32.水路に住む水蛇様
ついに水路ボスとご対面。
「あまりにもあっさり過ぎましたね……」
「トビウオラッシュを平然と潜り抜けておいてそれはないと思いますわよ。お姉様」
「それを言い出すとジュリアもでしょうに」
翌日。ログインした私達は早速水路の一本を進み、飛び交うトビウオたちを潜り抜けて早々にボス部屋らしき小部屋の前へと辿り着いていました。
《サク》さんからの頼まれた水路に生える竹というのも近辺では見当たらず、どうやらボス部屋の向こう側にあるようです。
掲示板を見ても他にまだボスに到達した人はまだ無し……トビウオを考えれば当然かも知れませんが一番乗りみたいですね。それではれっつ未予習初見プレイ、なんて。
「行きましょうか。ヒーラーもタンクもいないので、ちょっと慎重に行きましょう」
「回避系スキルもキャップ到達してますし、余裕ですわよ。きっと……私の弱点属性でしょうけど」
水路の突き当り、大きく七と書かれたボス部屋に繋がる門を開けばドーム状の大部屋に出ました。広さは大藁人形と戦ったフィールドより一回り狭いくらいの広さですね。
床面は金網に囲まれた外周部と、中央の上から滝のように落ちてくる上層の水が作る浅い水辺となっており、あとは柱が数本に足場になりそうな岩場が幾つか。
間違いなくボス戦の部屋ですね、これは。そう思いながら一歩踏み出せば、ムービーを示す赤色のマークが灯りました。
入ってきた扉が固く閉じれば、視点がその流れ落ちる滝の中心へと近寄っていきます。
そうすれば滝の落ちる波とは違う飛沫が上がり、その水流の中で何かが蠢き……蛇のような尻尾がちらりと覗きました。
瞬間、ゆっくりと滝の勢いが弱まって、じっとり濡れた青白い爬虫類の表皮が露わになり、滝の中からゆっくり姿を見せ始めます。
その様相はエラとヒレのある蛇。少しばかりの水を纏いながらこちらを青い瞳で見つめ……威嚇の鳴き声を上げると同時にムービーが解除されました。
「水を纏う蛇……ミズチですわね……」
「水を司る者であり、水の精ではなく。なるほど、納得がいきました」
「下手をすれば水神様。ですが、精霊として格を落としたものでしょうね」
「おそらくこの水路に十二として力を分割した分霊と考えるのが妥当かと……おっと、話してる暇はないみたいですよ」
ミズチ Lv.25
属性:水
状態:汚染
ステータスを見た結果でもこの通り。水属性だと判るや否や、がっくりとジュリアが肩を落とします。
もっとも、前もってサクさんから情報は出ていたのでそこまで深く落ち込むことはなく、前向きに私と同時に武器を構えました。
対するミズチの動きはというと、こちらを威嚇したままに動かない様子。とりあえず、近寄らなければ何もできないので水場に足を踏み込みますが……
「シャアアアアアア!!!」
再びの威嚇の後、息を吸う動作。直後に細く、それであってもこのボス部屋の端にまで十分に威力を保ったままに届く水圧で水を吐き出してきました。
まるでウォーターカッターのような吐息が水面を裂き、的確に私を狙いますが―――察知したそれを大きく横飛びで回避。
当たれば一溜りもないその威力を見せつければ、中央の滝に座するミズチはまだこれが威嚇だ、と言わんばかりに見下ろしています。
「ジュリア、多分当たったら即リスポーンですよこれ」
「お姉様はまだしも……気を付けますわね」
「他の動作にも気を付けて」
遠距離で戦えばこのウォーターカッターブレスに翻弄されるということですか。こちらがさらに一歩近付けば、ミズチも戦闘状態に入ったのか再び口に水を含む動作。
こちらも身構えつつ、突進系アーツ……《瞬歩》からの《行月》、《スパインダイブ》からの《ダスクラッシュ》で距離を詰めます。
案の定、ミズチは口から先程より大玉の水弾を辺りに撒き散らすように吐きつけ。移動距離の大きさから先に初撃を入れたジュリアには尻尾の薙ぎ払いを行いますが、そちらは悠々と回避。
水弾が水面に落ちれば大きく飛び散り、勢いで水を跳ね上げて視界を軽く遮ります。ですが、その程度。
「私、ヒットアンドアウェイに徹しますの! メインアタッカーはお姉様お願いしますわね!」
「わかりました! お任せあれ……!」
ミズチの大きさはおおよそ全長数十メートルと言ったところですが、滝に絡み付くようにしているのでそう大きさは感じません。
大藁人形より二回り小さいところに頭があるので、斬り付けやすいと言えば斬り付けやすく……早速、という風に覚えたての《三日月》を放ちます。
やや強めに刀を振る動作をすれば、飛ぶ刃の斬撃がミズチへと向かって飛び。ジュリアを叩き伏せんと振り回される尻尾へと直撃して刀傷を付けてダメージを与えます。
動作は最小限で結構飛ぶのであれば、やはり見込み通りに使い易さはあるようで。ジュリアも飛び回りながら《レッドエッジ》や《フレイムスロア》、《ファイアバレット》を絡めながら尻尾へと攻撃を続けます。
「レイドボスではないので減りはやや早いですが……」
既に戦闘開始から数撃加えたところで、ジュリアの奮闘もあるのかミズチの体力は一割削れています。
二人がかりでもそれなりに削れるということは、人を集めずとも討伐できるようにはなっている……ということでしょうか。
それとも、人数に合わせて体力が自動に調整されるようにしてあるのか。どちらの場合でも良しとはして、勝機があるのはいいことですね。
再び何かを吐き出そうとする動作を見せるミズチ。よく見れば、口の窄め方に特徴があるような……今度のパターンは何か、確認をしつつ尻尾の動きにも気を付けます。
水を吸い込み、口を窄めるようにすれば―――先と同じウォーターカッターのような噴き方で、今度は足元のジュリアを狙って横薙ぎに。
すぐに勘付いたジュリアはバック転で避け、次の動作に備えつつ尻尾へと続けて攻撃を仕掛けます。
「口を閉じて窄めたらウォーターカッター……ということは先程のように口を大きく広げたら水弾吐きですね」
「お姉様、そろそろアレ使うので一気に攻めますわよ!」
「では、合わせます。尻尾を大きく出した時を狙いましょう」
短く言葉を交せば、ミズチの陣取る滝の根元へ。そうすれば、近づくのを嫌がったのかミズチが大きく水を吸い、口を開けば真下の私達に向けて雨のように水玉を降らせてきます。
水面に落ちれば飛び散る為に、細かくその範囲を見極め―――すぐにでも尻尾へと刃が届く位置にまで接近。ずるり、と先端だけ出た尻尾が一瞬引っ込められ、振り回す予兆を見れば。
「今です! 《ブレイクポイント》、の、《ジャンプアタック》!」
「《新月》……から、のっ、《斬月》!」
振り回されて大きく尻尾を露出させた瞬間に、ジュリアが防御力低下デバフの付いた《ブレイクポイント》を見舞うと同時に高く飛び上がります。
クリティカルヒットしたその槍撃に振られる尻尾が止まり、仰け反った瞬間に《瞬歩》を使って接近。それからゲージを使って《新月》、そこから強烈な斬撃を叩き込む《斬月》。
体力ゲージを大幅に削り取りながら、ミズチがのたうって暴れるところにジュリアが真上から額に向けて《ジャンプアタック》による追撃を喰らわせました。
これだけで三割を削り取れるのですから、よほどジュリアのデバフが強いのかそれともレベル差か。弱点部位、という可能性もありそうですけれど。
「予想以上に暴れますね……!」
「一度離脱するしかなさそうですわね……っ、と、ぉ!?」
跳ね上げられる尻尾が飛ばした鋭い飛沫がジュリアを掠りますが、少し掠っただけでも体力の四割を持っていきます。
弱点属性によるダメージが馬鹿にならないのは知っていましたが、ここまで大きいとなるとよっぽどですね……。私も風属性の相手をする時は慎重にしなければ。
とりあえず大人しくなるまでは離れつつ、私は隙あらばと《行月》と《薄月》、《三日月》を使ってちまちまと削り。ジュリアはポーションを呑んで即死しない程度に体力を維持しつつ《火魔術》で牽制。
暴れ終わり、明確に此方を敵視するまでにさらに一割削れ、青い瞳も少しばかり血走っています。
「クシュルルル……!!」
「わお、完全に怒ってますね。あれは」
「まあ仕方ありませんわ、ここからが本番でしょうし」
滝の中へと身を潜めながら執拗に行う二種類のブレス、ウォーターカッターと水弾による攻撃を避けつつ。再び近寄ろうとするほどその頻度は大きく増え、接近するのも一苦労という程。
ジュリアに至っては当たればほぼ即死、いわゆるオワタ式であるのによく避けている方です。もしかして、ダメージを与えた際の減りはこの攻撃頻度のせいなのでしょうか。
上手く間を縫ってもう一度麓にまで接近すれば、前よりも素早く尻尾が振るわれ、それを二人飛んで避け。落下に任せて《新月》からの《降月》、《スパインダイブ》を直接尻尾へと叩き込みます。
今度は削れた量は二割。となれば……攻撃の苛烈さに比例して防御力が低い……いえ正解は……
「手応えとしてはさっきより柔らかい……ですわね」
「最初は少し硬かったですから、怒った事で軟化した……?」
「おそらく。そして怒る前は硬いので、防御力低下のデバフが強く作用したのかと」
「その線で考えておきましょうか」
ミズチの残りの体力は五割ですが、そう行動パターンは変わらず。行動が激化しただけで―――その激化したのが厄介なのですが―――これ以上の変化は無さそうな気配がします。
攻撃する機会が少ないですが、しっかりと見切って攻撃を繰り返せればあっと言う間に叩けそうな気も。とにかく慎重に攻撃を加えていかないと駄目ということでもありますが。
「こちらから攻撃できる隙と、出来ない時がはっきりしているので回避重点で良さそうですね」
「ですわね、攻撃をあんまり深く考えなくていいのは幸いですわ」
そう会話をしていれば、再びのウォーターカッターブレス。今度は横薙ぎに振るわれるそれを回避しつつ近寄って尻尾へと《薄月》を喰らわせてからすぐに離脱。
予想通りというか、怒っている時に比べてダメージは少な目。状態の変化で防御力が変化するということで間違いはないでしょう。
しかし、ブレスの合間にも攻撃できますが、一撃当てると一分ほど、もしくは尻尾での薙ぎ払いを誘わない限り引っ込めてしまいます。
引っ込められてしまえば、やや高所にある頭を直接攻撃する。足下付近で回避に専念していれば繰り出す尻尾の薙ぎ払いを誘発させる。もしくは次に出すまで耐久するかのどれかですね。
尻尾の薙ぎ払いに付いてはおそらく弱点であるその部分が大きく露出するので、大きくダメージを与えればちょっとだけ長く露出させるのでその間は攻撃しやすくなる、ですね。
「いまいち周辺にある柱が謎ですけれども……あれを使ってカッターブレスを避けろってことでもあるのでしょうか」
「おそらくそうかと。もっとも、太くはないですし、見誤ったら―――」
仮説を口にしようとした矢先、ミズチが水を吸い込んで口を膨らませて水弾撃ち出しの動作。少しジュリアに見せるために、私へと明確にターゲットが向いてるのを確認して柱の後ろへと走り込みます。
中央からやや離れた外周にある柱の太さは人一人分ほど。その後ろに隠れたのに合わせて吐き出された水玉が柱に直撃。すると……
「っとと、やっぱりですか」
放たれた水弾が柱に直撃すれば、叩きつけられた勢いで弾が二つに割れ。それが足下に張られる水面に直撃して盛大に水を跳ね上げます。
跳ね上げられた水は柱の後ろに隠れている私に派手に飛び散り降りかかり、それほど大きくはありませんが私の体力を削りました。
ずぶ濡れになってしまいましたが、特にそれによるデバフなどはない様子。慣れっこなので気にはしませんが、濡れた事で衣服が肌に張り付く感触……くらいでしょうか。
「あー……なるほど、そういうことですか」
「そうです。なので、柱は使わずに避けるのが一番リスクが少ないかと」
「そもそも吐き出して着弾するときに飛び散ってますもの、そうなりますわよね」
予めこのダメージを見抜いていた私はすぐにポーションを取り出して服用。体力を全快してから再びミズチと相対して足下へと駆け寄るようにします。
ウォーターカッターの方であれば、水面を裂く程度なのでこんな派手に飛び散らないのでダメージはないのだとは思いますが、水弾と見間違えた途端こうなると。
水弾は水面に着弾するだけでも、質量と速度から派手に撒き散らしてましたからね。水弾よりも細い柱の後ろに隠れた程度であれば、防ぐ以前に抜けた分がああして飛び散ります。
「これで情報は大方出揃いましたか」
「あったとしても、ウォーターカッターの振るい方が多少バリエーションあるくらいでしょう」
「行動パターンも出尽くしましたし、じっくりと削って倒してしまいましょう」
大方の行動は出尽くしたと見たので、あとはさっくりとトドメを刺しに行きましょうか。
もちろん必要以上にダメージを負わないように慎重に、じっくりと、ですが。
ミズチといえば蛇の姿をした水神様でありますが、分体にしているので大分格は下がっています。
ちなみに筆者にとってミズチといえばデビ○ルに出てきたミズチです。オトヒメ?作りましたよ。
攻撃に際しては色んな水にまつわるものをミックスしてたりしますが、わかるかな……?
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