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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
0-3幕 龍の試練開幕、そして決戦へ
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49.龍の試練―決着―

「っ、うーっ! さっきから!」

「せいやっ!」

「あだぁぁあ!?」


 尻尾との連続攻撃に合わせて千歳姫さんの視線を切り、僅かな隙を作り出しては攻撃を繰り返す事はや十数分。

 動きが止まるだけの移動距離、身の隠し方とすぐに攻撃を切り返して入れられる位置。十分ほど掛かりましたが大方のコツは身体で覚えさせました。

 千歳姫さんの体力はおおよそ残り三割といったところでしょうか。抜け穴さえ見つけてしまえば削るのは容易。特に本体との接近戦で蹴りを放とうとした時が最も隙になりやすいですね。


「……ぐっむむ……!」


 千歳姫さんからすれば自分が攻撃した途端に目の前から姿が消えるので、どこに行ったのか探すという動作をが挟まれるので動きが一瞬止まらざるを得ません。

 その上尻鋏角による追撃も、先程まで自分で視認していた場所に対してしか攻撃できないために回避されてしまう。本当はこの隙すらも容易に埋めてしまう"何か"があるのでしょうけれど。

 むくれた千歳姫さんが大きく本体を上空に上げて見下ろし、私の位置をしっかりと覚え……いえ、あれは私の動きを目で追ってますね?


「むおーおこったー! これでもくらえっ!」

「大技ですか」


 本体が離れたかと思えば、百足尾で囲んだ全域を薙ぐように尻尾を動かし。漆色の甲殻に覆われた尾を飛び越えてその上を駆けて尾鋏角の元へ。

 乗った事に対して千歳姫さんが短く驚きの声を上げ、その隙に《瞬歩》《行月》を使って一気に尻尾の先端へと接近し、距離を詰めて。

 慌てたのか尻尾が大きく揺らぎ、本体の方も急降下しての攻撃を仕掛けようとして来ているのも分かりますが―――遅い。


「これで―――ッ!」


 残る数歩を詰めながら《新月》を使えば残りわずかの居合ゲージが消費され、構えた刀の刃が淡く輝き。

 距離を詰め終え、振り抜ける姿勢になった瞬間に《斬月》を使い、しっかりと打点の中心である尾鋏角の右角を捉えながら、淡く輝く刀身が逆袈裟で振り抜かれる。

 ガン、と硬い角と鉄の刃が衝突すると同時に、大きく足場にする百足の尾が跳ね上がって千歳姫さんの体力の二割が削れ、上空からは悲鳴じみた声が上がり。


「はあああっ!!!」


 その仰け反った隙に《月天》による四連の斬撃が尾鋏角へと撃ち込まれ、さらに追撃と言わんばかりに《薄月》による一閃。

 四連撃で残りわずかにまで減っていたところに、一閃がトドメとして入れば―――千歳姫さんの体力ゲージが空になり、渾身の力で急降下して蹴ろうとしていた彼女の身体が力を失って墜落。

 同時に百足の尾も数度痙攣し、無数の節足がもがく様に動いたあと―――その場でぐったりと力尽きて伸びるかのように伏していきました。


「っ、ふぅぅ――――っ……」


 千歳姫さんの動きが止まり、体力ゲージが空になって打ち倒したと確信するなり。おおよそ一時間に渡る集中と疲れが一気に押し寄せ、身体が酸素を求めて肩で大きく息をしながら座り込みます。

 あまりにも長く集中し過ぎたせいで、酸素不足気味の頭も少しぐらつき。VR機器からは休息を推奨する警告が出ていました。

 百足尾の上で座り込むことになってしまいましたが、ぴくりとも動かないんですけど……死んでませんよね?

 ほんの数分程息を整えてから立ち上がって刀を納め。それから尻尾の上から降り、渾身の蹴りの最中に力尽きて墜落した千歳姫さんの本体の方へ。


「ん、ぁぅー……」

「一応は生きてるみたいですね……」


 伏せた形にはなってますが、それでもちゃんと息はありますね……いえ、これぐらいで倒れられても困るんですけど。状態が手加減でしたし……

 というか、クエストクリアでここが出られるはずですが……と、そうでした。本当の目的はこの子から体液を貰う事でしたね。それだと起きるまで待たないといけませんが。

 ……改めて見るとこの子、《サク》さんに似た格好をしていますが細部が違いますね。腕の甲殻の上には袖が付いてますし、チャイナドレスも百足紋があしらわれてますし。

 髪の色も黒色かと思えば血を乾かしたような焦げ茶色。何よりも気になるのは……ちょっと配信カメラの死角を作るようにして……ぺらり。うん、前張りですか。

 少し休憩も兼ねて起きるまで待っていましょう。今コメント欄を確認しましたが凄い事になってますね、どうやらルヴィアも同時視聴していたようで、視聴者の桁が見た事ない数字になってます。


「……うーん、むにゃ……あう?」

「ああ、起きましたか」

「うーっ、まけたー!」


 それから数分程して、間の抜けた声を上げながら彼女が目を覚ましました。上体を起こしてから負けたのを悟ると、またぺたーっと伏してしまいましたが。

 彼女が気が付いた途端、ずるずるとあれだけ長い尻尾が細く小さく縮んでいき。最終的には五メートルくらいの長さになってしまいました。

 身体を浮かせておくにしてもこれぐらいがちょうどよかったのでしょう。あれだけの長さにするのはおそらく……戦闘時だけ?


「あはは、まあまあ……それで、ええっと」

「うん! わかってる。ちょっとまっててね……」


 体液について話そうとすると、むくっと起き上がって身体を浮かせ。どこからともなく取り出した大瓶の蓋を開ければ、百足尾の先にある尾鋏角の口元を開けて……ちょっと目を逸らしておきましょうか。

 なんだかだばだばとそこから唾液っぽい何かを瓶に詰めている音がします。体液って、そーいう……

 尾鋏角は結構な刀傷が残っていますが、それも薄らんだ程度なあたり頑強なのが窺えました。本気で彼女とやり合うとなると、どれだけ頑張らないといけないのでしょうか。

 と、どうやら採取が終わったようで、こちらにしっかりと蓋を閉めた瓶を手渡してきました。中身は……あの、暗緑色なうえにちょっとドロドロしているんですけど。


「えへへ、これがちとせのたいえきー」

「あ、ありがとうございます……」

「それにしてもこれがおくすりになるんだからすごいよねー」


 自分で出したであろうその毒素が詰まった瓶をまじまじと見つけて、どことなく楽しそうに。なんだか本当に子供っぽいですね……身体はそれなりにいい感じに育ってるのに。

 というか私達がそれを頼まれた事、知ってたんですか。それならそうと手早く渡してくれればよかった気はしましたけれど、まあその、彼女も退屈していたと聞いていましたし。仕方ないかも知れませんね。

 そういえば、もし彼女が毒を使ってたらどうなっていたんでしょう? 《夜霧》さんは遊びで毒は使うことはないって言ってましたけれど。


「そういえば、この体液って……毒、ですよね?」

「うん! 色んな効果が混じった毒だよ、特につよーいちからを持てば持つほどすごーくよく効く毒!」

「それで、サクさん達だと手を出しづらいと……」

「そうだよ? さくとかつぃるとか、ちとせが近づいたら逃げちゃうし!」


 ドヤ顔で自慢気に言う千歳姫さんですが……サクさん達はよっぽど苦手なんですね。これなら私達に頼んだ理由もわからなくもないです。力の強さは相当だそうですから、それなら納得と言いますか。

 とりあえずインベントリに瓶を納めましょう。あんまり見ていていいものでもないですし、中身はたぶん口振りから劇毒もいいところでしょうから。


「にしてもつよいねー、《来訪者》。とってもたのしかったー」

「お褒めに預かり光栄ですよ。とはいっても、私は対応するのでいっぱいいっぱいでしたけど」

「えへー。じゃあちとせは《屍國》にかえるね! またあそぼー!」


 よっぽど彼女からすれば楽しかったのでしょう。最後にかなり勢いの付いた飛びつきからのハグを貰いました。

 こうして間近で見ると、背丈は《紗那》さんと変わらないですね。肉付きとかは結構差がありますけど、あと触覚がぺちぺちマーキングかのように頭をつついています。痛い。

 すぐに離れて無邪気な笑顔を浮かべて私へと手を振れば広場の外、元来た道を帰るように尻尾を這いずらせながら行ってしまいました。

 直後に私の視界がホワイトアウトし―――


『クエストクリアを確認しました』

『インスタンスエリアから移動します』

『フィールド名:《他無神宮》境内』


 そのホワイトアウトから晴れれば私は、いえ私達は《他無神宮》の境内、本殿で座ってお茶をしているサクさんと《ツィルニトラ》さんの前へと戻ってきていました。

 片や座布団の上に座って緑茶、片や小テーブルに紅茶のセットを乗せ椅子に座って、ですけれど。和と洋で表裏ですかそうですか……


「む、戻って来たか。して、成果の程は」

「ええ、こちらに」

「私も無事、頂いてきましたわ」


 サクさんとツィルさんが立ち上がり、私とジュリア、二人して同じ濃緑色の液体の詰まった瓶を差し出します。それを私の分はサクさんが、ジュリアの分はツィルさんが受け取りました。

 若干ですが、瓶を取る手も震えと怯えがあった気がしますが……まあ、先の話を聞いていれば当然の事なのでしょう。詰まっている中身からしてそうですから。

 ツィルさんが僅かに蓋を開けて中身を確かめればものすごーく渋い顔をしてすぐに締めます。あ、すごい効き目っぽい。


「う、うむ。よくぞ突破してきた。失敗してしまうのではないかとヒヤヒヤしておったがの」

「最上。今の練度で突破できるとは。よくやった」

「さて、それではお主らに与える報酬であるのじゃがな……」


 物を取り出すわけでもなく、何かツィルさんと相談するようにしてから私達へと向き直り、一言。



「これよりお主たちに《進化》という報酬を用意した」


「サクに力を貰い《龍人》になるか、私の力を受け取って《竜人》になるか、選んでほしい」



 ……へっ?

 ええと、そういうシステムがあるのはルヴィアの配信でも理解はしていましたが。まさかこれ自体がその過程だったとは。

 サクさんから報酬を受け取れば《龍人》への進化を、ツィルさんから報酬を受け取れば《竜人》への進化、ですか……

 これだけの難度ですから、報酬は破格だとは感じてはいましたが……まさか、ルヴィアよりも先に《進化》へと達する事が出来るとは思っても見ませんでした。


「……姉様、どちらにしますか?」

「……これは、悩みますね」


 どちらにせよ進化しなければ、進化先の内容が分からないのが悩みどころです。何にしろこの《DCO》での初進化なのですから。

 NPC二人の方を見れば、悩むのは当然だろうという顔で答えを待ってくれています。いえ、こんなの悩まない方がおかしいですし……

 《龍人》はおそらくサクさんのような東洋系の龍でしょうし、《竜人》はツィルさんのような西洋系の竜でしょう。どちらにしても魅力的なのにはかわりません。

 前者は術系、後者はパワー系なのでしょう。ですが、ここは両方見ておきたいのも事実……ううん。


「ジュリアは、どうしますか」

「どちらも見てみたいのは確か。けれど……私はツィルさんの方を選ぶことにしますの」

「……でしたら、私はサクさんの方を選ばせてもらいますか」

「ええ、それが良いでしょう、夜の世界を和龍が飛ぶのは似合いませんし。それに、技を得手とする姉様には和龍がお似合いですわよ」

「ふふっ、もう、言ってくれますね」


 ジュリアが、おそらくいつもの直感でそう口にしました。まあ確かに、折角ですから両方を見せたいのはありますからね。

 それに言いたいこともそれなりに分かりますし……おそらく、《竜人》の方はSTRが多めに振られるだろう、という期待もあるのでしょう。

 お互い決まった事ですし、一歩前へ。それぞれの進化の道へと立ちます。


「決まったようじゃな」

「はい」

「では、あなた達の《進化》を始める」

「よろしくお願いいたしますわ」


 それぞれの前で、確認の問いにしっかりと頷きます。

 そうすれば、先程千歳姫さんのところに飛ばされた時の様に、私達の足下へとそれぞれの術陣が現れ。今度は私の方は眩い黄金の輝きを、ジュリアの方は紅蓮色の輝きに包まれて。

 点けっぱなしだった配信用の光点も遠く離れていき、少し遠くからその様子を映すようですね。



《プレイヤーの進化を行います》

《プレイヤーキャラクター外見の一部を変更します》

《髪色、肌色、眼の一部の外見データが変更が可能です。行いますか? Y/N》

《変更を適用しました。キャラクターデータを変更中...》



「うむ。よく余の力を継ぐ事を選んでくれたの。ありがたいことじゃ」

「サクさん……?」


 進化の最中、光の向こうから声が聞こえました。何度も聞き慣れた声、サクさんのものだとすぐにわかりました。

 どこか振り絞るかのような、これまでにないそんな声で。


「余の手で行える進化はお主が最後となろう。ツィルも同じでな、他も出来るようにはなるじゃろうが、お主の様に特別ということはないのじゃ」

「………」

「受け渡した力が目覚めるのは相応に力を得た時になるであろう。なに、お主のあとに続く者達は余の娘が進化の手助けをするであろうよ」


 ……そうでした。サクさんは既に《魔力汚染》の呪いに身を蝕まれていたのでしたね。ツィルさんも切り上げて来たということは、きっとそうなのでしょう。

 つまりこれは、ある意味では二人の最後の力を振り絞ったもの。後継はきっと用意はしてあるのでしょうが、純粋に二人の手からというのは私達だけになるのでしょうね。


「願わくば余とツィルが呪いに蝕まれし時、お主たちが救ってくれる事を願っておる。薬は出来たとは言えど、何処まで持つかは余にもわからぬからな」

「わかりました。その時は……私達が、必ずや」

「……頼んだぞ」



《変更完了しました。プレイヤーキャラクターの進化工程を完了します》

決着。次回は進化した後の話。

さあこちらいよいよクライマックスが近づいてまいりました。

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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜
相方、杜若スイセン氏によるDualChronicleOnlineのルヴィア側のストーリーです。よろしければこちらもどうぞ。
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