360.暗き海を照らすために
というわけでバージョン2が始まりました。
今後とも応援よろしくお願いします。
1月11日。いよいよバージョン2の開幕日であり、ドラゴンズエアリーの活動再開の日でもあり。
土曜日というだけあって、オープンの日を待ちわびた人たちが次々とログインをしてきます。
家の中だけでも私を含めて五人がログインを試みていますし、先ほどの昼食時には和気藹々とどこで集合するかなどを話し合っていたくらいでした。
私達はその前にやらなければいけないこともありますし、そうでなくても開始から一週間ほどはやることが山積みにです。
「とりあえず、一番乗りと」
ログイン成功すれば、そこは三週間前にログアウトしたギルドハウスですね。
既に見下ろせる城下には古参新参入り混じったプレイヤー達が次々とログインしているのが見えます。
何なら、ギルドメンバーリストも次々と点灯しギルドハウスに集まってきている模様。確か祖父祖母は母と合流してくるとのことでしたし、ジュリアは今ジェミナイアの皆さんを迎えに行っています。
フキノも祖父を連れてくると言っていましたし、顔合わせにしてはかなりの大規模になりそうですね。
「お、クレハなのだ! こっちで会うのは久しぶりなのだ!」
「お久しぶりですー!」
「久しぶり、というには結構直近過ぎる気はするんですけど」
「そうですよ、ついこないだルヴィアさん主催でオフ会しました!」
「あれとっても賑やかでした! 楽しかったです!」
階下に降りればログインの早かったトトラちゃんにイチョウさん、チヨちゃんにキユリちゃんがやってきました。
他にもカエデちゃんやルナちゃん、ホカゲさんにサスタさんアマジナさん。NYXの皆さんにカルン組も来ましたね。
「うおおおーっす! あれ、ジュリアは?」
「新入りの皆さんを迎えに行きましたよ。もう少ししたら来ます」
「お、そうだったでござるな。《@ぷろじぇくと》所属のメンバーが入るのでござった」
「たぶん、スウェルさんとは、仲良くやれそうな気がする」
「同じ猫仲間じゃからのう! そういう余もウルド殿とは仲良く出来そうじゃ」
元気に上階から降ってきたのはいつもどおりのライカ。今日も元気いっぱいですね。
ジュリアはログイン早々からいつもの飛行機と見紛うかのような速度で飛んで初心者広場へ。あちらの配信画面を見るに、始めたばかりの初心者達からいきなり有名人登場と大騒ぎになっています。
こちらももう少ししたら配信を開始しないといけませんが……指定席に座ったら、始めてしまいますか。
ちなみにユエさんとフィニアさんを始めとした現実渡航組はまず真っ先にダンジョンに戻って整備を始めました。まあしばらく開けていましたし、何か仕様変更があったら知らせてくれるでしょう。
ギルドチャットを見れば、加入申請が早速8件……早いですね。ヒイロさん、スウェルさん、ウルドさん、サハラさん、ロンさんのジェミナイア組にリーリアナ(母)と、へえ……?
それとフキノのお爺ちゃんからも届いていますね。こちらは元々活動していたのは聞いてましたから、改めてでしょうね。
「続々と集まっていますが、公式配信者としてはやることをやらないとなのでそろそろ配信付けますよ」
「クレハさん最初はこういうの避けてたのに、変わりましたねー」
「……まあ、遠からず予感はしていました。そうなった、となるなら役目は果たすだけです」
「やることはともかくスタンスはいつものクレハさんなのです」
エントランス広間にあるテーブルの一角、龍側の上座に座って一息つき。ギルドチャットにも配信を開始する旨を書き込んでおきます。
短い時間の間に少数精鋭のギルドメンバー達は全員ログイン状態になったようで、ずらりと皆が着席または自由な画角に立っています。
何ならNYXメンバーなんて三週間の間に書き上げた新曲、《焔華恋情》を演奏し始めてます。まあ中華風に振り切った雰囲気には合うので置いておきますが、ここを新曲発表の場にしてますねこれ。
歌っているのアリカさんで、ハキリさんと交互に歌う二人歌唱の楽曲のようで。恋情とついているだけに、男女でパート分けしているようです。
オフ会で聞いた話では、この曲を作るにあたってのインスパイア元がなんと火扇さんと火撫さん、それに二人の居城である《北落師門の都》なんだそうな。
「こんにちは、クレハです。バージョン2が始まりましたので、エアリーの皆さんと方針会議を兼ねた状況整理を」
「やることがたくさんなのだ!」
「じゃんじゃんばりばり、あちこちで動いて行くよ」
「BGMはNYXの皆さんが自由気ままに演奏してるのです!」
公式配信になって以降は視聴者がうなぎ登りで、最初期の小規模配信だった頃が懐かしいほど。
特に最近は@ぷろじぇくとからも流れてくるのもあり、ますます増加の一途ですからね。それに、プレイスタイルも有無を言わせないので、荒れていることもありません。
「さて、エアリーの方針を発表する前に……先に新顔を紹介しましょうか。ある意味見知った顔も多いので、たぶん知らない方から」
「ぴゃーい! 到着よぉー!」
「こらこら、そんなはしゃぎ過ぎないで」
と、カメラを扉の方へと向けた途端に勢いよく開け放たれました。ものすっごい笑顔で突入してきた男女一組。
片方は母ことリーリアナ。もう一人は……痩せこけた頬にオールバックにしていますが、とても見覚えのある顔をした初心者の格好。
なんですけど、DCO内でのイベントに出ていた人たちからすればどことなくちょっと見覚えのある顔でした。
「やっぱり巻き込まれたんですね……」
「いやこれ仕事の一環。トップ勢が結構やらかすから、知っているトップ勢とゲーム内でも連絡取れるようにしておけ、ってね」
「は、はぁ……まあ、コメント欄だと集中しすぎて抑止にならない可能性もありますし。モニターも限界があるからですか」
「そういうこと。たぶんフリューちゃんのところにも行っているはずだよ」
「……のう、クレハ殿。もしかしてあの二人……」
「はい、そのまさかです。両方身内ですし、片方は九津堂の社員……ほぼゲームマスターですね」
コメント欄も私達も皆一様にびっくり。まあ一番技術的にやらかす可能性が高いのが私達ではありますからね。
その前例が今この場にいますし、その結果として一部弱体化が入ってしまったらしいですから。
「こちらはリーリアナさんで、裁縫系に行くと言っていました」
「ふふー、まっさか一緒にまた遊べるとはねぇー! みなさんもよろしくねぇー!」
「ものすごい破天荒そうなのだ。よろしくなのだ」
「で、こちらの監査官さんがリブラスさん……まあ、飛び入りですけれど」
「とはいえ。取り締まるのは双界側にお任せしているから、罰するために来たとかそういうことではないよ、よろしくね」
「してその正体は?」
「クレハちゃんとジュリアちゃんの母ー!」
「……知ってると思うけど、父だよ」
母が破天荒なのは、ゲーム内だとほぼストレス発散に近いムーブをするからですね。意外と普段のデザイナー業ってストレスが溜まるそうで。
一応来る前に広場に寄ろうとしたそうですが、人でごった返していて諦めたそうです。それはそうですよね。
父の方は完全に仕事モードに近いですが、たぶんこれ、主任さんにだいぶ無茶言われたんでしょうね……にしては、大分外見は凝っているようですけど。
理由もまあだいたいわかりますし、一応とはいえ釘を刺しておく役目もあるんでしょう。父と希美浜父はGMとして出演したこともあって顔が割れていますけれど、こっそり潜りこんだ社員も他に数人はいそう。
二人をここに連れてきた祖父祖母も着席して一息。だいぶ微笑ましく見ていたようです。
「で、お次が……」
「お待たせしました、旦那様!」
「孫娘が世話になっているよ。相変わらず旦那様呼びされているのだね、クレハ君」
「ええ、はあ、たいへん手を焼いておりますが」
「はっはっは。元気な方が見ていて嬉しいからね」
次に入ってきたのはフキノ達で、その後ろには初心者ではなくそれなりに装備が整っている御仁。
相変わらず多少なりと威圧感がありますし、入ってきた途端に祖父と一瞬剣呑な雰囲気になりましたが……いやはや、その辺も相変わらず。
「私がご紹介しましょう。私の祖父のクモナギです」
「シリュウめと孫娘に勧められて始めたのだが、なかなか面白くてね。色々と動いていたけれど、挨拶には行っておこうと思ってな」
「……あ、そうそう。祖父も強いですが、この人も同じぐらい強いです。というか往年のライバルだそうで」
「腕に自信があれば挑みに来るといい。まあ、私の勝ちだろうがね」
「すっげぇ自信だ……」
「でもちょっと戦ってはみたいと思うのです……」
実はバージョン1の終盤辺りから始めたと聞いていた、フキノの祖父ことクモナギさん。普段は万葉の方でセカンドライフ勢に色々と指揮を取っているのだそうな。
そんな彼に付いた渾名が村長。まあ実際、今は息子に席を譲った元市長さんなので間違いはないのですが。
武術の腕は祖父シリュウにも負けず劣らず。拳で獣を薙ぎ倒していた祖父に対し、クモナギさんは刃物で軽々と仕留めていたのだそう。
こないだ話にも上がりましたが、特に双剣が得意だそうで。それも孫娘であるフキノにしっかりと伝授されている様子。
もっとも、フキノが教わり始めたのはあの事件が起きて以降なのですが……
「シリュウよ、ここもまたいい邸宅ではないか。普段はこっちにいれば良かろうに」
「あっちの方が過ごしやすいでな、それにメインは農業だしのう」
「まあ……ふむ、それはそうか。して、後で寝覚めに一戦頼もうかのう」
「よかろう、どうせ儂の勝ちじゃ」
「言ったな。あとでベソかいても知らんぞ」
「……だそうなので、後で興味のある方は万葉に行くといいでしょう。すごいものが見られるかと」
ことあるごとに勝負していたらしいですからね、お二人とも。その分気は合うようでかなり仲が良いんですが。
あとはまあ、フキノの今に続く誤解の発端ではあるんですけれど、それはまた別の話。今やすっかりフキノは従順になりましたからね。
一時期の過激なアプローチの裏にはこの人の"やってみろ"があったというのはつい最近聞いた話ですけど……過ぎた話ですから、もう気にしないことにしました。
「で、最後が公式チャンネルで告知していましたけれど」
「お待たせしましたわ、お姉様」
「来たのだ! 今日の本題なのだ!」
ジュリアを先頭に入ってきた五人の姿。《オペレーション・ジェミナイア》の五人ですね。
五人それぞれが邸内の様子に眼を丸めていますが、今は先にすることがあるとしゃきっと。
「本日よりお世話になります! @ぷろじぇくと所属、オペレーション・ジェミナイアの空翔ヒイロです!」
「篠神スウェルにゃ」
「散蒔ウルドやで、よろしゅうな!」
「砂撒サハラでしてよ。よろしくお願いします」
「ロン・シーチュンよ。よろしくね」
「そしてこの度リーダーになったジュリアよ。バージョン2もよろしくお願いいたしますわ」
ちゃんと全員集合できたようですね。コメント欄も沸き立っていますが……しれっと同じ所属のミスティアとも初コラボですね。
察したかのようにヒルデ組三人が前に出て、ミスティアが五人の前に立って……
「ようこそ、幻双界へ。先輩として歓迎します」
「……! はい、ミスティア先輩、よろしくお願いします!」
ミスティアが差し出した手をヒイロさんが握って握手。うん、いい構図でもあります。
これでエアリーのメンバーは39名。一般のMMOでは中規模とされる人数ですが、とにかくプレイヤーの数が多いDCOにおいてはこれでも小規模。
未だ少数精鋭の面目は保っているということでもありますが、そろそろ管理が追い付かなくなりそうな……
ですが、予想されているバージョン2の展開を考えるとあまり四の五の言ってられないんですよね。あと三人は人数にもキリが良いので欲しいかも。
さておき、歓談もそこそこにやることをやってしまいましょう。
バージョン2のアップデートに伴う変更は各々確認してもらうとして、一番は攻略の舞台ですね。
「それでは全員揃ったところで、エアリーの方針を」
「まずは次の戦地。昼界が東海道……忠武地方で、夜界は西側のアスガルドですわね」
「戦国時代とブルーフロントライン、その二つがモチーフになりますー」
昼界は東海道を進み中部地方こと忠武地方ですね。PVを見たところ、戦国時代をモチーフとしたものとなりそうです。
おそらく戦乱において再現されたものが続くのだと思いますが、私はルヴィアほど詳しくはありませんのであちらに一任しましょうか。
というわけで私達が主に進めることになるのは夜界のアスガルド側。もっとも、本日加入の初心者達のレベリングのお手伝い達も付けないとですが。
「私達は事前に相談していたとおり、今回は夜界側をメインで進めます」
「今回は私も一緒になりますわよ。一緒に動くとダンジョンブレイカーになるので、お姉様とは別編成になりますが」
「うん、それでお願いするよ。なるべくクリエイターチームに対してお手柔らかにしてあげてほしい」
「あれで攻略するのなんて、エンドコンテンツ級のダンジョンくらいにしましょう。楽しくはあっても難易度による面白味がないですからね」
これに関してはバージョン1の終盤で悟っていたことで、その折その折でパーティを変えるルヴィアに比べてエアリー最精鋭の六人を揃えてしまうとあらゆるダンジョンが簡単なりますので。
特にそうなってしまった規格外は申し訳なさそうな顔をしつつリブラスさんの方を見ていますし、ある意味用意されてたと言え私達二人がその最たる例ですし。
このバージョン内でも結構な数のトップ勢が増えそうですし、新入り組や既存組もより頑張って規格外の領域を引き下げて欲しいところ。
そうでなくても、ドラゴニュートに進化するためにこないだ進化したい人達で集まって色々とあれこれ議論していました。ユエさんも乗り気ですから、それなり戦力強化も進みそう。
「一応方針上はそうなだけで、昼界の方に参加しても構いません。珍しがられるとは思いますが……」
「聞いている限りは《ブルーフロントライン》のファンが多いようでござるし、全員そっちに来そうな勢いでござるが」
「わ、わたしはプレイしたことないですけど……」
「あ、そっか。紫陽花ちゃんはまだ高校生未満だからやったことがないんでしたっけ……」
「そうです! 健全です!」
「で、でもっ、今年で15歳になりますし、ユエさんのプレイが面白かったのでちゃんと夜界に行きます」
「となると、昼界には面白そうなことやお呼びが掛かった時に行くカタチでいいね?」
「「「異議ナーシ!!」」」
メイン戦闘班はこれで一致のようですね。後方組とも言える祖父祖母やクモナギさん、リーリアナは前線に出て来ることはあんまりなさそうですが。
ただ、今回はちょっと別動隊が必要なんですよね。そこをどうするかちょっと相談したかったところ。
「それで、まずドラゴニュートに進化したい組ですが」
「でしたら、カルンさんのところと私たちはご一緒にしましょう。さっきそれについて相談していたのですわ」
「うん。僕達もそろそろ頑張ってドラゴニュートになりたいと思っていたからね。ちょうどいいと思っていたんだ」
「あ、俺たちは別カウントでいいぞ。挑まなきゃいけないのは千歳姫さんの方だからな」
「わかりましたわ。教えられることはこないだ教え切ったので、頑張ってくださいませ」
ドラゴニュートに進化したがっているのは大多数で、希望者はバージョン1終盤でもずっと対ユエさんかフィニアさん、あるいは対千歳姫さんの研究していました。
わかりやすく複合になるカルンさんたち三人、以前より吸血竜に進化したいと言っていたヒルデ、レイスとの複合を狙っているミスティアさんの五人。
千歳姫さんに挑むのは、一段階上を目指していたサスタさんにアマジナさん、ウケタさんにフロクスさんですね。こちらは一対一になりますし、そこまで気にすることは無さそうな予感がします。
むしろ次に会う時にはあっさりと進化していそうな予感もするくらいですね。
「それで、ジェミナイア組のお手伝いですが。ジュリアと私だけでは手が回らない時がありそうなので、あと二人ほど欲しくて」
「む、それなら余とルナが行きたいのじゃ」
「うん、異議なし。色々お話したい」
「クレハさんから聞いていたお二人ですね。はい、こちらからよろしくお願いします」
「二人ともこれでいて最古参でしてよ。しっかりと最前線にまで連れて来てくださいませ」
「ジュリアもやるんですよ」
こちらに関しても既に立候補者がいて、私とジュリア以外にもカエデちゃんとルナちゃんの二人が担当してくれるとのこと。
もとより仲良くなりたいと言っていましたから、これ以上の適任はいないでしょう。それにフキノ達をしっかりと育ててくれたので、実績もありますからね。
練習期間中に既に祖父に教わってもいるので、あとは実際のゲームに慣れてしまうだけですから追いついてくるのもすぐでしょう。
さて、打ち合わせしておきたいことはこのくらいでしょうか。となればみんなソワソワしていますし頃合いでしょう。
「では、これくらいにして……皆さん色々やることがあると思うので、解散!」




