175.熱銀たる斬炎竜
「……グルル」
フィールドの中に入ると、ムービーモードに突入。竜が目を覚まして起き上がり、こちらを凝視。
その眼は赤く光り、彼女本来とは違うものだと直感出来るほど。口を開けば鋭い牙が生え揃っており、吐息からは火花が散っています。
息を吸い、直後に天を仰いで鉄をすり合わせたかのような甲高い咆哮を上げ……それと同時に、この火山の上を覆う暗雲が稲光を放ち始めました。
合わせて地面が揺れ始め、溶岩がせり上がって今いるフィールドへの道が沈んで退路を断たれました。そうなれば、一気に緊張感が増してきますね。
「もしかして外、今エラいことになってるんじゃないか……?」
「ありそうですね……」
「長期戦は辛そうなのだな」
そうして、目の前の竜……《斬炎竜・涼》は改めてこちらを見れば、火花を交えた吐息をひとつ。
瞬間、地面から赤熱した液体が滲み出し……その身体に纏わせ、溶かされていたであろう鉄で銀色の翼膜を造り上げ、まるで鎧のようにその身に纏っていきます。
街の人から聞いた通りの白銀の竜へと姿を変えた彼女は、戦闘の準備が整ったと言わんばかりに、その名が示す通りに纏った刃を赤熱させて、再び咆哮。
ムービーシーンが解除されたと同時に一斉に皆が武器を構えると同時に、外からの連絡が飛び込んできました。
「おい、やっぱりさっきの咆哮と同時に外の魔物が活性化して付近のプレイヤーを襲撃し始めたらしい」
「しかも火山も噴火し掛けているそうでござるよ!」
「まさに、という状況ですね……!」
竜が動き始めたのと同時に体力が表示……三ゲージですね。状態も変化し[鉄纏【斬】]という効果が付与されています。
それに合わせてティレイオ島中の魔物が活性化したとの連絡。どうあってもここで彼女を討たないと大事に至るようですね。
私とイチョウさんは《八卦・水》を使って弱点の属性を付与。手持ちの武器も《水蛇》に切り替えておきます。
タンクパーティの代表であるサスタさんが手を上げ、全員が準備が整ったのを確認してから一息。
「行くぞ!」
その一声と共に、ヘイトスキル《威圧》を使って涼の敵視を引き寄せます。それと同時に戦闘開始となり、真っ先に飛んで来たのは前肢による引っ掻き……に見せかけてその腕の刃での斬り付け。
サスタさんは上手く盾で受け止めますが、その斬撃の鋭さとあれば《唯装》でなければ防げなかったのではないかと思う程。
咄嗟にフロクスさんが防御バフを掛け、ウケタさんは《シャドウフィールド》を付与。続けて逆方向からの二撃目、更に思い切り横に一回転して大剣と見紛うかのような尻尾による三撃目が叩き付けられます。
全て防ぎ切ったところでカエデさんが回復と継続回復を掛けますが、この連撃だけで体力の四割を持っていくのはなかなかえげつない。
「あまり長くは持ちそうにありませんわね。姉様、仕掛けますわよ!」
「ええ! 早々に決着を付けましょう!」
ダメージが大きいという事は、その分攻撃を受ける度にヒーラーのリソースは削られ続けるということ。
しかも今のは大技でもなく、唯の連続攻撃ですからね。間違いなくまだまだ隠すものは隠してあるはず。
なら出来るだけ早く倒す事でリソースが無くなる前に倒す……のが最適なのですが、まだ上手くいくかは確信出来ないのが痛いところ。
何せ対峙している相手はこれまで対峙してきた中でも特級の強さ。強敵と言えばすぐに名が上がる千歳姫さんや稲花さんは手加減あってのこと。
でも。
今回はこれまでと違って明確な"敵意"がある。
「《瞬歩》―――《行月》!」
「《エアリアル――――ダイヴ》!」
地を蹴り、飛行による加速を挟んでから、更に移動アーツで加速して間合いを一瞬で詰めての斬り付け。ジュリアは初手から跳躍攻撃を繰り出しましたね。
後方からは二つの蒼い軌跡を描く射撃が飛び、更に―――飛行して加速したのにも一歩だけ遅れただけのチヨちゃんの《行月》もヒット。
続け様に黒霧が収束しての爆発、《ダークプロード》が炸裂し、それらに続くようにサブアタッカー組やタンク組の攻撃が襲い掛かります。
ダメージは通ってはいるようですが、やはり通りが悪いようで。あの鎧を何とかするか、隙間を狙うか……それが出来るのは、私か祖父、イチョウさんくらいでしょうか。
「物は、試し……っ!」
「合わせますっ!」
再び一回転し尾を振り回す斬撃を繰り出す攻撃を避けてから、一歩踏み込みから《剣閃一刀》による二連続の抜き打ち。
鎧に覆われていない右前肢の隙間を斬り付け―――重ねるように一瞬遅れてチヨちゃんが同じように《剣閃一刀》を繰り出し、後右足の隙間を斬り付け。
見事な合わせ、と一瞬目配せをしてから後方に飛び退き。同じく意図を察したイチョウさんが同じ個所へと向けて《ストレートショット》を撃ち込みました。
ダメージは、少し多めに入りましたか。追撃と言わんばかりにジュリアは《トリプル・フレアプロード》を叩き込んでいますが―――
「姉様、意外と脆いようですわよ!」
「やや強引ですが、そういう抜け道もありますか」
ジュリアが《火属性》の魔術を直撃させた鎧部分が赤熱し、続け様にトトラちゃんが《フリーズロア》を当てた瞬間に鎧の形が崩れ、下の竜鱗が露出しました。
つまりこれは、やや強引ながら彼女が纏う鎧は破壊できるということ。判明した直後にすぐカエデさんを含む火魔術及びアーツを持つ面々に伝達されます。
《花月》から《水刃》、繋げて《月輪》をチヨちゃんと見舞うと、不意に竜がこちらへと視線を向けて右前肢を振り上げ。
「クレハ、そっち向いたぞ!」
「おっと!」
すぐさまに後ろへと飛び退いた直後、振り上げられた脚を地面に叩きつけると同時に私のいた場所へと岩が突き出してきました。
ちょっとした遠隔攻撃と捉えて動くのが良さそうですね、これを利用しての全体攻撃を考えられますが。今は頭の片隅へと置いておきましょう。
突き上げて出て来た岩にも、赤熱した鉄が混じっているようで。場に残り続けるのは少し邪魔に感じますが……今は足を取られないように気を付けますか。
相手は赤熱した鉄を操っての攻撃がメインにしてくるようで、赤熱した鎧を刃へと変化させて振り回しての攻撃が中心となっているように見えます。
先程ジュリアとトトラちゃんの連携で壊れた箇所も、攻撃に使う折に修復してしまっているようです。まるで一瞬で行われる錬鉄のように思えますが、さて。
「トトラ、もう一度壊しますわ!」
「あいあいさーなのだ! 尻尾と翼の振り回しに気を付けるのだ!」
「わかってますわ!」
鎧化している部分は一定以上の赤熱をさせた後に、水及び氷の魔術を当てれば防御力を緩められるようですね。
ジュリアは《トリプル・ソルフレア》で後右肢の鎧部分を赤熱化させ、直後に狙い澄ましたトトラちゃんの《フリーズロア》で鎧を砕いたところに《ブレイクポイント》を叩き込みます。
防御力が下がったところで、チヨちゃんに目配せをし《新月》からの《斬月》で強烈な斬撃を叩き込み。私は追撃で《水刃》でダメージを稼ぎ、そこにイチョウさんが狙撃。
頑強に見える鎧も突破方法が見つかればダメージも順当に与えられ、サブアタッカーパーティも左側面からの攻撃に対処しつつ削る事が出来ているようですね。
「っ、ブレスが来るぞ!」
「了解、《シャドウフィールド》!」
「《マーキュリーガード》!」
タンク組も連携してボスの攻撃を上手く往なしているようですね。メインのタンクを務めるサスタさんが次の攻撃を察して伝達、バフや受け切る為の構えを取りつつ他の面子は距離を取り。
駆け回る紫陽花ちゃんからの《マーキュリーガード》を含めた青黒赤の三重のバリア、更にフロクスさんからのバフを受け、防御スキルまで使用。
竜の額にある紅玉が赤く輝くと同時、口元が陽炎の如く揺らめいた直後にガスバーナーのように収束され噴射される炎がサスタさんを襲いました。
射程こそ短いもののまるで袈裟切りをするかのように首を振り抜き、ダメージ量もあれだけのバフを張っていてやっと半分に抑えられるほど。
しかし威力も凄まじい分……熱量が凄まじいのか頭を覆う鎧も赤熱化し、隙も晒しているようで。そこを突く様にカルパさんとフロクスさん、一歩遅れてウケタさんも飛び込み。
「隙だらけだぞォ! 唸れ《圧壊斧アルビオン》ッ!」
カルパさんの《唯装》である大斧が振り下ろされれば、弱点属性でないのに赤々としている頭鎧を砕き、ついでに防御低下のデバフを付与。
あれがあの唯装の特性なのでしょう。その防御力が下がったところにフロクスさんとウケタさんによる一撃、そしてカルパさんは振り上げによって顎に向けて叩き付け。
なるほど、これは頼りになりますね。私も便乗してアーツを繰り出して何度か斬り付け、すぐにタンク組から引くように指示が来ます。
先程も一度離れる指示があったので、直後におそらく同じ行動―――尻尾を思い切り振り回す行動を取るように見えますが。
その通りであれば踏み込むような動きをするはず、かと思えば一瞬竜は跳び上がり、翼を纏う鎧を赤熱化させた直後。
「っわ、そんなのアリか!」
「離れておいて正解でしたね……!」
翼を形成する鉄が融け始めたと思えば、溶け落ちたそれが刃へと変わって足下へと降り注ぎ。その上から踏み潰すかのような着地。
先程の一声で皆離れていたので被害はないのですが、これで相手の特性が掴めましたね。この竜は鉄を操るだけでなく、熱を操っているようですね。
特性を考えれば纏ったり攻撃に転用したりできるのは鉄程度で収まる訳ではなさそうですが、汚染の所為でその辺りが変質してしまっているのかと思われます。
大まかに攻撃のパターンは掴めましたし、後は詰めるように削っていくだけですね。ゲージは半分ほどまで削れていますから、この調子で削れればいいのですが。
「三連撃、来ますよ!」
「おうさ!」
戦闘開始と同時に放って来た三連撃、右前肢の刃が大きくなっているから右、左から尻尾の攻撃ですね。
先程と同じようにバフを受けたサスタさんが受けに回り、最初の二連撃を受けた後に、横回転からではなくサマーソルトでの斬撃を繰り出します。
ちゃんと受け切ったのを見るなり、その尻尾へと向けて《花月》を繰り出し。チヨちゃんとイチョウさんが合わせるようにその尾へと追撃を掛け。
そうすれば赤熱こそはしませんが鎧部分が欠けてダメージがよく通るように。先程カルパさんがやって見せたような無理矢理に近い破壊方法ですが、一応出来るようですね。
最初は難航しそうと思いましたが、対処や回避方法も判ってしまえば順当に削れ、第一ゲージも残り僅かになってきました。
「そろそろゲージが割れるぞ、すぐに動けるようにしておけ!」
「姉様、一気に削りますわよ!」
「わかりました、合わせてくださいね」
ジュリアは比較的攻撃の薄い直上から仕掛ける為に跳躍。私は距離を詰めるために真正面から接近します。
チヨちゃんとキユリちゃん達は既に距離を取り、ゲージ攻撃に備えつつ。それでも遠隔攻撃が出来るイチョウさんとトトラちゃんは追撃の構えを取っていますね。
攻撃こそサスタさんに集中していますが、一挙一動の攻撃範囲が広いので迂闊に近寄れば攻撃に巻き込まれます。
派手に振るわれる尻尾による薙ぎを軽い跳躍で避けつつ、両手に刀を、尾にも刀を握って大技を繰り出す前振りを。
先に直撃するのはジュリアの《エアリアルダイヴ》、それと同時に撃たれる《トリプル・フレアプロード》。確か名付けて《バーストダイヴ》とか言ってましたっけ。
その背を覆う鎧が赤熱するのと同時にイチョウさんの《ペネトレイトショット》とトトラちゃんの《トリプル・フリーズロア》が炸裂し、背鎧が砕け。
「《狐八葉》……!」
砕けた箇所へと向けて、必殺の一撃を。背へと飛び乗ってから三発同時の斬撃を繰り出せば、再び竜が咆哮を上げて一本目のゲージが砕けます。
ゲージ攻撃を警戒して私も飛び下がって様子を見ておきましょうか。何か攻撃が来るのであれば構えておかなければいけないわけですが。
竜は咆哮を終えれば、威嚇するようにこちらを睨み付けつつ……その身を纏っていた鎧が赤熱し溶け落ち、変形を始めました。
「グルル……ガァ……!」
「……鎧の形状が変わった!?」
脚と胴体を中心として刃で身を護るかのような鎧が変化し、今度は翼を主体とした鎧へ。ゲージ攻撃の代わりに形態変化のようですね。
翼肢を太く覆い、脚部は爪を中心とした補強に留めたその姿は先とは真逆の印象を受けます。気になるのは、その鉄で覆った翼が放熱を繰り返しているところですけれど。
もう一度《鑑定》を行ってみれば、[鉄纏【翼】]へと変化しているようです。つまり、ここから攻撃パターンが変わるという事ですが……
「来る……ぃ!?」
「なん、だと!?」
竜が行った最初の行動は、翼からの噴熱を行いながら直上へと飛翔。その動きは、さっきも観た様な、何なら傍らで何度も見て来たその動き。
まるでジュリアの《ジャンプアタック》を竜がやっているような……いえ、速度も桁違いですし、質量も比にならない。これが本命のゲージ攻撃でしょう。
一瞬で火口を飛び出したかと思えば、すぐに急降下を開始。慌ててサスタさんが全員を集めて《パラディンウォール》を展開して範囲防御フィールドを展開。
出来る限りの防御バフを全員に掛けた直後に、流星が如き速度での落下と同時に纏った熱を解放しての爆発攻撃。
「何とか、耐えたか……!」
「すぐに回復するのじゃ、クレハ達はすぐに攻撃に専念するのじゃ!」
「ええ、もちろんのこと!」
その威力は全員の体力が一瞬で半分以下にまで削り取られるほどで、急ぎヒーラー陣が全員に治癒魔術を掛けて治療し立て直し始めました。
私とジュリアはカエデさんに言われるがまま、イチョウさんとのヒールを受けつつ竜へと接近。先程の大技はやはり負担が大きいようで、少しだけ動きが鈍っているようで。
ここからが第二ゲージの戦いになるようで、今のうちに攻撃を加えるのが得策でしょうからね。
ジュリア「そういえばお姉様も幾つか組み合わせてアーツ名作ってましたわよね?」
クレハ「あー……最近だと術撃と被りそうで、なかなか」
ジュリア「火炎車、なかなか格好良かったですのにねえ……」




