃》に近く、かなり大きめの風の刃が水面を割ってその中に居た魚を切断。
モノによっては使い方が大分異なりそうですね。こちらは《八卦》での付随効果も合わせて《三日月》の上位互換としても扱えそうです。
背後ではジュリアが視線を上手く泳ぐ魚に合わせて《フレアプロード》を放っているようで、時折爆破音が響いています。構えもなく見るだけで視線の先が爆発するというのは怖すぎでしょう、さすがに。
「うーん、命中率がイマイチですわ」
「飛んで移動中でなければ当たるのでは?」
「そうも言ってられませんわよ、どうやっても高速戦闘をしながら当てる技術は必要になりますもの」
「ほんと実戦主義で考えますね……いえ、だからこそ強いんでしょうけれど」
「ふふふ、お姉様に負けてばかりはいられませんものねえ」
これでも段々と精度が上がっているのが恐ろしいところ。油断していれば置きとか平然と仕掛けて来そうです。
川岸も見えて来て、そろそろまた陸地、草原へと戻るようです。時刻はそろそろ午後五時を回るかどうか……間に合うのでしょうか。
「そろそろ半分近く飛んだとは思いますが……」
「遠いですわねぇ、っと、お姉様。ウサギと……岩ですわね」
「おや、ルヴィアと一緒に行った洞窟ぶりですか」
岩……《こそこそ岩》というもので、ダンジョン内の岩に擬態して動いていたMobですね。どうやら今回は草原の岩に擬態しているようです。
比較的無視しても大丈夫な手合いですから、少し高度を上げて反応されない程度へ。あ、また《飛行》のスキルレベルが上がったようで僅かに速度が上がりましたね。
この一帯はスルーして飛べるようなので、ルヴィアの配信の方を開いて進捗を確認。
「……もうすぐルヴィアは最終セーフティ到達、《夜草神社》は目前のところですか」
「斥候隊は既にボスの下見に向かっているようですわね」
「確か《蓮華》さんを除く《八葉の巫女》の七人がボスでしたよね」
「それがどうやら、本命がいるらしいんですのよ。しかも出たのが肉ロードの最終ラッシュの時だそうで」
「それは初耳……」
どうやら話が出ていたのはそのあたりで、やり合っている時はあまり見れなくなりますからね。
確認したところ、《梨華》という子がもうひとりいるのだそうな。《八葉の巫女》よりもさらに格上ということでしょう。
予想が外れましたね、一番目か八番目がやらかしたかと思っていたのですが。まだ名前が《翠華》さんの口から語られただけで、詳しい話は分かっていないのですが。
「そろそろルヴィアにこちらからメッセージを送っておきましょうか」
「こちらは順調ですので、あとは道次第になりますが……」
「それに、晩御飯って休憩も近いでしょう?」
「でしたわね、長く《飛行》し続けていると、足が少し……んーっ……」
「SPもちょっと減って来てるので、何かつまむのにも一度降りないとですから」
流石に飛行しながら料理を食べるのは無理ですからね。ジャーキー類ならなんとかなるのですが、それ以外なら大抵悲惨な事になるでしょうし。
早めにハンバーガーやおにぎりが開発できればいいんですけれどね。まだ米も小麦もないですから……
「少し位置を見てきますね。まだダンジョン内でしょうけれど、参考にはなると思うので」
「わかりましたわ、何もいないとは思いますけれど」
一度降りれるポイントを探すにしても、ですからね。少し上向きに速度を上げて、高度の限界近くまで上がります。
そのうちあまりにも色々無視でき過ぎて、お仕置き用モンスターでも用意されそうなくらいの高さ、そこまで辿り着けばぐるりと景色を見回し。
……ふむふむ、最初に《他無神宮》から見た時よりも結構近づいていますね。これなら間に合いそうです。
下の方を見れば、ちょうど草原地帯から森林地帯へと再び移り変わるところですね。短くフィールドを隔てる様な林道を抜ければ……ああ、いよいよ出口のようですね。
視察が終わればすぐに下降し、ジュリアと合流します。
「……どうでしたか?」
「もう少ししたら短い森林地帯に。そこを越えればいよいよフィールドに戻りますよ」
「ではフィールドに戻りましたら、近場のセーフティに入ったら休憩ですわね。そろそろ六時ですから、手伝いもしておかないといけませんわね」
「二日続けてになりますが、夕飯をしっかり食べてまた集中しないといけませんし」
「あら、その前に門番さんのようですわね、あれは……」
言っている矢先から、ぽっかりと口を開けている森が見えてきました。と、なんだか門番のように昔懐かし《ジャイアントラビット》が待ち構えていますね。
相変わらず小さな丘のようにすら見える巨体ですが、あの時とは既に相対する力が違います。レベルはとうに10も差、その上こちらは進化が済んだ者。さて、これがどうなったかと言うと―――
「「どっけぇぇぇぇぇ!!!」」
《八卦・火》を纏った刀で《新月》による輝きを纏わせ、その全力飛行のスピードのまま放たれる《斬月》と。
《竜眼》をフル活用し《フレイムアロー》をMPあるだけありったけ《連唱》し放ちながらの私と同じく飛行スピードそのままに跳躍した《スパインダイブ》。
結論から言って瞬殺でした。レベル差もあってこれだけの威力を劣化レイドボスの《ジャイアントラビット》が受け止められるわけもく。
「急ぎましてよ!」
「わかってますってば!」
この八卦というスキル、なかなか利便性高いです。そら八属性好きなものが付与できるんですから当然ですね!