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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-7幕 猫鎮めの神器 / Go to Vanaheim East

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254.天より火を生み照らす灼熱の灯

「この姿を見せた以上、ブッ潰してくれますわ!」


 第一撃は口元から吐き出される爆炎を伴った灼熱のブレス。地を焼き焦がしながら、まとめて薙ぎ払うかのように振るわれます。

 これまでほとんどの竜達との戦闘でも見られなかった、というより一番絵になりますね。とはいえども邪竜としての姿で、という大前提はありますが。

 その点で言えばどれも絵にはなってはいるのですが、まだ成長途上とも聞く十姉妹より明確に格上となっているのでしょう。これで王妃とか姫の類ではなく令嬢。

 どの地域に住んでいるのかはまだ不明ですが、よほどの魔境に住んでいるのではないでしょうか、彼女……


「でっかくなり過ぎなのだな!」

「だけど、お陰様で攻撃は当てやすくなった!」

「これだけ大きければまた罠にも引っ掛けやすいですー!」


 ライカはひと休憩終えたと言わんばかりに繰り出してますが、壁役のトットだけはゴーレムが戦闘不能になったので離脱しています。ゴーレムのないドワーフは戦闘に向きませんからね。

 つまり参加しているのは五人だけ。タンク不在……ですが、今回に限り天然のタンクがいるので問題なさそうですね。案の定その前肢の一撃はライカさんを狙っていますし。

 ただし、そのもう片腕は未だ凍り付いたまま。ダメージも入っているあたり状態異常も継続していますし、これなら……竜形態の防御力次第ですが、決着は早そうな予感がします。

 フィニアさんの猛攻を耐え切れば、という話になるのですけれど。


「あっはっはっはっは! 潰れなさい! 非礼を詫びなさい! この駄犬!」

「プッツン行き過ぎて優雅さがないのだな!」

「でも気品はどことなしに見える風貌はしてます! お怒りでそっちも台無しですけど!」

「あー、なんというかちょっと見てて親近感というか、改めて私ベースなのだと納得できるんだけど……」


 うん。ジュリアが言う通りで、あれジュリアが本当にキレた時に見せる、所謂"暴れ鳥"モードそっくりなんですよね。

 リアルだと彼女は小柄で鳥みたいなのもあって暴れ鳥と揶揄されてましたけど、竜の姿で暴れられるとこれまたしっくりくるというか……

 最近はあんまり怒ることが無かったのでご無沙汰でしたが、改めてああいう暴れ方をされるとあれがジュリアベースなのだと姉妹の姉ながらとてもよく実感できます。

 ただ怒り出す条件が無礼な事……あ、そっか。格好良く振舞っているところを自分の許容外で潰されるのすっごい嫌ってましたっけ、合点がいきました。


 そしてふと……そういえば、フィニアさんが取り扱っていた武器の名前ですが。《スヴァローグ》、《ラデガスト》、《クレスニク》の三つでしたね。

 それぞれスラヴ神話に伝わる太陽神(スヴァローグ)軍神の一角(ラデガスト)金鹿の英雄(クレスニク)になります。そしてスラヴ神話といえば魔導竜神であるツィルさんと繋がりがありますね。

 元ネタであるスラヴ神話に登場する黒き竜にして魔法の神こそがジルニトラ。となれば……もしかして、フィニアさんも同じ黒竜の姿となると、ここにも意味があるのかも。

 会話を思い出せばここはツィルさんの領域、その一角だとも言ってました。もしかして、ここの領域はこの神話を盛り込んだものがまたあったりするんでしょうか……?


「ジュリアもっ、怒るとこんなになるのっ!?」

「流石にここまでではないよっ! ちょっと心当たりあるけどさっ!」


 戦闘に戻りましてフィニアさんが吐く火炎のブレスを跳んで避けたライカは、ジュリアと共にその首へと一撃を加え。柔らかそうな部位を狙ったのにも関わらず、ダメージはミリにも満たず。

 思っていた通りに第一形態でも悩まされていた竜の鱗、やはりこの最終形態になっても立ちはだかるようです。トトラちゃんたちが撃つ魔術もロクに通らないようで、相当頑丈なようですね。

 そうなると、先のトトラちゃんの固有奥義で付与された[凍結(大)]による継続ダメージで削り切るしかなさそう。防御力無視で削れるのはやはり大きいのですが、あと一分は耐えないといけませんか。

 あともう一点、通るようになりそうな手はあれど……果たしてどこまで通用するか。なんて言っている間に繰り出したようですね。


「イチかバチか、だけど……!」

「リミッター解除なのだな!? キユリ、動きを止めるのだ!」

「あたしと戦った時に使ったあれかな! いいよ、合わせる!」

「私も合わせます! いつでもどうぞ!」


 ジュリアの一言ですぐに意図を察した四人が合わせる準備を。三人はともかくチヨちゃんも合わせに掛かるのは何時も見ているのと、普段から私に合わせているからでしょうか。

 もはやリミッター解除と言われるようになってしまったアーツの組み合わせ。もはや独創的なアーツの組み合わせに対して名前を付けるのが通例になっているような。

 してその内容はジュリアの持つ想装《向日葵の耳飾り》が持つスキル《豊穣》による一時的な大幅なステータスアップと、槍術アーツで防御力を下げる《ブレイクポイント》の組み合わせとなります。

 防御力を下げて大火力を叩き込む……単純明快ですが非常に強力な組み合わせで、私達もよく使う手ですね。ただし、その大幅強化のバフがごく短時間しか持たないのが欠点とも言いましょう。

 比例して効果時間が伸びているとしてもそれもごくごく僅かかと。確か以前は二十秒でしたが、今は……どれくらい伸びているんでしょうか。


 手始めとして大きく跳躍、してから落下しつつ《豊穣》の起動。発動タイミングは《ブレイクポイント》の着弾と同時で、狙い澄ました一撃が竜の鱗を砕きます。

 ここでようやくライカ以外にも視線を巡らせ、近寄ったジュリアを翼のひと羽搏きで起こした暴風で吹き飛ばそうとしますが……次の瞬間には二度目の跳躍を行った後。

 そのジュリアへと注意を引かせた直後にトトラちゃんの放った《トリプル・フリーズロア》が直撃、チヨちゃんとライカによる不意打ちの一撃も炸裂。

 流石に気品も何もない竜形態であれば先程までのように一気に敵視(ヘイト)は稼いでない様子。それはそれとして、という形でライカを睨んでいる気はしますけど。

 仕上げのようにキユリちゃんが飛び回って茨の蔦で締めあげ、ご丁寧に足下に《サップアンバー》まで散布して動きを封じ。お膳立ては出来ている状態で、トドメはもちろんのこと。


「いい加減ちょっとは頭を冷やしてくださいませ!」


 口調を姫騎士モードに戻したジュリアが後頭部に向けての《ホークダイヴ》。落下速度で加速した穂先を、空襲するかのようにその額へと叩き付けます。

 追撃のようにお得意の《トリプル・フレアプロード》も叩き込み。防御力低下の付与は思ったよりも大きいようで、今の一撃だけでも大きく削れたようですが……

 まだわずかに、その体力が残っています。とはいえ残り一割も切った僅か。これなら十分に削り切れるでしょうが、それでは勝ったとは思わないのがジュリア達。

 もちろんそれで負けるとなれば、フィニアさんも不本意でしょう。頭に血が上っている今、それを判断できる部分が残っているかどうかはわかりませんが……プライドが到底許すとは思えませんし。

 ただ、ジュリアの一撃は大きく響いたようで怒りの瞳にも僅かに理性が戻ったような。そんな眼でようやくライカから視線を外してジュリアの方へと目を向け。


「ぐ、ぐううう!!!」


 抵抗するようにしながらも三度ブレスを吐きながら、今度はジュリアへと向けて滑空するようにして飛び掛かり、その爪牙を振るい。体力もギリギリであるというのに動きはまるで鈍らず。

 ジュリアも応えるかのように一直線に《ダスクラッシュ》での突撃、からのすれ違い様の一撃を叩き込み。傍目から見ればほぼ同時、相打ちのようにも見えましたが―――

 その切っ先は確かにトドメとして届き、フィニアさんの体力を削り切りました。これで決着、のようですが。

 それを悟ったかのように一度落ち着き、諦めたような雰囲気を出しますが……その顔には納得できないような顔をしてますけど。


「があああやっぱりこの駄犬だけは許せませんのっ!!!」

「うわあまた暴れ出したのだ!?」

「あはー! よぉーしそれならいくらでも!」


 落ち着いたかと思えば三度暴れ始めました。ジュリアとの戦いは決着は着きましたが、ライカとの戦いはなかなか決着が着きそうにありませんね……

 当のライカもジュリア同様に戦える相手と見たようでやる気満々の様子。ようやく戦闘も決着が着いたのにこれでは話が進まないような気がしますけれど。




 と、その時。どこからともなく直上から降って来る流星―――いえ、人でしょうか。その何者かがフィニアさんへ一言を告げながら、その頭に一撃を。


「フィニア、まずはやることがあるでしょう」

「ガッ―――っひ、お姉様!?」


 竜の姿で威厳があったはずのフィニアさんが、その一言と共に身体を強張らせてしおしおと小さく元の姿へと戻り始めました。

 ……とん、と降りてきた速度に比べてとても緩やかな着地。ふわりと薄く青の混じった白い髪を揺らして立てば、私を含めて、フィニアさん以外の一同が息を飲むのがわかります。

 フィニアさんのお姉さんということは。それは紛れもなく誰であるか、誰の双界(こちら)での姿なのかというのを指し示しているも同じこと。


「わ、わ、わー……! クレハさんですっ、クレハさんが二人いますっ!」


 イチョウさんが発したその一言の通り、目の前には鏡写しのような私の姿。とは言っても衣装はまるで違い、海色を基調とした竜宮に住まう乙姫のようなゆったりとした着物。

 そして頭から伸びる龍角は私のものよりも大きく、薄く青みかかったもの。尾も滑らかな蒼鱗に覆われていて……海龍といったところ、でしょうか。

 改めて視線を合わせれば、思わずどきりとするような微笑みを浮かべて。エルヴィーラさんもフィニアさんもそうですが、これがある意味自分自身との対面というものでしょうか……

 なんというか不思議な気分ですし、落ち着かないといいますか。ジュリアみたいにドンと構えられれば良かったんですけれど。


「初めまして、ユエイリア・ニーズヘグ・ドラグレイクと申します。この度は妹が見境なく暴れ、申し訳ありません……」

「い、いえいえっ、こちらのメンバーが逆鱗に触れるような真似を……」

「この程度で憤慨する時点で、まだまだというもの。フィニア、後でお説教(はなし)としましょう」

「うう、すみませんでした……」

「わかったのならすべきことを。次は私が受け持った領域に来ていただかないと」


 和風の一礼をしつつ、発された一言でフィニアさんが再び一瞬でしおしおに。こちらもこれくらい黙らせる力があれば……ありました。そういうところを似せなくても……

 ともかく、私に対応するのは《邪竜ニーズヘグ》で(ユエイリア)ですか。先程フィニアさんが使っていた武器の中に太陽を示すものがあったので対とも言えますか。

 しかしどちらも邪竜というのは……何か悪いことしようと考えてるように思えてしまうような。しませんよ、私はそういうことしませんからね?

 立ち直ったフィニアさんが咳払いをして元の調子に戻そうと。若干まだ意識しているライカさんとのことはあとで解決していただきましょうか。


「それではジュリア様。実力は示されましたのでこの領域、《ブレッシング・クレーター》を譲渡いたします」

「ありがとうございますですわ。これでようやく私の場所が増えますのね!」

「あのお屋敷は私が棲んでおりますので、間借りという形にはなりますが。今後は他種族から竜の道に進まれる方については、私が試練のお相手を務めます」

「滅茶苦茶難易度高そうなのだ……ソロで相手はしたくないのだ……」

「そうなると私がもしかしたらお世話になるかも知りませんわ!」


 ただ実力を測る戦いだったとしては色々あり過ぎた気がしますが、これでジュリアが火槍プロメテウスの唯装ダンジョンを手に入れたことに。

 予想はしていましたがやはり《薄明》と同じ、他種族から竜への進化を行う折の試験の場となるようですね。難易度は……先の戦闘から考えれば、おおよそお察しでしょうか。

 どこまでの段階で相手をするのかは不明ですが、流石に巨竜にまでなるのはまずないかも知れませんけれど。そうでなかったらなかったで、三種の武器を取り回す強敵になりそうです。

 直近でお世話になりそうなのは実力もそこそこ付いて来て、最前線にも出られるようになって来始めたヒルデさんでしょうか。キユリちゃんに影響されて彼女は《吸血竜》を目指すそうなので。

 なので祖父に重点的に訓練を受けるようになっており、忙しい業務に関してはリノと提携を結んで片付けているのだとか……@プロの方々は大変そうです。


「それとですが……少し驚くやも知れませんが、火口にプロメテウスを投げ入れてくださいませ」

「!? えっ、ちょっとそれ大丈夫なの!?」

「ツィル様からの言伝ですので……どうなるのか、までは」


 ツィルさんもなんて勇気の要ることを。確かにここの火口はまるで祭壇のようになっていて、火口に向けての足場が伸びていますね。

 ユエさんとフィリアさんに背を押されるままにジュリアは戸惑いつつ、その火口へと近づいていき。私達も追うように近づいていきます。

 細い足場の上、足を踏み外せば炎の海へと真っ逆さまとも言える場所では、高所が得意なジュリアとはいえちょっとばかり怖いようですが。


「こ、ここに投げ込めばいいですのね……?」

「そうです。クレハ様もこちらに来たら、似た事をして頂く予定ですので……」

「た、多少覚悟はしておきますが……一体何が起きるんですか?」

「私は知っておりますので、ささ、どうぞ……」


 ユエさんは何が起きるか知っているようですけれど……私も後にやるとなると本当に何が起きるんでしょうか。予想は付きこそすれ、やはり勇気が要りますね。

 ジュリアは手にしていたプロメテウスを火口と見比べてから、少し躊躇うようにしつつ思い切り投げ込みました。握って長いですからね、愛着はあるでしょうから……

 投げられた槍は溶岩に触れれば溶ける―――かと思えば、溶け落ちることなく穂先が熱を吸って赤熱し炎を纏い、その形を変え始めていきます。

 その銘が示すように、炉の火を受けて鍛冶神(プロメテウス)が打ち直すかのように。十分に熱を吸ったのか、ゆっくりと浮き上がってジュリアの目の前へ。

 炎が収束し新しい形を得た槍、その柄に取り付けられた宝石へと炎が収束し、炎の輝きを宿したかのような紅蓮の宝石へと吸い込まれ……再びジュリアの手元へと戻っていきました。


「こんな進化の仕方とは、驚きですわ……」

「唯装の進化でしたか。これは……」

「銘を確認してみてくださいませ。準じて、新しい能力が備わっている筈ですよ」

「……《火炎槍プロメテウス》、固有奥義も解放されましたわ!」


 火槍プロメテウスから火炎槍プロメテウスへ……一字増えたと侮ることなかれ、ジュリアの驚きようから固有奥義の解放と共に全体的に能力も上がっているようですね。

 ということは、同時に解放された私側の《龍誕の秘境》でも同じように進化があるということに。これは楽しみになってきました。

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