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23.龍神様のお願い そのいち

サクさんからのお願いそのいち。

 さて、月曜日。早起きして学校に行って、出席を取って高校での授業を振り返る宿題を提出すれば、あとは補講がある人はそちらに。

 私は無いので早々に帰り支度を。とは言っても、まだまだ授業のある千夏とは時間がズレてしまいますね、どうしましょうか。


「あ、ク……深冬だーっ!」

「はぁい、お元気ぃ?」

「春菜に秋華、どうしたんですか?」


 どうしようかと悩んでいた矢先、幼馴染二人が声を掛けてきました。なんだかあちらの印象が紐づいていて、こっちの姿に違和感が……そう日は経ってない筈なんですけどね。

 春菜達ももちろん補習もないですからね、ゲーム廃人ですがきっちりと取れる点は取っていますし。返事を聞いた二人が歩み寄ってきました。


「深冬、御触書のダンジョンはどれを攻略してるの?」

「私は《田園街道の化生》の攻略ですね。そちらは?」

「ふぅーん、私達は《船屋敷鼠掃除》よぉ。本当にお掃除する要素があってぇ、朱音のハウスキーパーしてるのが役に立ったり? 立ってる?」

「ネズミがいっぱい湧いてね、虫とかいないのはいいけど蛇とかも。あとは幽霊」

「えっ、幽霊まで湧くんですか?」

「そうよぉ。でも光魔術で楽々処理できるから私の担当ー」

「へぇ……」


 おや、彼女達の事ですからてっきり朱音と同じところを攻略していると思ったのですが。

 《船屋敷鼠掃除》は掲示板を見る限り、単純な掃除作業を進めると湧き出すモンスターを討伐していく……らしいです。

 なんとなしに朱音が両親不在の折、家事手伝いに行っている経験がさりげなく生きているようですね。それでもその清掃する区画がかなり広いそうですが。

 掃除嫌いは他ダンジョンに行ってしまっているようで、必然的に綺麗好きが集まって一番進行度は早いとかなんとか……


「そっちはどんな感じなの?」

「こちらは田圃の迷路ですね。それで一反ごとに大量湧きしてくるゲンゴロウとカエルの群れを掃討しながら進んでいます」

「うへ、大変そう。経験値割と少な目ーって聞いてたけど、大量湧きするなら納得」

「どれくらい湧いてくるのかしら」

「そうですね……結構人が通っている一反でも、一時間ほど狩り続けて湧きが収まりましたから、ゲンゴロウが余裕で三桁オーバーでカエルは百前後かと……」

「……それ以前によく集中持ったね、私も人の事言えないけど」


 春菜が呆れた様な顔を浮かべます。以前やったものだと一時間以上集中しながら戦い続けるなんて茶飯事でしたでしょうに。

 彼女も春休みに入ったら廃ゲーマーに逆戻りしそうですね……朱音に機会があったら軽く釘を刺しておいてと伝えておきましょうか。以前の一件再び、ともなりかねないですし。

 話を戻しまして、ゲンゴロウは特攻してくるうえに数が湧くんですよね。おかげで大量に撃墜した昨夜のログアウト前はインベントリいっぱいにゲンゴロウのドロップ品がありましたし。

 そのドロップ品の整理をしてから今日も同じようにやるつもりです。もっとも、千夏の授業が終わってからですが。


「私も早く帰って続きをしたい……のですが、ね」

「千夏ちゃんはひとつ下の学年だもんね、あっちはまだ授業があるし……」

「はい。だから少し待つつもりです」

「あはは、それじゃあ私達はお先にぃ。時間あったらゲーム内で逢いましょ」

「時間があれば、ですね」


 そう言ってから、二人は手を振ってから教室を出ていました。

 お互い攻略がありますからね。お互いゲーマーですし、本当に機会があればになります。

 うーん……千夏には悪いですが、先に帰ってしまいましょうか?


「……おや、メール……」


 なんて考えた矢先にチャイムが鳴り、休憩時間になった千夏からメールが来ました。

 内容は……なるほど、待たせるのも悪いので先に帰って欲しい、とのことです。

 できれば一緒に帰りたかったのですが……まあいいでしょう。それではお言葉に甘えて帰るとしましょうか。

 先に荷物の整理や釣りでもしておきましょう。魚も結構釣ったとはいえ、足りるかどうかわかりませんし。



――◇――◇――◇――◇――◇――



 帰ってから昼食を終えれば、《DCO》へとログイン。

 昨日は《田園街道の化生》のダンジョン……《水田迷宮》の入り口付近、セーフエリアでログアウトしたのでしたね。

 昨晩の内にジュリアからドロップ品は預かれるだけ預かっているので、一度先に出てから売りに行きましょうか。


 少し距離がある道のりを走り抜けて王都へ。商店街へと行き、ドロップ品を整理します。

 ゲンゴロウの破片が数百と、カエルの足が数十ですね。ゲンゴロウは餌用に少しと……カエルの足は……ちょっと取っておきましょうか。

 料理に使えるかもしれませんからね。レシピ……にはないですけど、マニュアルで作れる料理もあるそうですし。

 整理を終えれば結構な金額になりました。後で折半してジュリアに渡しておきましょう。


 ゲンゴロウは撃ち落とすだけで素材になります。解体するまでもなく死骸ですから、あとは黒焦げになってないかぎりは。

 カエルは解体が必要ですが……あのゲンゴロウの合間を縫って解体しなければなりませんからね……。その分、素材の売却価格はちょっと割高ですね。

 ジュリアが来るまでの時間潰しとして、釣りと洒落込みましょうか。

 そう歩き出そうとしたら、ゲーム内チャットの着信音が響きました。


「あら……?」


 内容を確認してからメッセージの返答をし、《転移門》のある広場の方へと歩き出します。

 送り主は《サク》さんからで、頼み事があるそうですね。近くにいるのを知ってか知らずかですが。

 以前言っていた頼み事がこれに当たるのでしょうか。さて、最初の頼みごとの内容は一体なんでしょうね?

 《転移門》の広場へとやってくれば、私が呼ぶまでもなくサクさんがやってきました。


「む、早かったのう」

「荷物の整理に一度戻ってきていたんです」

「それなら声を掛けたのはちょうど良かったようじゃな。さて、それで頼み事なのじゃが……」


 サクさんが周囲を見回し、他に聞かれていないかどうかを警戒しています。

 ……そんなに内密なお願いなのでしょうか。それとも、私とジュリアだけに向けたもの……?

 掲示板を見る限りは、サクさんからの一連の依頼を受けている人は私の他にはいないようですし。

 《蓮華》さんからの好感度が条件でこれが開くのであれば……まだ一般には蓮華さんは行き先を教えてくれる占い師という扱いですから、まだ気付く人も少ないのでしょう。

 あえて言えば、もしかしたらトッププレイヤー層やルヴィアが辿る可能性もありうる……としか。

 周囲の警戒を終えたサクさんが口を開きました。


「……実はの、余は前線での戦いで疲弊して魔力汚染をされておるのだ」

「えっ、それは……大丈夫なのですか?」

「まあ今はなんとかの。それで、それを抑える薬の材料を集めて貰いたいのじゃ」

「私達で集められるものでしたら」

「それを見込んで、じゃよ。くれぐれも内密にじゃがな……」


 確かサクさんは応龍という、私達でも手が全く届きそうにないほどに強い存在だったはずです。

 そんな彼女ですらこの《魔力汚染》に抗う事が出来なかった……対抗しきれず、こうして疲弊に持ち込まれるほどに。


 《魔力汚染》は甚大な被害を、この世界(ゲーム)においては相当な被害をもたらし、この世界の人々はまるで対抗できずにいて、その打開策として私達が呼ばれた。

 ……まだこの王都は平和な様相を見せていますが、それは前線で尽力している方々がいるから……ということでしょうね。

 特にサクさんは早々に一線を引かなければならない程に、前線で民を守るために力を振るったのでしょう。

 その後遺症でこの通りに早期に《魔力汚染》に罹ってしまったと。それを出来る限り周囲に知られないために、できるだけ内密にという事になったのでしょうか。


「《水田迷宮》はわかるかの?」

「ええ、今攻略中のダンジョンですね。そこに求めるものが……?」

「その通りじゃ。そこの水田の中で採れるミミズを三十ほど取って来てほしいのじゃよ」

「ミミズ、ですか」

「ミミズじゃ。もっとも、これは主材料を取るための餌なのじゃがな。それにこの薬は余にしか効かん」

「……誰にでも効くものならもっと出回りますもんね」

「その通りじゃよ」


 あまりにも都合がいいような……本当に作為性があるのではと疑うほどですね。

 しかし内部でもミミズが採れたのですか、これはジュリアに朗報になります。

 《採取》はちょっとでも上げておきたいでしょうし、それ以上に採っても釣りの餌にもできるでしょう。


「では頼んだぞ。お主らには期待しておるでな」

「わかりました」


 そう返事をすれば、サクさんはにこりと笑顔を浮かべてふわりと浮き上がっていき、元いた木の枝にまた腰掛けました。

 普段チャイナドレスですから、下から……みえ……みえ……ません、ね。うーん、残念。

 視線を察したサクさんが、ニヤア、と笑みを浮かべて見下ろしてきています。くっ。


 それでは気を取り直して……一旦スキルを確認しましょうか。昨日ので大分上がっていますし。

 まずは《刀術》、《居合術》がそれぞれ30を越えた事で、新たにアーツを覚えました。


○刀術

月天(げってん)

 威力:小の斬撃を四回放つ。


○居合術

新月(しんげつ)

 居合ゲージを消費し、次に使用する《刀術》スキルの威力を1.3倍にする。


 《月天》は連続攻撃を見舞うので、実質乱れ斬りのような感じですね。

 サクさんとの会話を終え、王都を離れて《水田迷宮》に向かいがてら、どちらも試してみました。

 目の前にミドリガエルが一匹。幸い他にはいないようですし、こちらには気づいていない様子。


「っ……と!」


 《瞬歩》で一気に接近しつつ《行月》でまずは一撃。相変わらず的が小さい分、少しでも切っ先がズレると外しかねません。

 しっかりと真芯に捉えるようにしつつ、《月天》を発動。そこから身体がシステムにアシストされつつ……


 まずは縦の振り下しの一撃が振られ、地に叩きつけるように。次に普段振るよりも早い速度で、返し刃で下から上へ。

 カエルが宙に一瞬浮いた瞬間に袈裟斬りから、返しの逆袈裟を振ったところでアシストが消えました。


「なるほど、ある程度自由に斬り付けられるようですね」


 想像していたよりもかなり自由度が効くようです。先程は一連の動作が連続しましたが、これは意識したようにアシストが効いて斬撃を放ったもの。

 試しにクールタイムが明けてからもう一度、トドメのように《月天》を放てば今度は右から左への横斬りからそのまま振り抜いて一回転するようにして袈裟、返し刃の逆袈裟から振り下ろしの縦斬りと繋がりました。

 納得してから目に付いた別のカエルにも何度か放ちましたが……本当にこれ、動作速度のアシストが入るので流れるように四連撃が入ります。

 しかも、補正があっての四回ですから、三度も繰り返せばカエル一匹は仕留められます。

 もっとも威力に関しては、《身体強化》のスキルレベルがかなり上がっているのでその分の補正かとは思いますが。


「続けて、ですが……」


 《新月》は効果を見るに……今後の切り札足り得るスキルでしょう。

 だってこれは……書いてある事が単純に強すぎます!

 ただでさえ《刀術》はスキルレベルに比例して基礎の攻撃力に補正が掛かります。それでも、その補正あってようやく他の武器よりちょっと高い程度となります。

 それに兼ね合いで取得する設計になると思われる《居合術》のアーツは扱いが難しい(一般では、らしいです)ため、《居合術》のスキルを扱わず刀を扱っている人も少なくないとか。

 ……相変わらずその扱いが難しい原因と言われる居合ゲージを使いますが、《刀術》スキルの威力を1.3倍。

 《月天》に使えば、威力が上った四連撃が。抜刀中に回復して余すゲージ分を《行月》や《薄月》に乗せるのもいいですし、何より―――


「……想像以上ですね」


 試しに《新月》を利用して、寄ってきたカエルに対して一番の威力を持つ《斬月》を放ちました。振り下ろす斬撃が力強く、目に見えてエフェクトがパワーアップしている気がします。

 その切っ先は綺麗にカエルを捉え―――ダメージを一切与えてない状態からの一撃。カエルが真っ二つになりました。

 ただでさえ威力の高い《斬月》。それに昨日のレベリングで《身体強化》のスキルも含めほとんどのスキルレベルが跳ね上がっています。

 確かにステータスは跳ね上がってますが……まさか、ここまでとは。


 こうなってくると当面の主力になりますね。とは言っても、消費するのは二割なので余計に居合ゲージの管理が難しくなった気がしますが……。

 特に《水田迷宮》ではゲンゴロウの処理に割くゲージも考えなければいけないし……《斬月》をクールタイム毎に使う以外にも《新月》を使えるほどに余裕があるかというと。

 そうなってくると、常に多数を相手取る道中雑魚や取り巻きにも多用できる、とは言い難いかも知れません。せめてゲージを増やす方法があれば……。

 現状では状況を見て高い体力の雑魚相手に、メインは対ボス専用と割り切った方が良さそうですね。

 《水田迷宮》の攻略中、少し意識していきましょうか。


「……お、来ましたね」

「お姉様、お待たせしました」

「色々補充と整理は済んでいますよ。はい、昨日使った分のMPポーションと……」


 ちょうど《水田迷宮》に到達した頃合いでジュリアがログインしてきました。

 現実時間(リアルタイム)を確認すると、既に彼女の帰宅時間を回ってログインにはちょうどいい時間になっていました。

 合流すれば、先程購入しておいた各種ポーションを渡します。昨日はたっぷり消費しましたからね、そして今日は最初から方針を決めてあるので、より余分に。


「サクさんから、依頼そのいちです」

「あっ!? それ聞きたかったですわね……それで内容は?」

「《水田迷宮》の中にいるミミズを三十ほど。それ以上に集めて来てくれてもいいと」

「意外と簡単ですわね。手が空いたら、掘っておきますわ」

「よろしくお願いしますね。攻略ルートもほぼ掘り終わってるようです」


 私達が学校に行っている間や寝ている間に、どのダンジョンも相応に進んでいるようです。

 ただ、構造の問題で《酒蔵地下の不思議迷宮》が遅れているみたいですね。《船屋敷鼠掃除》はもう終わりが近いのだとか。

 私達が攻略する《田園街道の化生》こと《水田迷宮》もボスまでのルートがほぼ解明されています。が、近づくほどMobの襲撃が激しくなるギミックがあり、それを解明しようとしています。

 ただ、消費が激しいとのことで私達のように好き好んで狩りをする様子はなく、人通り分だけでなんとか道を切り開いてるようですね。


「とりあえず今日は入口から大分飛んで、確定しているボス前付近でやりましょうか」

「わかりましたわ。色々試しながらやりますわね」


 目的はボス前に少しでも広く休めるポイントを作る事ですね。多分、人通りからそこまで濁りも取れてないでしょうから。

 それでは今日の目標は決まりです。れっつごー。


いつもの定型文になりますが、よろしければ下の方にあるブックマークをぽちっとして、評価ボタンをぽちっとして、ついでにちょちょっと感想を頂ければ作者はとても喜びます。

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