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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-4章 いざ海を越えた先の島で/Volcanic Eruption

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182.まだ見ぬ脅威たち

「やっと陸地だー……土の匂いは落ち着くぜ……」


 船旅を終えて夜界王都に最も近い港町ポルトに到着するなり、今回の護衛対象である涼さんは床に転がって頬ずり。

 性質的にやっぱり土の上が安心するのでしょう。船の上だとどこかしらそわそわしてましたし、陸地が見えたらテンション上がっていましたから。

 とりあえず何時までも這い回られていると色々と目に付くので、適当に抱き抱えてから最寄りの《冒険者組合》へ。

 思ったよりもサメ狩りで素材が取れたので、インベントリの整理ついでに預けておきます。これだけあれば装備も作れると思いたい……ですが。


「結局同数で終わったのがちょっと悔しいな、また機会があったらやろうぜ」

「ええ、次は勝たせて貰います。その時は……」

「チヨちゃんも飛行できる種族に進化して参加ですねー」

「はいっ。次は参戦させてもらいますからね!」


 結局サメ狩り勝負は私と涼さんが同点で、後を追う形でイチョウさんという結果になりました。

 チヨちゃんはずっとサハギンの相手をしていましたが、数を考えれば私達に匹敵するくらいは倒していましたからね。

 ……それだけ後方に通してしまうほど熱中してしまっていたわけなのですが。


「んじゃ、ここから王都まではひとっ飛びだな。飛んでいいか?」

「チヨちゃんを乗せてあげられるのでしたら……?」

「それくらいならお安い御用だ。ちょっと離れてな」

「抱えれば大丈夫なのですが……何を?」


 ポルトから出たところで、王都が待ちきれなくなった様子。飛ぶにしても私とイチョウさんはともかく、チヨちゃんがまだ飛べませんからね。

 瞬間的になら同等の速度は出ますが、色々と条件を満たさないと出せないですからね。

 なんて言っていれば涼さんは自信満々に腕を組んで、自分から離れるようにと言います。一体何を……だいたい予想は付くのですが。

 一息を吐けば、彼女の姿がゆっくりと変容し始めます。体躯は大きく、人の形から離れていき。翼はさらに大きく二足から四足へと。


「要するに乗せられればいいんだな?」

「わー! これが……!」

「竜への変身、というわけですか……」

「よっしゃ乗れ! 飛ぶぞ!」


 涼さんの姿はあっと言う間に黒銀の鱗に覆われた四足の竜へと変化していました。あの火山で見た姿よりも洗練された姿であり、どことなく感じた歪さが消えていますね。

 周辺にいた初心者達が大慌てで飛び退いていたり、野次馬として見物に集まったり。数分後には掲示板が大盛り上がりしていそうな気がします。

 喜々としてチヨちゃんが涼さんの背に乗れば、牙を打ち鳴らすと火山の折でも見せた熱銀操作の能力で翼を覆っていき。あの時見た翼鎧を形成してから大きく翼をはためかせて上空へ。

 少し呆けていた私とイチョウさんもそれを追うようにして《飛行》を起動。背に乗ったチヨちゃんが物凄いはしゃいでますが、それは飛べない今の特権としておきましょう……


「チヨちゃんちょっと羨ましいですね……私もそのうち乗りたいですー」

「ああでも、竜の姿で王都に近づくのは……」

「そこんとこ大丈夫だ。まだあたしが危なかったら《ライン》がすっ飛んでくるだろうし。それに何度も行ってるからな」

「ライン、というと……」

違反(レッド)プレイヤーへのお仕置き担当の方ですね」

「ほー、今そんなことしてんのか。ラインはある意味では女王様に続く王都の守護神的な立ち位置だからな、王都が危ないと感じたら光の速度で突っ込んでくるぞ」

「守護神……あんな速度で飛んで来たら確かにそうもなりますか」

「ちなみに空を見上げてるとたまに一際大きな流星みたいなのが見えるだろ? あれ暇を持て余したラインが翔んでる姿らしいぞ」

「ほぇー! 時々すごい早い流星があるなーって思ってました。早すぎて流星みたいに見えちゃうんですかー……」


 《ライン・フェリシアス》、夜界の最前線でPKなどの違反を行ったプレイヤーを誅罰する役割のNPCさんですね。

 それ以外ではまだ居場所も不明で、何しろ光の速度で仕事を終えて飛び去るので話しかけるのも不可能な相手でした。

 一応冒険者組合で彼女について情報を手に入れる事も出来たようで、wikiの方に乗っている限りはネイティブ・アメリカンの伝承に出て来る《サンダーバード》という雷の精霊なのでは、と。

 ちなみに一瞬だけ見かけた折にスクリーンショットを撮ろうとした猛者もいるそうですが、あまりに早すぎて白髪であること以外何もわからなかったとか。


「ま、近いうちに逢う事もあるだろ。っしゃ、ついたついた」

「飛べるとこれくらいの距離でしたら一瞬ですね……」

「私も早いうちに進化しようかな……《翼人》ちょっといいなーって思ってましたし……」

「おーい、行くぞー!」


 チヨちゃん、翼人……フェザーフォルク志望でしたか。そこは私達と同じ《龍人》になって欲しかったですが、彼女としては戦闘スタイルと合わせて機動力が欲しいというのもあるのでしょう。

 ……その後に唆して翼人から龍に進化させるのもアリでしょうか。奇しくもキユリちゃんと似たような事となりますが。

 と、考えているうちにチヨちゃんを降ろした涼さんが人の姿へと戻り、さくさくと王城の方へと歩いて行っています。

 王都入口の番兵さんの反応は……特に変わりないようですね。あまり驚いた様子はなく、慣れた人が来たといった体で涼さんを受け入れてますね。



――◇――◇――◇――◇――◇――



「おかえりなさいー!」

「おー、サーニャとリーシャ。久し振りだなー!」

「涼さんですねー、無事お戻りになられましたかー」


 さくさくと王城にある図書館こと、サーニャちゃんとリーシャちゃんの部屋兼作戦会議室へ。

 最近はジュリア達以外にも二人の噂を聞き付けたプレイヤーの皆さんも接触しているとの話を聞きます。

 お陰様で今日は私達以外にも来客がある様子。もっとも、彼らも何事かとこちらを見ているようですが……最前線プレイヤーしかいませんからね、主に私を見て何事か察した様子。

 何より最前線であるほど、何故かルヴィアの次にこちらの動画は知名度が高いですからね……大した事はしていない筈、なのですが。


「ふぃ、やっと腰を落ち着けられるぜ」

「クレハさん達も色々お疲れ様でしたー、長旅だったでしょうー」

「久々に歯応えのある戦いが出来ました。ここしばらくも強敵ばかりでしたけれど、一際群を抜いていましたので」

「私もですー、屈指の面々を集めたつもりでも壊滅し掛けましたからねー」

「それでも勝っちゃうのはさすがーっ!」

「え、えへへ……」

「その時の事憶えてないのがちょっと残念だな、いい腕してるし機会あったら三人それぞれと戦ってみたいぜ」

「ええ、機会あらば是非。それで……」

「はいー、憶えてる限りで事情聴取しますよー」


 私達と涼さんが空いている席に着けば、リーシャちゃんは早速無地の羊皮紙を持ってきます。

 一応は護送の任務でしたけれど、私達としての本来の目的は涼さんをこちらに連れて来ての事情聴取ですからね。

 さてさて一体何が聞けるのやらと思いますが……


「ではー、汚染された時を考えると何も覚えてないとしてー。汚染魔物対抗の折に、皆さんそれぞれどこに向かったかわかりますかー?」

「大雑把でいいか? 詳しい移動ルートまではわかんねえから、散り散りになってるかもだが」

「はいはいー、それで構いません。おおよその場所さえ把握できれば、根城としていそうな場所は絞り込めますからー」

「オーケー。師匠達は流石に詳しい場所としてどこにいたかわかんねえから、あたしらだけだぞ」


 ここから本題。部屋にいたプレイヤー達も夜界における今後の行動指針になるため、話を聞きに集まってきました。

 おおよそ相性の良い二人一組で動いていたようで、おおよそ五グループに分かれて動いていたようです。ただ本当にその地にいるかどうかは別とするのですけれど……

 涼さんは末妹である火燐さんと共に王都近郊から南方付近、そこからティレイオの近郊までと聞いた通り機動力を活かして広い地域を主戦場にしていたようですね。

 火燐さんが引き続き王都近郊に潜んでいたのを考えると、そこまで遠い場所ではないところにまた彼女が潜んでいそうなものですが。

 長女のカザキリさんと九女の揺葉(ユリハ)さんはヴァナヘイム東部にある山岳及び森林地帯で活動していたようで、遭遇できるのはかなり先になりそうです。

 ヴァナヘイム東部ともなれば最後の方になりそうですね……まだヴァナヘイムも中央に差し掛かって来たくらいの位置ですから。

 最初にレイドで戦うことになった狼竜である次女シグレさん、そして五女のハツネさんは《ヴォログ》から以北の山岳域で活動。こちらは攻略方向でもあるので直近でも出会う可能性は大きいですね。

 山岳域に関してはやや高レベルの魔物が多い事もあって、思ったように進んでいないとの話を聞きます。なので、ハツネさんとの遭遇もまたしばらく時間が掛かりそうです。

 道中での話題にも挙がった三女の茉莉さんと八女海佳さんの海上ペアはやはり王都近海……《ヴィニオ》などの近海で活動していたそうです。

 こちらに来る折に使ったポルト行の船便など、海路復活もよく耳にしますのでこの二人も遠からず遭遇しそう……というより、これもまたひっそりとジュリアがすでに遭遇していましたね。

 最後についこの間現れてその暴れっぷりから多くのプレイヤーに衝撃を与えた四女の暮奈と、六女のサツキさん。こちらは西方の方で活動していたそうです。

 暮奈さんはひょっこりとこちら方面に戻って来ていたと考えると、西方に進むと何処かでサツキさんが待ち構えているのでしょうか。

 こうして改めて話を聞いてみると、結構バラバラに分かれて戦っていたようですね。それだけ汚染された魔物があちこちで暴れていたということなのでしょうけれど……


「んで、ヴォログの方でプリムとエヴァの師匠が火燐と戦って以後行方知れず、か」

「ルヴィアさんも嫌な予感がするーって言ってたので、おそらくー……」

「何れ対峙することになるでしょうね。そうならないことを祈るばかりなのですが」

「あたしもどっちの師匠と戦う事になってもイヤだなー、勝ち目が薄いからな」

「姉妹総出ならどうです?」

「エヴァとプリム師匠なら五割か八割……うーん、どんだけ本気出してくるかにもよるな。もういっこの師匠は無理だ、束になっても勝ち目が薄すぎるぜ」

「あー、あのおねえちゃんなら涼おねえちゃんたちでも一瞬だね……」

「私達も最近知りましたけどー、彼女なら納得ですー」


 ……おっと、なんだか不穏なワードが出てきましたね。涼さんの言うもういっこの師匠……竜姉妹達とプリムさんエヴァさんを引き合わせたであろう人物なのでしょうか。

 プリムさんとエヴァさんについて振り返っておきますと、この《DCO》を開発した《九津堂》の過去作ヴァンパイアハンターハンターズ、通称《VHH》の主人公である《ローカルド姉妹》ですね。

 以前ルヴィアの配信にて、その片割れであるエヴァさんがヴォログ近郊に現れた火燐さんを撃退。ジュリアもその場に居合わせていたのでした。

 その後二人は飛び去った火燐さんを追って姿を消してしまったのですが……《綾鳴》さんの言では、彼女達が汚染されてしまったために露喰姉妹が動き始めたと言っていましたか。

 そしてもうひとつ。先に出て来た"もういっこの師匠"……おそらく該当するでろう人物は、聞いた話ではヴァナヘイムの西方にある地域、《アスガルド》から動けないと聞きましたが……

 サーニャちゃん曰くプリムさんとエヴァさん以上かつ姉妹全員を一瞬となれば、どれだけの強さとなるのでしょう。ちょっと興味ありますし、聞いてみましょうか。


「その、もういっこのお師匠様というは……綾鳴さんから聞いたアスガルドの方に居られる方の事でしょうか?」

「うん? いや、アスガルドの方にいんのは一時期世話になってた《総督》の方だな。あっちは男だしそれでも尋常ではない強さしてっけど……」

「おやー総督さんですかー。あちらが解放されたら一働きして欲しいものですねー」

「夜の海に関する海上貿易を一通り取り仕切ってっかんな、あたしらも顔出して手伝いしとかないとな」

「おーっ、そうでしたー。貿易の話で思い出しましたー。皆さん汚染されて暴れている折の共通項があったのでしたー」

「あたしらそんなことしてたのか? なんだなんだ?」


 ……あれ、なんだか妙に話を逸らされてしまいました。また新しい人物である《総督》という方の話が出てきましたね。

 また遠い場所でいることになるため、実際にお会いできるのはまた先になりそうですが……ううん、なんだかこれも《九津堂》過去作の登場人物にいたような、そんな記憶があります。

 こうなってくるとジュリアが以前考え付いていた、ローカルド姉妹と露喰姉妹を結び付けた何者か。それがもう一人の師匠ということになるわけですが。

 ともかく、リーシャちゃんがまた新しい情報を聞き出そうとしているようですから、少し聞いておきましょう。


「付近の集落や魔物の群れを襲撃して集積しようとする行動が見られていた、と情報が上がってるんですよー」

「そんな事してたっけかー……なんか薄ぼんやりと、火山の中に色々集めてた記憶はあるけどよ……」

「竜らしい行動と言えばらしい行動、ですね。竜って私達の世界だと、財宝を集める習性があるって聞きますし」

「そういや《龍北》にいた時は姉妹でよく財宝集め競争とかして遊んでたっけな、懐かしーな!」

「……単純に昔の本能が現れていただけって可能性もありそうですね」

「サーニャもそんな気がする!」


 ただし。先程の総督という方が物資の運輸に関わっているのであれば、運ばせて集積させているというふうにも感じますが……

 先のもうひとりの師匠といい、姉妹の裏に黒幕が隠れている気配がしますね。彼女達だけという可能性も否定しきれないのですけれど。

 色々と情報を聞き出し終えたところで、そろそろいい時間となりログアウトの時間が近付いてきました。

 チヨちゃんは年相応なのか若干うつらうつらとしていますし、珍しくイチョウさんも背伸びしていますし。

 何より、私もちょっと調べる事が出てきました。今晩は世界設定関連の掲示板、ものすごく盛り上がりそうですね……

涼「……じーっ」

ジュリア「……むむむ」

クレハ「だいぶ喋り出すと似た性格ですよね……」

イチョウ「はいー……同じ竜だからでしょうかー……」

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