18.現代再現された江戸のようなナニカ
新しい街に着いたら……まずは武器屋ですよね?
イベントが終われば自由解散となりました。それぞれ好きなように王都を巡るようですね。
特にルヴィアはこのまま、本来はふたつの世界を繋ぐ《転移門》の方へと行くらしく、フリューを含む追っかけ隊は追従するように行ってしまいました。
おそらく何かしらのイベントがあると思いますし、どのみち《サク》さんを探しに行かないとないとですから、私はまた機会を改めて行くとしましょうか。
さて。先ずは新たに発表されたクロニクルミッションを確認しましょう。
○夜草神社を解放せよ
区分:クロニクルミッション
種別:メイン
世界の鍵を握っている《夜草神社》が呪いに汚染されてしまった。プレイヤーの総力を挙げて解放し、《幻双界》を救う反撃の狼煙を上げよう
○クロニクルミッションについて
プレイヤーにとって最大の目的となる、全プレイヤー参加型メインストーリーイベントです。
その範囲は非常に広く、実際にボスと戦うボスバトルから役に立つアイテムを入手する探索、他の関連クエストを解放するクエストなど様々な内容が含まれています。
後方プレイヤーや初心者も積極的に参加して、プレイヤーの総力でクリアを目指しましょう。
《デュアル・クロニクル・オンライン バージョン0》のクリア目標ですね。
《夜草神社》というのは《蓮華》さん達が住み、神様を祀っているところでしたね。その汚染を祓い解放するのが最大の目標のようです。
これが達成されるまでにまた色々とあるのでしょうが……先ずは、その《夜草神社》から離れてきた巫女さんを探すこと、なのですが……。
「……流石にプレイヤーで協力して達成する、と言っても手掛かりが……」
「ですね。何かヒントがあればいいのですかけど……もしかして、後続を待つ、あるいは折角だから王都を歩いてみてもいい期間……ということでしょうか」
「その可能性はありますわね。では、私達も少し散歩を……」
「ついでに装備調達ですね」
「わかっていますわ。お姉様も調理本を買うのでしょう?」
「ええ、勿論。カエデさんとルナさんはどうしますか?」
「わしは一度田園の方に行きたいのじゃな」
「私は、カエデについていく」
「では私達も一旦解散しますか」
「「「さんせー」」」
とりあえず各々やることをやりに行くようですね。フレンド登録してからパーティを一度解散し、ジュリアと再度組み直します。
カエデさんとルナさんも組み直してから、私達に手を振り来た道を走って戻っていきました。これは……田園を駆け回りに行きましたね?
……意外と子供っぽいのでしょうか。それはそれで可愛らしくていいのですが。
「また組みたいですわね」
「腕もいいですし、機会がまたあれば、ですね」
「きっとまた出会いますわよ。私達のファンですもの」
「それはそれでちょっと恥ずかしいような、嬉しいような」
私達はまずは買い物に行きましょう。溜め込んだ素材も売り払わないとですし。
それに新しい料理セットも気になります。もっと手軽に戦闘中にも食べられるものが欲しいですから。
……主にルプストからのオーダーですが。ジャーキー、ソーセージ、サラミ、スルメイカでもいい……との事ですが、どう見ても酒飲みのラインナップじゃないですか。
作れれば作れたで私達の食事にもなるわけで。ついでに私の資金源にも。バリエーションが増えればそれだけ味に飽きなくてもいいですし。
と、配信の方でイベントが起こりました。さてさて……なるほどこの子が《サク》さんですか。
「……ちゃんと、《転移門》前にいますね、サクさん」
「《紗那》さんにほんとそっくりですわね……」
「むしろ、髪を白くして龍人の要素を入れた感じでしょうかね」
「双子……のように見えなくもありませんわね?」
「にしては身長差もありますし、種族も違いますよね……」
「何らかの関係者、ってことでしょうか」
「その線で考えておいてみましょうか」
ルヴィアの配信に映った、私達がこの後逢いに行く予定のNPCである《サク》さん。
どう見ても先に遭遇したこの王都を統べる女王様、《紗那》さんと瓜二つに近いほどにそっくりでした。
普通、ゲームキャラクターについてそっくりなキャラクター、特に名前付きのそっくりキャラは何かしらの意図が無い限りはありえないとは思うのですが。
……何かこの辺も私をわくわくとさせる設定が潜んでいそうですね……。覚えておくことにしましょうか。
ふと思い返すと《サク》さんこそ、《DCO》最初のCMに映った白い龍の子ですね。となれば、どこかに一緒にいた黒い子もいるのでしょうか?
「……聞きたいことがまた増えましたね、ふふ、うふふふふ……」
「お姉様、顔、顔……」
「お、おっと。あぶない……」
ジュリアに注意されてはっと気づきます。……あぶない、あぶない。
顔が結構崩れていたようですから、頬を叩いてしゃきっとします。物語の反芻はあとで私が一人の時に楽しむんですからね……!
平静を取り戻して歩き続ければ、商店街が見えてきました。
この王都《天竜街》。古き良き江戸の街並みなのですがマップを見る限り本来の江戸の様相と違い、王城を中心として十二本の水路が流れています。
そこからその水路を中心として、北からぐるりと時計回りに十二番街まで。《転移門》のある広場は九番街、商業区となる十番街は隣になります。
綺麗に各々区画の役割が分かれていて、橋もそれなりにあるので往来に苦労はしないようになっています。……いや、それでも広いんですけどね、この王都。
「まずは……武器の調達ですね。青銅武器から換えないと」
「新しい武器の確認は大事ですからね」
ということでまずは武器商店へ。店舗から少し離れた広場にそこそこに人が集まっているのが見えます。
こちらだと試し振り用の木偶人形が設置してあるのですね。人だかりはその試し殴りをしている面々ですか。
……ここまで来るとよく見る剣や弓だけでなく、鎌やレイピアなど派生武器の取り扱いがあるようで、店頭も店頭で賑やかです。
私の目当て……は、ありました。順番に並んで十数分、ようやく順番が回ってきました。
「すみません、鉄刀を。あとは篭手と……足の防具を」
「おっ。珍しいねえ、刀使いかい?」
「はい、それがどうかしましたか……?」
「来訪者がこっち到達してからウチの店で買ってくんだが、剣とか槍ばっかりでな。刀を使ってるのが珍しくてな」
「そうなんですか? 結構多そうですが……」
「なんか扱いづらいとか聞くな。姉ちゃんはどうなんだい?」
「ええと、まぁ……私は経験があるので」
「そうなのかい? ま、いいさ、これでいいかい?」
「はい、いくらになりますか?」
なんてやり取りをしながら装備を買い替えて更新しました。
刀術のスキルは居合ゲージの管理が最初の難関で、これは一度私も経験したのですが鹿の角のように複数回の攻撃に対してもカウンターが反応して余計にゲージが削れていきます。
それに刀は他の剣のように盾にしようとすると横からの力に弱い都合、そうしてしまうと一気に耐久値が減ってしまうため、受けるよりも回避することを考えないといけません。
その分スキルはこれまで私が戦った通り、素早く動くための《瞬歩》や、確率になりますが居合による《弾き返し》がはあるのですが、それも一見では使いこなせないとの評が掲示板にありましたね。
元々の心得があるので使えますが……ううん、この辺はもう少し使いやすくした方がいい気はします。
ジュリアはいよいよはっきりとわかる全身軽鎧になりました。
重量や防護面積が増しても動きが阻害されないらしく、いつもの動きをして見せていました。STR上昇の影響もあるんですかね?
少しだけ遅くはなっているように思えますが……おそらくそれくらいなら誤差なのでしょう。
さて、私の購入したものですが……。
○鉄刀
品質:F+
ATK+5 DEF+2
・店売りの鉄製刀。武器としては充分な性能を持っている。
○鉄の篭手
品質:F+
DEF+4
・店売りの鉄製の篭手。とても丈夫に作られており、手を護るのに最適。
○鉄の甲懸
品質:F+
DEF+2
AGI+2
・店売りの鉄製の甲懸。極力重さを感じさせないように造られている。
しっかりと性能も上がっていますね。いい感じです。
甲懸は日本甲冑における脚の部位を守る防具です。足回りもそれっぽくなってきました。
染色は赤色を選んだので、よりそれっぽくなっています。ジュリアは全体的に紅玉色を選んでいるので、明るめか暗めかで区別はついてますね。
それでもって次、溜まりに溜まったドロップ品の売却と整理……をしようと別の商店へと向かいます。
お目当ての商店の近くには広場があり、そこで生産に手を出した方々が集まっているようですね。
鉄を叩く音、木材を加工する音、肉を焼く音……様々な音がしてとても賑やかです。
「おっ、あんたクレハさんとジュリアさんだろ?」
「そうですが……貴方は?」
「ああ、俺ぁガインってんだ、鍛冶をやってる」
広場の前を通ろうとしたら声を掛けられました。
声を掛けてきたガインさんはドワーフの方で、私よりも頭二つ分小柄な方です。手に持ってるのは金槌で、言う通りに鍛冶をしているというのは一目で分かりました。
ドワーフ特有のもじゃもじゃ髭を撫でながら話を続けます。
「大方調理器具を買いに来たってとこだろ」
「はい、その通りです。調理本で作れるレシピが増えていくそうなので、器具なのか本なのかはわかりませんが」
「がっはっは、鍛冶も裁縫も、他も似たように器具が増えるかレシピが増えるかのモンらしいがな。なあクリヌキ?」
「おうよ。ってえ、例のお二人さんか。ワシは木工系をやっとるクリヌキ。こないだの決闘は見応えあったぞ、また見せてくれや」
「あはは、はい……まあ、いずれ、そのうち……」
相棒なのでしょうか。呼ばれたクリヌキさんもドワーフで、ノコギリを持ってます。
やっぱりあの決闘、かなり評判になってるみたいです。聞けばあのブランさん達もやっていたとか。
掲示板でもあれぐらいの戦闘が出来ればな、って声がちらほらありますし、というかその翌日には公式に動画が上がっていました。
もうちょっと静かにプレイしたかったのですが、表立ってテストプレイをすると本当に目立ってしまいますね……
「確か、クレハさんが調理でジュリアさんが錬金……をやってたんだよな?」
「ええ、それであってます。とは言っても、そこまでがっつりするつもりはありませんが……」
「がははは、だろうな。まあ、本格的なモンは俺らに任せてくれや、ここの広場クラフター連中が集まってるからな」
「ええ。その時は是非お願いしますね」
「おう。ちなみにモンスターの素材からとかでも色々防具を作れるみたいだぜ。店で素材売ってるとはいえ、目新しい物なら取引できるなら一番だからな」
「ということは、何かいい素材が手に入ったら……ということですね」
「そういうこったな、まあ兎や鹿の素材だと作れるモンは安価だからスキルレベル上げ程度にしか使えんが……」
「あはは、まあそうなりますよね……」
あ、やっぱりそういうのもあるんですね。では何か手に入ったなら優先的に制作依頼に回しましょうか。
いい装備が作れるのなら、そちらの方がいいですからね。出来る準備は出来るだけしておきたいですし。
「それじゃあ私達は他にも用事があるのでこれで」
「おう。引き留めてすまなかったな。製作組一同、依頼があれば待ってるぜ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
一同で待ってるんですか……手を振るガインさんとクリヌキさんの後ろに種族は違えど色んな製作品を作ってる方がいます。
いい方向にコネクションが作れる切っ掛けになったと考えておきましょうか。
仮称、クラフター組合広場隣の商店で私は調理セットのレシピを、ジュリアは追加器具を購入し不要素材を売却。
手持ちの資金はトントンですね。あとはポーションなどの雑貨を購入してインベントリを整理。
「それじゃあ準備も出来ましたし、行きますか」
「《サク》さんのところに、ですね」
いざ、私達のイベントを進めるために《転移門》のある広場に行きましょう。
ルヴィアの方はイベントを終えてもう離れていますからね、私達が行っても大丈夫でしょう。
「《転移》はまあ当然ながら使えませんか」
「ですわね、まだ殆ど散策できてませんし。後で王都を探索しておいた方が良さそうですわね」
《転移》は、ルヴィアの《転移門》でのイベントで解放された要素で、一度行った事のある場所であればその場所へと瞬間移動できるそうです。
今のところは街と街の間、それと王都の中だけですが、単純にこの王都はかなり広いのでこれだけでも大助かりとなります。
「……そういえば、ジュリアは後で紫音からRPのレッスンを受ける予定でしたよね?」
「結構掛かりそうですから、というより、そろそろ呼ばれる事もありそうですし、しっかり固めておかないと」
「それならイベントを終えたら、私が街の方を見廻っておきましょう」
「えぇ、よろしくお願いいたしますわね。後で要所を教えてくだされば巡っておけますから」
この後ジュリアは《VRクラブハウス》で紫音ちゃんにRPのレッスンを受けるのです。
そろそろしっかりとRPが出来るようになっておかないと、ルヴィアからパーティのお誘いが来た時に大変ですからね。
……ある意味、剥がれた時のギャップは面白いところではあるのですが、流石に戦闘中は勘弁して貰いたいですし。
そんな雑談をしているうちに《転移門》のある広場が見えてきました。《蓮華の手紙》があるのはしっかりと確認して……それでは行きましょう。
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