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33.ついに来たお達し

「これで、とどめっ!」

「いきますわよ!」


 水玉を吐く動作の後に見せた隙。尻尾の動きを止めた瞬間に飛び上がって頭へと《新月》からの《斬月》。

 攻撃できる頻度が少ない分、毎回の攻撃に確実に《新月》による強化攻撃が使えるのは利点ですね。少ない攻撃機会を活かせますから。

 ミズチの頭へと強烈な斬撃を加えれば、大きく身体を揺らめかせた後に、大きな飛沫を上げながらゆっくりと倒れ伏していきました。


「……やれてしまいましたわね」

「相性的なものもあった気がしますが、まあよしとしましょうか」

「素材は回収しまして、と……ふむ」


 素材に関してはあとでまたクラフター組合に持っていくとして……その目録にひとつ目をやるものがありました。

 《水蛇の額玉》、おそらくミズチの額に嵌っていたものでしょうね。《大藁人形の発火玉》と同じものを感じます。


「……このボス、姉様ならひょっとしてソロでいけるのではありませんか?」

「ありえそう……ですけれど、流石にドロップ品もあるので後続にお譲りしたいところですが」

「ボス独占禁止法ですわね。それでも、人数が偏り過ぎて本当に人が少ないのでもう一体倒しても何も言われなさそうな気もしますわねー」

「ブランさんとルヴィアの人気、ちょっと侮っていましたね」


 そういえばそろそろルヴィアが《落花繽紛桜街道》の攻略を始める頃合いですね。昨日は《酒蔵地下の不思議迷宮》をクリアしたあとに配信を終えていましたから。

 配信チャンネルを開きながら、奥に開いた部屋へと向かいます。さすがにまだ始まってはいませんか。

 中はそこまで広くない、ボス部屋よりもさらに狭い三分の一ほどの大きさでしょうか。その中央にちょっとした小さな浜辺のような感じになったところに葉が積もっており、そこから竹が数本生えそろっています。

 ここでひっそりと育成されている貴重な竹なのでしょう。艶も良く、直上から注ぐ陽の光をしっかりと受けています。


「これですね、サクさんからの頼まれもの」

「立派な竹ですわねえ。確かにこれだけ立派だと《伐採》せずに斬った方がいい感じに採れそうですわね」

「ではでは」


 《サク》さんに言われた通り、《伐採》のスキルが無くても綺麗に採れそうですね。というわけで抜刀。

 竹はとりあえず下の方を斬るとして……節々で切るといい感じになるんでしたっけ。斬る一点を見据えて《薄月》で一閃。

 すぱっと綺麗に刈り取り、飛んだ竹をキャッチすれば全高四メートルはありそうなそれがアイテム化してインベントリへ。

 ……つくづく思うのですが、ゲームのインベントリって不思議ですよね。明らかにサイズの合わない物がすぽっと鞄に入ったりとか。例えば―――


「お姉様、何考えてるかはわかりますけれど目的を果たしましょうか」

「えっ、あっ、はい……そうですね……」


 じとり、とした目をジュリアに向けられてこのダンジョンの方の目的、《夜草神社》の巫女を探し……ますが、それっぽいものはありませんね。

 全て討伐したら出てくるのでしょう。おそらく……ですけれど。

 他に何もなさそうですから、とりあえずセーフティに戻るしかないようです。ボス部屋を通って水路の方へと戻ります。


「そういえば、あの岩場は何だったのでしょうか」

「……ただの足場、にしては綺麗に配置されてましたし」

「何かしら、やってこなかった攻撃があったのかも知れませんわね」

「やったら詰みかねない何か……? ありそうですけれど、それでもしてこなかった原因がちょっとわからないですね」


 ボス部屋を出る前に見回すと、ウォーターカッターブレスを避けるための柱はわかるのですが……その柱の間に配置されていた岩場が少し謎なんですよね。

 遠距離攻撃を行う為の足場の確保、にしては《歩法》さえ取って最低限上げていればこれくらいの浅瀬で鈍る事はありませんから。

 一応掲示板の方にも情報を上げておき……ううん、やっぱり私達が最初の討伐でしたか。予想以上に他パーティの進行が遅いようです。

 幾つか攻略情報を上げておきましょうか。それで早々に達成できるならばよし、時間かかりそうなら……まあそれはそれとして。


 水路を歩いて帰る最中にルヴィアの配信が始まりました。私達はそちらに耳を傾けつつ、もはや手慣れた作業かのように《トビトビウオ》を始末。

 慣れてしまえば複数回叩かないといけない《弾丸ゲンゴロウ》というところですね。なんだかどこかしらからか、慣れ過ぎでは、との声も聞こえそうですが。

 これよりも複数飛んでくる分、私個人としては《水田迷宮》の方が大変だったというか。実際ここの後半もそうだったので、そこだけは頭を抱えていたのですけれど。


<ちなみになんですけど、募集に出遅れたフリューがかなり凹んでいたので>


「あはは、やっぱりフリュ姉とルプ姉は出遅れたのですわねえ」

「温情もないあたり、まあルヴィアらしいといいますか。それでタンクが集まっていない、というのは本末転倒ですけれど……」

「二人セットで運用しないと、あの二人は片割れだけだと何故か不調になりますし……ん」


<次のダンジョンにはリアフレと行きます。たぶん募集はしないので、そこはご了承ください>


「……来ましたね」

「雌伏の時は終われりー、と格好良く言いたいですけれど……」

「最早雌伏している意味ある? と言いたいくらい知名度上がっちゃってますもんね……」

「ま、あるとすれば私達の素性と繋がりの大公開ってところくらいですわね。知ってた、と言われそうですけど」


 ルヴィアの方から招集命令が掛かりましたか。あとで直接メッセージが来そうですね。

 次の御触書があれば、もしくは次のダンジョンがあればになるのでしょうけれども……

 期間的にもうひとつはあってもおかしくないので、おそらくそこになるでしょうね。さて、目下しなければならないことなのですが。

 とりあえずセーフティエリアにまで戻れば、一人の姿もありません。下層や降りる際に何人かとすれ違ったので、きっと先に進みに行ったのでしょう。


「一度ダンジョンから出て、追加の素材を渡して……姉様、いっそ他の武器を調達してスキルレベリングはいかがでしょう?」

「そうですね、サブウェポンがあっても困る事はないでしょうから……」

「では、武器の調達と行きましょう。新しく握っても、ネズミ達くらいならちょうどいい手慣らしになるでしょうし」


 そのついで。クラフター組合の調理担当の方にトビウオの山と、穫れたてのミズチ素材を届けに行きましょうか。それとサクさんへ取れたての竹のお届けにも。

 ジュリアからの提案通り、メインで使っている武器とは別に何かしら武器を持っていれば、ある程度対応できる範囲も広がるでしょう。

 もっとも、戦闘中に武器の持ち替えが出来るかどうかはまた別の話なのですが……



――◇――◇――◇――◇――◇――



「一日半振りの陽の光ですわ……」

「セーフティやボス部屋奥では堀の水越しに見えてましたけれどもね……」

「それはそれですわよ」


 ダンジョンから出て先ずは《転移》でサクさんのところへ。相変わらず暇そうにしていますが、すぐに私達を察知して降りてきました。

 ……上機嫌ではなくなっていますが、驚きのような顔をこちらへと向けています。


「む、なんじゃ。行き詰まったのかの?」

「いえ、むしろその逆でして……」


 インベントリから依頼された竹を取り出し……出し……これ重いですね!?

 支える私が竹の重さにバランスを崩しかけたところで、ジュリアが慌てて支えに入りました。

 なんだかちゃぽん、という音がした気がしますが、それはさておいて。それを見たサクさんは目を丸めて驚いていました。


「……うむ、うむ。なんとまあ……一日でミズチの元に辿り着いて倒してくるとは思わなんだ……」

「あ、あははは。私達がとんでもなく早かっただけですから、その……」

「しかも良い物を取ってきたの、これだけ質が良ければまた暫く持つじゃろうて……うむ、ありがたいのう」


 サクさんが竹を手に持てば、その華奢な身体に似合わず重い竹を一人で支えました。でもって、尻尾を一振りして何かを操る様子を見せれば……


「わっ……!?」

「残りは持って行け。軽くて丈夫、水に強い竹の繊維が作れるじゃろうて」

「あ、ありがとうございます……」


 一瞬、中に溜められていたのでしょう水が刃のように内側から裂き、二節ごとに切断された竹が足下に積み上がります。

 サクさんの手はにちょうど竹のひと節だけが残り、丁寧に上口には穴が開いて竹筒水筒のようなものが出来上がっていました。

 《応龍》としての力の一端……なのでしょうね。それでも不調が表れているのか、積み上がった竹の束もどことなく不揃いなようにも見えますし……

 とりあえず残りの竹をインベントリへ。こちらもクラフター組合の方へお渡ししましょう。


「思っている以上に腕が立つようじゃの、これであれば、あやつから取るのも造作もないかも知れぬな」

「採るとは……次の素材ですか?」

「いや、うむ。最後、仕上げに使う素材は我ら《龍種》の天敵での。お主ら《来訪者》に頼まざるを得ないのじゃ」

「天敵、ですか……それ、本当に私達が敵う相手なんですか……?」

「普通は無理であろうな。夜草の社を占拠する奴よりも、圧倒的に格上であるからの」


 一体何を私達にさせようというのですか……一連のクエストで最後に倒すべきは今バージョンのラスボスよりも上であるとの示唆じゃないですか……

 しかし、ヒントととしては《龍種》の天敵……うーん、思い当たるものがあんまりないですね。英雄にしては少し噛み合いが悪いですし。

 何が出るかは全くの謎ですが、楽しみにしておきましょうか。勝てるかどうかはさておいてですけれど……。


「して、本来であれば次の頼み事。三つめの素材であるのだがの。今の《御触書》が終わってから伝えよう」

「ということは三日ほどはまた手が空くということですわね……クラフター組合の装備は明後日ですし、やる事が少なく……」

「ううむ、こちらとしてもそれまでに一番良質なものが採れる場所を選定しておきたいのじゃよ」

「そういうことなら……わかりました。ではまた来ますね」

「うむ、手間を増やしてすまぬの」


 会話を終えれば、サクさんはふわりと浮いて……いつもいる樹とは別の、より高い樹の上へと移っていきました。

 多分ですが、サクさんのお兄さんを今か今かと待っているんでしょうね……白い尻尾がぱたぱた振られているのがかわいいですね……

 と、気を取り直して次はクラフター組合の方へ。王城の前を通って行きましょうか。


「魚を寄越せにゃー!」

「わー!? 元々あげるつもりでしたからストップストップ!?」


 王城の前を通ればまあさも当然の《夜霧》さんの襲撃。どこに潜んでいたのか、私の頭へと黒猫状態のまま乗っかって来ました。

 爪を立てていないのが救いですが、むしろ《居合術》が発動しなかったのが救いと言いますか……いえ、そもそも発動する気すらしませんでしたけれど。

 私への奇襲に気が済んだのか、ぴょいっと飛び降りて私達の目の前へ。すぐに人の姿に戻って向き直ります。


「にゃーははは、見てたにゃーよー。地下水路に行ってきたにゃーねー?」

「上からですね? ちなみにどこまで見てたんですか」

「おみゃー達がトビウオを掻っ捌いてるところまでにゃ。分けて欲しかったにゃーよ?」

「来ればよかったのに……」

「にゃん。バカ言うなにゃ、行こうと思うとネズミの群れを掻い潜らなきゃにゃ、さすがにそれはリスクが大きいにゃし」


 そうでした。この世界の住人は《魔力汚染》によって殆ど力が弱まっているのでしたね……

 とりあえずインベントリの中から五匹ほど取り出してお渡ししておきます。


「にゃふん。五匹とは太っ腹にゃあね?」

「結構倒してますからね、それくらいでしたら……」

「動きさえ判ってしまえば、あとは叩くだけですもの。採ろうと思えばいくらでも……」

「……言ったにゃあね?」


 あ、ジュリアが余計な事を言いました。夜霧さんの眼がきらりと光ってます。

 ニヤニヤとしつつ、夜霧さんがくるくると二回転半してから人の姿になれば、私達に指を突き立てて堂々と言い放ちました。


「ではにゃーのために《トビトビウオの身》を30匹取って来るにゃ。あとついでに《ミズチの腹肉》も取って来るにゃ!」

「ジュリア?」

「失言でしたわ……」

「あと《水路ネズミの肉》も取って来るにゃ。あそこのネズミの肉は解体すれば無害にゃし、こっちもたくさん取って来るにゃ」

「多すぎませんか!?」

「にゃーにゃー。にゃあの前で余裕と言い張ったのにゃから、それくらいやって欲しいにゃ」


○食べ物をいっぱい要求するにゃ!

 区分:ダイレクトクエスト

 種別:イベント

 《トビトビウオの身》 0/30

 《水路ネズミの肉》 0/30

 《ミズチの腹肉》 0/1


・夜霧がお腹を空かせている。《天竜十二水回廊》で彼女の食料を集めてこよう。

 報酬:夜霧の好感度(大)


 夜霧さんから再びのダイレクトクエスト。しかも名指しですね、ぽろっと零してしまうがキーだったのかも知れませんが。

 とりあえず、まあ、その……《天竜十二水回廊》で時間を潰せる理由が出来たのでいいとしましょうか、ネズミやトビウオ相手にスキルレベル上げも捗るでしょうし。

 と、ふとここで引っかかりました。要求された品目の中にしれっとボスドロップが混じっているような……。


「あの、ミズチをもう一体倒せということでしょうか……?」

「にゃん。目下《天竜十二水回廊》は人手不足にゃ、紗那のお気に入りの方に多数が流れているのと、まだ後方で鍛錬を積んでる《来訪者》で足りてないのにゃ。だからついでに倒してくるにゃ」

「は、はあ……わかりました」

「おみゃー達ならもう一体くらいいけると思うにゃ。持って来たらいいこと教えてやるにゃ」


 ではみゃーは忙しいのでこれで失礼するにゃ、と言い残して夜霧さんは城の中の方へと走り去っていきました。

 ……まさか、人数不足の話がこんな風に巡って来るとは。これはこれで大変な気もしますが、仕方ないでしょう……。


「お姉様、どうします?」

「何がですか? とりあえず依頼はこなすつもりですけれど……」

「折角ですから、ミズチのソロ討伐やってみませんこと?」

というわけで次回、みっちり戦闘詰めのクレハによるソロでのボス攻略となります!


ちなみにちょうどこの話がスイセン氏の魔剣精霊側の25話 ルヴィアガチ勢の朝は早い と同じ頃の話となります。

こちらはこれで33話となれば、まあ投稿開始時期をずらした意味がこの辺にあります。

先行し過ぎるとこちらから本編の内容を示唆してしまうという。あくまでもあちらが本編ですからね。


これでは何時ものコピペ文ですが、よろしければ下の方にあるブックマークと評価ボタンをぽちっとして、ついでにちょちょっと感想を頂ければ作者はとても喜びます。

あちらでも告知されていましたが、年内にはこちらもバージョン0編は終わる見込みとなっています。御期待をば!

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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜
相方、杜若スイセン氏によるDualChronicleOnlineのルヴィア側のストーリーです。よろしければこちらもどうぞ。
― 新着の感想 ―
[良い点] うっかりジュリアかわいい(かわいい) そしてついでにで討伐される予定のミズチ… そしてこちらでのコラボ回も楽しみです!
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