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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-2章 竜達の咆哮、蔓延る猫霊

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134.Black Black Water? 6

「では先に仕掛けます……っ!」


 《影の洞窟》第二ゲージに入り、ウケタさんが先制攻撃を仕掛けるために大剣の接近技を使って距離を詰め。

 斬り付けるようにしながら飛び掛かるモーションで初撃を加えると同時にヘイトスキル。

 これでボスこと《キングシャドウスライム》はウケタさんの方を向いたままになるので、これで問題ない筈ですが……不安なのは、この洞窟自体でのスライムが持つギミックと先の様子から。

 戦闘開始の折でも無数のスライムが集まって巨大化した存在でしたから、分裂されてもおかしくないといった状況だ、とも。


「続けていくのだ!」

「俺達も続くぞ!」

「早いところ外の光が浴びたいものでなっ!」


 私は様子を見る為に一手遅らせるように《飛行》を使って飛び、イチョウさんの近くにまで下がり。先にトトラさん達がウケタさんの後に続くように攻撃を仕掛け始めます。

 いざとなれば《竜眼》を使っての遠距離戦が出来ますし、《飛行》の速度であれば一瞬で前にも出られますからね。特に何があるかわからない今であればこの方がいいでしょう。

 斬り結ぶウケタさんに続いて仕掛けたのはトトラさんであり、初撃から《トリプル・フリーズロア》を放ち、《唯装》で強化された氷魔術の弾頭は正確に出すスライムを撃ち抜き。

 続けて飛び出したアマジナさんが双剣を振い、先程も繰り出していた六連撃の斬撃で斬り付け。さらに飛び出したフロクスさんが金棒で思い切り殴打を加えますが、こちらの効きはいまいち……

 と、思っていたらどうやら動きがあったようですわね。フロクスさんが叩き付けた瞬間、トトラさんの穿ち抜いた穴からおはぎサイズの小さなスライムが分裂するように飛び出してきました。


「っ、やっぱり分裂するか!」

「ちっちゃ!? ちっちゃすぎるのだ!?」

「いつかのゲンゴロウ並みに小さいな、あれほど速くは飛び回らねえが……!」

「攻撃した先から分裂してますわね、これは……」


 ダメージを与える度に分裂する小さなスライムは、ある程度本体から離れれば上層でも見慣れたバレーボールサイズくらいにまでは大きくなりますが……それでも数がひたすらに多い。

 ざっと先程の三人の連続攻撃とウケタさんの攻撃だけで、八体ぐらいは分裂しています。もっとも、その分裂元……本体の大スライムも体力ゲージと僅かに体積を減らしているように思えますが。

 流石にこれは出ないといけませんわね、と槍の穂先を手近な分裂したスライムへと合わせて《フレイムスロア》。赤い一条の閃光が分裂した一匹を撃ち抜き、すぐに消滅……体力は少なそうですわね。


「片っ端から潰した方がいいですわね! トトラさんは分裂したスライムを、本体への攻撃も止めないように!」

「既に数がヤバい事になり始めてるのだ!? 《ヘイルブレス》!」

「わ、私もこちらに回ります! 《アローレイン》!」


 ウケタさんとフロクスさんの攻撃で次々と分裂する数が増え、本体の大きさも相まって既にフィールドの半分を埋め尽くすほどの勢いになっています。

 比例して大スライムは小さくなってダメージも緩くはなっており、イチョウさんがそこまで回復に専念しなくても良くなって攻撃に参加。早速範囲攻撃を繰り出しているようで。

 トトラさんも散弾魔術(ブレス)で対応していますが、三匹始末したら五匹湧いてくるような状況になりつつあります。アマジナさんは分裂体と本体両方攻撃を仕掛けてはいるようですが。

 私も《フレイムスロア》を火炎放射の状態で噴きますが近場のモノであれば焼き尽くせ……たけれど、端の方になるとそれでも残りますか……私もブレス系の方が良さそうですわね。

 本体の体力はまだ八割までしか削れておらず、それでなおこの量となると本格的な物量戦になりますわね。時折ウケタさんが《威圧》で集めてはいますが、その度に全身スライムまみれに……

 その度にトトラさんが《コールドプロード》で吹き飛ばしてはいますが……ひっきりなしに分裂し続けてますか。


「数が、多いな……!」

「どれだけ分裂すれば気が済むのだ!?」

「まだまだ体力が有り余っているので増えるぞ! チビの処理にひたすら集中しろ!」

「大鎌を使いますので、ちょっと距離を取ってくださいませ!」


 《クイックチェンジ》を使い愛槍(プロメテウス)から大鎌へと持ち替え、すぐに他の面々から距離を僅かに取りつつも小スライムの群れへと飛び込んでから一回転の斬撃。

 大鎌アーツ《ロールスラッシュ》を繰り出せばまとめて十体近くの小スライムが切断されて宙を舞い、霧散。続け様に《スライドスイング》で滑るような移動をしつつ手近な一匹を斬り上げ。

 テストプレイの時に比べて使いやすくなったものです。特に一対多では非常に有用に思われますし、相変わらずの振りの遅ささえなんとかなれば非常に使い勝手もいいでしょう。

 その振りを早くするには《陽術》使いにもなる必要があるのですが……と、何度か振った感想を考えているうちに、再び分裂してきた七匹の小スライムへと飛び掛かって大鎌を振って撃破。

 ようやく大スライムの体力ゲージが半分を切ろうとする頃には大分数も減り……はしていますが、ひっきりなしに叩けば叩くほど増えているので出元こそ小さくなれど数は変わらずといったところ。


「大分小さくなってはきたが……」

「ジュリアさん、アレで一気に殲滅できませんか?」


 ……アレ、恐らくですが《豊穣》からの《鬼一葉》のコンボのことでしょう。確かにそれであれば小スライムと大スライムを纏めて蹴散らすことはできますが。

 フロクスさんも目線を送ってくれている以上、おそらく《陰防(デバフ)》も合わせてくれるのでしょうが……それをするとなると、間違いなく今よりも小スライムが一気に爆散して増えそうな。


「……ダメージが凄まじいので、一気に飛散するかと思いますのですぐに殲滅して貰う必要は出てきますが……」

「そうなったらウケタが集めてさえくれれば最後の一発を投げるぜ」

「任せてください、その時はやりますので……」

「決まりっ、ですわね! タイミングは私が飛び込んだらで、すぐに距離を取ってくださいませ!」


 ウケタさんとフロクスさんからの提言を受け、今度は最早最初の半分ほどのサイズにまで小さくなった大スライムへと接近しつつ、その付近にいる小スライムをまとめて切り裂き。

 ざっと数を見て本体から分裂したての小スライムが二十と大スライムの攻撃を引き受けつつ削るウケタさんと、大スライムの体力を一方的に背面から殴って削りつつ、時折小スライムを蹴とばすフロクスさん。

 で、少し離れたところでイチョウさんが矢を射り、その中間の距離、ウケタさんのほぼ後ろの方でトトラさんが範囲魔術で小スライムを殲滅しておりますわね。

 アマジナさんは立ち位置を細かく変えつつ、大スライムに攻撃を加えつつトトラさんやフロクスさんに近づく余分な小スライムを始末しているようで。

 狙って切るなら、アマジナさんが離れた時でしょうか。その瞬間はすぐに訪れ―――翼を広げて飛翔、《飛行》で飛び込んでから《豊穣》を発動、爆発的にステータスが伸びた瞬間に大きく大鎌を構え。


「いきますわ! ―――《鬼一葉》!」


 声を上げると同時にウケタさんとフロクスさんが一気に飛び下がり、大スライムの懐に潜り込んだ瞬間に一帯を強烈な一撃で薙ぎ払う《鬼一葉》を発動。

 一瞬明滅した大鎌がその刃を輝かせると同時、私を軸にして一回転だけ全力で振るい。届くよりも大きな範囲を一撃で斬り伏せます。

 その刃は届いた大小のスライム全てにダメージを与え、小スライムは数十がまとめて全て消滅、大スライムは寸前に《陰防》を掛けられていたようで真っ二つになりつつその体力を一気に三割強減らしました。

 同時にその二つになった片割れが爆散し、一気に小スライムが二十体近くへと変化。その小スライム達が一気にこちらへと向けて襲い掛かってくる手前で。


「《威圧(ウォークライ)》!」

「そら、とっておきのもう一発だ!」


 分裂してフィールド上に四散した小スライム達をウケタさんがヘイトスキルを使って寄せ集め、そこに……縦穴でアマジナさんが使った爆弾を投げつけ。

 その瞬間に爆弾が破裂し、まとめられていたスライムがまとめて吹き飛んで霧散。残ったのは最初の巨大さも忘れそうなほど小さな黒いスライム。

 とはいっても他のスライムよりも数段大きく、まだボスとしての貫禄だけはまだ保っている様子。ですが、まあ。


「今だ袋叩きにしろーッ!」

「絶対逃がさないのだー!」

「大変だったんですからねー!」


 私が大鎌を槍へと持ち替えているうちに、他四人が血眼になって飛び掛かって行きました。

 まあ、ある程度距離を取っていた私はともかく。近接組は全員スライムまみれになりながら戦ってましたし、イチョウさんも序盤の回復に神経をすり減らしてたのでそれなりに仕返しはしておきたいでしょうから……

 結局、私が飛び掛かろうとする前には大とも言えなくなってしまったボススライムは体力が尽きるまで袋叩きになっていたのでした。

 勝利のファンファーレが響くまではそう時間はかからず、残ったのは体力がゼロになったボス格のスライムが転がるだけ。……あ、自意識あるからか、それともボスだったからか霧散せずに残るんですね。


「……ふぅ……」

「やっと倒しましたー!」

「たいへんな強敵だったのだ……」


 まあ、皆さんはそんなこと知った事かと額の汗を心地よく拭っているのですが。



――◇――◇――◇――◇――◇――



「ウケタさん、スライムさんが案内したがっていますよ」

「そうでした、このダンジョンの目的は《唯装》でしたね」


 起き上がったリーダースライムがぴょんこぴょんこと跳ねて、ボス部屋の先へと案内したいようです。

 それでは時間もないことですし、足早に回収しにいくとしましょうか。皆さんはボス戦が終わって結構気が抜けているよですけれども。

 全員ひと休憩を終えて立ち上がり、ぞろぞろとスライムの後を追っていきます。確かに、聞く限りではボスを倒したらすぐにドロップするか、特定の場所に安置してあるかのどちらかとは聞いたことは。

 トトラさんの時は倒して即ドロップでしたし、今回の場合は更に奥の部屋へと安置されているということでしょう。


「……これでウケタの《唯装》がスライムの鎧だったら笑うのだ」

「流石にそんなことはないとは思うのだが……そうだったら面白いな、なあウケタ」

「私としてはフルプレートメイルがいいとは思っているんですけれど……スライムの鎧は流石にないと信じたいですね」

「あら、ダンジョンの特性を反映したモノが大抵《唯装》なのですからそうではないという可能性は拭えませんよ?」

「ううっ……い、一応《九津堂(うんえい)》のデザインセンスに関しては全幅の信頼は寄せてるんですから……」


 実際ありそうなんですよね、スライムの鎧。いっぱいスライムを出してそれを盾にする、とか。流石にファンシーが過ぎますしさすがにないと思いますけれど。……ないよね?

 すっかり気が抜けた皆と談笑をしつつ、案内されるままに奥に。アマジナさんも気を抜いているということはトラップの類もないのでしょう。

 そうして案内された先に石煉瓦が作られた祭壇のような場所で、その祭壇の中央には木箱が安置されていました。スライムもウケタさんに開けるように勧めているようです。

 さてどんなものが出てくるのやら、はてさて……?


「……おぉ、ちゃんとしたフルプレートメイル……」


 ウケタさんが皆に見守られる中一歩前に出て、その木箱を開封。納められていたのは漆黒色の全身鎧で、今着ているものより遥かに頑丈そうな印象を受けます。

 スライムを一瞥すれば、その場で着るといいようなニュアンスの動きをしているので、ウケタさんは早速装着し始め……うん、闇の騎士といった風貌になりました。

 ところどころに赤色のスライムにも見える赤丸のような刻印が刻まれていますが、それも同様に刻まれた細やかな模様の一部に溶け込んでおり、半端にカワイイといった感覚も少ないですわね。

 大剣を手にして背へと担げば、まさにそれっぽい。ウケタさん自身も気に入っているようですし、我がパーティ五人目の唯装取得者となりました。


「予想は外れましたけれど、いいデザインですわね。とても似合いそうなものですわ」

「かなりカッコイイのだー!」

「ええ、しかも……皆さん、ちょっと鎧を《鑑定》して見てください。これ……結構強力かと思われます」


 後ろでその似合いの様子から、スライムもぴょんこぴょんこと跳ねて喜んでいるようで。

 そしてウケタさんから勧められるままに、新たなその《唯装》を《鑑定》。ウケタさんが強力というスキルが付加されているということですが、さてさて。


○暗澹の黒鎧

分類:全身鎧

スキル:《タンク》

属性:闇

品質:Epic

性質:《唯装》 《不壊》 プレイヤーレベル連動

所持者:ウケタ

宝石:なし

状態:正常

DIF+40 MDEF+40 VIT+35


隠されていたシャドウスライム達の隠れ家に収められていた闇色の鎧。闇属性の魔力素が装甲を覆い、時に強力な防御能力を発揮するだろう。

○固有能力:《シャドウフィールド》

 クールタイム:90秒

 対象の自分を含むパーティメンバー一人に自身の体力の15%分を吸収する障壁を張る(プレイヤーレベル連動) 。


「だいぶ強い効果ですわね。しかもおそらくですがプレイヤーレベル連動で伸びていくのでしょうし……」

「えぇ。効果時間は実測しないとですが、近接組でも一時的にタンクまたは囮に仕立てる事が十分できると思います」

「なかなか取り回しが楽しみになるスキルなのだなー! トトラみたいな体力が低い時の緊急回避にも使えるのだ!」


 口にした通りに《暗澹の黒鎧》に付与されている固有スキル《シャドウフィールド》ですが……使い勝手がとてもいいスキルですわね。

 現時点で考えられる用途だけでも、突出した近接(メレー)組を一時的に保護する他に、全体ダメージを負いそうな際にヒーラーなど後方のダメージ低減にも使えそうです。

 主な用途とするならば、ウケタさん自身に使ってボスの攻撃を受け止めることでしょう。特に、一撃の重い攻撃に対して使えばヒーラーへの負担の少なくなりますし。

 クールタイムがそこまで長くないのも大きいポイントですか。折を見てやや雑に使っても効果が表れるいいスキルです。


「こりゃあしばらくタンクはウケタの一強だな。明日も頼りにしてるぞ」

「冷静に判断が出来るウケタだからこそ使いこなせそうなものだな。さて、あとの問題は……」

「《唯装》も確保できたので、帰るだけ……ですわね」


 長い道のりになりそうですが、と考えていればスライムさんがぴょんこぴょんこと跳ねて祭壇横の道を示し。

 皆が顔を合わせているうちに私が見に行ってみると……おや、これは。


「……これは、転移陣? 確か、ツィルさんが使っていたものに近い気はしますが……」


 祭壇横の道を覗き込むと小部屋のようになっており、その中には淡く光る魔法陣のようなものがありました。

 似たようなもので《ツィルニトラ》さんが使っていたものになんとなく似ているようですが……どこに飛ばされるのでしょう。

 スライムさんに従うのであれば、この中に入れということですが……なんて思っていれば、躊躇いなく案内してくれたスライムさんが入って行きました。


「気軽に使っているということはたぶん大丈夫なのだと思いますけれど……行きますか」

「それしかないしな。流石にゲームエリア外に吹っ飛ばされるとかはないだろ……ないよな……」

「それならトトラが一番に行くのだ! ひゃっほーい!」


 悩んでいるうちにトトラさんが真っ先にその魔法陣の中に入り、どこかに転送されて行ってしまいした。

 ……直後、パーティチャットにトトラさんの書き込み。「入口付近の分岐路に出て来たのだ!」……とのこと。

 帰りについては、すごく構えていたのにこんなあっさりと……まあ、時間短縮になったので、いいとはしておくのですけれど。

 その後、ダンジョンを脱出して浮いた時間を使い王都に飛び戻り、予定通りに使った消耗品を補充。無事明日のヴォログ防衛戦に備えての準備を終えてログアウトしたのでした。

ジュリア「最後までマスコットみたいなスライムでしたわね」

トトラ「だったのだ。次は捕まえるのだ!」

ジュリア「……あれだけわちやわちゃと増えると恐怖でしかないですけども」


ちょこちょこ一回お休み頂いているのはチェックで齟齬が出て修正してたら投稿遅れ……とかです。

執筆スピードはあんまり良い方ではないので、いつもの時間に投稿されなかったら今日はないかー程度に流して貰えると。ツイッターの方で投稿がない日は告知してます、申し訳ない。


さて、次回はいよいよヴォログ編も最後。最終日防衛戦、何が起きるやら!

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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜
相方、杜若スイセン氏によるDualChronicleOnlineのルヴィア側のストーリーです。よろしければこちらもどうぞ。
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