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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-FINAL 幸運と不幸の大化け猫/World Eater Midgardsormr

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319/390

319.運を逆さに、命も逆さに、ぐるりと回って黒猫の瞳

「《寅爪牙》、そこだよ!」

「《重月》、《斬月》―――上手いですね!」

「あれ本当にあの牛と同時に動かしてますの……?」


 一巡して夜霧さんとの二戦目。私達の一戦目が安定しすぎていてただけであって、やはり一歩引いた地点の人達にはやはり手に余る様子。

 私たちの次のパーティに切り替わった瞬間、おおよその仕掛けは暴いていたとしてもやはり一気に押し返されたのは言うまでもなく。

 それをギリギリのところでイーブンに持ち込んだのはラメルの式神による支援。そして《猫刮村正》による徹底的なデバフ解除でした。

 適度に、そしてここ一番のタイミングを読み切って走らせる継続回復とデバフの解除を行う《子郡浄》の行使。そして、不幸によって消耗させ過ぎないための壁役たる《鋼丑》と攻撃の補助に回る《寅爪牙》。

 複数のデバフを定期的にすべて解き、その上でボスの動きを緩めて攻撃のタイミングを作り出す《忌猫の魔払い》。これらを組み合わせることで五分またはそれをほんの少し上回れる結果は出ていました。


「次、攻撃来ますよ!」

「その前にバフの解除準備ですー!」


 しかしほとんど有利の様相を見せていたとて、体力も減り始めれば夜霧さんも動き始める。細剣の動きは素早く精密で、紗那さんの弓術と通ずるところも感じられます。

 少しだけ身を屈めたかと思えば、守りの薄くなりつつあったイチョウさんへと視線が向くと同時にタンク達の合間を縫って一気に襲い掛かりに行きました。しかもそれと同時に―――


「っ、[攻撃力低下]のデバフ!」

「ええい、大変だねえ! 《子郡浄》!」


 その間を通り抜けられた人に対してひとつずつのランダムデバフ。私は攻撃力低下のデバフを貰いますが、すぐに走ってきた小さな白鼠達がデバフを解除していきます。

 けれどそちらを気にしている余裕はなく、遊撃の私とチヨちゃんは夜霧さんを止めるために全力疾走。《瞬歩》でギリギリで追いつきつつも振り抜かれた細剣の一閃を受け止め。

 危うくもう少しでイチョウさんに手が届くところでしたが、当人もすぐに対処できる動きをしていたようで。それでも防御力の低いイチョウさんがダメージを喰らわなかっただけいいとしましょう。


 私達が次のパーティに交代した後に明らかになった性質として、一定周期ごとにランダムターゲットで強襲してきます。結構なスピードであり、狙いもランダムのため結構対処しづらいんですよね。

 その上でターゲットに接近するまでに通り抜けた人に対してランダムデバフをひとつ付与。ランダムも結構種類があって、単純な[攻撃力低下]や軽度の[毒]から[詠唱阻害]や[飛行不可]というピンポイントなものまで色々付与してきます。

 飛行しないと戦えない種族……翼人やドラゴニュートなどはまだ地上戦が出来るのでまだしも、常に飛行状態でいる妖精だけはランダムながら即死に等しい[飛行不可]への対策として、他のボスのところへ行くことを推奨されていました。

 ただ他にも一連の動作でこのランダムデバフの中に致命的なものがあり、それが[移動速度低下]。後方がターゲットに取られた時に阻止するサブのタンクや遊撃役に掛けられた時は最悪で、なんとか自衛するしかなくなるんですよね。

 なので現状では最も注意するべき攻撃として認識されていて、ラメルの《子郡浄》が超強力なサポートとなっている一因でもあります。


「た、助かりましたーっ」

「ふええ、[飛行禁止]は翼人には致命的ですよぉ」

「あの細剣、厄介すぎる」

「直撃で当たると強めのデバフ付与だからねえ。解除は出来るけれど、出来ればやはり当たってほしくないな」


 夜霧さんが手にしている細剣というよりは小太刀のように見えますが……東洋技術で作られた、言うなれば細刀とも言える不思議な武器。

 軽量なのかその剣閃は軽くも鋭く、順手と逆手を器用に持ち替えながら今も私と入れ替わったウケタさんとヒルデの攻撃を捌いていますし。どちらも大剣ですが、的確に側面を峰で弾いたり逸らしたりしていますし。 

 そして攻撃時の追加効果として、相手に直接ダメージを与えた場合にやや重めのデバフが付与されます。味方が使うと強力に見えますが、敵が使うとこれほど厄介なものはないでしょう。

 直撃ということはバフなどを付けていれば無効化は出来るのですが、かといって夜霧さんの速度に対応できるかというと。盾役へ途切れないように付ける分で精いっぱいになっているとも言いますか。

 あとはヒーラーによる即解除ですが、その一瞬を突いてくる時があるのでそれでも油断はできません。それで崩れかけて交代したパーティも少なからずいましたからね。


「残り体力があと少し、ということは」

「第二ゲージ突入も間近ですのね! っとぉ、危ないですわ!」

「はい、一気に削りましょう」

「であれば、私の出番! 皆さま準備はよろしいでしょうか!」


 残り体力は一割を切ったところで、すっかり馴染んでいる巴さんが声を上げました。同時に、アタッカー全員が待ってましたと言わんばかりに呼応して声を上げます。

 それを見た巴さんが、こちらから言わずともクールタイムの明けた《猫刮村正》を手に《忌猫の魔払い》を発動。鈍い輝きと共に現在付与されていた状態異常をすべて消し去り、夜霧さんの動きを緩めて。


「《狐八葉》!」

「《鋼丑》、動かすな! 《寅爪牙》、追撃を仕掛けろ!」

「《ブラッドウェポン》、お喰らいませ!」


 瞬間、私は《飛燕》を使って一気に距離を詰め、間近にて三刀を抜いての同時の斬りつけ。夜霧さんの動きは鋼に包まれた大牛によって避け口を阻害されて直撃し。

 私に続くように繰り出されたヒルデの大剣が放つ赤い剣閃に合わせて飛び込んだ虎がその爪を振るっての追撃。後方からは援護射撃として十二の追尾矢が雨のように降り注ぎ。

 あっという間にその夜霧さんの体力の残り一割が削り取られてゲージが割れる―――それと同時に、夜霧さんが大きく飛び下がりました。

 恒例となった第二段階への移行ですが、どうやらこれまでとは一味違った様子。さて、何をしてくるのか。


「にゃあああああああ!!!!」


 その場で一息吸い込んでからの、一体に響き渡る大きな鳴き声。即座に全員がステータスを確認しますが、特に不幸(デバフ)は付与されてはいません。

 けれど、彼女を中心としてフィールドの様相が一気に変化し始めました。そう、稲花さんと戦った時や、霊華さんが見せた《黄泉比良坂》の時と同じような。

 辺り一帯が先ほどまでの昼の様相とは違う、黒に塗り潰されていき……月の明かりで照らされた先に、その闇の中で輝く黄色い双眸と小さな小さな猫の姿。

 その猫は以前何度も見た、夜霧さんのもう一つの姿。二つ名を象徴するそのものの姿でもある《不幸の黒猫》、数多の伝承の中で語られる黒猫……《ケット・シー》の姿。


 すぐさまに動き始めたと同時にこちらも動けるようになりましたが、フィールドが変化したことによって暗い森の中になったこと……それと黒猫の姿になったことで完全に夜闇に紛れて視認することが厳しくなりました。

 待機している面々は生活魔術の灯りを付けるもの、《パイロットライト》を使って周囲を照らしているようですが、自分ひとり分を照らすのが精いっぱいの様子。

 そんな中でこちらがやり辛くなったことを欠片も意に介さないように、名前の通りに夜霧さんはその夜闇に紛れ―――


「っ、ぐっ!? 機動力が!」

「今あっちにいたはずなのに、ぎゃん!?」

「こっち! ええっ、今さっきここに―――わうっ!?」


 ふ、と私の背後に気配を感じた瞬間には猫の姿で鋭利な爪を振り降ろしていて。咄嗟に刀で受け止めるも、すぐにまた夜闇に紛れるかのように姿を消し。

 かと思えばチヨちゃんが背後から不意打ちを喰らったようで、三種類の状態異常が付与されていました。治療に掛かるヒーラー組を他所に、既にもうフキノへと攻撃を仕掛けているようで。

 先ほど一瞬姿を見せた折は猫の姿だったのに、フキノへと攻撃を仕掛けるときは人の姿。しかも先ほどとはまた武器が変わっており、細剣では無くなっているようですが。


「ああ、ごろっと変わり過ぎだよ全く! ルナさん、パロットを。それとたぶんそっちに行ったよ!」

「ふぇ!? あっ、はいっ! 《トリプル・ボルトパロット》!」

「ああ、確かに一瞬見えましたが。これは―――!!」


 ラメルもちょっと難しい顔を見せているようで、動体視力は人並み以下の彼女にとってはこの状況は辛い様子。それをなんとか補うようにミスティアが動いていますが、夜霧さんの攻撃を避け切るか受け止めるかが精いっぱいの様子。

 私でも不意打ちを喰らうほどですから、次の《魔払い》が使えるようになるまでキツそうですね。なんて言っている矢先に暗闇の中に動く姿が一瞬見え……次はウケタさんですか!

 指示通りに放たれた雷鳥が放つ魔術光で一瞬だけ見えるようですが、捉えるまでには行かず。むしろ雷鳥はすぐに叩き落されてしまったようですが、次の攻撃先が一瞬わかっただけよしとしましょう。


「ウケタさん、そっちです!」

「うおっと!? これは危な―――なんだこれ!?」

「今のを直撃で貰ってたらもれなく大量のデバフですわ!」


 そしてその一瞬、ウケタさんへと攻撃した夜霧さんが手にしていた……いえ、ある意味では転じたとも言える異様な武器が一瞬明らかになりました。

 まるで猫の爪のように転じた、五本の細剣が付いた手袋とも言いましょうか。それを両手に、計十本もの刃で斬り掛かってきているようで、先のように武器一本一本にデバフの判定があるとすれば、十つという壊滅的な量のデバフが付与されることに。

 流石に挙動から見てもそこまでするのはタンクに対してだけのようであり、他には猫の姿での爪による攻撃。ただし、それでもチヨちゃんがやられた通りなら一気に三つでしょうけれど。

 ともかく細かに闇夜に紛れて動く彼女を何とかしない限り、どう攻撃を仕掛けてくるのかは見えないまま。直感としては辺りを照らせればいいのようですが。


「リノ、出来るだけの頻度で《フラッシュプロード》を! イチョウさん、フキノ、《閃耀》―――《八卦》の属性技でなんとかしましょう!」

「弱点ですものね、賭けるしかありませんわ。リロード!」

「はいー! チヨちゃんのデバフも解除し終えましたー!」

「はい、旦那様!」


 とりあえず思いつく対策がこれくらいしかなく、今なお高速移動しながらランダムに不意打ちを仕掛けてくる夜霧さんを捉えられるのかとは一瞬考えますが……

 リノが適当に撃った光の爆破魔術こと《フラッシュプロード》が周囲を照らせば、一瞬だけ人の姿で巴さんに襲い掛かろうとする姿が見えました。手にしている唯装もあって猫姿では、とはいかないのかも。

 ただそれに対してイチョウさんが光り輝く《ホーミングアロー》を放ったことで私も視界に捉え。斬撃を飛ばす《閃耀》を三発放ちますが……軽く跳ねて下がられ、また夜闇に姿を消されてしまいました。

 ただその先はルナちゃんではないことは確かで、操る雷鳥はターゲットに当たるまでは持続するようで、彼女の周囲を飛び回るそれが紫電の発光で周囲を照らしているためか不意打ちがしづらいようですけれど。


「まるでアサシンのようだね! これでは《鋼丑》が咄嗟の防御にしか使えないよ全く!」

「そういうものです! とにかく素早い……!」

「こういうときは《ブラッドホーミング》、ですわ! っ、はれぇ!?」


 次の攻撃を受けたのはヒルデで、人の姿による五本爪……というか両手併せて十本の斬撃を防いだあとに、思いついたように相手と繋ぎ留める血の鎖を投げたのですが。

 捉えた、というより捕まえたのまでは私の眼でも追えたのですが、すぐに猫の姿に変わってするりと抜けてしまいました。なんというか、上手い……

 ただ今ので猫になったということは、タンクと巴さん以外の誰かしらが次に狙われるということで。となれば、当てずっぽうとなりますけれど……そっと刀を納刀状態に、久々にですけれど《居合術》のモードへ。


 《居合術》の納刀状態であれば、接近攻撃或いは飛び道具を使った相手へと自動でカウンターを仕掛けられます。

 収めていると殆どの《刀術》が使えなくなるのでデメリットの方が大きいのですが、今回においてはおそらくメリットの方が上回るでしょう。

 それを実証するように、ふ、と極限まで気配を殺した猫の気配が現れると同時。私の意思とは無関係に刀が抜き放たれて、その爪による攻撃を弾き返しました。


「今です!」

「はいー! いきますよ、《十六夜金月・繚乱》!」

「《トリプル・ライトニングレイヴン》!」

「全MP持っていく勢いでいきましてよ! 《レイホーミング》!」


 私が声を上げると同時に、この夜闇の中では眩しすぎるほどの弾幕が一気に夜霧さんへと襲い掛かり。

 これだけ明るければもちろんその移動の軌跡も分かりやすく、第一形態と違って《破損の不幸》もないために威力が軽減されることもなく。そして相手の姿さえ明瞭に捉えることさえできれば。


「さあて、ちっちゃい子相手には重いだろうけど、交代前にいっちょぶちかますかねえ!」

「見えてしまえば―――参ります!」

「さっきのお返しです!」


 真っ先に重い足音を上げながら駆け出すのは強烈なデバフを持つフロクスさんで、俊敏に動きながらも矢と弾丸の雨を潜り抜けた先で待ち構えて《破砕撃》―――強力な防御ダウンのデバフを与える一撃を叩き込みました。

 絵面としては本人が言う通り、大柄な猫を金棒で叩くという格好ですけれど四の五の言ってられず。追撃と言わんばかりにフキノが飛び込んで双剣での乱撃を叩き込み。

 乱撃が終わって浮いたそこに対して、横から突っ込んでくるのはパーティ最速の雀。いつの間に持ち替えたのやら大太刀を構えて突っ込み、一瞬のうちに人の姿に戻った夜霧さんと空中で打ち合いながら叩き飛ばし。

 意図してか、私の方へと飛ばしたところを見るに。交代する前に決めろということでしょうね。


「間に合いました、《忌猫の魔払い》!」

「クレハ!」

「お願いしますよ!」

「はい! では―――」


 チヨちゃんから待ち構えていたウケタさんとヒルデの二人へとバトンタッチ、からの二人の大剣技からのホームランで私の元へと飛ばされてきます。

 ギリギリクールタイムが明けた《忌猫の魔払い》の効果もあって、一瞬だけ月明かりだけでなく星明りまで加わって魔術の明かりが無くとも夜霧さんの姿がはっきりと映り。そして弱体化の効果まで付与し。

 そして今思いつく、最大威力の攻撃。目の前には飛ばされた反動すら生かそうと襲い掛かってくる夜霧さんの姿。一瞬目を閉じて、その爪の閃きが迫るのを待ち、


「《重月》、《新月》―――」

「に、ぎゃ―――!」



「《鏡月》!」



 夜霧さんの爪の先が、私の間合いに入った瞬間。鞘に納められていた刃が抜き放たれ、蒼い輝きを持ったその刃が黒猫を引き裂き。

 条件さえ整ってしまえば《水龍閃》以上の瞬間火力を叩き込む最大威力のカウンター。その必殺の一撃は目に見えるほど夜霧さんの体力を削り取ったうえで大きく吹き飛ばしました。

 流石に大ボスと言えどここまでの連携を以ての攻撃で第二ゲージの体力も大きく削り飛ばしており、一割強ほど消し飛ばしています。

 ですが、ここで止まるわけではなく。まだ私の手札は残っているのですから、交代する前にすべて叩き込むとしましょう。


 先の一撃が非常に重く効いたのか、夜霧さんの敵視(タゲ)は私に移っているようで。再び襲い掛かってきますが―――


「《水龍閃》!」

「にっ」

「ら、のっ、《清流遠呂智》!」


 吹き飛ばしたところから腰を落として溜め、すれ違い様に放つ水刃による防御力を無視した一閃。

 すぐに刀を持ち替えて《八卦・水》を付与し《清流遠呂智》。八連の水刃が乱れ飛び、流石にいくつかは避けられるものの、それでもそれなりのダメージを与えられました。

 私が引き付けている合間に、交代の時間も間近だったのもあって他の面々は撤退準備をしているようですね。ではもうひとつ温存していたものも叩き込んでおくとしましょう。


「では―――《狐八葉・黄昏舞踊》!」

夜霧のデバフは不幸以外は解除可能ですが、あんまりにも多種多様なのでなんだこれというものもあります。

毒や麻痺といったわかりやすいものから、攻撃力低下とか防御力低下といった重い物や悲嘆とかスロウとか。

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