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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-5幕 求める刀は何処へ/Dungeon maker

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202/390

202.黄葉舞い散る祭殿の庭にて

「クレハさーん! 逢いたかったですー!」

「はい、お久しぶりですよ」


 久々の《故金神社(こがねじんじゃ)》へ訪れればダンジョンは形をかなり変えており、かつ久々のイチョウさんからの飛びつきという出迎えをされました。

 なんというか相変わらずなのですが、ここ数日間は別行動をしていながらも大人しくしていてくれましたからね。時々字数制限寸前の文字量な近況報告メッセージが来てたりしてましたが。

 神社自体は……結構変則的な配置になりましたね。以前は銀杏の森を攻略すると小高い丘の上にある神社への道が開いたのですが、既に神社への道が開いています。


「神社、かなり弄りましたね」

「はいー、故金ちゃんのアドバイスもあって、参拝もし易いようにしてほしいとー」

「うん。このほーがみんなみえるし、ありがたい」


 イチョウさんの背にいたのか、小さな狐娘がひょっこりと顔を出しました。故金ちゃんは小さな綾鳴さんといった体ですが、金髪メカクレで尻尾の数は四つなのが違いです。

 以前はボスの立ち位置でしたが、この様子を見ると別のナニカがボスを担当している様子。彼女目当てで訪れているプレイヤーも少なからずいるようですからね。

 何より普段どこにいるか不明な綾鳴さんにコンタクトを取れる珍しい存在ということで、彼女と接点を持とうとする方も少なからずいるのだとか。

 そうでなくても紗那さん失踪(ロス)の現在、解放されてここ数日で昼側マスコットキャラクターの地位を確立しそうなのだとか。皆さん好きそうですもんね。


「こうなると神社の方はどういう扱いに?」

「はいー。セーフティの扱いになっていましてー、戦闘区域は森だけですねー」

「森は一定時間、もしくは一定いじょーの魔物を討伐すると、ぬし達でいうボスが出てくる」

「ちょっとした探索型ダンジョンですね……こういう形式にもできますか」


 神社への階段を上がりつつ、麓にあるメインの戦闘区画である銀杏並木の森を見下ろして様子を見ます。

 魔物が出没するのは麓の森だけに変更され、ボスに類する魔物は一定時間または一定条件で湧く……というのは聞きましたが、本当に可能だとは。

 離れていても木そのものの魔物である《銀杏霊木》だけは動いているのが判りますね。ボスもイチョウさんからのメールによれば、《公孫大霊樹》というものらしいです。

 出現するとエリア内のプレイヤーに通知が行くため、一斉にボス捜索が始まるのだとか。ただし結構強いので高レベルプレイヤーがレイドを組んで挑むのだそうですけれど。

 ……そう聞くとタイミングが合えばちょっと戦ってみたいですね。またレイドボス殺しだとか言われそうですが。


「クレハさん、多分ボスと単騎で戦ってみたいと思ってますねー?」

「あ、やっぱりわかります……? 流石にレイド級は厳しいかもですが」

「聞いてたとーり、戦うのが好きなんだねクレハ。でも今回は、公孫大霊樹はがまんしてほしい」

「分かっていますよ、また別件があって来たんですから。遮那姫さんの方は……?」

「遮那姫はもー少ししたら着くと言ってる。あれにも、わたしと同じ分体がくっついている」

「故金ちゃんの姉妹さんも一緒ですかー、それは楽しみですねー」


 流石イチョウさん。私のやろうとしたことも嗅ぎ取りますか……いえ、これまでの行動を見ていればそれもそうかも。

 とはいえレイドボスとしての設定ではあるので、流石に私一人だと数時間単位で掛かりそうですし、そうなれば事情を知らない他の人も参戦してくるでしょう。

 そうなったら単独撃破ということにはならないので、これはまた別件。イチョウさんか故金ちゃんに交渉する必要があるでしょうね。

 して、故金ちゃんの姉妹……全部で九人いると聞いています。彼女達は各地に散って有力者のサポートと連絡に徹しているそうで、聞く話によればフィアちゃんにも付いているとか。

 そのうちの一人がやってくるということですが、これからやってくる方、遮那姫さんの実力を考えればサポートに付いていてもおかしくはないでしょう。


 故金神社境内に入れば……以前は何もなかったのに色々建物が出来てますね。ポーション類などの消耗品の販売を行うショップや、簡易の休憩所など。

 他にも軽く休めるテーブルとイスがあり、そこに座って休んでいる、もしくはレイドボスの湧き待ちをしている面々などいます。

 それに故金ちゃんの姿を見るなりスクリーンショットを撮りに来る人達もいるところを見るに、先程の噂と相違はないみたいですね……

 神社を囲む銀杏の木々、その隙間からは麓の森一帯が見渡せるようになっていますが。この一帯の森との境目になるかのように、途中から新緑の森になっているのは少し面白いといいますか。


「景色、前よりも良くなりましたね」

「はいー、色々と故金ちゃんがしてくれましたのでー」

「いちおー神社としての体裁は、保ちたい」

「……ちなみに境目が出来ているのは」

「あれは、故金の力の限界。それと、翠華ねぇに間借りさせて貰ってるから」


 あ、やっぱり翠華さんの管理下ですもんね。間借りさせて貰っているとなれば、この神社一帯は綾鳴さんの懇願で造られた物でもあるのでしょう。

 本来綾鳴さんが拠点とする王都から近い場所に、こういった予備の拠点として作っているのでしょうね。もしかしたら普段は綾鳴さんの使い魔たちはここにいたのかも知れませんし。


 そのままイチョウさんに先導されるままその辺の席について……ここで遮那姫さんの到着を待つことにしましょうか。

 と、ふと見回して森の方を見れば。何人か知った顔がちらほらとしていますね……


「あれ、あそこにいるのって……紫陽花ちゃん達とフロクスさんですよね?」

「はいーその通りですよー。銀杏霊木、倒すと木材がドロップするのでー」

「他にも、樹木系の魔物なら出せる。だから、木材を欲しがる人達も多い」

「ハウス需要で一気に上がりましたからね……採取職だけでは取り切れない分をカバーするという役割ではいいかも」

「その分品質は一歩劣るんですけどねー、そもそも採取業、シリュウさんのお陰で農業分野はやるプレイヤー増えたそうですけどー……」


 上からその戦いぶりを見ながら思いましたが……フロクスさんの武器、しれっと変わっていますね。

 最前線組というだけあって、頼んでおいたハウスの改造のうち各種ダンジョンから製作用の素材をかき集めて回っているそうですから、その中で造ったのでしょうか。

 以前の海イベントの時のように突飛な制作物が出来るわけではなので、おおよそ必要な物の外見としてこういうもの……となれば、それを集めて来ると作れるので。

 伝え聞く中では、祖母ことカタクラはハウスの方では園芸を始めたとか云々。この世界特有の花々を育てられるので面白いとかなんとか。


「そういえば昨晩、ふらっと万葉の拠点に立ち寄ったら、お爺ちゃんが林業とかもやってる友人達も始めたとか言ってましたね」

「シリュウさんのお弟子さんだったりしませんかーその人達ー?」

「あはは、流石に違うそうですよ。ただ知り合いだそうですから」

「それだけならいいんですけどもー……」


 ……その友人さん達も実はお孫さん達からの勧めと、祖父の話を聞いて始めたとか云々。お孫さん達は近いうちに祖父の青空道場にも来たいとか、私に会ってみたいとか。

 なんだかんだと想像は付くんですけどね、両親を巻き込んで遊ぼうとする面々。夏の一時期だけ帰るとはいえ、祖父のいる街でも私達は顔が広いですから。

 それにしてもその辺りが始めたとなれば農耕だけでなく、大方の一次産業はカバー出来そうな気がしてきますね。このゲームはリアルでのスキルを活かせる部分も多いですし。

 二次産業である製作職も高品質素材の供給で盛り上がりそうですね。どういった製作品が出来上がって来るのかも楽しみですが、さてさて。


「やあクレハ、来ていたのか」

「あれ、今し方下にいたような……上がって来るの早くないですか?」

「あっはっは、ちょうどキリがいいから休憩しようって話でね。たぶん上で見てたのが相手にしていた最後の一体だよ」

「えへへー、お久しぶりです」

「数日離れてましたけど元気そうですね! 私も元気いっぱいです!」


 話に興じていれば、下で戦っていた面々が上がって来たようで。相変わらず紫陽花ちゃんとアカラギさんも元気そうですね。

 装備もちょこちょこと細部変わっているところを見るに、結構各地を回っているようです。紫陽花ちゃんはちょっと翠華さんに近くなり、アカラギさんはより拳闘士っぽくなっています。

 一方でフロクスさんは大まかには変わらず、やはり大金棒のデザインが少し変わったように思えます。具体的には倍ぐらい大きくなっているような。

 これだけ大きいと戦い方によっては異常に一撃が重い、鬼族らしい戦い方に特化していそうな。元々が陽術(バフ)を掛けての一撃必殺、あるいはヒットアンドアウェイを狙う戦術ですからね。


「クレハがここにいるってことは、そろそろ来るんだね。現状最強の鬼族NPCが」

「ええ、遮那姫さんが持ち出した《猫刮村正》を預からないと。私達が先に進めないので……」

「おお! とうとうグランドクエストが進むんですね! それはとても楽しみです!」

「バージョンの初めの方で示唆されてから、結構長い間探してきた気もしますし。ようやくの入手になりそうですね」

「はいー、クレハさんと本当にあちこち探して回りましたからねー」


 一応、私が遮那姫さんとの再会を願った経緯も振り返っておきましょうか。

 遮那姫さんとはここより遥か西、《九集》のサナであり鬼族の侍です。昼世界屈指の実力者という事で、西の果てからこちらにまで綾鳴さんを手伝いに出てきたのだとか。

 バージョン0の終盤で後続組を鍛えるための訓練相手として、現在昼王都の代理城主である悠二さんと共に稽古を付けるという役目でこちらに来ていましたね。

 そしてその折、名のあるプレイヤーの腕を見たいとして私も一度剣を交えています。結果は遮那姫さんの圧勝という形にはなりましたが……

 トッププレイヤーである私が一方的に叩きのめされたという話から、現状最強格の鬼NPCという話ということになっています。

 戦えるNPC自体が少ないので、実際そう言った印象の方が分かり易いのでしょうけど……私の上位互換という話も挙がっていたため、いつかリベンジはしたかったんですよね。


 バージョン1に入ってからは各地を出歩いていたようで、《猫鎮めの神器》の一角として名高い《猫刮村正》を求めて城宿城に訪れていました。

 私達も綾鳴さんからのアドバイスに従って城主である璃々さんから受け取りに向かったのですが、先に倉庫から持ち出してしまっていたようで彼女を探す事になってしまっていたのでした。

 璃々さんも許可を出した以上は先に持って行ってしまったのは仕方ないとしていましたが。その後はどうやら《北陸》の方へと向かってからこちらに戻って来たということで。

 サクさんからこの話を聞いてほぼ一週間ほど、交渉は勿論の事手合わせしたいという話も聞いていたので、私もずっと腕を磨いていたわけですが。


「……む、クレハ、来たかも」


 ぴょこん、と故金ちゃんが耳を立ててふりふりと動かします。こういった時に電波をキャッチしたようになるのは以前と同じですね。

 今回に限ればおそらく同族、あるいはほぼほぼ同じ存在が同行しているこその反応なのかもしれませんが……皆の視線はばっと神社前の階段へと集まります。

 瞬間的に、一瞬だけ空気が重くなったような感覚。ああ、何時ぞや感じた感情を持たない迫力に寄る威圧。ゲームだというのに伝わってくるのはこれまた。

 たぶん、ですが階段下の魔物が遮那姫さんを襲おうとして威圧を受けたのでしょうね。霊木の慌ただしくも重々しい足音が響いていますから。


「おやまあ、これは勢揃いでござるな」


 石段を上がり終えた赤い東洋軽装鎧を身に纏った鬼侍の女性……遮那姫さんがこちらにふりふりと手を振って近付いてきます。

 久方ぶりに見る顔ですが、全く変わりはないようですね。ただ違うところがあるとすれば、その腰に佩いた刀が更に一本増えているところ。

 そしてよくよく見れば、薄紫髪の狐幼女がその頭にしがみついていますね。彼女がおそらく故金ちゃんの姉妹でしょうか。


「お久しぶりです。遮那姫さん」

「うむ、相変わらずであるな。活躍は紫火(しか)を通じて聞いているでござるよ」

「あはは、そう活躍しているとは言い切れませんが……紫火さん、とは?」

「綾鳴殿から預かったこの子のことでござるな。ほら、姉君に挨拶しに行くでござるよ」

「こがね、おひさ。げんき?」

「うん、元気。しかも元気そう」


 遮那姫さんは相変わらずですが……なるほど、彼女が紫火さん。するすると遮那姫さんの方から降りて来て故金ちゃんと並ぶと髪と尾の色以外はそっくりですね。

 名前から火属性かと思いますが、どうやら雷属性担当の様子。先程から時折狐耳の端から紫雷が走っていますから。

 久々の再会にじゃれついている子狐姉妹はそっとしておくとして。私達は本題の方に移りましょうか。

イチョウ「髪の色で姉妹が区別できるって面白いですねー」

クレハ「私は全員金髪なのかと思ってました……」


それでは本年の更新はこれが最後となります。

ちょっとペースが落ちてからゆっくり目となっていますが徐々に上手くペースを戻して……いけるといいなぁ。

来年もどうぞよろしくお願いします。

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