28.降って涌いた専売契約
本日はクラフター広場の訪問。
さて、所移してクラフター広場。一般では露店広場と呼称されているようですね。
以前来た時と比べて品揃えも多くなっていますし、店売りの品々よりもそれなりいいものが流通しているようです。
とりあえずふらふらとガインさんの商店へ。それなりに懐は潤っているので、良質な武器があればいいのですが……
「おっ、クレハとジュリアじゃないか。今日もアイテム整理か?」
「いえ、今日は装備の更新を考えていまして」
「もう装備更新か……つっても、今出来るモンだと店売りの物よりほんのちょっと攻撃力が高いくらいだからな……あんまり売れ行きは良くねえんだ」
うーん、と腕を組んで悩む顔を見せるガインさん。
そんな中でガインさんが作ったであろう《鉄刀》へと視線を向けます。
「買える人達も、細かいデザイン性とかも気にしないでしょうからね……」
「それなんだよなぁ……って気づくか」
「そりゃあもう。これ、一応《鉄刀》ですよね」
「おうそうだぜ。店売りと似せてはいるけど、鍔と鞘のデザインが違うだろ」
《DCO》の生産職が作るアイテムは、人それぞれで作成途上において細かくデザインを変えられるのです。
現に、目の前のガインさん作の《鉄刀》は私の装備するものに比べて鍔に入るデザインが違い、鞘の形もやや厚みを増させ金装飾が入っていました。
このあたりの自由度が高い《裁縫》や《細工》はクラフターの中でも特に人気なそうです。それでも、まだかなり人の数が少ないそうですが……
「そういや《水田迷宮》のレイドに参戦してたんだってな、配信してたヤツの切り抜きで見たぞ」
「道中共々大変でしたよ、あそこは……」
「の、割には楽しんでたようだし、掲示板や例の動画のコメントやらで二人にファンがそこそこいるってのは確認できた。ってことで、この広場の面々と話し合ったんだが……」
ガインさんがぐるりと広場を見回して、接客したりしている面々を眺めます。
あっ、なんでしょう。また知名度が広がりそうな気配が少しばかりします。とはいえ、ここまで来てしまえばもう諦めてますが。
「ここでも選りすぐりの面々にそれぞれの分野を生かして作った装備をあんた達に装備して貰って、広告塔になってもらおうって案が通った」
「あー、はあ、なるほど……?」
「こっちから頼む事だ、作れる最高品質を渡すがそれでも幾らかお代は貰う。が、当然頼む分出来る限りは安くするが……どうする?」
「確かにいい提案ではございますわね。ですが、仕上がる装備の大まかな品質はどれくらいに?」
「そうだな、予想ではだが店売りのモンより3~5段階くらい上ってとこか。もっとも、お代に貰うつもりのドロップ品やらの品質にもよるが……」
「私達としてもドロップ品は扱い切れないので買い取ってもらうつもりでしたし……そうですね……」
こちらとしては扱えない素材類や有り余っている資金を提供して最前線級の装備を手に入れる。
組合側としては受け取った素材類を使って腕を振るい、最高級品を作って売り上げを上げるための広告塔になってもらう。
お互い損得としては合っていますし、何なら私達の方への利が大きいように見えます。
「たぶん私達はあまり配信したりとかはしませんよ? それでもいいなら、ですが……」
「いやいや、配信してる奴らにはまた別で押し付けるさ。むしろ二人には元々の知名度もそうだが、いい素材を取って来てもらう為の先行投資って面もでかい」
「うーん、随分とあちこちで腕を買われ過ぎている気もしますが……」
クラフターも素材が無ければモノが作れませんからね。腕が立つということが特に判っているのであれば、頼まない通りもないでしょう。
もしもですが全身分の《唯装》を手に入れても、素材の買い手になってくれるのであればこちらとしての利はありますし……
「はっはっは、謙遜しなさんな。色んな決闘をやってる連中を見るが、あそこまで白熱してたのはあんたら二人くらいなもんさ」
「そこまで言われるのでしたら……いいでしょう、やり切れるかは判りませんが、その話、お受けしましょう」
「ありがとうよ。その分頑張らせてもらうぜ」
ガインさんが笑顔を浮かべて手を差し伸べ、ついでにフレンド申請が送られてきます。
私は手をがっしりと握りながら、了承の意思を返します。フレンド欄、意外と埋まるの早いですね……。
「んで、早速取引なんだが……《水田迷宮》のボスが落としたドロップ品あるだろ、まずはあれと引き換えでどうだ?」
「かなり早速ですね!?」
「そりゃそうだろ、できるだけこっちも早めに作ってやりてえからな。ついでにその《鉄刀》は契約の前払いとして持って行ってくれ。妹ちゃんにはそこの槍だ」
「ありがとうございますですわ。ちょっとだけでも威力が上るのは嬉しいですもの」
ほぼ最新ボスのドロップ品ときましたか。あるにはありますし、妹共々ひとつも使ってもないし売りにも出してないしでそのままです。
というわけで、店売りよりも品質の二段ほど高いガインさん特製の《鉄刀》とクリヌキさん特製の《鉄槍》を受け取ってから、討伐報酬の目録を確認しつつひとつずつインベントリから素材を取り出していきます。
普段持ち歩く用のインベントリと、こういった討伐報酬などのインベントリが目録として独立しているのはいいですね。手持ちが圧迫されて溢れる事がありませんから。
「《藁巨人の藁》、《藁巨人の布》、《藁巨人の支え棒》……とここまでは普通だが、こりゃなんだ」
「殆ど貰ったものは一緒の筈でしたが……初回だけのオマケが付いてた、ってところなのでしょうか」
「《藁巨人の発火玉》な……確か、こないだ《ダンジョンコア》の《藁巨人の火種玉》ってモンを見せて貰ったが、まだ扱えなかったんだよな……」
「おそらく持っていたのは、レイドパーティのリーダーさんでしょうね……」
「こっちなら俺達でも扱えそうだ。なんとかしてみるか」
火種玉……もしかして発火した原因となった物でしょうか。そちらはあの時のパーティ六人で確認して全員が持ってなかったので、レイド参加者全員同じものを貰っているのかと思えば違った様子ですね。
《ダンジョンコア》というのは、魔力を吸い込んでそのダンジョンの中心となった物品のことです。あのダンジョンの場合、大藁人形が吸い込んで核として《藁巨人の火種玉》として持っていたのでしょう。
ちなみにダンジョンコアはどこかで浄化しないと使えないらしく、現在ではトロフィーとしての意味合いが強いそうです。
他の材料に関しても私達のものは少ない量ですが少し多く、その上品質が一段回分くらい高いとのこと。レベル差があったので、ダメージやレベルに合わせたものなのでしょうか。
「布の方も上等だ、おいホーネッツ」
「はーい、なぁにー?」
「ほれ、二人からの素材預かったぞ。どいつも他より素材がいい」
「わー、ホントに特上。あ、クレハちゃんとジュリアちゃんよね。《裁縫》担当のホーネッツよ、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いしますわね」
素材を吟味するガインさんが、その後方でちらちらと私達を見ていた猫獣人の方を呼びます。ブロンド髪が綺麗な方で、落ち着いた感じの印象とは裏腹に活気のある声をされています。
渡した素材の内のひとつ《藁巨人の布》を一枚広げて目をキラキラとさせています。出来上がりはお任せすることになるのでしょうが、きっといい品を作ってくれそうな……。
ガインさんは他の素材を持ってホーネッツさんと変わるように後ろに下がり、他の担当達を集めて相談をしています。
「素材を渡してくれたってことは、例の取引は承諾してくれたってことでいいのね?」
「そうなります。私達も専門外の素材に関しては引き取るなり売り払うなりするしかありませんから」
「使えなきゃ意味が無い物ね。こっちとしてもいい素材が貰えるなら、腕の振るい様があるもの……さて、それじゃーあー……」
にやーっとした顔を浮かべながら、私達をじっくりと眺め……うぅ、なんだか身体の隅々を見られているような。
品定めしているような、似合う衣装を考えているような……?
「クレハちゃんはとにかく動きやすい衣装の方が良さそうね、武器は刀だけれど中華風味とか似合いそう」
「動きやすい衣装ではありますが、《サク》さんみたいな少し動いたら中が見えそうなのはちょっと……」
「あら、あれぐらい足が動かしやすい方がいいと思ったのに。それならスパッツかそれに類するものを考えておきましょうか」
「防御力は少し低くなってもいいので、できれば軽いものがいいですね」
「妹ちゃんの方は……そうね、クレハさんと対というか、口調に合ったお姫様タイプがいいかしら」
「ふふふ、そう見えるようにしていますもの。お願いいたしますわね」
「御淑やかそうに見えて活発に見える風な衣装が良さそう。うん、いいわ、二人とも任せておいて」
ホーネッツさんがぐっ、と親指を立てながら渡した素材を手にしつつ。どんなものが出来上がるのか楽しみになります。
さくさくっと外見に付いても考案されるということは、本職の方……だったりするのでしょうか。お母さんと結構気が合いそうな気配はしてくるのですが。
「仕上がりにはどれくらいかかりそうですか?」
「そうねぇ……多分三日ほどかしら。ちょっと腕によりを掛けて作ってみたいから、ちょっと時間はかかるけれど」
「三日……ですか、わかりました」
「その間にクロニクルミッションも進んじゃいそうね。追加の素材とかもあったら、遠慮なく持ち込んじゃって頂戴」
「その時は是非に」
完成品の受け取りが三日。元々短いベータテストでもそれだけの時間を取りたいということは、本当にしっかりと作り込みたいのでしょう。
期待して待つ事しかできませんが、その分こちらとしてもいいものを提供して貰えるということでしょうし。
ガンッガンッガンッ シャキーン
なんてDCOのクラフター……プレイヤーの手による製作装備は簡単には作れません。
ある程度自由に作れますが、勿論使った素材や製作するプレイヤーの腕によって完成品の性能は大きく変動します。
あまりゲーム中では描いていませんが、もちろん採取や採掘して生産者たちに卸す一次産業専門のプレイヤーもごく少数ながらいるようです。
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