表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/385

35.情報をたくさんくれるネコの話

夜霧「にゃーん」

「おはよう、深冬」

「あれ、お父さん?」

「これから仕事だけどね……」


 ミズチのソロ戦で疲れたのもあって早々に切り上げ、夜は《DCO》をせずに千夏と録画を見たり別の事で遊んで早めに就寝したので早起きです。

 で、珍しくちょっと遅れて出社をする予定の父とばったりと遭遇しました。しっかり寝れているのかちょっと心配になりますが……


「昨日はやってくれたなぁ。いやまぁ、僕達でも辛うじてソロで倒せる調整にはしてたけど」

「あ、あははは……」

「あはは、まだ想定の範囲内だからいいんだけれどね。ベータテストだから、一般がプレイできるコンテンツは一応クリアは可能にはしてある、一応はね」

「ということは、もしかしてサクイベントの最後のって……」

「はっはっは、楽しみにしておいてくれ。深冬と千夏のできるギリギリを攻めた調整にしてある」

「あー……」


 おそらくこれ、サクさんの最後のお願いは開発スタッフからの挑戦状ですね? いいでしょう、受けて立とうではありませんか。

 以前から私達が参加する際のテストプレイには、こういった開発者からのテストプレイヤーへの挑戦状のようなものをこっそりと仕込んでいる事があります。

 それもプレイヤースキルの高いところは知るところである私や千夏、或いは春菜や秋華に対し、一般にはある程度隠しつつ。


「……いいでしょう。今回も突破してあげますよ」

「今回はレベルデザイン班渾身の出来だそうだぞ。水路のボスのように上手く行くと思わないことだ、と伝えといてくれって」

「ふふふ、いいでしょういいでしょう、私も千夏も全力で戦ってあげましょう」

「まだ一度も二人とも本気出してないものね。髪を降ろしたままってことはそうでしょ?」

「そういや最近二人のそれ見てなかったなー……」


 横から入り込んできた母がぼそりと言います。祖父とやり合う時は姉妹揃ってメンタルリセット、ルーティーンとしてやる仕草があるんですよね。

 両親からは、私のは単にその方がやりやすいだろう、千夏のはそれ中二病過ぎない? というのが評ですが。切り替えができるからいいんです、できるから。

 多分、経験を積んだ朱音と《DCO》でやり合う機会があれば、もしかしたら使わないといけないかも知れませんね。

 テスト開始前にやった動作テスト。あの時の手合わせではかなりイイ線行っていましたから。


「楽しみにしておこう。ああ、それとな」

「はい?」

「多分もう事件も顛末も耳にしていると思うが、ベータテスト参加者は1499人であってるからな」

「あははは、わかりました。ルヴィアにもこっそり伝えておきます」

「明日の競演、楽しみにしてるぞ。それじゃあ仕事に行ってくる」

「行ってらっしゃい、お父さん」


 ……土曜日に出勤する父の背中はどこか疲れ気味で、そしてそれ以上にどこか楽しそうでした。



――◇――◇――◇――◇――◇――



 お昼の《DCO》は静かなもの。攻略は既に最後の《幽霊街》の方に集中していましたから。

 こちらのダンジョン、くたびれた無数の廃屋から飛び出してくる幽霊が軒並み厄介とのことで。特にホラー耐性がない人が次々脱落してるとか。

 ブランさんの配信を見てる限り、井戸から飛び出てきた青白い手に捕まった妖精の方が不憫でしたね……ぶんぶんと振り回されて……


「それでは、各所回りしますか」

「まずは《夜霧》さんからですわね、さてさて苦労したのですから情報を聞かせて貰おうではありませんか」

「私は特に苦労は……」

「お姉様が一番苦労なさったのですから、それくらいの権利はありますことよ?」

「あはは、楽しかったんですけれども」

「……私だとオワタ式でしたわよ、あんなの」

「水属性相手でしたからね。仕方ありませんよ」


 そんな他愛もない会話をしながら、《天竜十二水回廊》の入り口から王城の正門へ。

 実際ジュリアであればほとんどの攻撃が一撃貰ったら即死の、それこそ心底ヒヤヒヤするような戦いが繰り広げられていたでしょうね。

 まあ……水面爆発で詰みはしていたのでしょうけれども。それでも本当に上手くやりかねないのがこの妹の怖いところ。


「……にゃん、来たかにゃー!」

「お待たせしました。これで全部でいいですか?」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……にゃんにゃ、本当よく集めたにゃねぇ、感心するにゃ」


 案の定城門前にいた夜霧さんに、まずは依頼された品々を渡します。本当にこの量を食べきれるのかという疑問はありますが……きっと《紗那》さんとお分けするのでしょう。

 数を数えて満足する数があったのを確認した夜霧さんは、いつものように人の姿へ。体格と動きやすさ、紛れやすさもあって猫形態の方が普段は落ち着くのでしょうね。

 クエストクリアで依頼達成。と、言っても貰えるのは好感度だけなのですが、これは夜霧さんからのものなので何かしらイベントに関与するのでしょう、そのうち……


「で、とっておきの話だったにゃあね」

「はい。しっかりと聞かせて貰いますわね」

「おみゃー達が進めてる《サク》のお願いの件にゃあね。おみゃー達が倒すのは《大百足》にゃ」

「うわぁ……これはまた難物を……」


 大百足、と来ましたか。確かに大百足は五行相克の上では、水である龍に対しての土である大百足は有利……でしたか。

 それにひとつの伝承として、滋賀の三上山に巣食っていた三上山の大百足の逸話も有名ですね。討伐された《大百足》は死してなおとんでもない呪いを振りまくシロモノだったとも。

 ミミズを餌にして誘き寄せたり、この話をする際にがっくりと肩を落としていたのはそのあたりもあるのでしょう。どうやらこの世界では《龍種》において著しいほど《大百足》が天敵と設定されてるのかも。

 ……それはそれとして、視覚的にはこれトラウマになる人が多いのでは……。


「ああ、おみゃ達が戦うのは《大百足》と言ってもちゃあんと可愛くされてるにゃ」

「可愛く……ああつまり、人妖のような」

「そんなところにゃ。まあ多分、思っているような心配はないと思うにゃし。ただみゃー……」

「ただ?」

「まあ強さは桁違いにゃあね。特に魔術は効かないと思った方がいいにゃ」

「魔術が効かない、となると百足と言えば硬い甲殻を持つので、それを抜く手がないような……」

「そこは安心するにゃ。あやつ、自分が本当に敵だと認めた相手にしか本気で戦わないにゃーから、それなりに手は抜くはずにゃ」

「手を抜かれて勝つというもなんだか……」

「手を抜かなかったらおみゃー達、勝ち目が万に一つどころかひとつも無くなるにゃ」

「そんなにですか……」

「《応龍》のサクが一方的に、全く手の打ちようがないくらいにゃあよ。あれはある意味では、にゃあ達最後の《切り札》のような存在なのにゃ。今回は役に立ってないにゃーが……」


 確かに、《龍種》ですら一方的に負けるほどであれば《切り札》足り得るし、本気を出されようなものなら私達は相手にすらならない可能性もあると……

 本当に今回のスタッフからの挑戦状は気合が入っていますね……やる気が湧いてくるじゃないですか。

 口振りからすると聞くだけ凶暴に聞こえますが、本当は意思疎通の出来る人妖だと感じ取れます。正体を言わないのがこれまた夜霧さんらしいというか。


「ま、話せるのはここまでにゃあね。ひとつアドバイスをするのにゃーら、あやつ多分毒は使わないにゃ。正面からの殴り合いになると思うにゃあよ」

「それだけ聞ければ参考になりますね。ありがとうございます」

「いいってことにゃんよ。これだけ沢山持って来てくれたにゃしにゃあ」

「それと、こちらを……」

「にゃ? にゃー、《水路》に流れ着いていたのは《翠華》の私服だったにゃあか……」


 そういえば忘れかけていたのですが、これを渡す事で《天竜十二水回廊》もとい《王都の水路を越えて》のクリア報告。

 すごく豪奢なゴスロリドレスで一体誰のものかと思っていましたが、まさか《夜草神社》の巫女である《翠華》さんのでしたか……。

 翠華さんとは、一足先にルヴィア率いる攻略隊がクリアし《落花繽紛桜怪道》で救出された、今回の御触書・弐の主題である巫女さんですね。

 聞くところに寄ればかなり美人の《アルラウネ》のお姉さんだとか。既に城内で手当てを受けているとのことで、そのお顔はルヴィアの配信を見ざるを得ないのですが。

 ……ちなみに私、ちょうどミズチと殺りあっていたので見てないんですよね。一生の不覚だったので、あとできっちりアーカイブ見ましたとも。


「ま、これはこっちから渡しておくにゃ。翠華はあの《世界樹》の《ドライアド》にして双界の植物を全てを管理する《植物神》でもあるからにゃ」

「物凄く高位の方だったのでは……」

「当たり前にゃ。稲作だけでなく農作の全てにおいて影響が出始めていたからにゃ。かなり早急に解決しないといけない案件だったのにゃ」


 これ、最速でクリア出来たルヴィアはかなりの功労賞なのでは? 紗那さんからの好感度がかなり上っていそうです。

 ここで新しいキーワードとして植物神が出てきました。管理する規模を考えると実質この双界の根幹にいるに等しいじゃないですか。

 これでようやく《四方浜》で《蓮華》さんから聞いた植物の神様とは誰か、そして彼女を真っ先に逃がしたのは誰かという謎が解けましたね。

 ともかく彼女を奪還できたということは食糧事情も大分改善されそうです。復調してからになると思いますが……

 ふと、ここでひとつの疑問に行きつきました。


「……植物神である翠華さんがこうして無事ということは、どうして《世界樹》が暴走したままなのでしょうか?」

「うーん……そこは事情通のにゃあにとってもちょっと不透明な部分なのにゃ。《綾鳴》かーさまなら詳しい事情を知っていそうにゃが、生憎かーさまは《関西》の方にゃし……」

「なるほど、そのあたりは未だに……ということですか」

「おそらくこっちで救助し切れていない巫女が絡んでいるのは確実にゃんね。それは追々分かったら伝えるにゃーよ」


 うーん、ここから先は秘密。みたいな雰囲気ですね。あのアレを題材に取り扱っているのなら、《豊穣》か《再誕》の巫女さんが絡んでいそうですね。あやしい。

 その答え合わせはまた、奪還作戦が発令して辿り着いてからのことになるでしょう。先の遠い話になりそうです。


「それじゃ、にゃーは食材が痛まないうちに持って帰る事にするにゃ。しばらくは城に居ると思うにゃから、呼んだら出てくると思うにゃーよ」

「ええ、その時になれば是非に」


 そう言って夜霧さんはご満悦と言った顔で城門を潜り、その中へと消えていきました。

 結構重要な情報が出揃いますね今日は……一度、集まっている情報を整理しておいた方がいいかも知れません。

 この世界の成り立ちについては住民から色々と聞けていて、掲示板でそれなりにまとめられていますし……

 無意識にさっとノートとペンを握る所作をしたところで、ジュリアにがっしりと肩を掴まれます。あの、STR(ちから)差かも知れないですけどミシミシ言ってるんですけど……!


「さて、姉様。やりたいだろう事は顔に出ていますけれど先にクラフター組合の方へ行きましょう」

「やーだー、設定の整理したいんですー」

「ガインさん達がもう待っているとフレンドメッセージが来ているんですからワガママ言わないでくださいまし!」

「私の楽しみなんですからーそれくらいー」

「それはルヴィア姉様達とのコラボが終わってからにしてくださいまし。ほら行きますわよ!」


 ……そうして、設定を纏めたい欲を振り払わされるかのようにジュリアにクラフター広場に連れていかれたのでした。

冒頭の方の件について何が起きたかは杜若スイセン氏の本編、魔剣精霊の方の 彼は優秀だったよ、反面教師としてはね を参照くださいませ。

割と開発側も遊んでいるように見えて、事細かな調整は欠かしていませんしテストが必要な事項はちゃんとしてたりしてます。

もちろん、運営サイドとしてマナーの悪いプレイヤーに対してはキッチリ処罰も下します。当然ですね。


では何時ものコピペ文ですが、よろしければ下の方にあるブックマークと評価ボタンをぽちっとして、ついでにちょちょっと感想を頂ければ作者はとても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜
相方、杜若スイセン氏によるDualChronicleOnlineのルヴィア側のストーリーです。よろしければこちらもどうぞ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ