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29.龍神様のお願い そのに

今回から御触書弐編です。

 クラフター広場でのウィンドウショッピングを終えて、もうひとつの本題である《サク》さんのところへ。

 その間際に攻略が長引いていた《酒蔵地下の不思議迷宮》が攻略完了。踏破したのはルヴィアが率いるパーティのようですね。

 配信を片手間に見ながら歩いていたので、その進捗は知っていたのですが。


「それにしてもこのクリヌキさんから頂いた《鉄槍》、殆ど私専用のような造りをしていますわね」

「確かに……穂先も大きく、単純な刺突能力に寄らせた感じ……」

「跳躍からの刺突を行う都合、本来の用途である叩きつける事よりもこちらの方が都合がいいんですの」

「結構人の癖とか見てるんですね。まあ、私の《鉄刀》も結構それに準じているというか……」

「鞘の一件装飾に見えて打撃にも使えそうなのは、姉様がそう使いかねないと見ているから、でしょうけれど……他にも工夫が?」

「ああ、これ居合刀に近い作りになっているんですよ。少し柄が長いので、他にも使えるようになっていますけれど」


 オーダーメイドっていうものは、まさにこういうものを指すのでしょうね。

 ガインさんから押し付け……もとい頂いたものは、予め私達用に作っていたかのような細かい調整がなされていました。

 それもお互いの戦闘スタイルを細かく分析し、調査したような……そんな感じの。

 こういう調整が出来るのはフルダイブ型のVRMMOだからでしょうか。とは言っても、やはり性能は材質や元にした装備に依存してしまうようですが。

 そう話しているうちに、件のサクさんのところへ。相変わらず草木が生い茂る《転移門》前ですが、これを見た住民の方々が不安そうな顔を浮かべるんですよね。

 やっぱり、これが《夜草神社》の由来のものだから。そして、元は《幻夜界》と通じる大規模な交易路のひとつだったから、でしょうか。

 どちらにせよ、こうなってしまったために不安を抱く人も多いですよね……。特に、こちらに来たばかりのプレイヤー……《来訪者》より、そう作られたNPCの方がより元の姿を知っているわけですから。


「サクさん、持ってきましたよー」

「む? おぉ、やっとかの」


 いつものように樹の上に佇んでいたサクさんを呼べば、すぐにふわっと降りてきます。

 降りてくる最中に、採取した水田産のミミズを袋にまとめてからお渡しします。袋に入っているとはいえ、慣れていない人が見たら引きますよね、これ。

 それにしてもいつもより声が少しばかりか嬉しそうな、そんな気配がします。


「ふむふむ、しっかりと集まっておるな。数も申し分ない」

「このミミズ、釣りにも使いましたけれど本当に喰いつきもいいですね」

「あの一帯は《王都》近辺でも有数に良質な米が穫れるところだったからのう。いい土壌しておったじゃろう」

「これで水田一帯は元に戻るといいのですが……」

「そうでないと困るでな。まー、魔物は出るが田植えには間に合った、というところじゃな。うむ、よし……数も十分であるな、ありがとうじゃ」

「いえ、お願いされた事ですから」


 袋の中を覗き、数を確かめたサクさんが笑みを含みながら顔を上げます。

 確かに春と言えば田植えの時期。どうしても奪還できなければ食糧生産が滞って飢えることになっていたでしょうし。

 そう考えると意外と重要なクエストだったのでしょうか。他のクエストも、その穫れた米を加工して嗜好品である酒にするための酒蔵、漁を再開するための船屋の掃除と考えれば、合点は行きます。


「さて、次にして貰うこと、なのじゃがー……ふむ、ちょうど発布されたようじゃの」

「《天竜城の御触書・弐》がちょうど出ましたわね。次もそちらの関係で?」

「うむ。行き先を指定することになるでな、大変申し訳ないのであるがの」

「お願いとあればなんなりと。私達はもののついで……で取って来ますから」

「ついで程度で取ってこれねば余の目が曇っておるってことになるからのう。ふふふ」


 ちょうど紗那さんに報告していたブランさんによって《天竜城の御触書・壱》が全て達成。それにより、引き続いての《天竜城の御触書・弐》が告示されました。

 食糧事情の解決を主とした壱とは打って変わり、《夜草神社》の巫女の捜索に焦点を向けています。いよいよ本格的な攻略が始まる……ということでしょう。

 出現したクエストは同じく三つ。《奇々怪々の幽霊街》、《落花繽紛桜怪道》、《王都の水路を越えて》の三つ。

 ひょっとして、幽霊街あたりで何かを……でしょうか?


「それでは本題じゃな。お主らには《王都の水路を越えて》……《天竜十二水回廊》に向かってほしいのじゃ」

「すごく立派な名称ですね……って、水路の方なんですね」

「まあ王都の地下水路なのじゃがな。まるでちょっとした回廊のようになっておることからこの名が付いておるのじゃよ。もっとも今はダンジョン化してしまったようじゃが……」

「確か、《夜草神社》の方から流れている河川がありましたね。そちらから流れ着いた何か……でしょうか」

「ま、流れ着いたのは恐らくアレであろう。して、取って来てほしいものなのじゃが、その地下水路の一角でしか生い茂らず、また保湿性のとてもよい竹があってのう。そろそろこの竹筒も新調せねばいかぬのでな、これを取って来てほしいのじゃ」

「竹……ですね、わかりました」

「うむ、お主らで云うスキルというものはいらぬ。ただ普通に叩き切ればよい、それで取れるからのう」


 《伐採》スキルが要らないのは一応告知してくれる、と。地下水路に生える竹というのもまた珍しいですね?

 サクさんのお手伝いその二は特別な竹筒を作るためにその材料の調達、と。言葉通りについでに採ってこられるものなのでしょうけれど、今回はマップを見て探し出してみろ……ということですね。

 あまり複雑な場所ではないことを祈るばかりですが……。


「それと、快諾してくれたお主らにひとつ水路の情報を提供しておこうかの」

「情報、ですか」

「あの水路は王都に流れ込む川の水を巡らせて海に流すための設備でな、上手く巡らせるために水の精を配置しておる。それも複数な」

「水の精……精霊の一種? それが複数あの水路に?」

「精霊ではなく、《水を司るモノ》じゃの。ここのところ王都の河川の水質もあまり良くない、であればそやつ"ら"がダンジョンの元凶になっとるやも知らぬ」

「ええっと、ということは……あそこに棲む、私達でいうボスは複数体存在すると?」

「そういうことになるのう。確か、水路の数に準えて置いてあるのじゃな。やや内部は複雑であるが、どの道を通ってもそやつらが配された場所に辿り着くようになっておる」


 つまりこの《王都の水路を越えて》、先の《水田迷宮》とは違い、複数体のボスが存在するタイプのダンジョンということですか。

 早解き組がいても、王都の水路の数……確か十二本でしたか、その数ほど攻略できないだろうから色んな人にダンジョンに攻略しボスに挑んでもらおう、という狙いのようにも見えます。もっとも、それを知るのは最初の一体目を倒した頃でしょうけれど。

 しかし、水の精であって精霊ではないもの……《水を司るモノ》ですか。おそらく東洋系の水に関わる何かしらがボスなのでしょう。

 精霊絡みでルヴィアがすぐに指名されないところから考えても、こちらはある意味では関係ない……ということなのでしょうか。


「気を付けて探索しますね。情報ありがとうございます」

「うむ。気を付けるのじゃよ。内部がどうなっておるのかわかったものでないしのう……」


 と、会話を終えてサクさんが元の位置に戻ろうとしたところで、少し声を掛けます。


「ところで」

「む、なんじゃ?」

「先程上機嫌なようでしたが、何かあったんですか?」

「むお、見られておったかの。まあなんということはない話ではあるのだが」


 うーむ、と話すべきかどうかを考える素振りを見せてから―――なんだかさっきも似たような光景を見た気がしますが―――口を開きました。

 先程の《夜霧》さんは秘密を話す、と言った体でしたが、こちらは違い、嬉しい出来事を話すかのように口元を緩めながら話し始めます。


「うむ。余の管理する《龍北》の地が少し落ち着いたようでな。余の《兄様》がこちらに休息と、近い《幻夜界》への開門を手伝う為に戻ってくるそうでのう」

「サクさんのお兄さん、ですか……それで嬉しそうに」

「余ほど強くはない兄ではあるがの、久方ぶりに逢えるのであれば、な……」


 ほんのーりですが、頬も紅くどこか自慢げに語るかのよう。

 これ完全にデレッデレですね、隠そうとすらしてません。


「……ものすごくデレデレですわね」

「隠せていませんね」

「むー! 兄様に逢うのはこちとら前線を引かされてぶりなのじゃぞ!?」

「ふふ、よっぽど好きなんですね」


 サクさんのお兄さんというだけでものすごーく気になります。いつ会えるのかは判りませんが、口振りからするとベータテストが終わるまでにはどこかで逢えるようですね。

 というか、サクさんにも家族がいる……いえ、この場合は明らかに強そうな《サナ》という守護者たちにもきちんと兄妹がいるということに、《夜霧》さんが口にしたように普遍な、無作為に選ばれるという言葉の意味がよくわかります。

 たとえ、どんな力を持っていようと、肩書があっても、目の前のサクさんは兄と逢えることを嬉しそうにするただの少女にしか見えないですから。


「ふと、夜霧さんからサクさんは《蝦夷》が管轄だとお聞きしましたが……?」

「む、余達……《サナ》についても聞いておったのか。そうじゃ、本来はそうなのじゃが……まあうむ、色々あったんじゃよ……」

「……今は聞かないでおきますね」

「そうしてくれると助かるのじゃよ。この話は追々な……」


 《龍北》を本来統治するべき《サナ》とひと悶着起こしたために、二人で管理していた……のでしょうか。

 口籠るということはとても言えないような何かを起こしたせいで……そんな気はします。

 長期間《蝦夷》の守護者であるサクさんが離れても大丈夫であり、この事件が起きてなお守護する土地に戻らず《関東》のこの場所にいるという事は……おおよそ北海道にあたる《蝦夷》は相当混沌としているか、もしくは応龍に匹敵するかもしれない面々がひしめていて大きく荒れるほどではないのかも知れません。

 端に位置する地域ですし、最後のバージョンで、とかありそうなので頭に留めておく程度にしましょうか。


「それでは、私達はこれで。しっかり持って帰ってきますわね」

「うむ、二人とも頼んだぞ。何が潜んでおるのかも定かではない、きちんと準備をしてから行くのじゃよ」

「もちろんです。期待して待っていてくださいね」


 一通り話し終えてからサクさんと別れ、《転移門》前広場を離れていきます。

 さて、一度今回の行き先である水路の情報をチェックしてみましようか。


○王都の水路を越えて

 区分:グランドクエスト

 種別:メインストーリー

 王都から繋がる堀の水路に現れたダンジョンから、《夜草神社の巫女》の反応があった。水路に潜む敵や怪異を倒し、巫女を見つけて助け出そう。


○天竜十二水回廊

 ダンジョンランク:E

 備考:ボスは複数体存在


●ダンジョンと化した王都の地下水路に巫女が流れ着いた。元は王都に流れる河川を管理するための地下水路であり、王都に流れ込む河川の水は一度ここを通って海に流れ出る事になる。

 とても重要な施設ではあるのだが、汚染に抵抗できない住民たちにはどうにかすることが難しい場所となってしまっている。複数ある汚染源を倒し、流れ着いた巫女を救出しよう。


 後で知る事になったのですが、この備考に付いては私達がサクさんから話を聞いたのをトリガーに解放されたとのこと。細かいですね。

 一応幼馴染組の動向は……ルヴィアが《桜怪道》へ、フリューとルプストもそちらに。《幽霊街》にミカンが向かったようです。


「なんというか、綺麗に分かれましたね」

「そろそろフリュ姉もルヴィアさんと組まないと発作起こしそうですわね……」

「それはまあ、はい。ルヴィアがパーティ募集を始めたみたいで……あっ」

「……埋まりましたね。これフリュ姉、ピンポイントで見てませんでしたわね」

「出遅れましたね……」


 掲示板でルヴィアが《桜怪道》攻略の為の人員を募った、まではいいのですが、見事にフリューとルプストがいないうちに埋まってしまったようです。

 ああ、どこからともなく絶叫が聞こえてくるようです……。それはそれとして、私達も行きましょう。

蝦夷は今も昔も試される大地と化しているのでしょう。たぶん。

兄にとても懐く妹がいたっていいじゃない。ただし妹の方が力関係は上。


いつもの定型文になりますが、よろしければ下の方にあるブックマークと評価ボタンをぽちっとして、ついでにちょちょっと感想を頂ければ作者はとても喜びます。皆様の応援が日々のとても強い原動力になっております、よろしくお願いしますね。

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