168.夜の海にて
ゴールデンウィークにつき、久々の木曜更新です。
「右舷! 《ブルーシャーク》二匹来てますの!」
「はぁい! お任せ下さいませー!」
「では私も。反対側から《アイスシャーク》と《フライジェリー》、ジュリアお願いしますよ」
「お任せあれですわ! トトラ、いきますわよ!」
「あらほらさっさーなのだ!」
出港して十数分。二度目の会敵と早速の連続戦闘を繰り広げていました。
主に襲い掛かって来るのは水属性を持つ《ブルーシャーク》と氷属性の《アイスシャーク》、それと様々な属性の《フライジェリー》の群れ。
もう少し進んだらサメでも船上戦を試みる珍種も出てくるかもしれない、と船員さんの談ですが……今のところは姿を見ませんね。
そのため暇を持て余したフロクスさんはバッファーに徹しており、ウケタさんも《唯装》の特殊スキルである《シャドウフィールド》というバリアを私達に張っています。
今のところ大して手間取るような魔物はいませんが、やはり初の海上戦ということでまだ色々と試行錯誤の最中。
「イチョウさん、片方を射抜いてください。私はこちらを……《花月》、《風刃》!」
「はぁい! もうやってまぁす!」
「からの、《月天》《火刃》!」
最も動きやすい刀での《八卦・術撃》ですが、想像以上に使いやすいものとなっていました。
適当にアーツの合間に挟み込むだけで結構強力な追撃が加えられ、同じ属性の連続使用に関してはややクールタイムがありますがそれでも一度他属性を噛ませれば気にならないほど。
習得した時に真っ先に思いついたこの連続攻撃系アーツを連続して行う間への《術撃》の使用ですが、想像以上にダメージ量が上がっていました。
現に一連の攻撃を与えた青サメは一瞬のうちに体力を消し飛ばされ丁寧に切り裂かれて海面に浮いていますからね。サメのお刺身一丁上がりですね。
その横ではイチョウさんも《八卦・風》を絡めた連続射撃で反撃の隙を与えることなく倒していますし、腕前も凄まじいものとなってきました。
「そぉれぇ!」
「行くのだー!」
私達がいる右舷側とは反対方向、左舷側ではジュリアとトトラちゃんがクラゲと氷属性のサメを相手にしていますね。
ジュリアの《ジャンプアタック》も三段階目、《エアリアルダイブ》になり命中精度と威力に補正が掛かったようで。遥か高空から狙い澄ましたように氷サメに対して炎を纏わせての急襲攻撃を仕掛けています。
海面を大きく波立たせるその強力無比な一撃を喰らわせた後、更に《ラウンドエッジ》という《槍術》SL80のアーツを叩き込んでトドメ。
おそらく今ゲーム中で空中戦をやらせればジュリアの右に出るものはいないでしょうね……
なんて考える傍らで視線を動かせば、トトラちゃんが《ヘイルブレス》をリロードして空を揺蕩うクラゲを纏めて叩き落としてます。
こちらもこちらで大分手慣れて来ているようですね。ちなみに《竜眼》の効果で一発のみであれば装填済みの魔銃へも別の弾種をリロード出来るようになっているとか。
二度目の襲撃もあっと言う間に片付けて船に戻り。船上にはまだ変化はないようで……はい、ウケタさんとフロクスさんは暇してるみたいですが。
「サメの掃討、完了しました。っと……」
「ありがとうよ! それじゃあまた……そおれ!」
掃討の旨を報告すれば、手の空いている船員さん達は先程私達が仕留めたサメを引き上げ始めました。
このサメ、ちゃんと汚染状態ではないので引き揚げれば幾つかの素材が貰えるついで、例の漁獲効果でちょっとだけ《カラドゥリア》の復興が進んでいきます。
クラゲは汚染持ちなので回収は出来ませんけれどね。こちらは空中の汚染をしっかりと吸っている所為か、良質な魔力の結晶である《魔鉱石》が獲れたりします。
こちら、地味に《錬金術》や武具の加工に使ったりしますし、幻双界人が使う魔力を動力とする道具に使ったりするのでNPC商店で比較的高く売れるのもあり、前線組の金策源になっていたり。
「うーん、引き揚げて見るとやっぱりでっかいですね……」
「遠距離攻撃ばかりしてるとー、ですねー……」
「私達近接組はそう気にならないですけれど、遠隔だと遠近感は確かに狂いそうですわね……」
引き揚げられたサメは二匹とも三メートルを悠に越す大物。大きければ大きいほど良質なフカヒレや大牙が取れるのだとか。
サメの牙は頑丈かつ鋭いですからね、武具の加工に使用してもかなり良いものになるでしょう。そうなると復興にも影響するというのは納得ではあるのですが。
こんなのが徘徊しており、かつこれらと戦うとなる夜界の海は魔境の気配がしてきますが……ちょっと夜の海を舞台にしたクエストは楽しそうですね。
「この調子だとあと三、四戦と言ったところですわね」
「結構な連戦を覚悟していましたけど、結構早く到着しそうですね」
「船の動かし方がファンタジーしてますもんねー……これなら確かに風の影響も受けませんしー……」
ジュリアが遠くに見えるティレイオ島を見ながら一言言い、そこから風を受け船を進める帆へと視線を移し。
そう、この船なのですが……昼界のイベントで船を運用した時は水属性の魔術師が同乗して動かしていましたが、こちらだと風属性の魔術師が同乗して風魔術で動かしています。
どちらの場合でもそう違いは無さそうですが、船の進みを見るだけにはこちらの方が速そうですね。ただこちらは揺れが若干ある様なのですが……
ちなみにですが、乗船員枠を開けたお陰で水属性の魔術師も乗っているため、こちらの方は船を進めるのはなく船自体を安定させるのに注力しているようですね。
両方の魔術師を船員として乗せることが出来れば、こうして船の速度も足場も安定させることが出来てサクサクと進められる……ということでしょう。
「嬢ちゃん達、サメの牙はいるかい?」
「欲しいのだー!」
「私も水属性の装備素材になりそうなので」
「おうよ、持ってけ持ってけ」
検分している船員さんから御呼びが掛かりました。貰えるものは貰っておきますよ。
氷属性はトトラちゃんが、水属性の方は私が貰います。あとは持っていれば使う機会も、ということでジュリア達も幾つかずつ貰っています。
特に私はそろそろ装備の更新をしないといけませんからね。素材、どうしたものでしょうか……あんまり目途が立たないのが悩みどころ。
いっそのこと水属性の防具という縛りを除いてしまえば幾らか良質な装備は出来るでしょうけれど、うーん……クラフター組合に相談してみましょうか。
と、もののついでにサメの鱗も貰えました。私が倒したヤツですね、滅多斬りにしたので鱗が採れるようになっていたらしいです。
「そうでした、ジュリア。まだ竜に関して教えて貰ってませんでしたね」
「今日話そうと思って忘れていましたわね。《露喰十姉妹》の情報については?」
「一覧のメモ程度に貰ったものであれば。このうち《シグレ》と《火燐》とは交戦済みで……先日《暮奈》が《モンテッチ》に出現したそうで」
「概ねあっていますわ。その他にもトトラちゃんのダンジョンで《茉莉》と《海佳》とも遭遇していますわ」
「……結構運がいいのでは?」
「暮奈とはやり合ってみたかったですけれど、距離と攻略期間から間に合わないですわね。残念ですけれど」
九月の頭から夜界において特定の場所で行われる防衛戦に現れるようになった強敵《露喰十姉妹》。
最前線級または特定の装備がなければ壊滅必至の超強力なボスの扱いで、先日発生したモンテッチでの防衛戦にて《咆撃竜暮奈》が出現。
暴走竜という言葉がぴったり当てはまるその戦いぶりから、攻略に当たっていた面々は一瞬で壊滅。そのまま飛び去って行ったとか。
掲示板ではイベント攻略の抜けが原因だと指摘があり、明日の再解放戦に向けて攻略が進められている最中となります。
ジュリアが他にも遭遇しているということは、そちらに関しても近日中に出現し得るということですが……両方水属性なので私はそちらも興味があるんですよね……
「そちらは録画動画で済ますとして……これから向かうアガフィヤ火山にいるのは?」
「はい、私の怨敵である火燐と同属性。《斬炎竜涼》なのですわ」
「確か熱と刃を操る竜でしたか……火燐ではないということである程度の当たりは付けていましたが」
「刃を操るというのも姉様にとってはご興味のあることでしょう?」
「ええ、確かに。《稲花》さんとの戦闘経験が生きるといいのですけれど」
刃をどのように操るのかは不明ですが、多段による斬撃であればこの《想装》……《幻咲稲穂》の元の持ち主である《稲花》さんと戦った時の経験が生きるでしょう。
彼女の本当の姿は八枚の葉刃を操る狐であり、この刀を譲り受けた折に戦いましたからね。その葉を使った連続攻撃と鉄壁の護りは凄まじく、あと一歩のところで敗北しましたし。
倒せるくらいに調節されているのであれば、なんとかなるとは思いますが。今回はパーティ前提でしょうしね、体力の高さからソロは無理でしょう。
「次が来ますよー! なんか半魚人っぽいのいます!」
「三度目ですか、そろそろ本腰入れてきそうですわね」
「ようやく船上戦ですね……これほど飛べないのが辛いとは」
「全くだ、いっそのこと《投擲》を取るかも悩んだくらいだよ」
「悪魔に進化するときっと飛べるようになりますよ……鬼は……ええ、はい」
二種のサメが六匹と、半魚人らしきものが三匹。クラゲは……数が多いので対処ができる方にお任せしましょう。
しかもサメは今度は混成で三匹ずつ左右に。そうなるとジュリアは不利な属性を相手取ることになりますが……この程度気にするタチではないでしょうし。
飛行組は左右に二分して戦闘開始し、船上の方も……海面から飛び出して上陸して来ましたね、《サハギン》のようです。
「ひゃっはー! 陸上敵だー!」
「テンション高すぎですよ、フロクス……」
「気持ちわからなくもないですわ。トトラ、クラゲはお任せしますの。キユリさん、弱点敵が相手ですからしっかりついて来て下さいませ」
「お任せあれなのだー!」
「が、頑張ります!」
「イチョウさん、素早く倒して援護に行きましょう」
「わかりましたー!」
それぞれ即応の動きをしつつ、担当の場所に向かって行きます。先程と同じく私達は右舷側、ジュリア達は左舷側でフロクスさんが船上です。
こちらに向かってきているのは水サメが二匹と氷サメが一匹。クラゲは数が面倒なのでカウントしませんが、サハギンが気になるので早々に片付けて手伝いに行きたいですね。
イチョウさんはまず数が多いクラゲの相手をしているので、先ずは氷サメを相手にしましょうか。《八卦・雷》を使いつつ接近すれば、海を凍らせて氷の欠片を飛ばしてきます。
流石に見ていれば避けられるので飛んで来た氷片を《弾き返し》で叩き落し。近付いた私に噛み付こうと跳び上がった氷サメに対し―――
「―――《剣閃一刀》」
鞘を握り、僅かな溜めの直後に纏わせた雷光が煌めき。すれ違い様に氷サメの額へと雷の斬撃を二撃叩き込んで。
氷サメは海面に落ちると同時、腹を上に向け痙攣しながら浮き上がったところにトドメの雷属性《術撃》である《雷刃》を叩き込んで仕留めます。
やはり海上であってもまだ道中なだけあってちょっと弱いんですよね……仕方ないところではありますが、その分サクサクと進めるのでいいのですけれど。
続けて水サメ二匹の対処に移るために《八卦・風》で属性を変更しつつ、片割れが先程の氷サメと同じように飛び掛かってきたので回避しながらカウンターで軽く斬り付けつつ離脱。
振り返り様に《三撃・鎌鼬》で虎視眈々と私を狙っているもう一匹に対して牽制ついでに―――なんて思ったら三発とも直撃し、体力を半分持って行きました。
「一気にいきます、か」
まだまだ元気な青サメ二匹は回遊しつつ、二匹同時に尻尾を使って水弾を跳ね飛ばしてきました。おそらく《ウォーターバレット》ですが、かなり大きいようで。
斬り払っても飛沫でダメージを貰うのも嫌なので引き付けて回避しつつ、体力が減っている方の水サメへと急降下しつつの《斬月》を見舞い、追撃に《風刃》で斬り付けて仕留め。
すぐ横にまで迫っていたもう一匹に対しては噛みつくタイミングに合わせて《鏡月》を使ってのカウンター。
勢いがあって大口を開けたところに最大威力で直撃したためか、そのまま真っ二つに……まあ、ちゃんと素材は取れるのでいいのですが。
「さてサハギンは―――」
「そぉーれッ!」
「……手伝い、いらなさそうですね」
気になっていたサハギンへの救援に行こうとすれば、甲板上にいた二匹が船外へとホームランされていきました……回収、無理そうですね。
もう一匹もウケタさんが相手していますし、とっくに瀕死ですので手伝いの必要無さそうです。流石に戦闘は慣れっこといったところでしょう。
ジュリアの方も戻って来たところで第三波も終了。再び船上に戻って一息となりました。一応どんな様相だったのか聞いておきましょうか。
「どうでしたか、サハギンは」
「はっはっは、ジュリアの槍に比べれば軽い物だよ。ゴブリンより一回り体格が大きい……くらいだったな」
「私も感想としてはその程度ですね。初見の相手ですから様子見しながら戦っていたつもりでしたが、フロクスが瞬殺してしまったので何とも……」
うーん、やはり歯牙にもかけなかった様子。まあこんな程度でしょうね……
実際にこちらも戦う事が出来たのは最後の五戦目、《シャークライダー》になった時でした。
言われた通りに大したことが無かったのは、海上でのゴブリン的な立ち位置だったからでしょうか……?
クレハ「後にここ、プレイヤーがフカヒレを取る為に殺到したらしいですよ」
ジュリア「まったく、食が絡むと皆さん本気を出しますわねぇ……」
クレハ「……ジュリアが言えたことではない気がするんですけど」




