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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-7幕 猫鎮めの神器 / Go to Vanaheim East

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291.回想で振り返られる系ボス

「どこまで行っても蛸と水平線ですね……」

「あとは標縄……」

「干潟なのじゃなー……」


 十一月十九日。本日は暗路の三層の攻略に取り掛かっていました。

 三層はどこまでも続く明るい干潟で、ぬかるんだ干潟の上を歩いていくというもの。名称は《ユゴス海境》……うん、彼女の化身たる大蛸が出てくるのに適した名前ですね。

 ただし、フィールドデザインとしてはどこを見回しても水平線しかない、海の上に出来た干潟のような道の上。二層の草原もそうでしたが感覚が狂いそうな……それにかなり広くではあるんですけれど、道から外れると海に落ちます。

 海に落ちるとどうなるかと言えば……おっと、三層の魔物がちょうど出て来たようですね。淵の方から黒々とした蛸足が伸びてきました。ついさっき倒したばかりなんですけれど……


這いずる鮹 Lv.103

属性:水

状態:祟り


「でてきた! ほんとにここはひっきりなしなのだな!」

「くうっ、ここでは属性相性で強気に出られないのが厳しいのう……」

「それは私もですのよ。デカブツなのでこちらからも手があんまり出せないですも、のッ!」


 水属性が相手ということで、不利属性のカエデちゃんは一歩下がりました。同じく不利属性のジュリアはというと……はい、高く跳躍するなり出てきたばかりの大蛸の頭に《ホークダイヴ》を食らわせました。

 岸に手を掛けている蛸足も外れて水中へと勢いで再び叩き込まれ、それで怒ったところに対して全員で集中砲火。私も刀を抜いて、割と強めのアーツで切り込みます。

 何しろこの大蛸、夏の頃に行われた最初のイベント……大元である水葵さんが初登場したときの大蛸の姿に酷似していて、先の一層二層の魔物と比べて体力がかなり増えているんですよね。

 体躯が凄まじく大きいからでしょうとは予想はついてはいます。何せ、その代わりと言ってもいいほどに小さな取り巻きの体力が少ないですから。


「標縄も寄ってきた!」

「一番こっちが大変なんじゃな!」

「私の出番ですよー! 《アローレイン》!」


動く標縄 Lv.103

属性:水

状態:祟り


 するりと蛸と一緒に上がってきた水面を這いまわる朽ちた縄がふたつ。これはハロウィンの時にはいなかったけれど、これの大元はここの門番と戦ったのなら一目でわかりますね。

 見た目が小さく稀に現れるレアモンスターの扱いで、ちょっと目を離した隙に現れて奇襲し、ついでに祟りを掛けようとしてくる。入ったばかりの時はイチョウさんが見逃さなかったので逃さず仕留められましたが、少しでも遅れていたら大事でした。

 以降は目のいいイチョウさんとリノが警戒に当たり、出てきたときはキユリちゃんも爆撃に加わって殲滅するといった形になっています。図体が大きい大蛸には火力を集中させやすいですからね、ある意味では取り巻きからということです。

 手の空いているときに限れば、蛇のような挙動については、ライカが慣れつくしているので近接で仕留めてもくれるというか。流石、田舎組でも純正の山育ち……この程度では怖がりもしませんか。

 ちなみにこの標縄、浮いたり絡みついたりと結構トリッキーなんですよね。大蛸が付いていないときはかなりレアでありこちらが人数多いのもあるとはいえ平然と六匹以上で出てくるので猶更面倒だったり……


「ふう。一層や二層のボスほど派手ではないですけれど、こいつらもこいつらで大変ですわね……」

「ある意味ではいままでの道中とは逆なんですよね……」

「元の大蛸がボス仕様だからかも。むしろこれ、レベル設定的にもあの時のステータスがそのまま使われてそうな気配が……」

「ありそうなのじゃな」

「実際、あの時と挙動が全く同じ。だから、対処が逆にしやすい」

「まあ、中身には水葵さん入ってないので失言をしても怒らなそう、とだけは」

「それもまた懐かしい話なのだなー……」


 イベントの時はレイドパーティ三つで一ゲージずつでしたが、あの頃はというとボスのレベルは40台。今であれば私たちの方がほぼ倍近いレベルですし、個人が持つ火力もかなり跳ね上がっています。

 ある意味では妥当なのでしょうけれど、それでもダンジョンに合わせるようあの時に比べるとやや体格が小さくなっているのでその分体力が調整はされてはいるかもですが……

 ただ行動モーション自体だけは当時そのまま。大事件の起きた叩きつけの動作までそのままですし、ただ違うとすればドロップ品でしょうか?

 あの時と違って純正の水蛸素材で、蛸足とか墨だとか吸盤だとか。ただひとつひとつのサイズは外見相応に結構大きいのですけれど。

 こちらに関しては既に第一セーフティに到着した《明星》の面々がたこ焼きにしようとしてましたっけ。なんだか大成功したようで盛り上がっていましたし、実食として美味であったのも含めて後々広まるでしょう。


 一方の蛸と一緒に上がってきた標縄ですが、こちらはまあまず食べられません。その代わり、縄蜘蛛の糸というこれまた《裁縫師》垂涎の新繊維素材だというのが発覚したのがついさっき。

 三層入口で蛸と標縄の素材だけ回収して一度地上に戻り、待機していた面々に渡したところで発覚したのたとか。ホーネッツさんはルヴィアの新衣装こと装備を仕上げたばかりなのもあって倒れたと聞きましたけど……大丈夫ですかね。

 楽に手に入る素材ではないのでトップ勢御用達の素材にはなりそうですが、それはそれ。一応水蛸一の標縄三みたいな比率で沸くので、あんまりにも集まらないということはなさそうですが。

 ついで、錬金の素材にも使うのだそうですが……使えるほど錬金の方に流れるかはまた別。出来上がる品にも寄りますからね、こちらに関しては。


「にしても、二層のボスより楽だといいんですけどね」

「トトラは二層とっても簡単だったのだ!」

「遠隔勢は簡単だったですけれど、近接勢はすごく大変でしたからね……?」

「それでも結構新機軸のボスでした、迂闊に飛べないのは別として」

「キユリちゃんがなんだかんだ一番大変そうだったよね……」


 そろそろ三層のボスも近づいてくる頃……というところでやっぱり思い出すのは昨日戦った二層のボスでしょうか。

 外見としては《魔喰の食樹林》にいた《アイハイの樹人》に近くとも遠からず、といったものでした。違うと言えば、大樹のような全身に根を張った無数の百合の花とその花弁から吐き出す強風でしょうね。

 その名称は《百合大樹の風伯師》。間に挟まったら塵も残らず消されそうですが、本当にそんな名前でした。

 近寄るとその花弁から強風や風魔術を吐き出し、まともに近寄ろうものなら全身から生える白い花が風を噴き散らしているのでまとめて吹き飛ばされ。ついでにこのせいでボスフィールドが強風に荒れることに。

 そのため迂闊に飛行は風圧で妨害され、かといってこれまでの戦いで体幹が育っていなければ突風でバランスを崩してしまい。しっかりと見定めていなければ強風と共に飛んでくる風魔術に対処できない。

 割と煮詰められたようなボスで、そうなると近接攻撃を行う面々は動きがなかなか取れず。その中でも妖精は軽々と吹き飛ばされてしまうのでまともに戦闘することすら難しいといったボスでした。


「まあでもうちのところはジュリアとカエデ、それにホカゲどののお陰でなんとかって感じだったのだな」

「旦那様も頑張っていらしましたよ!? あの素晴らしい一撃を覚えてないのですか!?」

「クレハさんが気流を見切って切り抜けたの、流石だと思いましたよー!」

「でもあれは、ジュリアがいつもの爆破と刺突の同時攻撃、ホカゲさんの火遁、カエデちゃんの火魔術で気を引いてくれたからで……」

「「でも致命打を与えたのは旦那様(クレハさん)です!!!」」


 ……なんでしょうこの二人のヒートアップ。数日前のオフ会から激化する一方なんですけれど……私、何かしてしまったでしょうか?

 リノは溜息をついていますし、トトラちゃんは笑ってますし。うーん、ある意味どっちも平常運転には見えるんですけれどね……


 話を戻して、撃破の切っ掛けになったのは息を合わせた総攻撃。イチョウさんが行った花部分への攻撃によって強風が一時的に止まることから即席で組み立てられた作戦。

 イチョウさんの《十六夜金月》やチヨちゃんの《夢幻影分身》、ホカゲさんの《火遁》といった広域攻撃、他パーティからの魔術支援によって一瞬すべての花がダメージを負って閉じたところに私が踏み込んで斬り付けました。

 《狐八葉》から《狐八葉・黄昏舞踊》に繋げたのち、再び開くまでの間に《清流遠呂智》から《水流閃》と奥義のフルコンボを喰らわせて大きく削れたのも早期討伐に繋がったともいえますけど。

 ついでにライカも道中で風に慣れたおかげか的確に強風の合間を縫って攻め込み、総攻撃の折以外はずっと離れないまま攻撃していたという、ある意味ダメージ的には一番貢献してたりはしてたりは……


「あ、なんて言ってたらホカゲさんから」

「弱点属性なのに頑張りますね、ホカゲさん……」

「ちょっとだけ辛辣なのは……まあ置いておくとして、内容を見てみましょうか」


 そろそろ第二セーフティの手前……ちょっとした小島のようになっている箇所が見えてきました。それが見えたのに合わせてホカゲさんからギルドチャットが届きます。

 斥候隊に引き続き参加しているホカゲさんから、ということはボス前のセーフティに辿り着いたということでしょう。それは同時に、ボスの情報とご尊顔がお届けになったわけでして……

 ちなみにどうして見て一番わかりやすい配信をしないかというと、こういったスキルを駆使した斥候での先バレというのは《九津堂》が嫌うようで、配信状態で後ろに付くカメラ光球が隠密や斥候に関するスキルを阻害するのだそう。

 まあ、後続からすると配信に気を取られ、その隙を魔物に突かれて即死……なんて事故がないので、ある意味助かるんですけども。ここのダンジョンでは《祟り》なんて時限爆弾があるので、より助かるというか。


「……でっかい蛸だねぇ」

「やっぱりその層のボスを使ったものになるようですね、ちなみに今回からは先行して突っ込まないと」

「利口でしてよ。流石に二層もの間を突っ込んでくるのは大変ですものね」

「縄っぽい部分は見えませんので、純粋に大水蛸の原型で勝負してくるのかも知れませんわ」

「と、なるとー」

「サイズから見て、今回は迂闊な飛行をすると叩きつけの時にまた挙動がバグ……いえ、なーんかもう仕様として取り入れていそうですけど」


 ボスの様相というとひときわ大きいフィールドの中央に鎮座した大蛸ですね。いや大きい……こっちが夏イベントの時のリバイバルのように見えますね。

 やっぱりあの時との違いといえば、三レイドで挑んだものが今回は一レイドで挑むことになりそうな点と、以前以上のレベル差でしょうか。

 そうなってくると警戒するべきは、あの時の挙動のままと考えるなら無数の水魔術と乱れ撃ちのように《ホーミング》を放ってくるところ。あれは慣れていても避け辛いですから。

 あとは、その時に発生させた叩きつけのバグでしょうか。蛸足を振り上げて狙いを定めて叩きつける挙動が、空中にいる人をターゲットにすると振り上げてすぐ叩きつけて来るという挙動に変化するもの。

 第二レイドの面々にはあれで迷惑を掛けてしまいましたが……そもそも当時は私とジュリア、ルヴィアくらいしか飛行できなかったので仕様の穴を突いてしまったというオチもあったりするんですけどね。


「ボスも、蛸なら。私の出番」

「期待しているよルナちゃん!」

「ライカも! 慣れてきたからやる!」

「私もお役に立てますよ! 《八卦》と《術撃》で感電させられますので!」

「ふっふー、こういう時は手数もものを言いますからねー!」

「でしたら私も、今回は積極的に行かないといけませんね」


 あの時に一番有用だったのは動きを止められるうえにダメージが入る《感電》の状態異常。フィールドを見ても水面にいるので、確実に大ダメージが見込めるでしょう。

 そうなってくると雷魔術が使える人が一番表に立つことになります。つまりウチで雷魔術というとルナちゃん、あとは最近ジュリア同様に近接攻撃に魔術を組み込み始めたライカ、あとは龍人の《術撃》ですね。

 状態異常のクールダウンもあるので、ある程度タイミングは計らないといけませんけれどね。それでもそれがあるだけ、そしてパターンが知れているだけ安易にはなるでしょう……たぶん。

 ともかく、そうなると。ちょうどいいですね、ボスにそっくりなのがこっちに出てきました。


「さて、それではボス戦の練習しましょうか」

「タイミング教えてよ、ジュリア!」

「私よりはお姉様に聞いた方がいいですわよ!?」

「じゃあクレハ姉教えて!」

「私にも教えてくださいませ、旦那様!」

「まあ、タイミングを合わせるところから……」


 べちり、とちょうど淵に対して蛸足が伸びてきました。いい練習台が出てきましたね、折角だから合わせの練習をしてみましょうか。

 フキノとイチョウさんのライバルを見るような視線が、ジュリアにいつもじゃれる要領でこっちに来たライカに向けられてますけど……

 うーん……これ、早いうちに何とかしておかないととは思いますが、どっちも三歩後ろを歩く御淑やかさを持っているので、なんとなしで静かにバチバチしてるというか……

 凄まじい対抗心というか、嫉妬心というか……これ、どう対処したらいいのかな。教えてルヴィア……

ルヴィア「自分も3歩後ろに割り込んで両方抱き寄せたら大人しくなるよ」(原文ママ)


クレハ「……するべき? やるべき?」

ジュリア「お姉様が真剣に悩んでる……!」

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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜
相方、杜若スイセン氏によるDualChronicleOnlineのルヴィア側のストーリーです。よろしければこちらもどうぞ。
― 新着の感想 ―
[良い点] 風を読んで奥義の連結して、と相変わらずクレハ凄いことしてるな。 [一言] 大人しくなる代わりに熱量跳ね上がると思うけどね
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