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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
2-1章 いざ目指すは西方の地/Go to West!

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388/390

388.ブルーフロントラインにおける隠しキャラの実力

「……暇ですね」

「暇ですー」

「暇です……」


 翌日。モルナレク発ティレイオ島行きの航路開拓船団のうちの一隻の上に私達はいました。

 本来であれば多少なり汚染のある海上となると魔物がわんさかといるものなのですが、どうにもこの航路は出航してから小一時間ひとつも魔物と遭遇せず。

 何なら別の航路に乗ったジュリア達の方はどんちゃん騒ぎとでも言いたいくらいにひっきりなしに襲い来る魔物達を相手にしているようなのですが……


「昨日釣り竿貰っといて良かったな……」

「ええ。長い船旅にはいい暇潰しですね……おっと、掛かりました」

「ははは、アンジェくんはローランドくんに比べて釣りが上手いネ」

「私も釣り竿を持ってきておくべきでした……」

「魔物のドロップ素材を入れるために置いてきたんだっけか……なんか、俺たちだけ楽しんでて悪いな」

「いえ、こればっかりは状況ですからね」


 一隻につき2パーティが乗れるため、今日も今日とてオフィサーズの皆さんと一緒。昨日の報酬ついでに貰った高級釣り竿で海釣りに興じているようです。

 本来であればジュリア達などの別ルートの船団同様に海上の魔物に襲われるため、その素材をしっかりと収集しておこうと思ってインベントリを開けてきたのですが……今日は逆効果だったようで。

 私も祖父共々自分のダンジョンで釣りに興じる時はあるので、一応はそれなりの釣り竿を持っています。が、こうなるとは露知らずで今日は持ってきていないんですよね。


「サヨさん、折角誘ったのに暇でしょう」

「そんなことはない。こういう暇な時間もいいものだ……というより、久しぶりにゆっくりできていてちょっと楽しい」

「何時ぞやの私みたいなレベルの上がり方してましたもんねー……」


 一応なり私達の方は今日はパーティを入れ替えていてイチョウさんとチヨちゃん、それにフキノとリノ、それに……とんでもない速度でレベルを上げてきたサヨさんが乗船しています。

 レベル上げについて聞いた折に真っ先に返答したライカの要らぬ入れ知恵もあり、また本人達の資質もあり……一週間でギリギリ圏外組に手が届くレベルにまで上がってきて、ふらりとモルナレクまでやってきていたのを昨日のログアウト前に見つけました。

 もちろんというかなんというか、追いつけなかった妹分のハクさんとレトラさんは置いていかれているようで、まだ二人はティレイオ島や躑躅ヶ咲の方でレベル上げをしているそうなのですが……

 圏外組以下には獲得経験値にかなり強めの補正があるとはいえ、これだけの短期間行われた超速レベリングなんて久しぶりに見ました。

 実に一週間で40レベル近く上げ70前後まで上げていて、尚且つ80オーバーのモルナレク付近を突破してきているのですから。本人曰く、言われた通りにダンジョンを走破していたらこうなったとの言ですけども。


「確かジムを片っ端からソロで突破してきたんでしたっけ。それなら納得ですけど、レベル差……」

「まあそのへんは基礎の仕込みがお爺様とシリュウ様ですから。サヨさんほど忠実に基礎さえ出来ていれば、あとは経験値とは言っていましたし」

「最初はハクとレトラも一緒だったのだが、いつの間にかレベルが離れてしまっていてな……いつの間にかソロになってしまった」

「一緒に二人がついてきていたらもれなくジュリアが引っ張っていってましたよ」

「そんな気はする。ハクもジュリアを少し意識していたからな」


 そんなサヨさんは即席のハンモックの上でフキノと同じく尻尾をぱたぱたと振りながら海の眺めを楽しんでいました。

 数日ダンジョン詰めでしたし、そもそも万葉から出たことがなかった彼女からすれば双界の海上というのも新鮮なのでしょう。

 私達は海の上を飛び過ぎてちょっと見慣れてしまった光景ではあるんですけどね……


 にしても、一応なりとここまで魔物とまったく遭遇しないのはちょっとばかり心当たりはありました。

 そう、楽しそうに平和な航海を楽しんでいる船乗りさん達以外のNPCがひとり……というより、なんで同行してきたんでしょうねこの人。


「架純さん、ここまで魔物に遭遇しないのってもしかして何かしました……?」

「んふふぅ、気のせいですよぅ。フェルルエの近海ですしい、ちょぉーっとこの一帯の海の主とお話してきただけですしぃ」

「……してるじゃないですか」

「それだけで汚染されて狂暴になった魔物が出て来なくなる、なぁんてことはないはずなんですけどねぇ……」


 そう、フェルルエ近海を通る一番難易度の高いはずのルートということで、ちょっと荷物を取りに、と天城架純さんが乗船してきたのです。

 一応なりと彼女の肩書は《双界の海の管理者》。双界の植物を統べる翠華さんとほぼ同列の存在あるはずなので、魔物が寄ってこないというのはさもわかりやすいといいますか……

 そんなわけで海の魔物にとっては彼女はもっとも恐るべき存在ともなれば、おいそれと手出ししてこないのもわかります。わかりますが……汚染ありきとしてもここまで影響力がありますか。


「もしかして天城さんの圧……って奴とかじゃないのか?」

「それもありそうですね、以前双界の海を管理しているとか水葵ちゃんから聞きましたし……」

「一応なりと汚染で制御を外れちゃった子達がいっぱいいるんですけどねぇ。ほらぁ、前に水葵の眷属にも襲われたでしょおぅ?」

「え、あれ眷属だったんですか」

「クレハさんなんだ、その、水葵さんの眷属ってのは……?」


 釣果の無さをジェイムズさんに突っつかれ、気分転換に別のオフィサーズの一人に釣り竿を渡したローランドさんもこっちに来ました。

 なんというか、ちょっと懐かしい話なのであれこれそれそれとローランドさんにも説明。ハロウィンイベントの時に水葵さんのいたダンジョンに出てきた魔物二種のことですね。

 深き半魚人(ダゴン)と深き多頭蛇(ヒュドラ)、どうあがいても水葵(クトゥルフ)さんの眷属じゃないのかと思っていましたけど、本当にそうだったんですね……

 それを聞いた軽くローランドさんが引いていますけど……いいですか、目の前にいる人はその母たる《シュブニグラス》ですからね?


「あー、でもぉ、そう考えるならちょっと魔物が寄ってこない理由もちょっとわかるかも知れませんー」

「というと?」

「《従魔(テイマー)》の技法が完成して以降、有力な魔物か命知らずな魔物以外は寄って来なくなったんですよねぇ」

「……なあ、魔物にまで本能的に恐れられるってよっぽどじゃないか?」

「それはそれでちょぉっと悲しいのですけどねぇ、ローランドさんが言う通りに怖がられるよりふれんどりぃにしたいんですけどもぉ」

「は、はあ……」


 架純さんがしくしくと泣き真似をしつつ、袖から伸ばした触手をうにょうにょ。実体を知っている以上は当然……とも言いたいですけど、ここはお口チャック。

 そうでなくても彼女の出展たる《ブルーフロントライン》においては、あまりにも強大な力を手に入れてしまったために隠居した最強の大魔女でしたからね。ある意味何者にも恐れられる最強の魔女の通りではあります。

 孤独にひっそりと暮らしていた彼女にリュナー達という訪問者が訪れ、交流のうちに仲良くなり、船に乗って孤独から脱するというのも見所のある物語でしたが……

 既プレイからするとその感動よりも、彼女から課される極悪難易度と言っていい素材集めがやっと終わったという達成感でストーリーがすっぽ抜ける人も多々。

 むしろ彼女を仲間にするための難易度は《ドラグメントエイジ》の表ルート最高難易度(Extreme)クリアと同レベルなのではというほど。

 ストーリーを見るだけ、仲間にするだけであればハード以上で出現するそのクエストのクリアだけで済みますが、真の彼女の姿である大魔女モードを仲間にできる準最高難易度(レッドライン)真エンドルートのクリア達成は、それこそ再戦ノアへの到達を成し遂げたのと同じ人数ぐらいではないでしょうか。


「そうだ。折角ですしい、皆さんも《従魔》を学んでみませんかぁ?」

「ジュリアさんやサハラさんが使ってるの見てー、ちょっと面白そうだと思ってたんですよねー……いいんですー?」

「いいんですよぉ。折角研究したので、皆さんにもっと使ってもらいたくてぇ」

「俺もちょっと興味があったんだよな。おーいアンジェ、ジェバン、お前らも興味あったろ!」


 なんだか面白そうな事に巻き込まれたようです。興味を持っていたチヨちゃんとリノ、ローランドさんに呼ばれたアンジェさんとジェバンさんもやってきました。

 どうせこの船旅、魔物に遭遇するまでやる事がありませんからね。何か役に立つかもしれませんし、折角ですから習得させてもらうとしましょう。


「《従魔》はぁ、倒した魔物を屈服させることで従ってくれるようになるんですよぉ。ただ練度(レベル)差が大きいと、あんまり従ってくれませんねぇ」

「ああ、それでジュリアが自分のダンジョンでレベルの近いスライムとずっと格闘していたんですね……」

「相手がクレイジーとか、汚染もしくは呪化状態だとどうなるんですか?」

「汚染状態だと何一つ従ってくれないのでぇ、諦めた方がいいですねえ。ちゃんと意思のある魔物であれば、条件から外れない限りはおおよそ従ってくれるようになるはずですよぉ」

「あっ、それなら私はスズメちゃん達を仲間にしたいですっ!」

「私は何にしましょー……狐ちゃん達とかですかねー……」

「あとはー、手持ちにいさせることが出来る魔物は五匹までですねえ。いっぱいになったら、自分で管理できる場所に放してあげるといいですよお」

「自分で管理できる場所、というと」

「自分のダンジョンやギルドハウスなど、ということですね。そうなるとやはり拡張工事は免れませんか」


 習得と同時にあれこれと説明が出てきましたが、手持ちが五匹までというのは自分を含めたパーティメンバーの数分、ということでしょう。おそらくこの最大数は自立召喚系と同じ枠組みでしょうね。

 サハラさんがフルパーティの時は一匹だけしか出していなかったのはそういうことなのでしょう。上手く使えば不利な属性相手でも有利に進めることが出来るでしょうし、かなり戦略の幅が広がりそう。

 手持ち所持数の制限については私達はダンジョンを持っているからいいとして、サハラさんやまだダンジョンを持っていない人達のために一刻も早く臨時でなり従魔たちを預けられる場所を作っておくべきでしょうか。

 一番いいのは自分のダンジョンを持ってもらうことですが……まだまだダンジョン持ちというのは全体の比率から考えると少ないですからね。機会があればいいのですが。


「クレハちゃんは何を従えるのか楽しみですねぇ」

「何を従えようか、まだ考え中ですけども……」


 では私は何を従魔にしようか、と考えてみますが……そうですね、弱点の風属性を倒せる火属性の何かしらがいいと思いはするのですが。

 かつ私の戦闘に付いてこられる、とすると鈍重なゴーレム系は駄目ですし、ワイバーンかファイアーバードがいい気がしますね。今度ジュリアのダンジョンに行く機会があればやってみますか。

 ……なんて考えてたんですけど、イチョウさんとチヨちゃんがじとりとした目でこっちを見つめてきます。


「……あの、何か?」

「クレハさんー、間違ってもあの例の肉塊を従魔にしようなんて考えないでくださいねー?」

「あんなの従魔にしたら味方の方に大被害が起きますからね! お願いしますね!」

「しませんよ! したら霊華ちゃんが喜ぶとは思いますが……」

「んふふぅ、あの子のことですねぇ。私は好きですけどもー……あの子そのままはオススメできないですねぇ……」


 二人が泣いて懇願しているのは霊華さんが従えているアンデットのうち、多くの人にトラウマを植え付けた《蠢く肉塊》のことですね。

 配信外であったことなので、コメント欄は何のことか状態ですが……あっ、事情を知っているトトラちゃんが経緯を説明し始めました。

 一瞬でリスナーの皆さんからも〈絶対にそれだけはやめてくれ〉という懇願や〈霊華ちゃんに好かれている理由これもか……〉とか納得の声で埋め尽くされてしまいました。

 流石にしないと言った矢先に従魔のリストを確認してみると、まだ実際に従魔を行使した覚えがないのにもう名前がひとつ、しっかり記載されていて……ちょっとこの子は霊華さんには悪いですが、あまり表には出せなさそうなんですけど。


「……なんだそれは、強いのか?」

「強いというか、外見がえげつないというか。サヨさんは怖いのとかグロいのは平気ですか?」

「? ああ、平気だぞ。どんなやつなんだ?」

「えーっと……こんな魔物でして……」

「……なるほど。みんなはこれが苦手なのか」

「なんでサヨさん平気なんですか……」


 寄ってきたサヨさんが興味津々という顔で見つめて来たので、ちょっと見せて見ますが……おや、かなり耐性があるようで、見せたとて引くことも顔色を変えることもなくきょとんとした顔をしています。

 大半の人は見せた途端に逃げるか真っ青になるのですが、これは肝が据わっているというか、本当にこの子思った以上に天然なのか……

 あ、霊華さんがコメントを見ていて〈クレハさんのあのコ、ミンナにミせてもコワくないようにしておいた!〉との言。あとで確認はしておきますが、ついでに彼女をサヨさんを紹介してみましょう。

 ホラー耐性が凄まじそうですし、遊び相手がもうひとり増えるのであれば彼女も嬉しいと思いますし。


「皆さんがしっかりと活用してくれることをお願いしますねぇー……んぅぅ」

「……どうかしました?」

「魔物さん、来たみたいですねぇー……もうちょっとお話したいんですけどもぉ、ちょぉっと邪魔ですねえ」

「あの、何を……?」


 急に架純さんが海の方を見つめ、珍しくむすっとした顔を浮かべています。確かに《感知》には魔物が引っ掛かっていて、しれっと皆さん戦闘準備をしていたのですが。

 サヨさんなんて強そうな相手ということでウキウキとしていますし、長い退屈な船旅でようやくといった顔で武器を握っているのも私も含めてちらほら。

 なんて思っていたら、急に架純さんが海へと向けて飛び込んでいき―――皆さんが驚くのも束の間、急にふっと感知していた魔物の気配が消え去りました。

 私含めてみんなが唖然とした顔を浮かべる中、ひょっこりとまた架純さんが海面から顔を出して、すぐにまた船上に戻ってきて……

 それと同時に波をかき分けて見ての通りにわかる強力な巨大な鯨のような魔物がぷかりと海面に浮き上がってきたんですけど……


「ふうっ、これでよしですぅ」

「……本当に何を?」

「いえいえ、お話の邪魔者さんとちょおっと"おはなし"してきただけですよぉ」

「オハナシですか……」


 ちょっと清々とした顔を浮かべている架純さんを見るに、やっぱり《人理超越者》の強さは伊達ではないということでしょう。

 同時にこの船に乗った面々は、今回の護衛中は一切魔物と戦うことはないだろう、とも悟ったのでした。

触手女王の従魔にされるのは魔物も勘弁願いたい様子。

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相方、杜若スイセン氏によるDualChronicleOnlineのルヴィア側のストーリーです。よろしければこちらもどうぞ。
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