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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-4章 いざ海を越えた先の島で/Volcanic Eruption

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181.露喰さんちの姉妹事情

「来たぞ! 右舷方向から魚群だ!」

「よっしゃ来たなァ!」


 海峡を越えて十分ほど。マストにいた船員さんが声を上げました。

 涼さんは喜々としてマスト上で跳ねつつ、魚群の見えた方向へと目を輝かせながら見ています。腰から生えた銀翼と尻尾もぱたぱたと振ってます。

 私とイチョウさんも《飛行》を使って浮遊。チヨちゃんは……うん、船の上で待機しておいてくださいね。


「《ブルーシャーク》が二、《サハギン》が三ですー。サハギンは真っ直ぐ船を狙ってますねー」

「サメは私が相手しましょう。イチョウさんはチヨちゃんとサハギンの対処を」

「わかりましたー、上がったところを狙いますのでー」

「上がってきたところを闇討ちですね! わかりました!」


 なんだかちょっと違うような……いえ、でも戦い方としては正解なような。

 本来であればわざと船上に上げると被害が広がるのですけれど、チヨちゃんと攻撃とイチョウさんの狙撃の速度で上がって来た瞬間に撃退出来てますね……

 私もサメを対処するために抜刀して《八卦・風》を付与してから一足先に船外へ。穏やかな海の上、波間を裂きながら向かって来る蒼い背ビレが二つ。

 いつも通り接近から近接攻撃を……なんて考えた手前に、背後から風切り音。矢のような小さく鋭い物ではなく、人間大のそれが一瞬で私を追い越していきました。


「おう!一番乗りだ!」

「えっ」

「ふしゃー!」


 何かと思えば背面から突っ込んできた涼さんでした。ある意味わかっていたとはいえ、やっぱり唐突に来るとびっくりしますね……

 どこに仕込んでいたのか、竜形態に比べれば小さいその翼が金属に覆われており、第二形態の時の翼鎧っぽくなっています。

 それでいて手は爪を模した手甲で覆っており、私が先に目を付けていた青サメの背へと爪の一撃を喰らわせていました。


「ちょっ、機動力が全然違う……!」

「きししし、追いついてみな!」


 ダメージを与えた事で片割れがこちらに反応して飛び掛かって来たので、反撃に打ち上げる様に《花月》を喰らわせてから《術撃・風刃》で追撃。

 なんてしているうちに、涼さんは泳ぐ青サメへと追いついたうえで上からストンプ、からのサマーソルトで銀刃の付いた尻尾で仕留めていました。

 ジュリアは青サメと並走出来ていた気がしますが、完全に追いつき、かつ追い越せているところを見るに機動力の面では彼女の方が上までありますね。

 その上、片手でサメの背ビレを持ち、喜々として船の方へと戻っています。私も同じように持ちつつ引き摺るようにしながら運んでいきますが。


「よーしまずは一匹目だ!」

「なんというか、とても元気ですー……」

「動きがあまりにも手慣れていて、流石といいますか」

「サメ狩りは茉莉(まつり)姉と海佳(うみか)の領分だけどな。挙動をちょっと教わってたから、それの応用だよ」

「応用……それでもその場でできるのすごいです」

「ま、あたしは荒野とか山地とかが領分だからな。見様見真似だぜ」


 確か聞いたところによると、その二人は水上および海上を得意とする海竜でしたか。

 特性を考えると涼さんは金属類が近くになければ本領発揮出来ませんから、必然的に海上戦の経験はほとんど無いでしょう。

 チヨちゃんの言う通り、遠目で見せて貰っただけであろうそれをすぐに実践出来るのは……相応に戦闘経験があるからでしょうね。

 さて、しばらく魔物と接触する事もなさそうですから……今のうちに話に出た二人について聞いてみましょうか。


「少し時間がありますし、姉妹のことについてお聞きしてもいいですか?」

「ん? おう、いいぞ。誰のが聞きたい?」

「そうですね……先に話に出た茉莉さんと海佳さんからお聞きしたいかと」

「いいぞ。やっぱり姉妹に寄って得手不得手があって、茉莉姉と海佳は海竜でな、さっき言ってたみたいに主に海上や水上の依頼を受けて回ってたな」

「主に船舶の護衛とか、海の魔物退治など……でしょうか」

「そーそー。それで報酬と一緒に魚をよく貰って来るから、よくご馳走になってたんだ」


 聞いてる感じ、姉妹仲はかなり良好なようですね。これなら聞きやすそうです。

 話題に挙がった二人は護衛任務に就く事が多かったのもあって顔が広いのだとか。ここの船員さんも名前を聞いて、以前世話になったと言っていました。

 茉莉さんは以前聞いた通り、イチョウさんの近似種である《狐水竜》でそうで水と火という対極の属性を自在に操るとのこと。

 具体的にどのように操るのかというと……


「茉莉姉はどっちの属性をどう使うのかってとこまでフェイントを仕掛けてくるんだ。炎を吐くと見せかけて水のブレスで薙ぎ払ってきたりとかな」

「うわ、挙動を見て動く人はすごーく引っかかりそうですー……」

「イチョウさんは特に相手にしたくなさそうですね……まるで種族通り"狐に化かされる"感覚が味わえそうです」

「はいー、挙動で引っ掛けられたら弱点属性を当てられることを考えてもとっても嫌ですー」

「姉貴と同じ属性か、それでも読み切るくらいの根性があればいけるぜ。まー、一部の姉妹だと強引に押し切っちまうが」

「どっちにしても手間が掛かりそうですね……海佳さんの方はどうなんですか?」


 その強引に押し切るという方々も気になるのですが……思い当たるところと言えば、先日現れたという《暮奈》さんでしょうか。

 彼女は重戦車が如き突破力で暴れ狂ったとのことなので、小手先であれば容易に捻り潰すでしょうし。

 録画を見る限りはパリィを得手とするルヴィアですら難敵としていましたし、その攻撃も専用の《唯装》が無ければ防ぎきれなかった程でしたからね。

 彼女についてもあとでまた聞き出すとして……もう一人、海佳さんの事についても聞いておきましょう。


「海佳はなー……海上っていう自分に有利なフィールドを十二分に活用する水上戦のプロみてーな妹だ」

「陣地戦が得意ということですかー?」

「おう。海蛇竜としての特性を活かしてフィールドを構築、迎え撃つなり引き込むなりして戦うって戦法を得意としてる」

「護衛としてはこれ以上ないくらい優秀な戦術ですね……」

「まるで蟻地獄みたいな……正しく海蛇なんでしょうけど」

「でも高機動戦とか領域外から遠距離攻撃できる相手には滅法弱いんだけどな! それもちゃんとカバーしようとしてるのが怖いとこだよ」


 涼さんの話を聞く限りであれば、戦術家みたいな一面を持つようですね。

 領域を構築して迎え撃ってくるとなれば、基本相手の陣地に飛び込んで退治する事になる以上、海佳さんの領域で戦うことは必至。

 竜の姿での体躯もかなり大きいそうですから、レイド戦になるのは決まっていますし……挑む方々は頑張ってくださいね。

 ちなみに渦潮や大津波を呼んだりもできるそうですから、船で接近するにしても大変そうですね……


「んで、あたし以外には誰と戦ってるんだ?」

「そうですね……私は対峙した訳ではないですが、シグレさんと暮奈さんをすでに撃退したと」

「おー……え? 暮奈姉を退かせたってなると、みんな相当強ぇんだな……」

「そんなに?」

「陸上での戦いに関しちゃ一方的に蹂躙されっからなぁ。あたしみたいな高機動型(タイプ)も撃ち落しに来るし」

「姉妹の中で一番狂暴だーってサーニャちゃんに聞いてますしー……一度防衛失敗もしてるくらいですからー?」

「暮奈姉が狂暴……狂暴かぁ……うーん、そこは間違いだな……」

「えっ 外見から見てもあれを狂暴と言わず……」

「普段昼寝が趣味みてーな一番のんびり屋な姉さんだぞ。多分、こんな状況でもなければ犬みてーに寝てるくらいだ」


 ……動画で見た印象と全然違う印象の話をされたのですが。狂暴に見えて普段はとても大人しい、よくあるギャップですけれどね。

 しかし彼女を撃退できるだけでその力量を理解されるとなるとなると、よほど実力が高かったのでしょう。

 涼さん自身も結構な実力者だとは感じるのですが、話を聞いているうちだと姉妹それぞれの特色が活かせる状況だと強いのでしょう。

 現に今の涼さんも病み上がりというのもあって本調子ではないにしろ、先に言っていた通り海上戦は不得手だと言っていますし。


「あとはシグレ姉か。うーん……あたしいっつも不意打ちでやられてた記憶しかなくてな」

「ジュリアが言っていましたね。最後だけ影を操って攻撃してきたから驚いたと」

「私も見ましたー。大きな影がぬーっと出て来て大剣を振り回してましたー」

「そーそー、それそれ。普段は斥候の仕事に就いてるから、あんま見る機会ねぇんだけど」

「適職ですね。本来がそういうスタイルでしたら、なおさら」

「シグレ姉は真っ向から戦う方が珍しいというか……他は誰が聞きたい?」


 うーん、シグレさんについては聞いているとやはり本来の戦術とは少し違った戦い方をしている印象を受けますが。

 不意打ちを中心とした戦い方をするとなると、汚染の状況も相まってあの時点のプレイヤーには少し難易度が高いと判断されたのかも知れません。

 いえ、そのあとに控えていた暮奈さんが姉妹認定の実力者だったという点は何とも言えないのですけれど……

 折角振られましたし、ジュリアが現在仇敵としている彼女についても聞いておきましょう。


「それなら、私達が初めて遭遇した貴女達姉妹のひとり、《火燐(かりん)》さんについてお聞きしたく」

「火燐とももう会ってたのかー、ありゃ姉妹でも屈指の実力者でな。末妹なのにあたし並みに強ぇぞ」

「そんなになんですかー……?」

「あいつの本領は竜人態の時でな。あたし以上の速度の火を操る能力で高機動戦を仕掛けて来るんだ」

「竜人態の時……となると、その力を見られるのは相当先のようですね。皆さんは竜の姿で各地に出没してますし」

「お、なら大した事ねぇかも……だけど、気を抜き過ぎないように気を付けろよ。竜の姿っつーことは、持ち前の能力をフルで使ってるってことだからな」


 火燐さん、防御面は兎角優秀なルヴィアを真正面から突破しておいて、あれでまだ本領ではないんですか……

 先程の話とシグレさんの状況を合わせると、彼女もまた強力な戦闘能力を持ちながら本来の強みがいまいち活かせない状況下にあるということ、でしょうか。

 なんとなしにですが《稲花》さんを思い出しますね。汚染された状態であれば本来の力が歪んだ状態で扱ってくるというあたり。

 彼女も正常な状態に戻ってからの再戦で見せたあの強さが本来のものとするなら……正しい彼女達の強さを見るなら、再戦してからということでしょう。


「おーい、のんびりしてるところ悪いが。またサメの群れがこっちに来てるから対処を頼む」

「仕事だ仕事っ! クレハって言ったっけ、どっちがサメを多く仕留めるか競おうぜ!」

「いいですよ、乗りました!」

「あっ、私もやりますー!」

「あう、私は飛べないから参加できない……」

「チヨちゃんは船上をしっかり守ってくださいね」

「はい!」


 チヨちゃんは素直で助かります。イチョウさんが逃さないようにはするとは思いますが、それでも突破されたら困りますからね。

 決して暇にはならないとは思いますので、しっかりと頑張って貰いましょうか。

 遠目からいち、にー、さん……おや、結構な数で来ていますね? しっかりと《サハギンライダー》の姿もあります。

 《飛行》を使って浮き上がる私の隣では、涼さんも喜々として翼を大きく広げて戦闘準備をしています。

 こうしてじっくりと見ると機械翼っぽさも感じますけれど、中はしっかりと生物してますからね……海上でなければ、もっと大規模に金属を操ったりしそうなんですけれど。


「よぉし見えた見えた! それじゃお先ー!」

「あっ、ちょっ、やっぱり初速が無理です!」

「ひぃ、クレハさんでも追いつけないなら無理ですー!」


 飛行速度にやや補正が掛かっている(らしい)《竜人》のスピードには追いつけないので、先に……あっ、もう一匹仕留められてます。

 イチョウさんは泣き言を言いながらも弓に矢を番えているあたりしっかりしています。くっ、私の立場が無い……

 ようやく追いついたところで、飛びついて来た青サメに問答無用の《鏡月》によるカウンターの一閃で切り捨て、から追撃の《風刃》から蹴りを入れて一匹。


「よく考えれば、青サメの素材で新しい装備が作れそうですね……」


 その横で氷サメこと《アイスシャーク》に対して《マグマランス》六連射を問答無用に叩き込む涼さんを後目に、ふと思いついたことをひとつ。

 今の装備も補修を繰り返しているとはいえ、だいぶ厳しいところまで来ていますからね。新調するにはちょうどいいかも知れません。

 となれば……やることはひとつ。涼さんもやはり水属性は苦手なのか、あまり青サメを狙おうとしませんからちょうどいいでしょう。


「イチョウさん、青サメだけは徹底的に逃がさないようにしてください。私の新装備の素材にします」

「! わかりましたー、お任せくださいー!」

ジュリア「私も!装備更新が!したいですの!」

クレハ「つい先日喜々として涼さんの素材を物々交換していたのはどなたでしょう」

ジュリア「わかっておりますのよ!」

クレハ「ところで、例のとっておき。見せて貰えませんでしたね」

ジュリア「またの機会ですわ!」

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