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25.案山子討伐戦線

ぼすうさぎくんよりも強いレイドボス戦のスタート。

 さて翌日。よっぽど疲れていたのか、あるいは春休みに入ったからか。

 午前十時を回る頃に姉妹揃って目を覚まし、くたくたのままに階段を降ります。


「んあー……まだちょっと目が……」

「私もちょっと感覚が戻り切ってませんね……」


 ゲーム内で感じる感覚と、リアルでの感覚は少し剥離しています。

 私達は結構耐性がある方なのですが、それでも長時間の集中が続けば疲れはどうしても出てきます。

 以前にも千夏と熱中してやり込んだ際に似たような事が、特にフルダイブ型VRの開発黎明期でやっていた時はよくあった事でした。

 朱音は運動能力がリアルと相当違うはずなのですが、それでもあれだけ動けているというのはやっぱり耐性にとても差があるのでしょうね。

 階段を降りてリビングに入れば、朱音……ルヴィアの配信を見ている母の姿がありました。


「こーらー、春休みだからって一日目からダラダラしないー」

「んあぅ、もおー、いいじゃんかー」

「駄目です。というのは冗談よ、昨日は結構暴れてたみたいじゃない」

「あれ? どうしてお母さんが知っているんですか?」

「お父さんからの隠し撮り」

「……上位社員権限!」

「まあこれだけやっていれば当然ね。ほら、お昼用意するから、その間に顔洗ってきなさい」

「「はーい」」


 画面の隅に昨日の私達がしていたことを軽く録画したものが映っていました。お父さん、権限フル活用してますね……。

 言われた通りに洗面所で二人で向かい、二人並んで身支度をします。

 歯磨きと洗面を済まし、あとはちょっとした肌の手入れ、千夏は寝癖を直せばいつもの姿になります。それから再びリビングへ。

 戻れば香ばしいベーコンと目玉焼きの匂い。テーブルに座ればトーストと一緒に朝食として出されました。


「しっかし、朱音ちゃんはゲーム内だとすっごく動くわね」

「リアルではしっかり動けない分、それをVRで発散してる節はそこそこありましたから」

「ふーん……ああでも、イメージ元はちゃんとあるわね」

「お母さんならやっぱりわかっちゃうよね」

「そりゃあもう。あれだけ見せられて来たら嫌でも。さて、今日はカエル料理でもするの?」

「時間があればですね。他にもやる事はそれなりにありますから」

「そっか、とりあえずちょっとだけコツを教えておくわ」

「……ちゃんとしたご飯食べてる時にその話するの?」

「だってー、食べたらあとは夕飯まで《DCO》やってるんでしょー?」

「「ふぁいー……」」


 流石、と言いたいですね。私達よりも長く見てるわけですから、それは当然というかなんというか……それをすぐに実戦に持ち込むルヴィアも相当なんですけどね。

 それでも一般武術ではちょっと見栄えが悪いので、実戦式である分戦いやすく見栄えがいいのもあるのでしょうか。

 朝食を取りつつ、カエル料理の作り方を聞きます。というかなんで知ってるんですかね……

 そんな過酷な田舎ではなかったはずですが……むしろ緑豊かで野菜も果物も豊富に取れる、ちゃんと農業が出来れば食に困らない土地のはずなんですが……



――◆――◆――◆――◆――◆――



「まずは補充と修理、それと……」

「忘れそうでしたけれど、ミミズ掘りもですわね」


 ログインしてからやる事を確認。一番重要なミミズ掘りに関しては修理と補充を終えてからにしましょうか。

 レイドの開始は十四時なので、休憩を挟んでもまだ大方三時間ほど余裕がありますね。

 レベルとステータスを確認しますが……スキルレベルは分担していたからか少し上がりは少なく、レベルは既に20を超えています。

 ゲンゴロウの経験値は撃墜ボーナスを入れても雀の涙程度、カエルを倒してもミリで動くかどうかの経験値量にしかなってないほど差が出来てます。

 多分昨日組んだ面々も近いレベルまでは上がっていたので、同じ感じなのでしょうね。


「とりあえず早々に往復してしまいますか……」

「ステータスもしっかり上がってるので、行き帰りが楽々ですわねー」


 高いステータスのお陰で移動も楽々。多少無茶な動きが出来るくらいにはAGIも上がっています。

 カエルに見つかっても逃げるくらいは余裕、足の速さにも影響が出るのは大きいですね。

 十分ほど走って王都の商店街へ向かい、インベントリを完全に圧迫している素材を大量売却。店員に驚いた目で見られましたが……まあ、それはそれで。

 それでも多少必要になるのを見越して餌用にゲンゴロウの破片とカエルの肉を僅かにだけ残し、武器を修理。

 武器の修理に関してはアマジナさんがそうでしたけれど、予備の武器まで壊れかけになるほど使い込みましたから、きっとこのまま使っていれば道中時点で壊れていたでしょう。

 新品同然にまで直して貰ってからポーション類をたっぷりと購入すれば……いざ、再び田園街道駆け勇み。


「荷物が軽い! 財布が重い!」

「そりゃああれだけあれば、ですわね……」


 使った分と差し引きしてもかなりの金額が手元に入りました。冒険者組合でお金を預けられるらしいですし、そろそろ利用を検討してもいいかも知れません。

 ……そういえば、一度もまだ倒れていませんからデスペナルティの内容を知らないんですよね……。

 掲示板によると獲得した経験値のほんの一部が減り、治療費として手持ちのお金をある程度取られる……でしたか。比較的軽いといえば軽いですが、お金が減るのは痛い。

 経験値もたぶん私達くらいにまで上げ辛くなる段階に達すると、かなり痛く感じるようになってくるのですが……それくらいになればまずボスでしか死ぬことは無さそうですし。


「ミミズ、どのへんで取れそうです?」

「……確かによく見ると、斜面とかに取れるポイントがありますわね」

「斜面となると、ちょっと近寄らないとですね。雑魚の対処はやりますから、集めてください」

「わかりましたわ」


 《水田迷宮》に戻るなり、もうひとつのやること。《サク》さん依頼のミミズ集めを始めておきます。

 サクさんから聞くところによると結構質のいいミミズでもあるそうなので、釣りに使う為にも少し多めに集めましょう。

 《夜霧》さんには少しお待たせしてしまって申し訳ないですが、できるだけ品質のいいものと言ってましたからね。

 私達としてもちょっとでもいいものを持って行ってあげたいですから……下手に品質が悪い物を持って行って、デバフを掛けられたら……なんて、やりそうな事も視野に入れて。

 とりあえず二時間ほど、休憩を挟みつつたっぷりと集めます。予想通り、外で取れるものより品質がいいみたいです。


「お姉様、これで六十匹ですわー」

「それぐらい取れれば良いでしょう。時間もいい感じなので、前線に向かいましょうか」

「はいですわ。やっぱり外のように確実に採れるというわけではないので、予想よりは少なくなってしまいましたわね」


 まあその分、《採取》のスキルレベルががっつり上がったらしいのですが。

 《採取》が失敗すると、採取物がごろんと手から転げ落ちていくらしいです。ミミズの場合は指からずり落ちていくようで。

 慣れていないとほとんどの人は触るの嫌がるでしょうね……私も少し触らせて貰いましたが、やっぱり感覚はリアルに伝わるので。ここまで拘るか、とも感じますが。


 ミミズ採取を終えてさあボス前へ。道中の掃討も大分進んだようで、正解のルートに限れば昨日より比較的に水の濁りが取れています。

 レイドに参加できない人達は盾を構えて飛来するゲンゴロウを受け止めてレベルアップを図っている様子。昨日の内にサスタさんが掲示板に書き込んでいたので、後続が試しているのでしょう。

 ただ、その盾で受け止めるのに夢中になっていると……ああ、現にプレイヤーの一人が背後を疎かにしたばかりにウシガエルの泥玉を喰らって田圃に転落しました。

 苦笑しながら私はウシガエルを斬り捨て、ジュリアが救助。苦笑しながら礼を言われつつ、先へと進みます。


「もう既に集まっていましたか」

「クレハ殿とジュリア殿も来たかの」

「お、待っていたぜ。早速パーティ招待送る」

「ありがとうございます」


 ボス前の広場……からちょっとだけ離れた位置に辿り着けば、カエデさんやサスタさん達レイドに参加する面々が集まっていました。

 私達のパーティを含めて六人パーティが四つ、と言ったところでしょうか。サスタさんに送られたパーティ招待を承認し、レイドパーティを確認。

 やっぱり私達のレベルが一段と頭抜けてますね。ほとんどが18から20のところ、私達は22から23ですから。あ、掲示板に書き込んだ募集主がレイドのリーダーを務めているようです。ありがたい。

 私はこういう大規模な統率と指揮については本来あまり向きませんからね。ありがたいといえばありがたいのです。


「ああそうだ。さっき主催が相談に来たんだが、うちのパーティがメイン火力になるそうだ。盾は別パーティが担当するから、好きに動いてくれって」

「やっぱりレベル高いからでしょうか」

「だな。あとあんたらの名前を出したら納得したように肩を叩かれて頼まれた」

「えぇー……」


 当初はもう少し露出を控えて行動するつもりだったのですが、予想以上に顔が広がり過ぎているようです。

 その原因はもちろんのことあの決闘なのでしょうが、あの場にいただけではそうはならないはず……そうなればお父さんの策略……ぐぬぬ。

 父よ、娘達が大好きだしその身体能力とプレイヤースキルをすごく買っているのはとてもよく判るのですが、私達の当初の予定を崩さないでいただきたいのですが……

 とはいえ、そろそろルヴィアも私達の紹介をしたがるでしょう。予想以上に広がってしまったものは仕方ありませんし、利用できるものはさせて貰いましょうか。


「そろそろ時間だ。いくぞー」

「「「おー」」」


 主催の方の号令に従ってレイドパーティが動き始めます。先頭は用心して盾を構え、ボスのいる広場へと足を踏み入れます。

 広場のやや奥の位置で跳ねていたボスの案山子がこちらを認識したようで、ぴょんこぴょんこと巨体を跳ねさせてこちらへと向かって来始めます。

 近くで見るとやっぱり大きいですね。藁で出来た巨大案山子ですが、一部には布が巻かれ、左右に突き出た棒の先には鳥避け目玉の印が書かれた板がぶら下げられてます。


「各自散開! 攻撃開始!」


 今回のボスはアクティブ型のために、広場への侵入がトリガーとなって戦闘が始まります。それ故にすぐに散開して各パーティが行動を開始。

 タンクを務めるパーティはタンク三人ヒーラー三人の構成で、巨大案山子……《水田の大案山子》へと先制してヘイトスキルを放って敵視を稼いで攻撃を受け止め、すぐにヒーラーがヒールを行います。

 このダンジョンの構成の都合上ヒーラーがやや多めに流れてきたらしいので出来た構成ですね。各パーティにも一人ずつヒーラーが用意できていますし。

 私達はすぐに背面に移動しつつ、ジュリアとルナさんが魔術攻撃を仕掛けます。が、少し予想外の事が起きました。


「《サンダーバレット》」

「《ファイアバレット》!」

「《火弾》じゃ! ……なんと!?」


 魔術・遠隔攻撃のパーティとそれを行った面々が次々と驚きの声を上げます。

 本体である案山子目掛けて放たれた遠隔攻撃が、全て鳥避け目玉の板へと自然と飛んで行ったのですから。


「え、遠隔攻撃無効……まさか?」

「さすがにこんな早々にそんなことは……」


 一同にどよめきが走りますが、だからと言って大案山子が攻撃を止めてくれるはずはありません。

 配置へと移動しながら改めて二つの鳥避け目玉見れば、その遠隔攻撃を受けた側は二割ほど削れた体力ゲージが表示されていました。

 他のパーティも気づいたようで、すぐに情報が共有されて遠隔組が攻撃を再開します。


「あの鳥避け目玉、別体力を持っていますね。とりあえず遠隔組はあの鳥避け目玉を壊しましょう」

「近接組がそれなりにいるのは救いだな。道中が範囲攻撃のできるキャスターを要するのに、ボスだとそれを封殺か。さっすが心折設計に定評のある《九津堂》だぜ……」

「それなら、私は《ライトニングロア》で攻撃する。カエデは、ヒール中心に」

「最初からそのつもりじゃよう!」


 こちらの方針も固まったようです。ジュリアは既に我先と《ジャンプアタック》の低空軌道版、《スパインダイブ》で飛び掛かって行ってしまいました。

 続けてアマジナさんが斬り込み、私とサスタさんも続いて大案山子へと接近して斬りかかります。

 《新月》を発動してから《月天》での四連撃を一本足へと見舞いますが、流石ボス。結構な威力の筈ですが、それでも二ミリ削れたかどうかくらいのダメージでした。

 むむ、覚悟はしていましたがちょっとダメージの通りがあまりに悪い気がします。前に経験したのが拍子抜けのぼすうさぎさんでしたから、これが本来の難易度なのでしょうか。

 そう考えた矢先タンクに対する攻撃が止まり、一瞬力を貯める動作をするのが見えました。


「みんな、下がってください!」


 直感で危機感を感じて声を上げます。すぐに危険地帯の予兆を示すマーカーがボス案山子の足下に現れて直後。

 ぐるぐるり、とボス案山子が独楽のように高速スピンをしました。私達は範囲の外に逃げられましたが、攻撃に集中し判断が遅れて避け損ねた面々は体力が半分ほど削られています。

 急には避けられなかったタンクの皆さんは二割で済んでいますが、なるほど、これに気を付けながら戦うと……

 動きの読みやすい攻撃の多かったぼすうさぎと比べれば、結構難易度が上がったボスのようです。これは気が抜けませんね。

 回転攻撃が収まり、タンクへの攻撃を再開した案山子に再び近接組が近寄って集中砲火を仕掛けます。


「結構厄介だな、これは」

「遠隔は鳥目玉で、近接はさっきの回転攻撃で上手く邪魔をしてきますね。結構厄介ですよ、これ」

「話に聞いてたウサギよりも相当厄介そうだ。しっかし、短いタイミングでこれをされると何時間かかるか判ったもんじゃねえぞ……」

「そんなことを言っている間に……またですわ!」


 それでもまだ力を貯める動作があるのがわかりやすく避けやすいのですが、何よりも近接攻撃を一度引き剥がされて間を作られるのが非常に厄介なところ。

 ジュリアの一声で下がり、接近アーツを使って一気に距離を詰めて攻撃を再開。この二度の攻撃の間でも、近接組の攻撃でようやくボスの体力が5%ほど削れたかどうか。

 何かしらのギミックがありそうな、と状況を見回しながら攻撃を続けていきます。


「……鳥避け目玉の減りの方が圧倒的に早い……?」


 少し視線を外して遠隔組の攻撃を吸っている鳥避け目玉の体力残量を見れば、既に片方が六割を切りそうな程になっていました。

 もう片方は攻撃があまり当たっていないので削りは遅いのですが、そうだとしても本体よりも圧倒的に削りが早いという事は……


「あの鳥避け目玉を壊すまで、少し粘りますか」

ギミックのあるボスは定番! でも初見だとどう解くんだこれ……ってギミックもありますよね。


こないだ日間の朝の方で55位にランクインしていたようです……本当にありがたや!

すぐにいつも通りランク外に落ちてしまったようですが、ちょくちょく下の方にランクインさせて頂いているのは嬉しい限りです。


さて、いつもの定型文になりますが、よろしければ下の方にあるブックマークをぽちっとして、評価ボタンをぽちっとして、ついでにちょちょっと感想を頂ければ作者はとても喜びます。

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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜
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