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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-FINAL 幸運と不幸の大化け猫/World Eater Midgardsormr

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312.Crimson Flame Passer / 姉と妹を眺めておいて

「これで、えーっともう何百匹目!」

「もう数えるのも面倒になってきたのだな!」


 夜も深くなってきた頃、思う存分ギリクラティア周辺の竜を狩り尽くした頃合い。もうみんな何匹倒したのかわからなくなってるほど倒して、素材もたんまり手元にあるくらい。

 お姉ちゃんは猫幽霊をこれでもかと倒し尽くしていて、スキルレベルを上げる素材が三桁を軽く超えるほどには手元に集まっているらしい。

 それを言ってしまえば、今回トップ勢として参加している人たちはだいたいそうかも。ギルドのみんなも昼夜を行き来して結構な数を狩っているし、主な武具の作り手たるトット姉もあとで装備を作るのが楽しみだとか言っていた。


「んぅー、そろそろ眠い……」

「ジュリア、ライカが電池切れ間近だよぉ」

「早朝から頑張ってくれてましたもの。多少早くとも仕方ありませんわ」

「そうだねえ、私も朝が早かったからぽやーっとし始めたし……」


 おっと、もうそんな時間だったっけ。ライカは昼間に一度離脱して昼寝をしていたけれど、ルーチンワークとしてもこの時間にはどうしても眠くなってしまうらしい。

 トット姉もほとんど同じ時間に起きて動いていたからか、同じように欠伸をしている。十分なほど狩ったし、そろそろ明日の最終決戦の準備として街に引き返すのも悪くないだろう。

 普段遅くまで一緒にいるトトラとキユリもなんとなしに疲労の色が見える。やっぱり決戦にはベストコンディションで挑むべきだし、お姉ちゃんはとっくに明日の打ち合わせに移っている。


「それじゃあ今日はここまでですわ! ギリクラティアまで撤退!」

「「「ふぁーい」」」


 うん、わかってはいたけれどやっぱり何人かの返答が少し眠たそうだ。これは正解だったかも。

 私もまだまだいける、とは言いたいけど流石に体力切れも近い。さっき一瞬だけど火竜のブレスを貰いかけたからね、無理をするワケにはいかない。


『ジュリア様、お疲れ様ですの。この調子であれば、決戦の開始予定時刻まで苦境に陥る場所はないはずですわ』

「一安心ですわね。あとは下手を打つことがなければ、ゆっくり安眠できそうですの」

「これだけ狩ったのだ! 当然なのだ!」

「うぇへへ、これだけ竜素材があれば妖精サイズのローブも作れるかも!」

『特に手出しをしなければ、戦闘無く街に戻れるはずですの』


 槍を肩に掛けて、みんなと街へと向けて歩き始め。お姉ちゃんに作ってもらった《黒山羊》素材のご飯も底を尽きたから、おばあちゃんに頼んでおいたのを受け取りに行かないとね。

 スタミナ消費低減効果はやっぱり絶大で、三十分くらいなら休みなく相手しても問題ないほどだった。おかげでトップ勢と圏外組の中間、黒山羊がそこそこ狩れる人たちは肉を供給するために《龍誕の秘境》で延々と狩っていたとか。

 私達のギルドからはカルンさん達が向かっていて、キノコも一緒に狩れるだけ狩っているのだとか。そこから供給を得たおばあちゃんは食材調理にとコシネさん達に合流して、料理を次々と作っては配って回っていた。

 これがかなり大助かりで、どこも大きく継戦能力が上がった。数を倒さないといけないという都合、長く戦闘が出来るとなればそれだけで多く倒せるわけだから。

 ただ大盛況過ぎて常に枯渇気味になったのは言うまでもなくて、あまりにも足りなさ過ぎてアルラウネ達が経営する《翡翠堂》にも販売されていたスタミナ軽減効果付きのお菓子にも殺到したのだとか。


「……ん」

「見たところ圏外組のパーティなのだな」


 明日どこから攻め込むかを考えながら歩いていれば、当然のようにこちら側に来たての圏外組とも遭遇する。あるいは、つい最近圏外組の仲間入りをしたような人たちも。

 目の前のパーティは六人のフルパーティで、氷竜と雷竜、それに風竜を相手にしている。来たてにしてギリクラティア周辺にいるレベルカンストの竜三匹はちょっと荷が重い。

 何しろ後方、少し後ろとは違って生半可なステータスをしていないので舐めて掛かると即座に全滅する。私たちのような圏外組でも異端、"ここ"の竜相手を単騎で一匹二匹相手出来るような面々とまるで違うからね。

 案の定、舐めて掛かったわけにないにしろパーティのうち半数の残り体力が一撃圏内(デッドライン)にまで減っている。これでは壊滅も間近だろう。

 ああ駄目だ、そんな避け方をしていたらほら、氷竜の氷礫に当たりそうになっているし。何ならまた一人、また一人と体力を減らされている。このままだと全滅だろう。


「ああもう! まどろっこしいですわね!」


 大きく翼を広げ上空高くに飛んでから、急降下しつつ《トリプル・マグマランス》を風竜に撃ちつつ《ホークダイヴ》を仕掛ける。既に極まった今では、この一連の動作(バーストダイヴ)を行うのに五秒と掛からない。

 された方や見ている方はよっぽど目が良くない限りは一瞬のことに驚くだろう。現にそうだし、不意打ちのように私の一撃を喰らった風竜はそれだけで体力を四割強減らされていた。

 だからとそれで終わるわけなく、後方へのひと羽搏きをしながら《トリプル・フレアプロード》の閃光で目くらまし。下がったと見せかけての《ダスクラッシュ》で思い切り一突きしつつ、刃先を叩き付ければ体力を失った風竜はその場に倒れ伏す。

 すぐに次、と逡巡すれば私の声に反応して半覚醒し、敵を認識したライカが氷竜に突っ込んで手加減なしの格闘技を叩き込んでいる。人間の動きじゃない、と呟きたいけど、ゲーム内だと私は人のことを言えない。

 では残りのもう一体、雷竜はというとキユリが《クリーパーヴァイン》で動きを止めつつトトラが至近距離で《トリプル・ヘイルブレス》でヘッドショット三連射を決めていた。なんというか、さすが。


 思いがけず飛び出したけど、私達の手にかかればこんな感じだ。間一髪で難を逃れた圏外組パーティはほっと一息を吐いて気持ちを落ち着けようとポーションを使っている。

 さっきまでもだいたいこのノリで片っ端から竜を片付けていて、時々涼さんと海佳さんが手伝いに来てくれていた。相当な数倒したと思うけど、それでもまだまだ出てきてるんだよね……


「あ、あの。ありがとうございました」

「ただの通りすがりですわ。気にしないでくださいませ」

「次からはできるだけ一体ずつ倒すのだな!」


 パーティの代表らしい青年が一礼。それに対して私はいつものように返し、地に降り立って再び歩き始めます。

 ただし助けたかわりにゲームシステムに則りドロップ品の半分は貰っていく。ラストアタックの報酬として、だけど。

 トトラのアドバイスはそれもそうであるんだけど、パーティ単位だと要求するにはちょっと難しい話かも。二体ずつくらいからスタートするのがよさそう。


「んへへぇ、これが《紅炎の通り魔》なんだねぇ」

「通りすがりの人助けもそうなのだけど、殆ど戦い下手でジュリアが気になって乱入するのが真相なのだな」

「それに関しては私も最近わかるようになっちゃって、しれっと助けちゃったりしちゃいますね」

「むむ、わからんでもないな。むしろ最近のライカも影響されておる」

「だねぇ、ジュリアの真似って言いながら蹴とばしてることよくあったし」


 いつの間にか付いていた二つ名も、きっかけはそんな単純なことからだもの。

 英雄はただのお人好しとお節介から始まるもの、とはよく語られることですが……なんというか、自分の気質がその切っ掛けになるとは思いませんでしたけども。



――◇――◇――◇――◇――◇――



 ―――午前一時四十五分。

 "あちら"の世界での時間、俗にいう真夜中、みんなが眠りについている時間。

 クレハもジュリアも二時間前に疲れを取るためにあっちの世界に戻っていったから、その間はこっちが維持をしないとな。


「みんな頑張ってるかんな、あたしらが動かんわけにはいかんだろ」

『身内のことですからね、できるだけ力にはなっておかないと』


  何より、今回の相手はあたし達の身内のようなもの。だったら、こっちも支援できるコトはしっかりやっておかないとな。

 

「―――前回の変動から、外形が変わった感じはねぇな」

『はい。海底の方も変化がないようです』

「てぇことは……」

『ヨルム様の休眠用の形状ですか』


 海佳に海底から見てもらい、遥か上空からはあたしが見る。今のところ唯一島に上陸できるのは東の浅瀬からで、そこは海佳の領域だ。

 同時に今いる西の空は小火山を山頂としてあたしの領域だから、これなら問題なくみんな上陸できるだろう。ギリクラティアの港で大きな船も用意してあるから、そっちの準備も整いつつある。

 みんなが戦って負傷している分、休んでいる間はそう簡単に動きはしないはずだ。目立つ行動をしない限りはだけど。


「……ヨルム様、上から見ても見当たらねえな」

『となると、隠れ家の洞窟の中でしょうね。ただ、上空からは見えないとなると蛇の姿でいるわけではない……』

「のんびり眠ってくれているだけだといいんだけどなぁ」

『それが一番ですわね。本島、後方は今のところ安定していますのでもう少し観測してくださいませ』

「了解だ」


 高空から見下ろしつつ、各々の位置を把握しておこう。あとで攻め込むためのプラン立てにもなるはずだ。

 北西側は山岳を中心とした場所になっていて、私同様に高所を根城にハツネ姉が体を伏せて休んでいるのが見える。高所で海側ということもあって、ここは疑似的な灯台のような役割も持っている。

 その少し南にちょっとした溶鉱炉にも見える小火山があって、そこがあたしの領域。ちょっと異様だけどその麓に凍り付いている一帯があって、そこにサツキが寝床を作っている。

 南西側の平地、やる焼かな渓流との境目がある場所にはシグレ姉が潜んでいて、そこから東に続く更に鬱蒼とした森林の中にカザ姉もいるはずだ。こっちは奥地になるからまたあとの遭遇になるはず。

 西側の海岸は言ってたとおり、海佳の領域で勝手に作ったらしいプライベートビーチだ。今は誰もいないため、ここに船をつけて上陸する予定になっている。


「最初に遭遇しそうな面々はしっかり寝てるな」

『一番怒り狂ってると思う火燐は……?』

「姿は見えねえけど、これは東の火山で眠ってるな」

『結構な深手を負わせたからでしょうか。姉妹のどれよりも狂暴になっていそうですから』

『ジュリアが当たる予定とは聞いていますわ。あれだけは私がやると言って聞かないので……』

「確かに半端になっちまったもんな……」


 聞いた話で、ジュリアと火燐はよくニアミスしたり直接戦うのに近いことがよくあったらしい。実際にジュリアと火燐の戦い方は結構似てるし、どことなくライバルみたいになるのは不自然じゃないだろう。

 そのうえで実際にジュリアルプ火山で一戦交え、追い込んだにもかかわらず火山を噴火させて逃げるということまでやっている。これでジュリアが追いかけないとなると嘘だろう。

 ただ、戦うのはどうやっても一番最後になる。島の真ん中にある一際高い山はヨルム様の拠点だから、ここを通過して火燐のねぐらに行くことはできないし。


「ん……?」


 十分ほど様子を見て戻ろうとしたところで、ちょっとした違和感に気づいた。各々の場所は把握したけど、気配の数がひとつ足りない。

 多少動いて寄り添って寝ているのかも、と思っていたけど、それにしては何かおかしい。顔をしかめて各々の場所をもう一度見まわして――――そしてその違和感はすぐに的中することになった。


『涼! 海が『揺れて』います!』

「しまっ―――!?」


 声が上がったのは海にいる海佳から。そのたった一言だけで何が起きたかは察することが出来た。

 そんなことが姉妹の中で出来るのは一人だけだし、視線を動かせばギリクラティア本島に繋がる浅瀬が盛り上がり、まるで海から現れたひとつ道のようになっている。

 何より距離感覚が狂うこの島だから気づかなかったけど、ふと見上げれば本島と"近く"なっている。空、或いは海の中で動きながらだったから気づかなかった。

 そしてそれを引き起こした張本人はというと、陸路を発生させたたもと、海佳姉の海岸にあった。次の瞬間にはその鈍重な姿に似つかわない、とんでもない勢いで跳躍してギリクラティア側の陸地へと向かっていってしまった。

 こないだ戦った時にルヴィアさんからの扱いに爆笑したバチだろうか、いやそんなバチ嫌なんだが。


「やべえぞこれ、揺葉が起きた!」

『すぐに伝えないと! フィニアさん!』

『―――っ、既に交戦状態になったそうです!』

「まずいな、今ジュリア達主力はみんな寝てるんだろ……!?」


 すぐに空中で方向転換して全力加速で追いかける。海佳姉も急いでそちらに動き始めたけど、既に不意打ちで一つパーティがやられたらしい。

 揺葉は小さくもおどおどした外見に似合わない、"振動"―――あるいは"地震"を操る岩竜だ。さっきの跳躍も素の力とそれで跳躍によって振動を反発させた合わせ技だろう、幸いあれで他の姉妹が起きた様子はなかったのは不幸中の幸いか。

 とにかく。ここからみんなが起きてくるまで耐えなきゃいけない、或いはなんとか倒すか。


『二人とも、偵察ご苦労様! 他に起きたのはいないのね?』

「プリムの師匠か! もう島から離脱はしたが他にはいねえ!」

『海中に出てきたのもいませんでした!』

『それじゃあ朝までの耐久戦、二人も手伝ってあげて! 揺葉ちゃんのことはよく知ってるでしょ!』

「最初っからそのつもりだぜ!」

『揺葉と戦うのは久しぶりですが……!』


 陸地が見えてくれば、すぐに指示を聞いて集まってきた来訪者たちが続々と戦闘を始めている。ちょっとでも持たせるために2パーティ……ええっと、12人ずつが10分だか15分のローテーションで戦うらしい。

 それぞれが全力で当たるための方針らしいけど、深夜の今だと人が少ない。プリムの師匠曰くとにかく人が集まるまでは戦闘状態を継続させられればいいとのことだけど、それはおそらく明け方だ。

 プリムの師匠たちは司令部にいるし、フィニアさんはユエさんを抑えてドラゴンズエアリーのハウスからのサポートだ。つまり、あたしたちとまだ起きてる来訪者の増援も織り交ぜて耐えるしかない。


「涼さん! 私達も手伝います!」

「ここで役に立たずとしては修行の成果も出せませんもの!」

「っと、フィアさんにセレニアさん!」

「よしじゃあ、あたしらも参加するぜ!」


 白い神官服に身を包んだフィアと、紫紺のローブを纏ったセレニアも到着していた。あたし達なら二人と組んで戦えば立ち回りもしやすいだろう。

 それに、いざという時は汚染をちょっとだけくらいなら取り除いてもくれる。あたしと海佳はそれがリミットだから、それも合わせてどこまで耐えられるかになるか。

 先に戦闘を始めた最初のパーティはとうに揺葉の背にある岩の翼でホームランされていて、あたし達の出番は思ったよりも早そうだ。


『二人も簡単に正気を失った妹にのされるほど、ヤワな鍛え方はしていないはすです。四人で出来る限り戦ってください』

「オーケー、揺葉相手に久々の腕試しだ! いくぞ!」

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