189.精霊達の目的と再会
前話と今話の間が気になる方は、スイセン氏の魔剣精霊のアーカイブ189話から193話で語られています。
何があったかは触れてはいますが、今回の話はそのあととなります。
「終わってみれば……」
「なるほどそういうことでしたか……」
時は進み、黒幕だったルヴィアを打倒して一連の目的をしっかりと聞いた後。
ルヴィアはミカン達とあれこれと談笑している中、イベントを終えた他ギルドの面々はそれぞれ報酬を貰ってから撤退していった様子。
私とジュリアは全ての合点が行き、一通り納得した所で戻る前に休憩中。戻ったら時間も時間なので、一通り動いたらログアウトの予定ですからね。
皆は《死に戻り》した面々を迎えに行くのも兼ねて、先に戻っていきました。ここまでがここまで、超高難易度の名に恥じない戦闘の連続でしたからね。
その死に戻りした面々は、今は入口だった祠のところでゆっくりとしているようです。私達もあとで合流しましょうか。
「しかし……やっぱりボスが回復と補助に特化するのはキツいですね」
「あれが最大の要因でしたわ。ミスティアさん達が一瞬で溶けていきましたもの」
「……格上レベルはまだ早すぎましたね。対応は出来ていても、物量はどうしようもありませんか」
「ま、その後よりかはマシですわよ。タンク組が壊滅した方が驚きでしたわ」
「ああいう手合いは元々厄介だとは判っていたんですけれど。うーん、これは皆武者修行を始めそうな勢いですね……」
談笑する幼馴染達を眺めながら、軽く今回の戦いを振り返ってみましょうか。
まずはユナさんとの戦い。彼女が従える相当な数の魔物へのバフと回復を行いつつの戦闘を仕掛けてきました。
タラムさんの操っていた大量の骸骨ほどの物量はないものの、その分相当強力な魔物を複数体でしたからね。相当数のプレイヤーが《死に戻り》に追い込まれました。
エアリーの面々はというと……中核を成す古株組や祖父は残ったものの、カルンさん含めたアカラギさん、紫陽花ちゃんといったカルン組と祖母がここでリタイア。
むしろ、彼女達よりレベルが低いはずのキユリちゃんが生き残ったのは流石というか。それだけの激戦だったのに、予め言っておいたはずのミスティア達は何故か生き残ってしまったんですが。
結局、ユナさん戦では今回挑んだ総メンバーの半数が脱落するという事態となりました。たぶん、今回の山場はここでしたね……
「それにしても、ルヴィア姉様と本当に戦うハメになるとは思いませんでしたわ」
「そのうえちゃんとボスステータスでしたからね。バフが大量に乗ってたとしても結構辛かったんですが」
「それで残ったのが……まあ、チヨちゃんまで落ちたのは予想外でしたが」
そして最後の決戦。ルヴィアとその精霊の影を含めた三体のボスだったわけで。
NPCからの強力なバフによる支援もあって優位には進むかと思われたのですが、そうもいかず。
アメリアさんからの継続回復と全状態異常の解除、火刈さんからの一度限定の自動蘇生、璃々さんからの超強力な全体バフを受けてなお超絶難度。
結局その猛攻を耐え抜けれたのはエアリー参加組でも最古参であるカエデさんとルナさん、サスタさんとアマジナさん……と、イチョウさんとトトラさんだけ。
他の皆は途中で脱落してしまいました。キユリちゃんはMPをすべて使い切ったうえでやり切った顔を浮かべて魔術を顔面に貰ってましたし。
回避主体の戦術を行うチヨちゃんも中盤からは集中も切れて来たのか避け切れない事が多くなり、そのまま巻き込まれてリタイア。
私達も生き残りはしましたが満身創痍ですからね。イチョウさんとトトラちゃんもそこで大の字になって満足げに倒れてます。
さてさて、どうして彼女がここにいるかだけ聞いておきましょうか。私に話し掛けたくてちょっとうずうずしてるそこの猫獣人の娘に。
「ではまあ、事情をお聞きしましょうか」
「はい……えへへ、お呼ばれして来ちゃいました」
「璃々さんらしいと言えばらしいのですが、城の方は大丈夫なんですか?」
「はいっ、もう元通りでして。復興もほとんど終わってます」
《黒神璃々》さん。紗那さんと夜霧さんの娘……らしい彼女は、以前《猫刮村正》が収められていた《城宿城》の主。
城の攻略にも参加した、現状唯一の《踊り子》で、パーティ全体の支援を行うことができるスキルを持っています。
……なんとなし、日本神話で天岩戸を開いたというアメノウズメっぽさがありますね。そのうちそれを主題としたイベントがありそうな気もしますけれど。
そんな彼女は汚染によって変容してしまった城と城下町の復興に尽力していたはずですが。何でここにいるんでしょう。まあいいのですが。
「今回は来訪者さん達だけでは心許ないので駆けつけて欲しいと、綾鳴さまに頼まれまして」
「……まあ、最終的な目的と事情を聴くと納得しますね。それだけ私達の力を振り絞り出させたかったようですから」
「はい! なので私の踊りもしっかりと役立てて良かったです!」
「些か過剰過ぎた気もしますけれど……でもちょっと新鮮でしたわね」
「そのうち、来訪者さんにも踊りを伝授出来たらなあ……って思ってはいるんですけれどね」
「それは嬉しいですけれど、問題は……」
「はい。あんまりお城から離れられないので《関東》が落ち着いたころになりそうです」
関東のクリア後、バージョン1のクリア後となるとまたしばらく先になりそうな気がします。
踊りに関しては使い方に関してもテクニカルになるでしょうから、そういうのも踏まえて、でしょうね。
調整もシビアになりそうですから、そのうちテスターとしてのアルバイトも来そうな……それはそれで楽しみにしておきましょう。
「それに、ちゃんと目的も達成できたのは良かったです」
「そういう事だった、っていうのは驚きましたけれども。理由を聞くと納得してしまいますね」
「私も薄々感じていましたのよ? 未開放の地でも住民や魔物の活気に差がありましたもの、特に魔力生命体に近い方ほど顕著に」
「クラゲの動きが活発かそうでないか、とかでしょうか」
「風の強さなどにも多少なりと影響もありましたわよ?」
「それはちょっと盲点だったかも……」
そして今回の件についての最終的な目的になっていたこと。それは……この戦いを通して、魔力を大量にここに充満させること。
激しい戦いになること、および長期戦になることを想定したものになったのはそういうことだったのでしょうね。
精霊および精霊界が関わりとなったのも、両世界の魔力量を調整する役目を持つ精霊界らしいというか……
ルヴィアの下に辿り着いた時点で既に想定していた量を十二分に達成していたという話ですから、おそらくタラムさんとユナさんの戦闘が大きいでしょうね。
一通り話を終えましたし、そろそろ帰りましょうか。ちなみに璃々さんから聞いた話、チヨちゃんの《唯装》ダンジョンについては、既に入り口が出来上がっているとか。
なんて思っていれば……
「……久し振りじゃのう、二人共」
「相変わらず元気そうで、何より」
「……!」
懐かしい声に振り返れば、白き龍と黒の竜の二人組の姿。おおよそ、バージョン0以来での再会になります。
彼女達はそれぞれ北の方へ、もしくは夜界の様子を見ていると聞いていましたが……こんな時に再開するとは。
変わらない二人の姿に驚きつつ、どうしてこんな場所に。そう一瞬考えたところで、彼女達が持つ《固有魔術》で納得しました。
「サクさんにツィルさん! お久しぶりですわ!」
「うん、ジュリアは相変わらず。火竜としての力をしっかりと研ぎ澄ませてる」
「クレハも見違える程に成長しておるな。《八卦》の力、十二分に使いこなしておるようじゃ」
「そう言われると嬉しい限りです。お二人も呼ばれていたのですね」
「余達は仕上げに呼ばれたのじゃよ。クレハであれば合点は行くであろう?」
「ええ。お二人の力を考えれば」
ふふん、といつも通りの尊大そうな態度を取るサクさん。対してツィルさんは冷淡な態度ですが……これも相変わらずですね。
二人共変わりないようで安心しました。璃々さんは……後ろで固まってますけれど、とりあえず今は置いておきましょう。
二人の力と言えば、サクさんの《根源隆起》とツィルさんの《根源廃絶》。どちらも魔力に関与する固有魔術ですからこの場に呼ばれたのも納得します。
「じゃあ、許可も得たから始める。純魔力しかないから、選別はしやすい」
「余も早々に始めようかの。お主らには伝えることがあるでな、しばらく見ておくがよいぞ」
サクさんが力を使うのは初めて見ますが……彼女が地を軽く踏み鳴らすと同時、ゆっくりと地面から何かが沸き上がるように感じます。
輝く粒子が周囲に現れ、待機中の魔力が目に見えて増えているのが分かり……それは全て、ツィルさんの手中へと集められ、収束し……虹の色を持つ光の球へと変化。
その光の球も少しずつゆっくりと大きくなっていき。見ているだけでもとんでもない量の魔力が集まっているようにすら思えます。
感じていたこの空間の魔力が薄らいでいくのが分かります。何れは、このように集める事が出来るようになる……んでしょうか。
私の場合は増幅する側になるのでしょうけれど、そこまで至れるのは一体いつになるのやら……
「サク、相変わらずあなたの属性の比率が多い」
「それは仕方ないじゃろ、昼界であればこちらの方が良かろうて」
「……まあ、その調整くらいなら精霊達でもできる。では」
「あとは外で解放するだけじゃな。ついて参れ」
ツィルさんの手元に出来上がったのはバスケットボール大の魔力の塊。凝縮されている魔力は虹色に輝き、絶大な量だと判る濃さ。
サクさんが隆起させるのを終えれば、彼女の周囲に浮かんでいた粒子が収まり。外へと移動を始めました。
……これを解き放つことで、この昼世界と夜世界の魔力の均衡が取れることになるのでしょう。
帰り道は遠い……って思ってたら、普通に脱出用の魔術陣がありました。ジュリア曰く一度前に見たことがあるとかなんとか。
出た先は……出入り口にもなっていた広場ですね。終わってから結構経っているので、人はまばら……あ、エアリーのメンバーはここで休憩していましたか。
出て来た私達と先導した二人に驚いて、皆が集まってきます。一体何が起こるのかと見ているようですが……
「よし、ここでよかろう。あとは何時もの調子に―――」
「……打ち上げてから。地上でやると、爆発する」
「わかっておるわい!」
なんだかちょっと微笑ましいやり取りの後、サクさんが勢いよくツィルさんが浮かしていた魔力塊を蹴り上げました。
……いや、蹴り上げて大丈夫なんですかと一瞬で身構えましたが。爆発することなく垂直に、天高く打ち上げられていき……
虹色の輝きと共に、まるで季節外れの花火のような爆発。同時に、世界の内が満たされていくような感覚。
イチョウさんとトトラちゃんだけが耳をぴくりと振るわせて感じ取ったことから……竜種、龍種であるからこそ感じ取れた感覚なのかも知れません。
「たーまやー、ですわね」
「こうなって以降、久しく花火を見ていない」
「そのうちまたでかい花火とか見たいのう」
「また元通りになってから、ですね……」
しみじみとした顔で見上げていますが……そうですね、この世界であれば花火をするとなれば魔術を使った花火でしょうから。
それを上空で炸裂させるとなればどうしても汚染を撒き散らす危険性もある訳で。こうやってツィルさんが魔力廃絶による選別をしていない限りは無理でしょう。
璃々さんの言う元通りとは、彼女達、この世界の住人にとってはどれだけ先の事になるのか……それを早めるために助力はするつもりですが。
「さってと、お主らに話があると言うたな。特にクレハとジュリア……む、他も素質があるものがおるな」
「私ですかー?」
「トトラもなのかー?」
「というか、唯装をここまで持っているのが集まっているのも珍しい」
じいっと二人の視線がこちらを見つめます。それも唯装持ちの面々のみ。
キユリちゃんが見られなかったのはちょっと気にしているのか、覗き込むようにして視界に入ろうとしてますが。
特にその視線は私の《白雲》とジュリアの《プロメテウス》の方を見ているようですが……
そういえば、この二つはサクさんとツィルさんが造ったものでしたか。ならばこそ分かるものがあるのでしょうか……?
「一段階、更に力を得る事が出来る段階にまで至ったようじゃな」
クレハ「前話からのおおよその内容は、ルヴィアの方の189話から193話で語られています」
ジュリア「とんでもねぇ強敵でしたの」
クレハ「私のパーティ以外はベータの頃から一緒の方しか残らなかったですからね……」
キユリ「私だけ倒れてますけどぉ!」




