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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
0-3幕 龍の試練開幕、そして決戦へ
43/383

43.クレハは足癖の悪さを指摘するとむくれます

「よいしょ」

「ホームラン! ですわ!」


 時間は夜。夕方の家事を済ませて三つ目の祠から二時間ちょっとほど進んだところとなります。

 武器をスキルレベルがほぼ初期の物に変えたのもあって、それまでのペースよりも時間が掛かり午後の四時間は丸々二つ目から三つめの祠への移動にかかってしまいました。

 このダンジョン、進むと地形に変化が現れてモンスターもがらっと変わるんですよね。今回は少し開けた道となり、そのうえ……


「お姉様、そっちに《クレイジーディアホーン》が行きましたわ!」

「わかりました、よっと」

「んよおいしょっ!」


 そう、ここに湧いたのは初心者の頃にお世話になった《ディアホーン》系列。所謂鹿ですが、それに混じって《ワイルドボア》まで。

 レベルは大幅に強化されているので、戦い方こそは以前のままでいいにしろ耐久力が桁違いになっています。ほぼスキルレベル不足のせいなのですけれど。

 ジュリアが突撃してきた猪に対して置き《スイング》。単純に槌を構えて振り抜く、《槌術》の最初に覚えるアーツですね。

 何度か痛めつけていたのもあって、直撃した猪は自身の速度も相まってダメージが余計に入ったのでしょう。体力ゲージが尽きた猪はふらふらとして倒れました。


「そいっと」

「そぉい! お姉様、そっちに猪が行きましたの!」

「はいはーい、せい」


 続けてジュリアは近づいてきていた大角を持ち一回り大きな体躯を持った、ここで初登場の大鹿ハイホーンの方へと向かっていきました。

 大きな角を振り回すのを飛び下がって避ければ、まずは頭に向けて《パワーストンプ》で思い切り振り下ろし。体勢を崩させてから、続けて《スイング》で頭をカチ上げれば大鹿の足元が大きくぐらつきます。

 《槌術》はSL5で極低確率スタンと防御力一定無視のアーツを習得し、STRが高ければ槌の重量をほとんど感じないのもあってジュリアのスタイルにがっちりハマっているんですよね。

 まあそれでも見ていて槍を使われた方が厄介だ、と感じるのですが。MPが枯渇してしまった時、あるいは打撃ダメージの方が通る場合はこちらの方が良さそうです。

 そんなこと言うとそのうち《斧術》まで取ってきそうですけれど。《槌術》とアーツの構成がやや似ているそうで、あちらは威力が下がりますが一定時間防御力を下げる効果があるとかなんとか。


「これで、とどめですわ!」

「よっと」

「………ちょっとお姉様!?」


 トドメを刺すために飛び上がっての《パワーストンプ》で殴りつけた大鹿が横倒しに―――ならず、僅かに体力が残って耐えましたね。

 そこに私が相手をして瀕死にまで追い込んでいた猪を横合いから蹴り飛ばして、大鹿の横っ腹に直撃させました。僅かにしか体力が残っていなかったのでそのまま大鹿と猪は仲良くダウンしました。

 《格闘術》は他の武器類と全く違い、ほとんどがパッシブスキルで《格闘:打撃力強化》や《格闘:脚力強化》と人間種族のみが習得できる《身体強化》スキルと重複して攻撃力が強化されるんですよね。

 一応アーツとしてはSL10で《ナックル》を覚えてますが、これは適当に殴るのに混ぜるだけで効果があるので……蹴とばせたのは《格闘:脚力強化》のお陰でしょう。試したのはこれが初めてですが。


「さっきから静かに狩ってると思えば全く……」

「スキルレベルがそれなりに上がると簡単に色々できまして」

「向かった猪も鹿もあっさり倒してますわね……」

「しかも軽くシメてあるのでちょっと肉は新鮮で取り易いはずですよ」

「しかも殆どクリティカル決めてません? これ」

「それはもう判り易いところにあったら狙うでしょう」

「手癖足癖の悪さ極まれりですわね……」

「むー」


 弱点が判り易い方が悪いんですよーっ。まあ確かに鹿であれば後頭部に手刀を入れて、梃の原理で角へし折りながら肘打ちと膝を両方キメればあっさりと無力化できて、あとは《ナックル》なり。

 猪であれば突進さえ回避すれば横っ腹と背のあたりを適当にボコボコしてやればあっさりですからね。どこかおかしい事していますでしょうか。

 ……ジュリアにはものすごく呆れられた目を向けられているんですけど。


「……もうそれ格闘士ではなくアサシンやってません?」

「そんな肩触っただけで殺すなんてできませんよ」

「でもやれたらやるんでしょう?」

「それはまあ、刀が無い時でできるのであれば」

「武器は拘束具……?」

「槍持ってませんからそこまではさすがに」


 多分ジュリアが言わんとしてるイメージは伝わりますが、さすがにそこまでの技量はないです。できたら確かに面白そうなんですけど。

 そんなきゃっきゃと会話をしながらお肉を回収。《トビトビウオ》はこの辺に湧かないので、お魚の調達は出来ないんですよね。

 ……飛んでくる魚に対して裏拳あたりキメてみたかったんですけど。面白そうですし。


「さてと、そろそろ五番目の祠ですわね」

「それなりにスキルレベルや戦術が安定してきたお陰で時間はあまり掛かりませんでしたが」

「ですわね。明日でできれば七番目の祠まで行きたいですわね」

「金曜日は……ああ、買い出しのお手伝いで夕方近くまでルヴィアのところですからね」

「最後にちゃんと元の武器に慣らしませんと。魔術が効かないので槌をこのまま持って行きたいところではあるのですが」

「スキルレベルが高い方、かつしっかりと使い慣れている方で挑みたいですからね」


 春休みに入れば、身体の強くないルヴィア……朱音のお手伝いがあるんですよね。

 普段は春菜と秋華が家事の持ち回りですが、買い出しとなると手が回らなくなるのでこちらもお手伝いに出なければならないのです。

 特に、そろそろ《バージョン0》の終わりが近いので、最終日はみんなでパーティしようと決めていて、その準備も含めてになりそうですからね。


「っと、到着。今度は……蕗薹(フキノトウ)ですか」

「三つめは枯れたタンポポでしたから、やはり関係はありそうですわね」

「《夜霧》さんは……ああ、いました。けど寝てますね」


 NPCだって生きてるんだ。そりゃあ寝るくらいだってしますよね。

 祭壇で紋様と周辺に咲いているものを確認してから、待合の様になっているいつもの長椅子のところにいけば夜霧さんが丸くなって眠っていました。

 いつものはどこか小馬鹿にするような、トリックスターのような言動が目立つ彼女ですけれど、こうして眠る姿はやっぱりかわいいですね。外見は猫ですから。


「そろそろログアウト……したいですけれど、今日はちょっと手が空いてますし、早いんですよね」

「そうですわね……とはいっても、先を覗くだけにしても微妙ですわね……」


 時間としてはもうすぐログアウトしてもいい時間なのですが、寝る準備をするにはまだ少し余裕があるんですよね。

 昨日なら夜霧さんとお話してちょうどいいくらいだったのですが、うーん……

 何かするような事……今はまた纏める必要はなさそうですし……


「……久々に、料理してみますか」

「セーフティですし、確かに干し肉ばかりも飽きますし……いいですわね」

「幸いお肉なら猪、鹿、熊に魚と取り揃えていますからね。ああでも、コシネさんほど上手く作れるかは別ですからね」

「わかっていますわよ。また食べられる機会があるといいのですけれども……」


 調理セットを広げながら、料理の準備。兎肉もあればよかったのですが、ウサギは湧いていなかったので残念。

 とはいえ、今のところ二つごとに湧いているMobが変化しているので四番目から三番目までの道中では湧くかも知れませんね。出たらそれなりに溜めておきましょうか。

 もっとも今持っている三種も結構な数になっているんですよね。やっぱり湧きの量が違うのと、普段レベリングの時と違って全域を独占状態なのもあるでしょう。

 交換しても余りが出るくらい。夜霧さん割と交換レート少な目にしてますよね、余るので余分に押し付けましょうか。


「ではまず《ディアステーキ》から。いきますよーっと」

「鹿肉だけはものすごく大量に手に入りましたものね」

「三種もいましたからね。特に大鹿の角はクリヌキさんあたり喜びそうですし、っよっと」

「ここにきて新種ー! でしたものね。下手をすれば獣系の新種が後半に湧いたりしませんこと」

「ウサギか、猪か。どっちかありそうですね、楽しみにしておきましょう。味付けは?」

「塩!」

「ぱっぱと振って、できあがりっと」


 というわけでさっくりと《ディアステーキ》を作成。品質は……うーんE-。コシネさんほど上手くいきませんか。

 毎日鍋を振っているわけではないのでそれはまあ、当然といえば当然なのですが。やはり下ごしらえくらいはした方がいいでしょう。

 まあ品質に関係なくジュリアは喰いつくのでいいですが。外見は立派に姫騎士ですけれど、中身はちゃーんと育ち盛りの高校二年生の女の子ですからね。

 差し出せばあっと言う間に文字通りに喰いついたので、私は下ごしらえを始めます。どれも野性味強い味してますからね、ちょっと下ごしらえしてみますか。


「んーっ、この時間に食べるお肉はいいですわねー」

「NPCにも食べさせてあげられる事がわかりましたからね。今ごろはコシネさん大忙しなんじゃないでしょうか」

「夜霧さんがお魚を持っていく時点で察してあげればよかったと思ったのですけれども。まあそれはそれ、ですわね」

「そんなイベント、今後仕込んできそうできそうな……」


 ちょっと趣向を変えて、《ディアホーン》の肉に少し火を通してから薄めにスライス。そこに軽く調味料からポン酢を選んで盛りつけ。

 食器はつまようじを選んで添えて、ステーキを食べ終えたジュリアに差し出し。ちょっとした馬刺しのようなものです、品質低いですけれど。

 私もつまみながら熊肉を焼きに掛かります。小さいですが簡単なテーブルも付くのが楽でいいですね。あ、馬刺し風なかなかおいしい。

 本当はスープか何かに入れてみたいですが……やってみますか。とりあえずしっかりと火を通して《ベアステーキ》を焼き上げ……品質はE。ちょっとだけ良くなりましたね。


「深夜に食べるご飯は最高……んぐんぐ」

「私も食べるんですから残しておいてくださいよ、もー」

「わかってまふってー。そういえば姉様、昔からあんなに小技得意でしたっけ」

「う、またその話ですか……んむ……まあ、最初はおじいちゃんの入れ知恵ですよ、武器だけに頼れない時もある、って」

「あー……私はそのへんにあるもの全てが武器だと思え、って教えられましたからまた違ったこと言われてましたのね」

「さり気に得手とするもの言ってますね……まあ、私の場合は的確に急所を狙ったり、無力化できるコツを掴みながら効率的に倒すやり方、のように感じますけれど」

「それなら、《格闘術》を使っている際の異常なまでのクリティカル率も納得ですわよ。あ、次は焼肉風と……スープですわね?」

「これを《刀術》を使いながら併用すると、刀を振るっていてもなんとなーく手が空いていて目の前に隙があると叩き込みたくなるんですよ」

「癖が悪いというか、既に一種の悪癖になってませんこと?」

「むー。そんなこと言うならあつあつの《ベアスープ》試食の刑です」

「ちょっお姉ちゃん!? 熱いままはだめ! わたし結構耐える方だけど猫舌!」

「にゃー、おめえらうるっせぇにゃ……」


 できあがりたての熱したベアスープをジュリアの口に流し込み、熱がっていますがとりあえず食べさせます。

 ついでに久しぶりにロールプレイが剥げてますけれどそれでも流し込みます。だから私は的確に弱点を突こうとしているだけなんですってば。

 そんなこんなと騒いでいると、夜霧さんが起きてきました。ちょっと騒ぎ過ぎたでしょうか、ログアウトの時間も近いので寝かせておいてあげようと思ったのですが。

 あつあつの《ベアスープ》を呑んで痙攣しているジュリアはほっといて、夜霧さんの方へと向きます。


「熟睡中のところごめんなさいね」

「にゃー、まぁ別にいいにゃあよ。で、何にゃ、料理でもしてるのにゃあか?」

「もうすぐ一度離れないといけないので。それならちょっと時間潰しがてら……と」

「にゃあるほどねぇ。それにゃらにゃーもご相伴にあずかってもいいかにゃ?」

「ええ、構いませんよ。もう少ししたら《ボアステーキ》の薄切りが出来ますから」

「にゃーん。薄切りなら食べやすいにゃあね」

「お、ねえ、ぢゃ……わた、し、にもー……」


 そんなこんな、ログアウトの時間までの暇潰しの料理も進んで、明日以降ストック分の料理が幾らか出来ました。肉類ばかりなのですけれどもね。

 ついでに料理のスキルレベルもそこはかとなく上がりました。今後もこんな風な野宿料理が増えそうですね……

 ちなみに夜霧さんとの取引は明日にしてもらうということで、一通り振る舞った後はログアウトしたのでした。


でも刀持ってる方が一番強いという話(ジュリア談)

あくまで刀を持っているから見える間合いであり、だからこそ相手が見せる隙を狙って足技を叩き込むことができるのだとか。

猫相手に回避無視のヤクザキック? 知らんなァ……

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