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34.ボスとの一騎打ちって燃えません? その前にやるなって?

後に語られるクレハ伝説のみっつめ。

「それでは姉様、頑張って」

「そこまではかからないかと思いますが……」

「まだ本気、一度も見せてないでしょう。出せる相手であることを願っていますわね」

「どうでしょうね……」


 翌日の午後。私達は再び《天竜十二水回廊》のボス扉の前に来ていました。

 昨日はあの後、新しい武器の調達をして試運転をしたくらいでしたから、特に何かをしていたというわけではありません。

 一応、昨日の内に私達に続いてミズチは四体討伐されたそうですが、それでも残りは七体。そこから午前に撃破報告が三体上がっているので残りは四体。

 このうち一体は先程別のパーティがボス部屋に侵入したとの事で、私達は余りもの三体のうち一体ということです。


 目の前には八と書かれた門があり、クリアされると該当する番号の門が閉まるようです。もちろんこの八の門は開いているので、中に誰も居ませんよ。

 大丈夫だとは思いますが、入る前に装備の耐久とポーション類をチェック。一応状態異常治癒用のポーションも一種類三本ずつ揃えてはあります。

 岩場の謎は掲示板の情報では今だ解けず、"それっぽい何か"の動作は見えたパーティがいた……くらいですね。


「私はネズミ肉を集めておきますわー!」

「そちらも頑張ってー!」


 ジュリアが私とのパーティを解除すれば、いつも手にしていた槍を大剣へと切り替えました。理由は色々とありますが長物が好きなんですよね、ジュリア。

 大剣ともうひとつ、大槌を購入していたあたり、ゲームとしては一撃が重いものも大好きなようです。

 一方の私は弓と拳武器を購入しました。弓は刀の次に扱い慣れているのと……まあ、拳については……元々不意打ちのように剣撃の合間に叩き込むのが得意でしたからね。

 これが普通に竹刀を握ってはいけない理由なのです。勝つには使える手を使いますから……これも型にはまらない祖父譲りなのですけれど。


「さて、それでは」


 遠く離れていったジュリアの背を見送れば、一呼吸。一人で戦うのなんて、そういえばこのゲームでは久し振りでしたね。

 来る前にねだられたのに応えるべく、メニューを開いて戦闘の様相を録画する準備。

 ……いえ、いい機会ですから配信してしまいましょうか、と配信モードに切り替え。ルヴィアが配信しているので、まあこちらに目が向くことは多分ないでしょうし。

 一人称視点で見せるとジュリアであれど確実に酔うと思うので、画面隅に一人称を、メインを三人称にし、配信に入る私の声を切ってから配信開始。

 コメントは……まあ、私は見る暇はないので垂れ流させておきましょう。その旨も概要に書き終えて……と。


 準備を終えて八の門へと入れば、昨日見たのと同じムービーが繰り返されてボス部屋の門が閉まります。

 睨み合うミズチの前で刀を抜き、しっかりと動きを見据えながら一歩ずつ前へ。

 三人称視点を見せやすくするためカメラの位置をフリーにすれば、カメラの位置を示す光の玉が私から離れていきます。

 二回目だからでしょうか、先制してブレスを吐いてくることはなく、こちらの出方を窺っている様子。


「参りましょうか」


 持ち前の素早さとスキルレベル最大の《身体強化》を生かし、浅瀬を突っ切る様に走ります。

 ミズチの懐へと接近しようとしますが、私の移動に反応しタダで近寄らせてくれるはずもなく。狙い澄ましたように出の早いウォーターカッターブレスを放ってきました。

 直線、縦の薙ぎ払いとして体一つ分ずらして回避。急速接近の間合いに入れば刀を構え。


「《瞬歩》、《行月》」


 半ば発動を確認するように口にしつつ、《瞬歩》で一歩の踏み込む距離を大きく、素早くしながら《行月》の圏内に入ったと同時に、滝の影にちらりと出ている尻尾に向けて初撃。

 僅かにミズチの体力ゲージが削れたのを確認してから、後ろに飛び下がり距離を少し取りつつ尻尾を引っ込める動作を視認。

 顔を上げて水を飲み込むミズチの口元を見て次の攻撃は―――水弾吐きと判断すれば、ミズチの向く方向から後ろに回る様に移動。


「情報通りですか。引っ込める動作の後は尻尾は後ろに移動すると」


 私とジュリアが挑んだ時は、初見の攻撃回避に専念し過ぎてそれどころではなかったので確認できませんでしたが、攻撃をすると尻尾を引っ込める……のではなく、正しくは尻尾を移動させるようです。

 その実そうではないかと勘付いてはいたのですが、ジュリアがその確認の指示をできるほど余裕が無かったので正面から押し切りましたが。

 ダメージを与え過ぎていて、視線がこちらに向いたまま位置を変えても攻撃できるほどではなかったのですが、他パーティがこの水を飲む動作から吐き出す準備をするまでは身体を動かさない、と。


「《斬月》」

「キシャアアアア!?」


 背面の尻尾へと追いつき《斬月》を叩きこめば、今まさに吐く瞬間だったミズチが仰け反り。口に溜めていた水を足元に向けて思い切り吐き出しました。

 削れたゲージの量はこれでようやく一割に届くかどうか。《行月》のダメージと比較しても少しだけ多く削れてるので、今のタイミングで攻撃すると喉を詰まらすかでダメージボーナスが掛かるのでしょう。

 もっとも、今回はソロなので挑む人数による補正でボス体力が調整されているという可能性も無きにしも非ず。

 吐き出された水が着水し、飛び散らせる飛沫を避けるようにまた少し離れつつ、大きく出された尻尾による薙ぎ払いを飛んで避け。その先端にのみ掠るように《居合術》のカウンターを当てる。

 与えたダメージは極僅かですが、削った量の累積か、はたまた弱点を執拗に攻撃したからかミズチの眼が血走り、怒り状態に入ったのを確認。こうなると攻撃が苛烈になる代わりに、攻撃できる箇所を大きく露出するのは昨日の通り。


「……あの動きは」


 柱の近くに寄りつつ、次の水吐き攻撃を確認。ああ、これは―――二人で戦った時はやってこなかったモーション。

 頭を引きつつ、じっとこちらを正確に見据えれば一瞬突き出すような動作を含めて水弾を槍のように撃ち出してきました。

 視線の先に落ちる為、回避はそう難しくなく。三連射されたそれが着弾すると同時に柱に向けて飛び上がって回避し、そこからさらに柱を三角跳びのように蹴って更に上へ。

 頭を大きく露出させたミズチの直上。私を見失ったミズチは先程までいた場所を見るままに。


「《新月》、《降月》からの《薄月》」

「グ、ギッッ!?!?」


 直上から脳天に落下補正の付いた斬撃を直撃させ、頭の上へと着地すればそこから更に一回転して追撃に《薄月》の振り下ろし一閃を加えます。ダメージは極大、二割を一気に削り落としました。

 頭が弱点だという情報に間違いはないようです。そのまま悶えている間に飛び降り、浅瀬に着地すれば目前にあった尻尾へと向けて再び抜刀。


「《月天》からの《円月》」


 《月天》の四連撃を加えて引っ込める前に《円月》。それから《瞬歩》を使って間合いから離脱して一定の間合いを維持。

 立て続けにダメージを喰らったミズチは大きく全身をのたうち回らせて、今まで滝から露出させることの無かった全身を露わにしました。

 こうして改めて全身を見てみれば、ヒレの付いた大蛇といった表現が正しいことが判ります。のたうち回り暴れる事で水飛沫が上がり、視界が思ったよりも狭くなるのがいけませんね。


「さすがに直接攻撃できませんか……《三日月》、と」


 逆に大きく身体を露出して暴れているので、遠距離攻撃である《三日月》は直撃させやすく。のたうち回る動きを避けるようにしながら牽制代わりに何度か叩き込みます。

 怒りによって防御力が下がっているのと……これは情報が上っていないので判りませんが、ひょっとして滝の水を浴び、纏う事で防御力を上げているのが耐久力の一因であるのか。少しだけ乾いた表皮に対しだと普段《三日月》当てた際よりもかなり大きなダメージが入っています。

 これでミズチの残り体力は四割、思ったよりもハイペースで削れていますね。ようやく冷静さを取り戻したのか、此方への怒気を放ちつつ再び滝の中へと身を隠しつつ、水を飲み込みます。

 さすがにこの距離だと仰け反らせて喉に水を詰まらせられるほどのダメージを与えられないので、慎重にブレスを見極め。いつでも合わせて回避できるように身構え。

 ……吸い込んだ水の量が大きく、どことなく窄め気味。新種のモーションですね、どう動くか……ウォーターカッターブレスの予感がし、柱の後ろへと隠れます。


「……なるほど、そういう動きも」


 大きく首を振り回しながらウォーターカッターブレスを噴き、大きく横薙ぎにしたかと思えば、斜め上から振り下ろし広域を薙ぐような動き。

 上手くやり過ごしたと思えばそのまま更に一息を吐いてから、水槍弾を連射。柱の後ろに居ては飛沫が貫通してくるので、駆け出して再び《瞬歩》と《行月》を併用して接近。

 待ち構えていたかのように大きく尻尾が薙いで来ますが、対応しカウンターを叩き付けるかのように《斬月》。そのまま硬直した尻尾を足場にして飛び上がり、ミズチの首へと《月天》を喰らわせる。

 着地すれば何かしらの反撃を警戒して離脱……しようとしたところで、口に残していたであろう水を弾のようしてから吐きつけ。


「くっ……流石にこれは仕方ありませんか」

「シィィィィ……」


 水槍弾よりも水玉は着弾時の飛散が強いため、どうしても回避優先にならざるを得ませんし―――先程接近に《瞬歩》を併用したので避けきれずに幾らかが掠って私の体力を削ります。

 それでも軽傷程度、まだ何とでもなる量。距離を取って息を一瞬落ちつければ、ミズチの体力ゲージがとうとう半分を切った際の次の動作を予測。

 と、ここでようやく……例の"それっぽい動作"。滝から全身を出し、浅瀬と外周足場の間を高速でぐるりと回るというもので、あまりにも隙だらけなのでこの合間に叩くパーティが多かったとの事。

 今回は単独なので恐らくこの行動がキャンセルできるほどにまで一気に削る事は出来ない。なので、一応追い掛けるようにしつつその腹を斬り付けて少しでも削ってはおく。


「さて、一体何をしてくれるのか、と……!」


 一回りが終わり、滝へと戻りミズチが体を震わせて。それと同時に水面が大きく泡立ち始めて白み、まるで爆発の前兆のように。

 ギリギリまでダメージを与え続けるために外周の足場から追うように移動していたので、岩場までは少し遠い。これは、きっと―――避けきれない。

 《瞬歩》を使い、何とか至近にある岩場の近くへと退避、しようにも、おそらくあと二歩ほど足りない。不味い、そう思った瞬間。


「キルシャアアアアアアアアア!!!!」


 ミズチの咆哮と同時に岩場のある場所以外、浅瀬の水が一気に破裂したような音を立てて爆発、噴火するように噴き上がり。あと一歩足りなかったが為に私も大きく跳ね上げられ、宙を舞う。

 してやったりと言ったミズチの顔がこちらへと向き、私へと追撃をしようと水を吸い上げ、落着の瞬間を窺っているのがよく見えました。

 なるほど、マップのほぼ全域に対して大きな予備動作の後に大規模攻撃。それでも範囲が広く出が早い分威力は……同属性の私でも体力の半分強を一撃で持っていかれますか。

 一撃でトドメとまでは持っていかれませんが、これは止められるなら止めて正解。ヒーラーの負担も大きい、などと考えながらポーションを口に。


「それでも簡単に倒れるわけにはいかないので……」


 この程度で、このダメージ程度で追い込まれていてはジュリアに笑われます。ミズチが確実に仕留めるためであろう水槍弾を放つ準備を整えれば、刀を納め《居合術》の発動準備へ。

 上手く受け身を取ってダメージは最小限にするなりすぐに起き上がって構えれば、そこにちょうど三発の水槍弾が飛んできますが、それは―――

 私に触れることなく寸断され、そのうちの二本は《弾き返し》により弾き飛ばされてミズチの方へと跳ね飛んで頭へと直撃。勝利を確信していたであろうミズチは面食らったかのように驚き、動きが一瞬緩む。

 その隙に気づかない私ではないのだから。すぐに駆け出して再び柱を足場にミズチの直上へ。


「一気に削らせて貰いますよ」


 《新月》からの《斬月》、さらに追撃で《月天》を的確に頭から首に当てながら落下。落着したと同時に露出している尻尾に《円月》と《薄月》を当てて《瞬歩》で離脱。

 これで二割が削れてミズチの残り体力は三割。削り切るのもそう難しくないので、《三日月》で様子見のように尻尾へと攻撃。ダメージは僅かなのですが。

 不意打ちや無防備な時に攻撃をすると、ダメージが増える。これは今後にもありそうなので覚えておきましょうか。できる状態に持ち込むまでも大変でしょうけれど。

 そこまで削ればもはやミズチの側も半狂乱になっているのでしょう。水を飲んでの攻撃ペースが一段と早くなり、既に視界の中では水飛沫と水の刃が絶え間なく飛び散っています。

 瞳の色も怒り状態を示す血走ったそれであり、クールタイム毎に繰り出している《三日月》でもそれなりに削れているので防御を捨てて来ているのでしょうか。


「おまけにこれは……っとと、危ないですね!?」


 その上迂闊に接近しようと試みれば、浅瀬の泡立った地点がランダムに間欠泉のように噴き上がるようになっており、迂闊に接近できなくなっています。

 遠距離から狙い撃とうとすればその水柱が邪魔に、或いはウォーターカッターブレスの的。先程からウォーターカッターブレスの挙動も横薙ぎどころか全周囲へと振り回す様な挙動も加わってますし。

 柱が無くてもその下を潜り抜けるか飛び越えればいいとはいえ、それでも飛沫によるダメージは無視しきれないのが厄介。

 ですが。これだけ怒り狂っているのであれば、一度でも接近さえできればそれだけでトドメになり得るでしょう。各スキルのクールタイムが明けるまでは回避に集中しつつ、じわじわと距離を詰めるように移動。


「―――見えた」


 何度目かの全周囲薙ぎのあと、水弾を撒く攻撃の中で一瞬見えた空白。すかさず《瞬歩》でその隙間を通り抜け、目前に迫った尻尾へと《行月》。

 迎撃するために吐き尽くした水を再び含むため、飲む動作に入りかけたミズチを一瞬待ち、水を含み始めたところで《新月》から《斬月》を尻尾に叩き込めば、大きく仰け反ると同時に水を喉に詰まらせての大ダメージを与え、残り一割。


「これでトドメです……!」


 後は仰け反って露出した身体を足場に跳躍しながらミズチの頭にまで飛び上がり、最後に喰らいついてやろうと大口を開けたところに《三日月》を飛ばし。

 口内への直接攻撃を喰らって口を閉じた頭へと着地して《薄月》を使い、額にあった宝玉へと向けて思い切り刀を突き刺しました。

 同時にミズチの体力ゲージが空になり、一瞬の硬直の後にその巨体が崩れて地へと倒れ伏していきました。


「……やってみたいとは言いましたが、やっぱり疲れますね」


 もはや癖のように刀を振って血払いの所作をし、刀を拭いてから鞘に納めます。それから配信をオフにして……なんだかちょっと一部だけ荒れているようですが、まあ見なかったことに。

 ドロップ品を確認し、目的の《ミズチの腹肉》があるのを確認。それからボス部屋の奥へと進むと、竹のところに何か引っかかって……ゴスロリ服でしょうか? しかも結構細かい装飾が入っていますね。

 ざらっと掲示板を見て……あ、なるほど。《桜怪道》のボス戦でやらかした人がいるんですね―――それにどうやら、私が倒したのが最後の一匹だったようで。

 ということは、これが巫女の私物……巫女の私物にしては洋風が過ぎるのがちょっと疑問ですが、夜霧さん経由でお届けしておきましょうか。

 クラフター組合でしれっと頼まれた通り、まだ回収できた水路奥の小部屋でのみ採れる《水含竹》を二本ほど回収。他にやる事もないので撤退、と。


 その日はそれだけで疲れてしまったので、ネズミとトビウオを集めたジュリアと合流してからすぐにログアウト。

 楽しいですけれど、自分の実力を知るにはいい機会だったのではないか……そんな一日でした。

挑む際のパーティ人数に合わせて体力調整がされるタイプのボスですが、それでもテストが目的なのでソロだと結構強めになるように設定されています。

なので本来であればソロ非推奨。火属性キャラクターだとどうやっても大噴水で詰みます。

二人で攻略できたのは、大噴水をやるタイミングの際、ジュリアのブレイクポイントによる防御力低下した直後の大威力攻撃のラッシュですっ飛ばしてしまったからです。こいつら……


では何時ものコピペ文ですが、よろしければ下の方にあるブックマークと評価ボタンをぽちっとして、ついでにちょちょっと感想を頂ければ作者はとても喜びます。

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