38.始まる準備と配信の影響
前回(36話)との間に「魔剣精霊」側の
(プレイヤースキルが)ばけものフレンズ
もしかしてこれ女王様の成長を見守るゲームだったのでは
これでも突出していないこのゲームのトップ層が魔境すぎる
人をダメにする幼馴染軍団
コメント欄のツッコミから目を逸らし始めた怪物たち
の5話がコラボ回として挟まっています。よろしければあちらに目を通してからご覧くださいませ。
ルヴィアの配信への出演を終えた翌日のこと。火曜日ですね。
攻略に参加した《洞窟に光る癒しの聖石》での洞窟で採れた癒しの水を手に、ジュリアと共に《サク》さんのところへと訪れました。
訪れようとしたのですが……サクさんが何時もいる樹の近くに、初めて見るNPCが二人ほど遠目から見えています。どちらもなんというか、なんとなしに威圧感があるような気がします。
片や軽装の鎧を纏い、赤銅色の髪を後ろで束ねた狐族の青年。片や、日本甲冑鎧を着こなす黒髪ポニーテールの鬼族の女性。
降りて来ているサクさんと親しげに話していますが……ひょっとしてあれが、サクさんのお兄さん、なのでしょうか?
とりあえず待っていても仕方ないので声を掛けに行く事にしますが……私達に気づいたのか、その二人はさり気なく話しかけやすいように動きました。
「あの、サクさん?」
「む、なんじゃ? ……おお、クレハではないか。ここに来たということは、例の物を持って来てくれたのかの?」
「はい、こちらでよろしかったでしょうか」
「うむうむ。これで全てが揃ったのう。あとは……」
「拙が誘導した奴の処に行って貰うだけでござるな」
横から言葉を挟んできたござるの方は、先程サクさんと話していた鬼娘さんの方。顔を少しばかりじっくりと見て気付いたのですが……ああ、もしかして。
そう直感付く前に、本人から口を開いてくれました。
「ああうむ。自己紹介が遅れた。拙は《遮那姫》と言うしがない風来坊でござるよ」
「酒を求めて東西構わずふらついておる《九集》を根城とする鬼侍のサナじゃよ。そっちは《来訪者》のクレハとジュリアじゃよ」
「おお、先に話に聞いていた《来訪者》の侍でござるな。よろしく頼むでござるよー」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします……して、誘導したとは……?」
額に二本の角を持つ《遮那姫》さん。どことなしにサクさんや《紗那》さんと似た雰囲気があったのでまさかと思えば、彼女もサナでした。しかも遠く離れた《九集》の。
腰には大太刀と脇差が一本。格好としてはちょっと前、ガインさん達クラフター組合に装備を貰う前の私に似ています。もっとも、一部は朱染の鎧に身を包んでいますが。
それはさておいて、遮那姫さんが誘導したモノとは一体何なのでしょうか?
「ああ、それであるか。サクに頼まれて良質のミミズを餌にして《屍國》から奴をな」
「うむ、全てにおいて準備は整っておる。あとはお主たちに……うむ、こう名付けよう、《龍の試練》を受けて貰うだけじゃ」
○龍の試練
区分:ダイレクトクエスト
種別:イベント
・サクからの最後の頼み事。大百足からその体液を貰って来よう
報酬:??????
龍の試練、とうとうここまで来たかと一息。ジュリアと目を合わせればお互い頷きます。
クエストを受ける選択をすれば、サクさんはにっこりと笑顔で頷きました。
「うむ、そうでないとな。では、王都を出てから南西に、獣道を抜けた先に神社がある。そこに来て欲しいのじゃ」
「む、誘き出しておいた場所とは違うのではござらんか? あれは―――」
「あの社からであれば一時的に余の力を使えるのじゃ。それで飛ばすつもりなのじゃ」
「飛ばす……ですか」
「あやつ、あんまり近いとこっちに遊びに来かねんからな。その都合……主らには一対一で戦って貰う事になる。よいな?」
「わかりました」
「覚悟は出来ていますことよ」
「良い返事であるな」
にこりと笑みを浮かべるサクさん。それから、狐人の男性の方に向き直ります。
近くで見ると結構背が高く如何にも若い歴戦の戦士と言った風貌なイケメン騎士です。それ以上に目を引くのが、髪色と同じ九つの尾ですが。
サクさんを含め私達の視線に気づくとにいっと笑って軽く手を振って近づいてきました。
「ああうむ。こちらも紹介しておこう。前々から言ってた余の兄……《悠二》じゃよ」
「龍北の治安維持をやってる、まあ九尾に見えるが実は《竜種》だ。よろしく頼むよ。で、サク、オレは何すればいいんだ?」
「代理としての門の守護を頼みたいのじゃ。いいかの?」
「了解。ま、紗那に頼まれた事までは時間あるしな」
噂のお兄さんでした! しかも《竜種》と来ましたか……あ、確かに額の方を見ると角らしきものがちらっと見えます。
こんなイケメンお兄さんがいれば確かに来るとなるともじもじとしたりするのもわかります……いえ普通に見ているだけで睦まじいですし……
以前、サクさんが自分の事を朔月の、と言っていたのでフルネームだと《朔月悠二》になるのでしょう。おそらくなのですが。
「紗那さんに頼まれた事って?」
「ああ、お前達《来訪者》の中でもまだあんま戦いに慣れてねえのがいるだろ? そいつらに遮那姫と一緒に稽古を付けてやれってな」
「兄様相変わらず紗那には甘いのう」
「いーや、これどっちかってと《綾鳴》さんからの頼みだよ。この時期になったら紗那からの話を聞いてやれってな」
「全く何処まで見通しておるのかわからんな……むむ」
紗那さんとも伝手を持ってるってなると、ほんとこの人一体……。ただ親しいだけなのでしょうか。
それとも単純に《綾鳴》さんの伝手が広い……? うーん、どちらなのでしょう……。
「では、準備が整い次第向かって欲しいのじゃ。お主らが神社に近づいたのを確認してから向かうからの」
「そうですわね、昨日まで攻略していたからポーション類が少しだけ減ってますものね」
「ええ。おそらく今日中には出発することになると思います。到着したらよろしくお願いしますね」
「わかった、ではまた、現地での」
サクさんに笑顔で見送られながら広場を離れます。門の番が交代するのは……一時的なので問題はないでしょう。
そうとなれば早々に準備を整えて出立しましょうか。では、クラフター広場に向けて移動しましょう。
ちら、と後ろを振り返ればサクさんが悠二さんの腕に抱き着いて頬ずりしています……かわいい……尊い……
――◇――◇――◇――◇――◇――
「おー、クレハとジュリアか、どんだけ知名度あるんだおまえら」
「大繁盛だったみたいですね……」
クラフター広場に着くと人は疎らですがガインさん達がぐったりしていました。
配信が始まり、私達が動けば動くほどに人が押し掛け始めたそう。装備の細かなところに皆さんのサインがあったり、話がてらルヴィアが話題にしたりしたからですね。
そうでなくても、ここまで凝ったプレイヤーメイドの装備一式となれば噂になるのも当然。それで昨日の夜まで人々が殺到していたそうです。
おかげでクラフター組合の皆さんはコシネさん以外はしばらく予約一杯の多忙状態。そのコシネさんも材料が一度尽きるほどに料理品が売れたとか。
「一応、作るって言ってたモンは完成してるが。何か新しくってなるとこりゃあ正式版以降ってなるぞ」
「大丈夫です、その受け取りだけですから。ルヴィアはまだこちらに来てないんですね」
「配信外だとちょくちょくと見に来てるがな。予約を処理しているうちに新しい技術も発見したが……まあこいつを二人のに組み込むのは次以降だな」
「えぇ。今の性能や動きやすさから考えればこれで十分ですので」
今現在の出来に関してはこれ以上はないですし、実働に関しても以前よりも動ける事はしっかりと確認済み。
もう少し慣らせば、現実よりも高い反応速度で対応もできるでしょうね。それくらい性能が良いのです。
きっと組合の皆さんは準《唯装》を目指して作っていたのでしょうから、その目的は大方達成されていると思ってもいいでしょう。
「頼まれてたものは《鉄弓》、《鉄拳》と《鉄靴》。こいつがクレハ用だな」
「はい、ありがとうございます……えぇ、やっぱりこちらで作って頂いたものが手に馴染みますね」
「そう言ってくれると嬉しいぜ。まあそいつ、早速新技術を使ってるから幾分か取り回しはしやすい筈だ」
「ああ確かに……臨時で使っていた店売りのものに比べて軽いですね」
「クレハの手癖と足癖の悪さからして威力より軽さに比重を置いた方がいいと思ってな」
「手癖が悪いだなんてそんな」
「結構刀使う合間にモンスター蹴とばしたりとか殴ったりとかしてるだろ。見てるぞ」
そんな細かい癖まで見られてましたか。むしろ、それを知ってるという事は一体どういう伝手から……
頂いた《拳術》用の装備、《鉄拳》と《鉄靴》は今の装備にも噛み合うようなデザインになっているので気兼ねなく使えるでしょう。
《鉄弓》はこちらも軽く丈夫になるように作ってあり、芯材に使われているのはなんと《桜怪道》のボス素材なのだとか。余りものを使ってのものだそうですが。
ちなみに矢筒もセットです。仕様上、勝手に補充されるので矢を作るという事は出来ないようですが、そのうち作ったりも出来るようになりそうですね。
「んで、ジュリア用が……《鉄大剣》と《鉄槌》か。大柄なモンを選ぶモンだな」
「長物は結構好きですのよ。双剣があれば良かったのですけれど、短剣二本では少し短く感じるものでして」
「ちょっと長い……ショートと通常サイズの中間くれえの長さか、確かにそいつは同時装備まだできねえんだったか」
「アマジナさんが使っていたのを見ましたが、あれだと得意な間合いには僅かに足りないんですのよ」
「一撃必殺タイプかと思ってたが、そうじゃないんだな」
「どちらかと言うと、隙なく攻めるか、隙があっても威力で補うタイプですわよ。ねえお姉様?」
「猪突猛進だけれど手数と威力で攻める、ですからね……」
「若干否定し切れないのが辛いですわねえ」
「それならそれに合わせるように次から作ってやるさ。正式版でな」
「遠い話ですわねー」
ジュリアは長物、一撃好きとは言いましたが。本当の真骨頂は相手に守らせないこと、ですからね。
守りをそれ以上の破壊力で砕くか、或いは守りの上から削り取っていくか。彼女の精神的なスタミナから繰り出されるその二つの手段は苛烈極まりないですから。
現に今やっている《槍術》と《火魔術》の組み合わせたスタイルは、槍術の破壊力を軸に細かい隙や不得手な間合いを《火魔術》で潰すことで成り立っています。
私のように攻守のバランスを見極めと振り分けて、攻めれる時に攻め、守る時は守ると切り替えれるほど器用ではないのです。息切れまで持ち込めればどうとでもなってしまうので。
もっとも、大半の相手は息切れまで持つ方が少ないのですが。私相手だとそれを狙うのが判っているので、一攻めで一気に出し切るとかはしてきませんからね。
「そういや、お前らは別のダンジョンの攻略に行くのか? それとも他の連中と同じで《唯装》探しか?」
「うーん、報酬不明のクエストを先程受けたのでダンジョンの攻略に行く事は間違ってはいないですね」
「報酬不明か……それなら、まあ《唯装》だろうよ。頑張ってくれ、ソイツに応じたモノを作るのもまた楽しみだ」
「ありがとうございます。ではもうひとつ……おそらく明日、ルヴィアがこちらの紹介に来るのではありませんかね」
「……明日もまた忙しくなりそうだな、こりゃあ」
ルヴィアの件に関してはまあその。そろそろ配信上でここを紹介したいと言っていたから、ですね。
私達だけを看板とするより、複数の看板を用意すればそれだけ客引きできますし、ガインさん達もWinWinである……とは思いたいところ。
何せ現時点、私達だけで大繁盛ですからね。ここに更に注目が集まる訳ですから更にということもなおら珍しくありません。頑張ってください、クラフター市場、もとい露店広場の皆さん……
出立の準備を終えて、手土産にコシネさんから《トビトビウオの塩焼き》を幾らか貰ってクラフター広場を離れます。美味。
「……おや」
「先程の二人ですわねえ」
十番街から離れ、九番街の《転移門》広場前を過ぎ、王都の門前に差し掛かろうというところで先程の悠二さんと遮那姫さんの姿を目にしました。
何か話し込んでいる様子ですが、一体どうしたのでしょうか。二人の方へと歩み寄って行ってみましょうか。
「お、ちょうどいいところに来た」
「どうかしたのですか?」
「いやなに、《来訪者》達を鍛え上げてくれと頼まれたのはいいのだが、どれだけの力加減でやればいいのか悩んでいたのでござるよ」
「中途半端に手を抜くとタメになんねえし、だからと言って本気で掛かったら多分秒も持たねえだろうしな……」
「あー……なんとなしにわからなくもないですが……」
確かに、お二人の実力は遥かに上でしょう。それが例え魔力汚染で多少なりと弱っているとしても。
その状態ですら私達を圧倒できるのであれば、紗那さんに頼まれた稽古もどこまで加減してもいいものか困ると。
加減し過ぎて舐めてると思われるのもそれはそれで彼らにとっては癪ですし、挑む側も手応えを感じにくい。
だからと言って稽古と言えど全力で出せば、変に強すぎるイメージを与え逆に稽古に挑む人がいなくなってしまう。確かに難しいところですね……
「で、だ。出立前でこれからアイツに挑むってのはわかってるんだが……ちょっと手合わせしてくんねえか?」
「……え?」
○稽古のお手本
区分:ダイレクトクエスト
種別:イベント
・悠二と遮那姫がどれくらいの力量で稽古をしたらいいか迷っている。出来る限り《来訪者》の力を見せつけつつ応戦しよう。
報酬:耐久した時間比によって二人からの好感度増加
稽古による経験値量増加
設定まとめ回の次に新キャラを三人も付ける奴です、おばんです。
どちらも実際の強さはプレイヤー達よりも遥か上です。ですが、だからと言って魔力汚染の影響によって全力で出しきれる状況ではなかったりしますし、下手をすると自分が呪われてしまいます。
ついで、発生したモンスター達にはNPCこと幻想界住民達からの攻撃に大幅なダメージカットが入っているので、相当な難敵とも化しています。厄介ですね。
一言で示せば、幻想界住民には大幅な与ダメージ低下デバフ付いて、モンスター達は幻想界住民による攻撃を大幅にダメージカット、および攻撃されると呪い付与のバフが付いている状況です。
一部そのバフを貫通して攻撃できる例外もいるのですが、それはまた別の機会に。
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