42.アーツは発想でいくらでも化ける
朝食を終えて早々にログイン。ちなみに今日は父とは会えませんでした、忙しいんでしょうね。
ジュリアとの合流を待ってから《龍の試練への道程》、八番目の祠から攻略再開です。次の祠を目指していきましょう。
今日の武器は昨日に引き続き弓、ジュリアも合わせて大剣のようです。こちらもスキルレベルが30が近いようですからね。
「《夜霧》さんは……いないみたいですわね」
「おそらくもう七番目の祠の方へと向かっているのでしょう。それじゃあ耐久度を磨り潰す勢いで行きましょう」
「賛成ですわ。しっかりと上げられるものはあげていきたいですものね」
長いのはいいんですよ、長いのは。ただ進むだけならいつもどおり《刀術》を使いながら斬り捨てながら進めばいいんですから。
ただそれだけだとなんだか勿体ない気もしますし、どうせ持っているのですから色んな武器を使ってスキルレベルを上げておきたいのです。
刀が通用しないMobが出て来るかもしれないし、もしかしたら今後戦闘中に切り替えができるようになるスキルが追加されるかも知れませんからね。
「……早速ですわね」
「狼が二と二で左右別、離れて熊が一、遠方に柿が二いますけれど、あちらは離れてるので後回し」
「狼が最優先ですわね。牽制お願いいたします」
「わかりました」
弓に矢を番えて、一番近い狼に対して《ダブルショット》を放ちます。放たれた矢は真っ直ぐに狼の胴にヒット。
それと同時にジュリアが駆け出して接近して一瞬のうちに《ビッグスラッシュ》で一体。続け様に《パワースラスト》を使い二体目へと振り下ろしますが回避されました。
《クイックシュート》で私からも追撃を加えつつ私も移動開始。その間にジュリアは逃がすまいと大剣を大きく横に振り回し、矢が直撃したところに当て《バーニングアロー》を《連唱》し二連射してトドメ。
すぐに斜め前方にいる狼二匹へとターゲットを切り替えて《ストレートショット》。こちらに気づいた三匹目と四匹目の狼がこちらに駆け寄ってきますが、私に目が向いた隙にジュリアが飛び掛かるようにして《ブランジカット》を使い接近。
駆け寄ってきた三匹目の額に的確に矢を射りつつ、飛び掛かっての噛み付きを回避。しながら腹に蹴り。弱っていたのもあったのでそのまま蹴り飛ばして先の二体のところへ。
四頭目を仕留めて戻ってきたジュリアと解体を始めます。その顔は半ば呆れた顔をしていますが、何かしてしまったでしょうか。
「ほんっとお姉様足癖悪いですわよね」
「飛び込んできてちょうどいい位置にお腹を持ってくる方が悪いんですよ」
「《バックショット》から普通に射るだけでも倒せたのでは? ……いえ、そんなことをしたら今度は木を足場に飛び撃ちとかしそうですわね」
「いいですね、それ。やってみましょうか」
「取り入れないでくださる?」
喜々として話す私に対して、がっくりと肩を落とすジュリア。いい案を頂いたので採用しましょうか。
このゲーム意外と個人技については制約が緩いようで、例えば《ダブルショット》で放てる矢は二本ですが、やろうと思えば三本同時に射るということもできます。
ただしアーツの補正が乗らないので、威力は《ダブルショット》より下がる可能性も無きにしも非ず、ですけれど。
しかし上空からの撃ち降ろしとすれば、落下ダメージもあるはず。イメージもあるので……いけそうですね、ふふふ。
「うわぁ……また何か変な事考えてらっしゃるわ……」
「動きの応用だけは自由ですからね、このゲームは。30のアーツがあれば、遠距離にももっと強くなるのですが」
「飛距離自体はすぐに延長を習得したのですものね」
スキルレベル30で新規獲得のアーツは《アロースナイプ》であり、遠距離特化のスキルで距離が一定以上離れていると高確率でクリティカルするようです。
近距離だとちょっと強い程度の《ストレートショット》のような扱いになるようです。クールタイムがやや長いのが玉に瑕ですが、これは《クイックシュート》でカバーできるようですが。
こちらもこちらで使い道は多岐に渡りそうです。《遮那姫》さんの手合わせは、アーツも使い方次第で全く違った取り回しができるということも教えてくれましたからね。
一足先にスキルレベルが30に到達していたジュリアの《大剣》のアーツは《ブランディッシュ》。一振りで三回の多段攻撃を行うスキルで、ややクールタイムが長いとはいえ多段ダメージが入るのが強力。
25から30まではじわじわと上がったのですが、29からだんだんと上り辛くなってきたあたり、レベル帯の補正はあるようでおそらくMobの平均レベル以下であればボーナスがかかる……のでしょう。
ゆっくりと進むこと二時間ほど。一つ目の河を渡れば、遠くにですが二つ目の祠が見えてきました。
今度はちょっとした広場のようになっているようで、少しばかり伸び伸びと出来そうです。とはいっても、長居は出来ず昼食と休憩を挟んだらまた次の祠に向けて出発するのですが。
「ようやく見えてきましたわね」
「このダンジョン、凶暴化しているかのようにMobが次から次へと湧いてきますね……」
「お陰様で夜霧さんと物々交換するための素材には困りませんし、スキルレベルも順調に育っていますからまあ」
「……消耗が本当に凄まじいというか。《弾丸ゲンゴロウ》がいない分まだいいんですけれど」
「あの時は自業自得とはいえ、がっつりと削れましたものねえ」
《鉄弓》の耐久値は既に残り三割といったところで、おそらく次のセーフティである祠に着くまでなんとか持つといったくらいでしょう。
ジュリアの持つ《鉄大剣》も同じくらいなようで、途中から消費の激しい《ブランディッシュ》の使用を控えていました。《ブランジカット》が使い勝手がいいから、というのもありそうなのですけれど。
少しばかり離れていても飛び掛かって距離を詰める事が出来て、尚且つ叩きつけるので地味にダメージ量が高いそうなんですよね。
と、《索敵》に反応あり。ぐるりと見回して確認します、が……
「……厄介ですね、狂熊が二と森熊が二、狼なし、柿が一」
「これを抜ければ祠でしょうけれど、熊が四はちょーっと骨が折れますわね」
「狂熊の方は一撃が重いですので、気を付けて」
「わかっていますわよ、それで、どちらから」
「狂熊からやりましょう。近いですからね」
ここに来て《クレイジーベア》と《フォレストベア》の同時出現。ここまでであれば《フォレストウルフ》の群れと熊のどちらかでしたが、二種二匹が同時に出てくるのこのダンジョンでは初。
体力が高く一撃が重いのがベア系のため、回避さえできればなんてことはないのですが。まるで門番のようにすら感じるのは錯覚でしょうかね。
ジュリアが大剣を抜き、私も弓を抜きます。リンクをするのは同種族とグループだけというのは把握しているので、種族単位で寄せて処理をしていけばいいだけなのですが……
あまり時間を掛けると今度は《タンコロリン》が奇襲を掛け、後にしたグループが寄ってくるので迅速に始末しなければいけません。
「一体ずつ、迅速に……!」
一番近くの、それでもやや距離のある《クレイジーベア》の一頭目へと狙いを定めて。《ストレートショット》を放てば的確に頭へと直撃。
二頭目も含めてこちらを察知すれば、その巨体を揺らしながら近づいてきます。頭に矢を喰らっても動き回る辺り狂暴と付いているだけはあるというか。
その横から一頭目へと向けてジュリアが飛び出していつもの《ブランジカット》。このアーツ、使うと宙で回りながら叩きつけるようにして斬り付けるので、見た目も派手に見えるんですよね。
大威力の一撃を喰らいジュリアへと気を引いたところで私は《ダブルショット》で遠距離から一頭目の体力を削り切り、それを狙っていたかのようにジュリアは二頭目へと飛び込んでいきます。
「本物だったら怖いですけれど、もっ!」
近寄った先で立ち上がった《クレイジーベア》からの右ストレート。それを回避しながらジュリアは、大剣を突き刺す様にしてから宙返りで斬り付ければ熊は大きく仰け反り。
そこに《クイックシュート》からの《ストレートショット》でトドメを刺してから、すぐに《フォレストベア》の方へと取り掛かります。
こちらは先にジュリアがアーツを使わずに飛び込み、懐に入ってから《スイングスラッシュ》で大きく横薙ぎに大剣を振り回して斬り付けてから《パワースラッシュ》で追撃。
ジュリアは極端にSTRに振っているので、これだけでもダメージが馬鹿にならないんですよね。ただでさえ威力の大きめの大剣ですから、それだけで熊の体力は一気に半分以下にまで落ち込みますから。
大きく削られつつも反撃に出る熊二頭ですが、ジュリアは悠々と回避。その隙に体力の大きく削れている方へクールタイムの明けた《ストレートショット》から《ダブルショット》で残り体力を空にして倒してやります。
「こーれーでー、とどめっ、ですわ! っと!?」
残り一匹となった熊が繰り出した強烈な左アッパーカットをジュリアは避けつつ《ブランジカット》で飛び掛かって刃を叩きつけ、そのまま熊の肩を踏み台に使って跳ね上がってジャンプ斬り。
上手くトドメを刺せたと思いきやジャンプ斬りを防ぎ体力が残った熊が暴れ始め、こちらへと向かって突進して来始めました。ちょうどいい機会ですから、試してみましょうか。
向かってきた熊に対して《バックショット》で牽制しつつ、近くの木へと向かって飛び下がり。幹を足場にして上へと飛び上がり、突如私の姿を見失って混乱する熊の直上から、三本の矢を番えて射撃。
放った矢は熊の肩へと直撃し、着地と同時に振り向きざまにさらにもう一発射掛けて体力を削り切れば大きな巨体が揺らぎ、倒れ伏していきました。
「言った事そのまま実現しましたわね……」
「壁とか足場がある時限定ですね、これ。実用するならもうちょっと連射するものが欲しいかもですが」
「要望まで出してますわねこの姉様!?」
と、ジュリアを揶揄うようにしつつ。クールタイムの明けた《クイックシュート》から《ストレートショット》で《タンコロリン》をさっくりと倒しておきます。
重量のある矢を用意でき、それを射ることできるのであればこういうことをすれば威力は更に上がるでしょうけれども……今は普通に複数本を射る事が出来れば十分な威力になりそうなんですよね。
ちょっと遠い話、スキルレベルが40になった際に習得するアーツは既に掲示板には上がっていて、曲射の要領で範囲攻撃を行う《アローレイン》なので色々挙動を確かめてから併用できるといいのですが。
解体作業を進めてからセーフティエリアの方へ。祠の近くは……
「今度は枯れた桜ですね、祭壇の板にも桜の印……」
「確か八番目は何もない水溜りと稲の花だったのでしたか」
祭壇の周辺には一つ目の祠と違って葉も桜も付いていない桜の樹が二本。そして祭壇には桜の花の紋様が刻まれた板。
周囲には桜の花びらもなく、蕾もないので枯れているかのようにすら思え、なんだか物悲しく感じてしまいます。
これは《八葉の巫女》を記しているのでしょうか。それにしては稲の花に桜と関係性が薄いようなものですが……
「それは《八葉の巫女》のそれぞれの名を示してるのにゃよ」
「っわ、いたんですか……」
「次のところに先に来ているって言ったにゃあか、もー」
声のした方向を見れば夜霧さんが猫の姿で長椅子に寝転がっていました。相変わらずマイペースですね、本当……
その後ろにはちょっとした荷物が置かれています。多分これが交換できる品なのでしょうね。
「さっきのは《再誕》の巫女《稲花》のにゃあで、ここは《復讐》の巫女《桜草》の祠にゃあよ。それがそれぞれの持つ花でもあるにゃんが」
「だから、ここの祭壇の紋様と花が……」
「他は教えてあげないにゃあけど、ま、推察してみるといいにゃ。それで、にゃにと交換するにゃあか?」
どやぁ、と袋を広げて夜霧さんが品を並べていきます。《八葉の巫女》のもっと詳しい話についてはまた今度聴くか調べるかしましょうか。
それでもちょっとしたヒント貰えました。それぞれの祠に彼女達を象徴する品が置いてある、ということですが……ちょっとその祠の様相を覚えておく必要がありそうです。
夜霧さんの品揃えの方に戻るとすると、ポーション類は十本ずつですね。ジュリアが戦闘スタイルの問題でMPポーションを使いがちなので、それは全部頂くとして……
「夜霧さん、私からは《鉄弓》を、ジュリアは《鉄大剣》の修理を頼めますか?」
「にゃ、了解にゃあね。ジュリアのは重いにゃあから、ちょっと多めに貰ってくけどいいかにゃ」
「ええ、それくらいなら全然。それとHPポーションを五つとMPポーションを全部でどれほどになりますか?」
「肉なら三十八個、魚は肉三つ換算にゃ。あるにゃーか」
言われた物々交換の対象である熊肉と狼肉を取り出します。魚はあまり取れていないので次の機会になりそうですね。
肉を渡したあとに消耗した武器をひとつずつ渡せば数を確認し、夜霧さんが荷物を纏めて立ち上がって王都への出発の準備を整え始めました。
これで次の、三番目の祠で修理を終わらせたものを手にして待ってくれているでしょう。交互に使うようになりそうですね。
「にゃ。それじゃあ一度戻るから頑張るにゃあよ」
「夜霧さんも道中気を付けてくださいね」
「にゃはは、にゃーはまだ力が使えるにゃーから大抵なんとでもなるにゃ。ああそれと……多分明日から西進が始まるのにゃ」
「となると……やっぱりというか、間に合わなさそうですね」
「まあサクがなんとかするにゃあよ、そのへんは。それじゃあにゃあは行くにゃー」
そう言い残せば、しゅたっと夜霧さんは駆け出して行ってしまいました。小さな黒い影がぴょんぴょんと河原の石の上を跳ねていくあたり、水を苦手とはしないんですね、と小声。
私達もインベントリからそれぞれまた別の装備を取り出して装備。ここから私は《格闘術》、ジュリアは《槌術》のスキルレベル上げ。
どちらも試しに触った程度なので、まだスキルレベルはお互いに4程度ですから……さて、実用的になるまでどれくらいかかるのでしょうか。
とりあえず昼食と休憩の為に一度ログアウトしましょう。
アーツはこのとおり文字通り使い方によって用途が化けます。つまり組み合わせや動作によって無限に化けるという事……
三角跳びからの直上射掛けは某狩人ゲーの弓の挙動に近いですね、あれよりも弓は小型ですが。
余談ですが、スキルレベル上昇で覚えるものを未修得の状態で再現しても威力補正は乗りません。そのへんはきっちりしてます。