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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-7幕 猫鎮めの神器 / Go to Vanaheim East

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241.Rage of Flame Dragon 4

「グアアアアアァァァ!!!!」


 開幕いきなりの強烈無比な咆哮から《フレアプロード》の連射。先程海佳さんに教わった通り、彼女の癖を利用して逆に立ち向かう様に突っ込んで避ける。

 たぶん最初の咆哮は威嚇と威圧を含んだ竜の咆哮……一度喰らったことがあるね、悠二さんと戦った時にやってきた《原初の咆哮(プライマルロア)》だろう。

 そのまま火燐は翼を振りかぶり―――思い切り叩き付けるように、《威圧》でやり返していたウケタさんへと振り下ろす。

 フェイントのない真っ直ぐな攻撃で、スライディングをするようにして回避、そのまま大剣を構えて飛び上がるようにして斬り付け。

 するとすぐに飛び下がって着地と同時に空中に無数の火の玉、先に戦った葉綺さんとは比べ物にならない連射数の《フレアバレット》だ。


「いきなり―――皆さん私の後ろへ、えいっ!」


 海佳さんの一言と共にその背後へ、同時に水を操り滝の様な防壁を張って降り注がれる火弾の嵐を防いでくれる。最初から飛ばしてくるね。

 いや、むしろ海佳さんがいるからだろうね、これは。プレイヤー相手であればこんなオーバーキルを初っ端から撃って来ないだろうし。

 滝の向こうから滑空で突っ込んでくる火燐の姿が見えればすぐに散開、海佳さんは滝の防壁を崩してそのまま火燐に叩き付けた。

 が、それで止まるような火燐ではない。水飛沫の中から尻尾による一撃が私へと向けて飛んでくるので、《ジャンプアタック》による飛翔で回避。

 丸太の様な尻尾が空振るけど、直撃したら大ダメージ間違いなしということを示すように地面が抉れる。私も発動が一瞬遅かったら喰らっていたと考えると肝が冷えるね。

 体格こそそこまで大きい訳でなく全長としては八メートルほど、高さで言えば三メートルほど。大型車といえば少し分かり易いだろうか。


「そぉ、れぇっ!」


 いつものように《フレアプロード》を絡めての攻撃。同属性ということで通りこそは普通なものの、鱗で通りが悪くなっていたみたいだ。

 本命の突き刺しも通ったものの、いつも通りに突き刺したままの追撃は仕掛けられないので離脱。いやだって、危ないんだもん。

 案の定離脱した直後に再び尻尾を振り回しての攻撃。ぶんぶんと飛び回るキユリを薙ぎ払おうとして行ったことだろうけど、跳ね飛ばされたらそれでダメージだ。

 挙動こそさっきの戦闘で見ていたけど、なんだかおかしい。あからさまに激化しているというか、ハードモードに近い。


「さっきとは全く違う挙動してるのだ! っわぁ!」

「これ罠にかけるどころではっ、ないでっ、すぅっ! 《ゴーストランス》っ!」

「ちょっと、バフが回り切らなっ、フロクス!」

「《三撃・陽防》! 耐えてくれ、ジュリアいけるか!?」

「なんとか合わせますわ!」


 海佳さんはしっかりと立ち回ってるけど、私達は急激な難易度の変化に振り回されてまだ感覚が追い付いていない。

 唯一キユリはハイスピードでの戦闘に慣れているので追いつけてはいるけれど、その分タンクであるウケタさんよりもヘイトを稼ぐことが多いせいか、攻撃がよく向いている。

 普段はこの感覚で戦っているからなんだろうね。私はもう少しギアを上げれば追いつけるけど、みんなはまたしばらく無理だろう。

 ……トップスピードのお姉ちゃんとしばらくやってない気がするし、やっぱり昨日あたりに同じかそれ以上のライカと一戦やっておいた方が良かったかも知れない。


 フロクスが一歩前に出て、首へと向けて防御力低下の追加効果を持った《砕鎧撃》を叩き込み。甲殻のお陰か元の防御力が高いから助かるね。

 すかさず接近技(ダスクラッシュ)で一瞬で近付きながら刺突、から《竜眼》を使って《マグマランス》を叩き込み。

 すぐに反応して翼爪での反撃を仕掛けてきますが飛び下がり。そのまま再び飛び掛かって槍のアーツを叩き込んで順調に削っていく。

 トトラはなんとか慣れて反応出来始めているけど、時折魔術攻撃の範囲を喰らっている。そこはキユリの迅速なカバーで回復はしているけど……


「だいぶ慣れてきましたけど……っ!」

「グルァァァ……!」

「なんだかすごい嫌な予感がするのだ!」


 足を何度も叩き付けての威嚇。その目が光った途端―――周辺一帯を丸ごと爆破する勢いの《フレアプロード》の連射。

 周辺が閃光と熱で一瞬で埋め尽くされるほどのそれ。もはやゲージ技でもおかくない技を連発してくるあたり、本当に加減がないったらありゃしない。

 海佳さんが察してすぐに私達に《マーキュリーガード》と水の泡によるバリアを張ってくれたけど、ジリジリとその熱波が肌を焼く。

 その間でも魔術による攻撃でしっかりダメージを与えていくけど、そう簡単にはやっぱり削れてくれない。

 戦闘開始してから一番削れてはいるけど、それでもなお一割と少しだ。この猛攻が無ければもっと削れているんだろうけど……!


「っくぅ、もうちょっと削りますわよ! アレ仕掛けます!」

「わかったのだ、いつものアレなのだな!?」

「私も試しに動きを止められるかやってみます!」


 流石に逃げる前にもう少し削っておきたい。というわけで思い切り直上に飛んで槍を構えての急降下。

 下ではキユリが《クリーパーヴァイン》を絡み付けて動きを止めようとしているね。少しは効果はあるみたいだけど、キユリが物凄い勢いで振り回されているね。

 そこにトトラがお馴染の《ヘイルブレス》を浴びせて順調に削って行っている。割と効果的なのか、ただ苦手なのか食わらせるとロアで反撃をしており、いい隙になっているみたいだ。

 まあその度にキユリが振り回されながら《ナイトトラップ》を踏ませているけど。あれ大丈夫なのかな、ダメージこそないけど振り回されてるし……


 飛翔の頂点まで行けば、ゆっくりと急降下が始まる。先程よりも距離は倍、翼を羽搏かせばより勢いが乗る。

 急降下を見たウケタさんがバリアを張ってしっかりと引き付けているし、キユリもちょっと無理をしてか蔦二本で縛り上げている。

 そしてお膳立てのようにフロクスさんが防御デバフを入れていつでも直撃させられるように準備は整えているし、海佳さんも精一杯引き付けているね。

 私も一息、最後の微調整をしながら魔術発動の準備を――――


「あ、しまっ―――」


 火燐がぐるりとその首を持ち上げて、私を見つめた。そして、目が合った。

 怒りを灯した黄金の瞳がこちらに向き、烈火の火を灯す。バレットであれば勢いで無視はできる。けど、そうじゃない。

 鋭い牙の生え揃った口を開けて、その喉奥に劫火の煌めかせる。不味い、これは―――魔術(ロア)じゃない、本物の《火竜の吐息(ドラゴンブレス)》だ。

 急降下する私は勢いが乗りに乗った今はもう軌道は逸らせないし、無理に止めたとしてこのまま地面に落ちれば致命的な自爆ダメージを貰う。

 相打ち―――いや、どう動いても相手の方が早い。私を見つめるその瞳がニヤリと笑みを浮かべたようにすら見えた。


「っく、そっ、狙いやがりましたわね!」


 慌てたみんなが総攻撃を掛けて逸らそうとするけど、口元からは炎が漏れている。勢いよくその炎塊が噴き放たれる瞬間―――



「そぉぉれぇい!」



 視界の僅か端。外から閃光が如く飛んで来た何者か―――いや、幾度と見たその姿が、思い切りその悠々と開かれた口を蹴り飛ばして無理矢理閉じさせた。

 寸での阻止に合わせて私の槍がその背へと直撃、同時に火燐の口内に溜められた炎が爆発して追加のダメージが入る。何というか、助かった……

 ともかく、助けてくれたその子に対して礼はしておかないとね。この状況、本当に助けに来てくれるとは。


「ライカ! 助かりましたわ!」

「えへへー! 間に合ったぁ!」


 崖一つ向こう、とは比喩でもなんでもなかったんだけど本当に突っ走って助けに来てくれたらしい。

 笑顔でブイサインを向けてくれるライカに視線を向ける。きゃっきゃと嬉しそうに跳ねているところを見るに、うん、主人のピンチを助けれて喜んでいる犬のようだね。

 とりあえずパーティを組めないので下がっておいてほしいけど……どうやら火燐はライカの不意打ちもあって混乱と同時にノビているらしい。

 トトラ達が今の内と言わんばかりにフルボッコしている。私も起き上がって加勢したいけど、さっきので肝が冷えたのかちょっと体が竦んでいて立ち上がるのに時間が掛かってしまった。


「グルルルゥ、ガァァ、ァァァ……」


 ようやく立ち上がれた頃には火燐の混乱も収まっており、恨めし気にライカを見つめている。体力はさっきのも合わせてこれで二割強は削ってはいるけど。

 皆が身構えた直後に翼を大きく広げて一気に飛翔、遠く……別エリアに向けて飛んで行ってしまった。ある意味では助かったけど……

 何というか、異様に反応も良ければ攻撃も激しかったの一言に尽きる。熟練というか、最前線での戦いに慣れている私達でも立て直す時間が欲しいくらいには。

 視線で火燐が別のエリアへと降りていくのを見届けた後、一度集まることに。ライカはかなり走ったというのにまだまだ元気そうで、スタミナ回復にビーフジャーキーを齧っている。


「ジュリアがびびってるの初めて見たのだ……」

「私達も大慌てでしたけど……うう、ライカさんが来なかったら今頃ジュリアさんがお口の中でした」

「あんまり言わないでくださいます? ……結構真面目に怖かったんですから」


 トトラがびっくりしてるけれど、一番びっくりしたのは私だからね。対空攻撃はこれまでもあったし、多少のダメージは掠り傷で済んだから無視してたけど。

 あそこまで丁寧に、即死すら見える対空の狙い方をしてきたのは初めてだ。敢えてそういう作りで、狙っていたとしか思えないくらいの挙動。

 もしくは何度か遭遇したことのある私を徹底的にマークしていたからしてきた挙動なのか、それとも……よくは分からないが、こうなると高高度からのジャンプは控えるべきだろう。

 もう一度ライカのお世話になるか、もしくはそれすらも許されないかも知れないからね。不安要素は外しておくべきだろうし。


「にしても……相当暴れ散らかしていきやがりましたわね」

「ゲージ技級の大技をあれだけ連発される方の身にもなって欲しいのだ」

「他の所に移ってからは?」

「流石に最初と同じように大人しくしてますね」


 全方位の無差別フレアプロードだけでなく、先の動きと比べてハイスピードな攻撃頻度と反応速度。

 私が動けない間にも地団駄やブレス、爪による攻撃を放って来たりしていたので、先の配信で見ていたよりも多彩かつ強烈な攻撃が異様に多かった。

 あれだけやってなおまだ何かありそうなのが怖いところなんだよね。今の時点では見せてはくれないだろうし、変質して使ってこない可能性もあるけど。

 何か考えている様子だった海佳さんもこちらに来て、その答えを口にし始めました。


「もしかしたら、私が原因かも……?」

「確かにあり得そうだけど、どういうことだ?」

「あの挙動、私と戦う時のやり方に近い挙動が多かったですから……」

「あれが、対海佳さん用の挙動……ですか?」


 つまりこういうことらしい。最初に見せた叩き付けに関しては海面に浮上させないための抑え込み、全方位爆破は見失った時や威圧としての常套手段らしい。

 あれだけ正気を失っていたとしても、やはり自分が常日頃から組んでいる姉。感覚や気配は身に染み付いているもので、反射的に出てしまったものなんだろう。

 うん、これはとてもよくわかる。私もお姉ちゃんやお爺ちゃんが相手だったら無意識に反応してしまうだろう。

 高難易度化の原因が海佳さんだと判ったところで対策を改めて立てなければいけない。不気味なくらいライカが素直に話を聞いているのが怖いけど。


 というわけで、海佳さんに対応してきた挙動について一通り聞いてみた。やっぱり反応速度を速めているのは海上での対策らしい。

 使ってきたそれらしい挙動は尾でのサマーソルト……の代わりに体を軸に横に振り回す挙動と、地団駄に見せかけた威嚇と同時に飛び掛かる動き。

 あとは翼を大きく動かして熱風を叩き付けて来る攻撃、各種魔術による応戦くらいだろうか。もう少し動きが軽ければもっとしてきたのことで、やはり戦闘力は低下しているのは確実らしい。

 あれで下がっているというのがまた頭を傾げたくなるところだけど、そういうことなのだから仕方ない……と納得するべきだろうか。


「ま、だからと言ってとんずら掛けるほど私達は日和りませんものね」

「むしろ燃えてきました。あれだけ本気でやってくるならこちらも応えねば無作法というもの」

「ウケタに同じくなのだな! 全然やってやるのだ!」

「おうさ。だから海佳は変わらず協力して欲しい、頼りにもしてるから妹に負けるんじゃないよ」


 ま、高難易度にも果敢に突っ込んでいく面々ですから。責任を感じて不安そうにしていた海佳さんの顔もぱあっと明るくなった。

 多少高い難易度の挙動を見せられた程度で怯んでなんかいられないんだもの。それを乗り越えてこそだし、何よりも自慢にもなるからね。

 海佳さんからしても妹に負けてられないだろうし、そうなればより戦いやすくしていくだけだ。今ので一通りは見れたし。


「それじゃライカ、あとで褒めてあげるからフキノのとこに戻りなさいな」

「うん! 急に飛び出したからみんなびっくりしてるだろうし、それじゃ!」


 ……え、飛び出してきたのは無断だったの。

 そんな私の呆れ顔をひとつも気にせずに彼女は来た時と同じように走って行ってしまった。

 ともかく、再び火燐の動向を見ておかないとね。体力が削れるのも早く半分を切っているし、この調子なら早々に終わりそうな気配すらあるから。

最初の最初で言っていた、覚悟してないと一般人ではトラウマになりかねないこと、がこうしてばっくりと喰われかけるなどの恐怖体験のことです。

他にもいろいろありますが、仮想体験とはいえ怖いものは怖いのでジュリアですら直面すれば腰が抜けます。

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