30.こういうところに決まって湧く例のアレ
決して黒いアイツのことではない。
「ここが入口ですか」
「思ったより人が少ないですわね」
《天竜十二水回廊》の入り口は、王都を南門から出てすぐ、白煉瓦造りの水門からでした。
普段と打って変わって、攻略に集う人が少なめに感じます。周りを見回して、これから攻略しようとする人がおおよそ四パーティほど。
既に三パーティほど中に入ったそうなので、合計七パーティ。多くても四十二……に、私達を足して四十四ですね。
迷宮系はこりごり、なのか、今回は人気のルヴィアやブランさんが大々的に何処に行くかを口にしたのもあるからでしょうか。
前回一緒だったカエデさんルナさんは《幽霊街》へ。サスタさんとアマジナさんは《桜街道》に向かったようですし。
「今回は二人で攻略してみますか」
「後方と前方が居ないのが些か不安ですが……まぁ、レイドではないのでいけるかと」
「レベルも突出してますからね……不安要素がもしあるとすれば、ボスに辿り着けずに迷宮を彷徨う事ですが……」
「流石にそれはないと思いますわね、掲示板にもう地図が上ってますもの」
二人でなら多少ポーションの消費が激しくなるだけで、完全に無理ということはありませんから。
現に、前回の《水田》もパーティに合流する前は二人だけでしたし、ボスがレイドでなければあのパーティのまま戦っていたでしょう。
水路の構造に関しては、先遣隊が掲示板に書き込んでくれている情報を見る限り迷う要素はなく。
ただ、とにかく大きな街に張り巡らされている水路を地下でも管理しているという都合、とんでもなく広いということでしょう。
おそらくですが、今回は単純構造設計のダンジョンで大きさによるプレイヤーの探索速度のテストに見えなくもありません。
「では行きましょうか」
というわけでダンジョンに入りましょうか。マップを見る限り、全く埋められていませんが二層構造のようですね。
私が先頭、ジュリアが後方。弾いたりとタンクの役割も出来る私が前に居て、ジュリアには松明を持ってもらっています。
天井はやや低めで、ジュリアには不利……なように見えますが……
「天井、低いですけれど戦えます?」
「飛んで跳ねるだけが槍の扱いではない事、知っているでしょう?」
「それなら良さそうですね。全力で振り回せない程狭い訳ではないですし」
「ただ、良くも悪くも突き技に絞らないとパーティだと戦えないですが……想定されたかのように半々ほどアーツがありますわ」
「それも頭に入れてこちらも動きますね」
「お願い致しますわ」
狭い洞窟形式のダンジョンであれば、私も即興ながら《水魔術》の習得も考えるところでした。
この水路は街の重要区画でもあってメンテナンスも前提にしているのか、結構道幅は広いです。名前に付いている通り、回廊というのは間違いありませんね。
第一層は二層に下りるための広場に向かう連絡通路、ところどころ下を見下ろせるようになっている橋のように思えます。おそらく行き先は支点となる中央にあるセーフティエリアでしょう。
道端に設置された手すりの向こうでは、街を巡った水が滝のように下層へと下る様も見えます。どことなく幻想的な光景なようにも―――
「おっと」
「まあ地下水路の定番ですわよね」
視線を道の方へ向けると、《索敵》が反応。出てきたのはずんぐりむっくりとした大鼠が二匹ですね。
こういう地下水路ではある種の定番とも言うべきMobですが……さて、ステータスの方はどうなっているのやら。
水路ネズミ Lv.20
属性:水
状態:通常
「ジュリア、水属性ですから気を付けて」
「結構冗談キツめですわ……気を付けますわね」
「その代わり、もう一匹は風属性のようです。あとは判りますね?」
「了解ですわ。すぐに倒して差し上げましょう」
ジュリアの得手不得手を抑えるかのような属性を持つネズミだこと。私は抜刀し、すぐに水属性のネズミの方へと斬りかかります。風属性の方は私が対処できないので、ジュリアにパス。
が、流石にそう体力が低い訳ではなく、レベルとスキルレベルでの一撃の威力を考慮しても一撃で三割。二割にならないのはガインさん製の武器だからでしょうか。
《薄月》から《月天》へと繋げてあっと言う間に葬り、ジュリアの方も《ダスクラッシュ》から《ランスピアシング》で風属性のネズミを二撃で。弱点乗ると早いですね。
「流石にレベルが上がってくると頑丈ですね」
「三発で倒しておいて何を。ほんとこの槍は使いやすいですわ、取り回しがしやすいですもの」
「威力も申し分ないですから、終わりまで使って行けそうです」
これくらいの速さで始末できるのであれば、そう奥に進むのも時間はかからないでしょう。慎重に歩きながら探索を続けます。
刀の使い勝手の方も、先程振っただけでも威力は十分かつ、感じた通りの手応えと取り回しのしやすさでした。
リアルでは結構有名な職人だったりするんでしょうか。とはいえ、ゲーム内のアシストも相当掛かっていそうな気もしますが。
「このあたりは一本道で、通り易さはありますね」
「上から見えるだけ、本番は二層に入ってからみたいですわね。多重に入り組んでるみたいですし、トビウオらしきものが見えますわ」
「トビウオ? ここは川ですし淡水ですよ?」
「とは言われても、それっぽいものが水路から飛び出して……」
たまたま下を見ていたジュリアがそんなことを口にします。あははは、まさかー。
魚が水面を跳ねる事はあれど、トビウオは海で波を使って跳ねるのですから。波もない水路で飛び出してくるなんてそんなことは。
ですが、それを一概に否定しきれないのが仮想世界。上の層はネズミだらけですが、下の層は何が出て来るやら。
少しばかり進んだところで、複数の足音を聞き取り、そちらへと意識を向けます。
「ジュリア」
「わかってますわよ。ひーふーみー……八匹、これは大群ですわね」
「それならさくっと」
「行きましょうか」
現れたのは先程の水路ネズミ。ですが、その数を大きく増やして八匹と来ました。
属性は半々ですが、互いに互いの弱点でもあるのでどちらかを通すとどちらかに大ダメージが行きます。
であれば、速攻あるのみ。
「半々ですわね」
「その通り、っ!」
示し合わせれば、同時に飛び出し一匹目に《斬月》を喰らわせて体力をミリ単位にまで持ち込んでからすかさず追撃の一振りを入れて倒し。
二匹目に視線を向け、飛び掛かってくる三匹目四匹目を飛び下がって避け、すぐさま《行月》で再び間近に接近して一撃。《新月》を入れての《薄月》、更に二撃を加えて二匹目を切り伏せます。
「まずは二……」
仲間がやられたのを見た残り二匹が毛を逆立てて、こちらに体当たりを仕掛けようとしてきます。
とあれば、それは好都合。よくよく二匹の体当たりの軌道を見据え、身を引くようにして回避しつつ、ちょうど目の前を通るのに合わせて縦斬りを繰り出して三匹目に致命打を入れます。
四匹目については今は避けるだけ。致命を喰らわされた三匹目が動きが鈍っているのが丸わかりなので、追い掛けてそちらにトドメ。
改めて四匹目ですが、無視されたのが気に喰わなかったようで私に対して噛み付きを仕掛けようとしたところで―――白刃を煌めかせてのカウンターによる一閃を入れました。
飛び掛かる勢いもあって強烈な一撃になったのでしょう。顎下を大きく斬りつけながら地面をバウンドして壁に激突して四匹目が力尽き。
「姉様、増援ですわ。《フレアプロード》!」
「厄介ですね!」
ジュリアの声と同時に、その方向から火魔法が炸裂する音がしてネズミの二体が吹き飛んでいき。柵に激突して二匹のネズミが息絶えました。
弱点属性なのとスキルレベルも相当高いですからね。いくらINTに一切振ってないとしても、威力の高いプロード系だからでしょう。
道の先を見ればさらに四体が追加。一匹いればなんとやら。
この様子だと倒せば倒すほど出て来るタイプと見ました。やり過ごすなんて器用な事は出来ないので―――
「切り抜けるしかなさそうですね、下に降りるところまで駆け抜けましょう」
「パワープレイになりますが致し方ありませんわね。行きましょう」
お互いクールタイムの明けた《行月》、《ダスクラッシュ》で手前の一匹目へと距離を詰めれば互いに別のアーツで追撃。
ネズミを速攻で一体屠ればその間を抜けるようにしながら《円月》でまとめて引き裂きます。ジュリアは《フレイムスロア》で周囲を薙ぐようにして牽制と範囲攻撃を纏めて。
「六!」
「八!」
先の《円月》によるまとめての斬撃の手応えから悟ったネズミの弱点を一体ずつ確実に、二撃必殺。《月天》で強化した《薄月》を使い更にもう一匹。
飛び掛かってきたネズミに合わせて納刀し、反撃の居合で一閃。返しの刃で追撃を入れて斬り捨てれば、合間を縫って更に先へ。
弱点を突けるジュリアに対して等倍ですから、直接的なところで一歩劣ってしまいますが……だから、と狙うべきモノは逃したりは出来ません。
「十一!」
「んあうっ、十二!」
手近な壁を見るなり、身体強化系のスキルで強化された跳躍で跳ねて壁へと移り、それを足場に手近な一体へと向けて《降月》で勢いの付いた斬撃。
一度納刀すればその隙に襲い掛かるネズミに対して確実に一回ずつ居合の反撃を入れ、発動しなかった対象にクールタイムの明けた《薄月》で斬り付けて仰け反らせてから"蹴り"を喰らわせます。
不意打ちだったのでしょうそれを喰らったネズミは、居合のカウンターで怯んでいたネズミ数匹に叩き込まれてまとめて始末。
「また容赦の無い事を思いつきますわね、姉様……! 十八!」
「時として使える手はなんでも使うものですよ……見えましたね! 十九!」
残るネズミ数匹の向こう、ちょっとした広場とその中心に螺旋状の下り階段のあるセーフティエリアが見えます。
ネズミの数もまばらで、不意打ちでも貰わない限りは難なく辿りつけそうですね。と、ここで傍目のジュリアがこれまた曲芸染みた動きを見せてくれました。
《ジャンプアタック》を斜め上へと使うようにして飛び上がれば、天井を蹴ってネズミを上から串刺しに。
そこから《スパインダイヴ》を使って一気にセーフティエリア手前で待ち構えるようにしていた別のネズミへと穂先を直撃させつつ、着地と同時に横方向へと大きく薙ぐ《ボーバルスラスト》で残るネズミを纏めて薙ぎ倒したのです。
もっとも。属性の不利からどうしても水属性のネズミが残るので、それをカバーするように私も《瞬歩》から《行月》で仕留めそこなったネズミに接近しつつ一体。
あとは《月天》を使い残っていたものも始末……。セーフティエリアにいた別パーティからは目を丸くされながらの到着となりました。
「何だ今の動き……」
「よくあんなの思いつくな……」
「ってよく見りゃクレハとジュリアか……」
いや、はい、今更この二人だから仕方ないという顔をされましても。
ともかく、このセーフティエリアは下層へと向かう中間地点代わりなようです。
ここまでを考えると、本来ならタンク役も揃えてちゃんと始末をしながら来るべきところなのでしょうけれど……
「……ちょうど夕飯の時間のようですわね、一度ログアウトしましょうか」
「そうしましょうか、夜は軽く下層を散策するくらいしかできなさそうですが……」
時刻を見ればそろそろ午後六時を回りそうな頃合い。一度休憩も兼ねて家事手伝いに離脱しておくべきでしょうね。
セーフティエリアであれば一度到達すれば自由に外からもここに戻ってこれるようですし、ここでログアウトしてもここから再開できますから。
そんなわけで一度ログアウトすることにしたのでした。
これでもまだやり過ぎてないらしいですよ?
さて杜若スイセン氏の方、魔剣精霊でのコラボ回が終わったようです。あんだけ暴れてもまだ上がいるのですから恐ろしい。
こちらからのコラボ回は……多分ですがざっとあと20話ぐらい先ですね!(長い) お楽しみに!
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