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24.パワーレベリング大会

パワーハウ……パワーレベリングだ!

 あれから暫く経って、夕飯やお風呂などを終えてログイン。

 明日から春休みなのもあるので、母からもちょっとの間だけであれば、いつもより長くやっていいとのお達しも頂きました。

 というわけで、ちょっとがっちりやっていきましょう。あっと言う間にレベルも上がり、もうすぐレベル19です。

 前線でも16を越えるのは珍しいと聞きます。それを抜いて19ですが……ちょっと頑張り過ぎたでしょうか。


「さ、お姉様行きましょう」

「えぇ。前線は……大分進んでいるようですね」

「流石に私達の真似をしている方はおられませんか」

「……あれ、相当VRに慣れてリアルでもスキルないと出来ませんよ。ほら、あのように―――」


 前線に移動しながら、私達の真似をしているのでしょうパーティを指差します。

 大柄の男性プレイヤーが、大剣を振って……あ、空振った上にゲンゴロウが三匹直撃しました。

 サポートに入った猫人の魔術師さんも雷の弾丸で狙い撃ちますが……一匹取り逃してしまいました。短剣使いがカエルを処理していますが、時間が掛かり過ぎです。


「……いえ、あれは単純に担当が悪いですね」

「ゲンゴロウよりもカエルの方が耐久があるんですから、大振りでもカエルの処理をするべきですわね。それに短剣の方が振りが早いので、まだ撃ち落とせそうですわね」

「魔術の扱い方も少し焦点が定まってませんね。薙ぎ払う方でタイミングを覚えてからにすべきですよ」


 ……なんて批評してたら、偶然目が合ってしまいました。あ、まずい……

 って思ったら、なんだかよく知ってる顔の、ような……

 あっ、思い出しました!


「昨日のねーちゃんじゃないか」

「おお、クレハ殿とジュリア殿ではないかの!」

「久し振り。二日ぶり」

「昨日の人に、カエデさんとルナさんじゃないですか。お二人もここに来ていたんですね」


 《水田迷宮》に入った際に色々教えて貰った男性の方と、ぼすうさぎの時にパーティを組んだカエデさんとルナさん。それと……

 この方は初見ですね。ええと……。


「……お、アンタは噂の」

「初めまして。私、ジュリアと申します」

「クレハです」

「俺はアマジナ。まあそこのデカブツ……サスタの相棒だよ」

「おう、そういや名乗ってなかったな。改めてオレの名前はサスタだ。よろしくな」


 狼人のアマジナさんと大柄な人間の男性であるサスタさんがそれぞれ礼をします。

 しかしこう……高身長キャラクターと並ぶと、傍にいるカエデさんとルナさんの小ささが際立ちますね。


「今回は入口でパーティ募集しているのを見かけての。入らせて貰ったのじゃ」

「ああ、こちらとしてもヒーラーとキャスターが欲しかったからな。ちょうど良かったんだ」

「そしたら、あんたらの話で盛り上がってな。それで、昨日見た人がこうやって後続の道を作ってたって」

「なるほどそれで……」

「しっかしまぁ、上手く行かねえモンだ。やってることは飛んでくるモンを処理しながらカエルを潰してるだけなんだが……」


 サスタさんが頭を抱えながら溜息を吐きます。カエデさんとルナさんも少し悩んでいる様子です。

 ……仕方ない、私達が色々教えましょうか。ちら、とジュリアの方を見ても同じように頷いて……意見一致ですね。


「ちょっとしたコツがあるので、教えますよ」

「当て方にもコツがあるのですわ。ルナさんならすぐ出来るようになると思いますもの」

「感謝。とても、うれしい」

「それでは話が決まれば……移動しましょうか。今日は最前線でやる予定なので」

「そんなところでやるのか? Mobのレベルも少し高くなっているが……」

「ええ、こちらはもうすぐ19レベルですから多少上がっても問題なくて」

「もうそんなにか……!?」


 ……驚愕の表情で四人が私を見ます。何かおかしいことをしてしまったでしょうか。

 それから、どこか納得したように肩を落とされました。どこかとても呆れたような顔で。


「……いや、あんたらなら納得だ」

「じゃな。昨日していたことを見るだけでも……というより、さっきやって十分に判ったしのう」

「えーと、まあ、その。よくはわかりませんが、判って頂いたのなら」

「とりあえずパーティに誘うぜ……うわ、ホントだ」


 奇異の眼で見られているようですが……そ、それはそれとして。

 四人を先導するように先に歩きながら、納刀したままに居合でゲンゴロウを叩き落していきます。

 カエルはジュリアに一任しつつ、掲示板に書かれていたとおりに迷路の先、ボスの手前へ。

 目的の地点に辿り着くころには、四人も大方のやり方を覚えたようでした。


「……こうして間近で実際に見ると、改めてプレイヤースキルの差を実感するな」

「ルヴィアさんも近しい匂いがしてるけどな……」


 先程とは打って変わってサスタさんがカエルの処理、ルナさんが範囲魔術でゲンゴロウの処理。

 アマジナさんが索敵と撃ち漏らしたゲンゴロウの処理をし、カエデさんがヒーラーの役目をしつつ火魔術でサポートと形が出来ていました。

 私達二人は好き勝手に遊撃しつつ、細かいアドバイスを行います。

 ここまでの道中で結構慣れたようですが……何しろ田圃一反が分かれ道の間に四から五つほどあり、その一反も大方五十メートル前後ほどあります。

 全部綺麗にしていたらキリがないくらいですね。飛び飛びに休憩地点が作ろうとしたかのように半端にしているみたいなのですが。


「カエルは縦か前進する跳ね方をしますので、移動先は予測しやすいですわ。例えば……」

「ここか! 《ビッグスラッシュ》!」

「そうそう。そうですわ!」


 ジュリアがサスタさんにカエルの仕留め方を教えていますね。的確なアドバイスもあって、サスタさんが大振りの一撃をカエルに叩き込みました。

 少し離れたところでそれを見聞きしたルナさんが、近くにいた跳ねたカエルの着地点を見据えて《ボルトプロード》を叩き込みました。

 直撃した緑カエルは体力が半分になり、それを逃さず見ていたジュリアが横からアーツで仕留めてすぐに解体してしまいました。

 いい感じですね。予定地点に付きましたのでそのまま私も田端へと向かい、ゲンゴロウの掃討に掛かります。


「……っ、と。流石に最初の地点に比べて数が多いですね……っ!」

「ふふふははは、飛んで火に入る夏の虫みたいじゃな! 《炎砲(エンホウ)》!」

「《エッジブースト》……!」


 カエデさんが和風版の《フレイムスロア》を放ち、まとめてゲンゴロウを焼き落とします。

 私もその横に立ちますが、あっと言う間に居合ゲージが底を付くほどの数が飛んできています。複数体ずつ飛んでくるのがタチが悪いですね。

 それをサポートするように、アマジナさんが私達の取りこぼしを短剣でしっかりと一体一体を片付けていくのですが、それでも反対側の田圃へと着水して返しで再び飛んでくるのも見られます。


 居合術の弱点は多段攻撃など複数回の攻撃に対して居合が反応してしまうこと。

 発動すれば着実にカウンターが発生するのですが、その回数分発動してゲージを一気に使ってしまい、ゲージ残量の管理を著しく難しくしてしまいます。

 ディアホーンの角攻撃や、この複数体同時に突っ込んで来るゲンゴロウくらい……いえ、もっとあるかも知れませんが、それらが弱点になりがち。

 なので、切れてしまえば素で狙って切り裂くしかありません。この減り方からしてしまうとカエルに使う為の《新月》も使えないでしょう。

 大分集中力を必要としますが……そこは仕方ありませんか。《円月》も絡めて上手く切り払っていきます。相変わらず奇異の眼で見られるんですけどね……。


「そろそろ水が澄み切ります。一度休憩してから奥に向かいましょうか」

「おうさ。大分慣れてきたな」

「ホント多いのう……」


 田圃の水を見れば、ここに着いて二十分ほどで最初の一反が綺麗になり始めています。

 昨日に比べれば相当早いですね、やはり人が多いのは正義。最前線の近くで気が抜けるポイントを作れたのはいいことでしょう。

 最後の一匹を落とせば、一歩下がって道の中央へ。各種ポーションで体力を回復しつつ休憩に移ります。


「……お、あれボスエリアじゃないか?」

「まだ道が入り組んでますけれど、こんな近くにまで進めているんですね。先人には感謝したいです」


 アマジナさんの声に応じて前を見れば、入り口からはぼんやりとしか見えなかった円形の広場がもう間近に見えます。

 広場を囲む柵の他に納屋が幾つか見えますが、その隙間からボスの姿らしきものが僅かに見えました。

 あれは……ええっと……。私同様に姿を視認した面々が何とも言い難い顔を浮かべています。


「あれは……うん……そう、だよね」

「ですよね。これだけ田圃を使っているんですから、ある程度の候補の中にはいましたが……」

「……良く燃えそうじゃな」

「ありゃあよ、どっからどう見たってよ……」

「「「案山子だよな……」」」


 芯材の木を藁で覆い、胴体にへのへのもへじの頭巾を被り。その頭には傘を被せされたそれ……どう見ても、案山子ですね。

 しかもご丁寧に鳥避け目玉っぽい模様付看板も周囲に浮かせています。一本足を使いぴょんこぴょんこと跳ねている様を見るに、動くようです。

 ……ここからだとまだ小さく見えますが、納屋のサイズと比べると電信柱くらいのサイズはありますね。


「田園でボスが案山子ですか……」

「掲示板にあったとおりではありますわね。あとは複雑に見えて分岐ふたつで一本道……らしいのですが、ここから先は密度が半端ないとか」

「……ちょっとずつでも制圧して安全地帯を作っていくしかありませんね」

「ここまで突っ切ってきた人ばかりだったのでしょうね。濁りがまるきり残っているところが多い……」


 先を見るだけでも、ボスの広場からを中心にして水田の濁りが広がっているようです。

 ということはここのボスが元凶のよう。一度綺麗になった場所は汚れることはないみたいですが、あんまり長く放置しておくと他の田圃から流れ込んでまた……となりそうですね。


「それじゃあボス前まで、できるところまで頑張ってボス前まで行ってみましょうか」

「おし。すげえ勢いでレベルも上がるしやる気も出るもんな」

「頑張るのじゃー」


 ひと休憩を終えてから、すぐ次の田圃を目指して歩き始めます。

 ボスのいる広場前、最後の分岐の場所まではあと大方八反と言ったところでしょうか、頑張れば今日中には行けそうですね。

 次のところへと踏み込んだ途端、いきなり弾丸ゲンゴロウが飛来してきました。足を止めて避け、パーティメンバーも武器を抜きます。

 対処方法や分担を覚えればカモですからね。それに人数もいるのでカバーもしやすいです。


 体勢が整ったところで再び刀を抜き放ち、再び飛来したゲンゴロウを《月天》を放って二匹叩き落します。一匹掠りましたね、抜刀していたのでカウンターは発動することなく、素で狙うと命中が安定しないのは仕方ありません。

 先にも述べましたが、やっていることは複数個の野球ボールの撃ち返しですからね……あ、ちょうど配信でもルヴィアがMobは違えど似たような事をしていました。

 あちらは力を入れて振るって真芯に当てて飛ばしてますけれど、こちらは飛んでくる場所に刃を置くようにすれば勝手に突っ込んできますからね……。

 それでも直進してくるところの見極めが出来なければ当てられないのですが……サスタさんみたいな大剣使いであれば、ひとまとめに飛んでくる習性があるゲンゴロウを野球のバントの要領で剣で受け止めれば、勢いの余りに叩きつけられてそのまま即死するっぽくそれで処理出来るようですが。

 ただ、それだと攻撃と見なされないのかもで経験値は激減してしまうそうで……むしろ撃ち落とした時の経験値は少ないながらもボーナスなんでしょうね。

 出来る事なら破壊力もあるので、カエルが湧けばそちらに優先して向かっているようです。難度による労力を考えてもそちらの方が楽でいいですから。


「喰らいなさいませ!」

「《エレキバレット》」


 今度はジュリアが見つけたカエルをルナさんと処理を行っている様子。しかし、ジュリアもよく落下攻撃をカエルに当てられますね……。

 ステータスも上がったお陰か、タフなウシガエルでもほとんど瀕死まで持っていける様子。そのトドメを間髪入れずルナさんが行っているようですね。

 私も張り切らないと、サスタさんもアマジナさんも大分手慣れて来てますからね。追いつかれないようにしなければ。


「あらよぉ!」

「っ、せっ!」

「回復するのじゃよー!」


 ゲンゴロウの掃討をする組も相当手慣れてきたようで、被ダメージも極力減ってカエデさんも攻撃に回る機会も増えているようです。

 私はというと三人とは反対側に立って背面への攻撃を防ぎ、かつ処理を早めていきます。この勢いであれば、おおよそあと少しでボスまでの道も切り開けそうですね。



――◇――◇――◇――◇――◇――



「……はー、はー。やっと……」

「最後の、なんですかあれ……」

「もはやゲンゴロウというより蝗の群れですわ……」

「絶対これ、本来は盾か何かで防いで通る仕掛けになっているでしょう……」

「間違いねえ……」

「MPももうすっからかんじゃよ……」

「私もこれは、一度補充に戻らないと駄目……」


 二時間後。ようやくボス前最後の直線への分岐に入ったところの休憩地点を作ることに成功しましたが……

 ようやく澄み切らせる頃には、既にもう全員が疲労困憊。理由は噂されていたそのゲンゴロウとカエルの物量からでした。

 レベルが上がればゲンゴロウを叩き落しても雀の涙程度に、カエルを倒しても少し増えるかどうかの段階まで来て旨味も少なくなってはいますので、確かにやりたがらない人が多いのも納得です、が。

 何よりも最低でも四、多い時には六のゲンゴロウが飛んできながら必ずカエルが二匹湧いてくるという物量でした。

 倒すだけならいいのですが、ほとんど間隔なく次々と湧いてくるのが辛いところ。どちらか片方であればまだ簡単だったのですが……。


「範囲焼きできるキャスターと、このゲンゴロウを受け止める盾持ちが必要……というより、ガード系のスキルが一番必須だったんですね」

「お陰で大剣で防ぐのを安定させるために取った《防御》のスキルレベルがすげぇ上がってんぞ……」

「武器が壊れかけだ……一応王都で揃えた短剣、二本用意してたのにどっちもな……」

「武器に関しては全員ですわね……ああ、先行出来た人たちがボスの偵察をしているようですわ」


 ジュリアの声を聞いて、前を向きます。

 一応今回のボスはアクティブ型……近づいてこちらを視認すると襲い掛かってくるタイプらしく、私達の合間を抜けて行った数組が手前で様子見しようとしたところ、戦闘になってしまったと。

 ここが制圧できる前だったので、休まる暇なく強硬偵察のように挑んだのらしいですが……。ああ、ボス案山子の横回転攻撃で一人のプレイヤーが弾き飛ばされ、見事に死に戻りしていきました。


「本来の攻略手順であれば、ここで盾持ちの人達を集めてパーティを組ませて進行。できるかぎり体力を温存してボスに接触する……んだったんでしょうね」

「ゲンゴロウの対処方法、やろうと思えば撃ち落とせるし回避もできるけどそれだと完全にジリ貧だしな」

「多分水が澄んで湧きが減るのはひとつの救済案だったのではないでしょうか……その穴を突いた形になるのでしょうけれど」


 掲示板の方を見れば、私達がここまで切り拓いたのもあって後続はしっかりと温存しながら来れている様子。

 先行して案山子と戦った組の意見も見て、この近くでプレイヤーのレベルを整えて明日の昼にレイドパーティを組んでボス討伐を目指すようです。


「とりあえず一旦……」

「「「帰るかぁ……」」」


 全会一致。ダンジョンの入り口まで戻ったところでパーティを解散し、明日また討伐決行の時間に集合することになりました。

 私達の学校が少し遅いだけで、ほとんどの学校はもう春休みに入っているようですからね。人もいるので討伐できるとなったのでしょう。

 とりあえず補充や武器の修理は明日に回してログアウト……して、手早く寝る準備をしてお布団の中へ……。

実際、野球ボールよりちょっと小さめくらいの玉を撃ち返すって大変だと思うんですよ。


いつもの定型文になりますが、よろしければ下の方にあるブックマークをぽちっとして、評価ボタンをぽちっとして、ついでにちょちょっと感想を頂ければ作者はとても喜びます。

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