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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-3章 猫殺しの一刀を求めて/Dragon's Stampede

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162.猫殺しの一刀、猫刮村正

「こちらになります」


 《城宿城》が元に姿に戻ればパーティを解散し、璃々さんに案内されて城宿城本丸の裏にある倉へと向かいます。

 解散……とは言っても、イチョウさんとタラムさん、チヨさんは付いて来ているのですが。《盃同盟》の皆さんは城下町の変化を確認しに行ってしまいました。

 倉自体は幾つか数があり、それぞれに別々の物が収められているそうで。目的の蔵は武器庫なのだと城から出る折の説明で聞きましたが。


 目的の蔵の前に着けば、璃々さんが手を触れ……薄い膜が消えると同時に、重厚な観音開きの扉がゆっくりと開きます。薄い膜はおそらくですが、防犯用の結界なのでしょうね。

 倉の中は埃もなく綺麗な物で、多種多様な武器が壁一面に飾られており。また厳重に箱に収められているものも几帳面に積み上げられています。

 数々の名刀が眠っているのやもしれませんが、今回の目的はただ一本の刀となりますから。皆さんは興味深そうに見回してますけど。


「……色んな武器があるなぁ。長弓や短弓……へえ、杖まで」

「はい。武器庫ですし、備品も含めて貴重品はこの中に納めてあります」

「刀もいっぱい……」

「刀鍛冶の方が定期的に売りに来られるので、品質がいいものはこちらに。っと……」


 璃々さんが倉の奥にある扉へと触れ、ゆっくりとそれを開けば……祭壇のようなものがありました。

 そこには、ひとつの刀が飾られており……ますが、傍から見れば何の飾り気もなく、力も感じない物です。


「……これが《猫刮村正》ですか?」

「いえ、違います。これは……またこれも貴重なものですが、村正はまた少し違う場所に収めてあります」

「種族によっては近くにあるだけ扱い辛そうですもんねー」

「それもあるんですけど、何かしらに……特定の種族対象に特化したものは、綾鳴様の命で厳重に保管するように取り決められているんです」

「下手をすれば、それが争いの火種になるかもしれないから……ですか」

「その通りです。無用な軋轢や争いの火種になるくらいなら、封じてしまうのが一番だからと」


 祭壇のあちこちに触れていれば、その隣に今度はダイヤル状の鍵が現れ。それをカチカチと動かし始めました。

 なるほど、《唯想》も結構な種類が出てきましたが特定種族特効の武器が一つもないのはそういうことだとも取れますね。

 むしろそうなると、特定の対象に有利を取れる武器に関してはプレイヤーメイドで作るしかないということにもなってきます。

 竜種特効の武器などもあれば夜側は有利に進んだかもしれませんが……まあ、現状ハッキリしている素材になりえそうなものは《屍国》にいるようですから……

 璃々さんが操作を終えれば、祭壇横の壁が開いてさらに奥へ。どうやらこの先の用です。


「ええっと……納められた箱は……」


 倉庫の奥にあった小部屋へと入れば、蝋燭に火が勝手に灯り、真っ暗だった部屋を明るく照らしてくれます。

 璃々さんはその灯りを頼りに、更に幾つか積まれている箱の中から目当ての物を探し始め。おそらくこの辺りはさらに貴重な品々になるのでしょうけれど。

 待つことしばらく。目当ての箱を見つけた璃々さんが収められているであろう長方形の木箱を持ってきました。


「ありました! こちらに入っているはずです」

「こちらに……うん、やけに軽い気がしますが……」


 受け取ったその木箱は、最初こそずしりとした重みを感じましたが……いつも持っている刀と比べても、軽い。

 そう感じた理由は、木箱を開ければ。すぐに明らかになる事でした。


「……えっ、あれ……」

「ない、ですね……」


 木箱の中は、空っぽで……その代わり、ひとつの書置きが入れてありました。

 璃々さんは慌ててそれを手にして読み上げ始めます。



「無事倉を見つけた為、伝えられた開封方法の通りを行い、猫刮村正を預かる。遮那姫……って、え」



 《遮那姫》さんといえば、私達と同じ目的で先に訪れたものの。ダンジョン化したままの城宿城に飛び込んだとだけ聞いてはいましたが。

 ……まさか、既に見つけて持ち出していたとは。あの人の実力であれば、確かに出来そうなものですけれど。


「……既に持ち出されたあと、でしたか」

「そんなー……でも、持っている相手が判っているだけマシではー……?」

「遮那姫さんは王都外れに屋敷を持つとはいえ、放浪癖がありますから……何処に行ったかを探すとなると」

「困ったね。ここに無いってのと、今の持ち主が変わっているというのが判っただけ収穫かもだけど……」


 困りました。目的の物が放浪癖のある方に持ち出されているとなると、今度は彼女を探さないといけないようです。

 こうやって取得のための条件が連鎖するということは、よっぽどこの《猫刮村正》という刀は強力なのでしょうけれど……

 最悪また彼女と戦わなければならない可能性を考えれば、結構厳しいものになりそうですね。バージョン0の時はほとんど一方的に負けたようなものでしたから。


「あっ、遮那姫さんもサナさんなんですよねー? 裏の方はどちらにー?」

「はい、遮那姫さんの裏……《瑠璃姫》さんは《北陸》にある《大地獄》にいらっしゃるので逢うのも難しいかと……それに仲も良くないですから……」

「大地獄ですか……遠いですね、不仲であるのならそちらに行ったという可能性は全くないかと思いますし」

「一応、悠二叔父様に頼んで捜索はして貰います。《来訪者》様の方でも冒険者組合を通して目撃情報がないか、逐一確認してくだされば」

「わかりました。持ち出されてしまったものはもう致し方ありませんからね」


 とりあえず今後の方針としては、遮那姫さんを捜索することになりそうですね。何時遭遇出来る事やらですけれど……

 璃々さんや悠二さんも捜索に協力してくれるようなので、案外早く見つかるかも知りませんし。

 と、ここでクエストが発生しました……というより、私の場合は以前から個別クエストとして発生していたので、クエストの更新ですね。


○猫封じの一刀を求めて

区分:グランドクエスト

種別:サブストーリー

《城宿城》を奪還したものの、城の蔵に納められていた《猫刮村正》は持ち出された後だった。

現在所持しているという遮那姫は関東の何処かにいるらしい。彼女を探し出して、交渉し受け取ろう。

報酬:《猫刮村正》


 おや、これで彼女が関東圏にまだいるのが確定しました。とはいえ広いですから、一体どこへやら。

 おそらくはまだ私達が未踏で、《猫幽霊》が現れる関東西部だとは考えられますが。全く目星がつきません。

 やっぱりどこかで目撃情報が上がるまでは大きく動かない方がいいでしょうね。明日はイベントですし、その後はジュリアのお手伝いになりますから。


「あの、ええと、遮那姫さんって。バージョン0の時にプレイヤー相手に稽古をしていてたって方ですか?」

「そうですね。私は一対一で戦ったことがありますが、真正面から勝つことを要求されると相当厳しい相手です」

「そんな強い方も《幻双界》にいらっしゃるんですね……」

「と、とりあえず何時までも暗い倉にいるのも良くないので、出ましょう!」


 会話にはチヨさんを置いてけぼりにしていましたね。璃々さんの言う通りとりあえず一度出て、今後について情報の整理と話をしておく必要があります。

 それと掲示板に情報を流して、いち早く目撃情報を集めないとですし。今日はそれでログアウトの時間になりそうですね。



――◇――◇――◇――◇――◇――



 璃々さん先導の元、早速営業再開したというオススメの茶屋にて話を纏めることになりました。

 ……どことなーく《翡翠堂》に似ている内装なあたり、二号店を誘致しようとした名残が見える店舗ですけれども。

 遮那姫さんについては話がほぼ纏まっているので、移動しながら掲示板に書き込み。動揺の声も上がりましたが、皆さん一度は目にしているので捜索はすぐに進むでしょう。


「さて、僕らの今後の予定の話になるかな」

「明日は夜王都の方でイベントがありますねー、皆さんも参加するんですか?」

「もちろんその予定です。ちなみに祖父(シリュウ)祖母(カタクラ)は観戦にだけ来るそうですよ」

「おや、てっきり参加するものだと思っていたよ。まあ、二人が出たら大変なことになるか」

「魔術を行使しないものであれば無双はするでしょうけれど、そうはいかないでしょうからね……」

「あっ、わ、私も参加するつもりです。どこまでやれるかわかりませんけど」


 話題は早速明日の《幻双界大運動会・夜王杯》の話に移っています。二度目のゲーム内イベントですからね。

 第一回は《水葵》さん討伐戦レイドのようなものでしたが、今回は別に何も仕込まれていない……と思います。

 会場自体が夜王都の真隣ですし、きっとないと思いたいところ。それでもプレイヤー間の熾烈な争いになる事はほほ確定と言っても間違いないですが。


「私も《城宿城》の補修や整理の指示などが落ち着いたら観戦に行こうと思っています、《天竜城》にも報告に行かないといけませんし」

「璃々さんはこれからしばらくが忙しそうですからね。頑張ってください」

「はい、補修や整理が落ち着いたら……《アメリア》さんのように、各地で治療や《来訪者》様達の支援に回ろうかと」

「それは心強いね。今は……確か関東東部の解放が主だから、そちらの手伝いがいいと思う」

「参考までに。まずは街の人たちが旅に出るのを許してくれるかどうかですが……」


 璃々さんが各地で支援に回ってくれるとなると、《神舞》の性能もありますからぐっと防衛戦などの成功率も上がる事でしょう。

 ただ、今回の城宿城奪還作戦の折でも街の人々がかなり心配して引き留めようとしていたところを見るに、まずはその説得からでしょうね。

 璃々さん本人も結構仕事があるでしょうから、支援に出られると考えると……またしばらく先の事になるでしょう。


「そういえば、運動会の後はどうするんだい? そんなにすぐ遮那姫さんの足取りは掴めないと思うけど」

「私はジュリアから御呼びが掛かったので、まずは夜界の方に行こうかと。イチョウさんも付いてきますよね?」

「はいー、クレハさんの行くところならどこへなりとついていきますー」

「そうなると……チヨさんは何か予定などは?」

「ふぁっ、えっ、と……私は、どうしようかな……ぅぅ」


 もじもじと何か言いたそうにしつつ、黙ってしまうチヨさん。多分、関東東部に赴くものかと思っていましたけど。

 イチョウさんはその様子を見て何か勘付いたようで、何か耳打ちをし……あ、チヨさんが真っ赤になってしまいました。

 あっ、なんだかちょっと予感はします。戦闘中に一瞬見せたチヨさんの顔を思い出す限りは……


「……あのう、よろしければクレハさんに弟子入りしたくて」

「おや、弟子入りと」

「私、まだまだ戦うのへたっぴで。でも今回一緒に戦って、すごくかっこいいって思って、それで」


 ……彼女が言うに、イチョウさんとはまた別ベクトルで私に憧れられたようですね。

 誰を真似しようにも上手くいかず、戦いというものに不慣れ。自分なりのやり方を突き詰めたのが一撃離脱の戦闘なようです。

 それでも先程の戦いを経て、私のスタイルに合わせるのが上手く行った。だから、私に弟子入りしたいとの結論に至ったのだと。

 うーん、それだとまずは……そうですね、弟子にする前に祖父の道場に連れていくのが一番いいかもしれません。

 大太刀の扱いもやや不慣れに見えますけど、合わせに関しては持ち前の足の速さもあってかなり素質が見えます。


「そうですね、それなら……まずは私達の師匠のところに案内しましょうか」

「うん、僕もそれが一番いいと思う。クレハさんの戦い方の源流を知ってからの方が、一緒に戦うのもクレハさんの戦い方を学ぶのにも一番いいと思うし」

「ということはー?」

「はい、今から《万葉》までダッシュですね」


 そうと決まれば。璃々さんに見送られながらも善は急げと皆で《万葉》へ。確か今は稽古の時間ですから、帰ってきているはず。

 幸いチヨさんも行ったことがあった……というより、万葉は東部攻略の一大拠点ですからね。人の出入りも以前に比べて格段に多くなっています。

 寂れた街だったここも、奪還から一ヶ月経った今では随分と活気が戻っています。さて、そんな万葉の農場に……ああ、いましたいました。

 結構な数の門下生を前に、今日の稽古の締めを行っていますが……その数はざっと三十人を超えています。

 そうでしたね、ルヴィアの配信に出た影響もあって結構な数の人が受講しているんでした。それでも一時に比べればまだ少ない方だとも聞きますが。


「お爺ちゃん、いますか?」

「おや、クレハか。どうしたかの?」

「「「クレハ先輩、押忍!!」」」

「どうも。私の弟子入り希望を一人連れて来たので、まずは基礎の修練を頼もうかと」


 おそらく私の事を知っているであろう門下生の半数が私に向けて挨拶を……いえ、そういうのはいいから。驚きの光景にチヨさんも引いちゃってるじゃないですか。

 そんなチヨさんを祖父の前へ。後ろでは祖母が炊き出しおにぎりを作っていますね、具は……たぶん。あとで貰っていきましょう、何かバフ付いてそう。


「はじめまして、チヨといいます。クレハさんに弟子入りさせてもらおうと思って……」

「ここで農業をしておる、シリュウじゃ。ほう……ジュリアよりも小柄じゃな。得物は大太刀、ふむ、得意な物はなんじゃ?」

「逃げる事……あう、クレハさんいわく、一撃離脱が得意そう、って」

「となれば、じゃ。クレハや、どれくらいで仕上げればいいかのう?」


 ジュリアより小柄、という言葉に周囲の全員が頭を傾げました。現実(リアル)であればあの子150越えるかどうかですからね……

 確かにそう言えばチヨさん、こうして並んでみて違和感がないのはそのせいでしたか。なんとも言えませんけど。

 さてお爺ちゃんもにっこりとした笑顔でそんなことを聞いてきますか。期間を考えれば……


「そうですね、私は来週から夜界の攻略に赴くので。それが終わって戻ってくるまで……でしょうか」

「ふむ、わかった。そうなるとおおよそ……五日ほどかの。チヨちゃん、ちょっと厳しく行くぞ」

「はい! よろしくお願いします!」


 ぺこり、と大きく礼をするチヨさん。お爺ちゃんも何か方針が決まった、もしくは何らかを見抜いたのでしょう。

 さて、彼女がどんな仕上がりをするのかを楽しみにしておきましょうか。

チヨ「しゅ、修行、頑張ります!」


次回、ファンタジー世界で繰り広げられる運動会!お楽しみに。

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