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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
1-2章 竜達の咆哮、蔓延る猫霊

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130/390

130.Black Black Water? 2

「中は……真っ暗ですわね。松明は用意してありますが……」

「……ついでに水も流れてるのだな、沼地ではないようなのだ?」

「周囲にはまだ敵はいないが……ふむ、どうやら流れてる水は深部に向かって川が沿ってるみたいだな」


 さて、ウケタさんが見つけた《唯装》ダンジョン、《影の洞穴》に入ったワケなのですけれど、その名前の通りダンジョンの中は真っ暗。

 一本道のようになっているのですけれど、松明を使う事で見える壁も黒土で形成されているという……こういった明かりがあってもなんだか暗闇を歩いている気分にさせられます。

 まだしっかりと壁が視認できますし、最低限の広さは確保されているのでそこまでやり辛さはありませんが……ここまで暗いと、ウケタさんとイチョウさんの索敵能力頼りになりますわね。

 そんな二人でもまだ入って少しでは何も感知出来ていない様子。しばらくはこの真っ暗闇の中を歩きますか。

 傍に小さく水路があるようで、これを辿れば深部にまで行けそうですけれど。途中で分岐でもしていたらシャレになりませんわね、これ。


「一本道で強制戦闘も面倒なのだなー、そうでないのを祈るばかりなのだ……」

「それでトトラさんのところで十分に時間を食う原因になってましたものね、そうでない事を祈りますが」


 トトラさんの挑んだ《氷結樹の白森》は一本道での戦闘を繰り返し、ボスをいる場所を目指すという形式でしたね。

 あれは戦闘回数がおおよそ見えていたので、最初の方で戦術を確立して消耗を抑える事が出来ていますけれど……今回もそれはちょっと勘弁願いたいですわ。

 さて、このダンジョンは一体どのような形式になっているのか……今のところは真っ暗かつ真っ黒という様相しかありませんけれど。

 まだ何も出てくる気配はありませんけれど……今のうちは雑談に興じておくのがいいでしょうかね。


「そういえば、修行中のシリュウはどうでしたか?」

「ん? ああ。俺達も《農業》系のスキルを取って手伝いながらだったな。二時間戦闘して、あとは座学しながら農業だよ」

「男女関係なく使うものだから、私も別方面でも色々と勉強になったよ。農業も悪くないものだ」

「私達も手伝わされましたものね……意外とゲーム内でもその調子なんですわね? 私達もだいたいそのペースでした」

「ただその二時間がすげぇ濃密でなぁ……一時間半戦闘をみっちりと雑魚相手に続けながら、その日の戦闘課題をこなしていって、残り三十分は《決闘》だ」

「日によってアマジナ殿かシリュウ殿かどちらか、場合により両方と交代でだったが結局合流までシリュウ殿には一度も攻撃を当てられなかったよ」


 あちらに居る時も、早朝五時半に起きて三十分のランニング。それから道場で一時間半の基礎訓練をしたあとにお姉様と試合、でしたから。

 時たまフリュー姉様やルプスト姉様、ミカン姉様も一緒でしたけれど、基礎訓練の途中途中で私達より多めに休憩を挟んでましたものね……

 以前に時間が掛かりそう、と言っていたのはその辺りもあるんですよ。その時間以外は自由、時間が取りやすいと言えばそうなのですが。

 強くなれるのを実感できるのは、結構時間掛かるのですわよね……最初だけは剣の振りが上手くなったとかで成長を実感しやすいのですけど。


「……シリュウ、蹴りをしようとしてすっ転んでいたころが懐かしいですわね。順応性高すぎですわ」

「確かルヴィアさんの話では、VRに全然適応できなかったと言っていましたけど……何か秘訣でも出来たのかもー?」

「その可能性はありそうなのだなー、ジュリアは心当たりあるのだ?」

「うーん……それに関しては、あちらに居る時はリビングで私達のプレイを見ていたくらい……ですわね」

「それと俺達とクレハの《決闘》もだな。なんか加減を掴んだとかどうの言ってた気がするが」

「もしかしたら、お姉様の仮説が当たっていたのかも知れませんが……」

「どういうものなんだ? ちょっと聞かせてくれ」


 そういえば姉様がそれに関して仮説を立てていましたわね、リアルでの身体が出せる力と、仮想現実(VR)下だと意識の差でズレが生じてその所為でひっくり返ったりしてる、と。

 シリュウの全盛期を考えれば、意識は今もその勢いで動いていますが、身体は衰えているのに気付かずに当時の力量を出しているので、身体が意識に付いて行ってない……ってことですわね。

 なので、全力の蹴りを出せば老体の今の身体が覚えている反動の殺し方をするので、蹴りの威力が上回ってバランスが取れずに転がる……ということです。

 おそらく祖父があっと言う間に順応したのは、その意識のズレを上手く矯正したから、ってところでしょう。流石と言わざるを得ません。

 まあ、力加減が意識的にミスを起こすなんてことも祖父ぐらいしか起こさない事の気配もしますけれど。もしかしたらアスリートやVR適性が低い人にもそういった可能性があるかもですね。


「ということなのだそうですが……そういった人、確かに居そうですわね」

「なるほどなのだ。初心者でもよくフラついてるのはそういうことっぽいのだな?」

「今日来る間でも、シリュウ殿は一切加減をミスすることなく狼を叩き潰していましたし。あれが上手く順応できたから、ということですか」

「実際にゲーム内で戦うところは今日初めて見ましたが、リアルでのそれと寸分違わない動きでしたわね。知ってる分恐怖でしたけれど」

「どこかの格ゲーの裏ボスみたいな動きしてたが、確かにあれをリアルでやるなら怖ぇよ……」

「……でもまだリアルの動き、程度で済んでるのだな? ということは、これからゲーム内の動きをし始めると……」

「ゾッとする話ですわ。もしかしたら、ルヴィア姉様を下した二人目の人物に成りかねませんわね」

「そういうジュリア殿はどうなんだ? シリュウ殿曰く、ジュリア殿はゲーム内の動きとリアルの動きが全然違うといった感想を言っていたが」

「まさか。今なら対魔術戦術が不完全なので掃射で押し切れますが、接近戦に持ち込まれた時点でもう無理ですわよ、勝ち目が見当たりませんわ」

「末恐ろしい爺さんだな……!」


 私が一番言いたい事ですわよ、それ。現時点でリアルの動きが出来る……つまりVRへの適応が出来たのなら、あとはもう《DCO》、つまりゲームに適応するだけですから。

 補うように祖母……カタクラも魔術師として始めたそうですから、今現状見える最後の欠点すらも克服するのも近いでしょうね。

 それが終われば、姉様でも互角くらいまで対応して見せるのではないでしょうか……あんまり考えたくないのですけれど。


 と、ここに来てアマジナさんが不意に足を止め。敵を見つけた時の挙動……全員への目配せを行いました。


「……いるな、たぶん数は三」

「はい、こっちも知覚しました。背後からのようですねっ……」

「一本道を進んでいるので、背面に湧いたってことでしょう。戦闘の準備を」


 全員が情報を共有すれば、それぞれの武器を手に。背面から気配はしますが、敵の姿や足音、物音はせず……暗闇から顔を出すのを待ち構える形に。

 松明が照らし出したのは……黒い物体、ですが、音はせず……照らし出せば鳥の形をしていますわね。トトラさんが視野に捉えた瞬間には《フリーズロア》を撃ち込み。

 薄水色の閃光が打ち抜き、一瞬洞窟内を照らしたと思えば。アマジナさんが捉えた通りに撃ち抜いた一匹を含めた三体の影の鳥が襲い掛かって来ました。


「敵は鳥型だ! トトラ、イチョウ!」

「わかってるのだ、どんどん行くのだ!」

「お任せくださいませー!」


 すぐに飛行タイプを仕留める為に、遠隔組が武器を構え。トトラさんは再び射撃、イチョウさんも矢を撃ち。

 アマジナさんも太腿のポケットへと仕込んでいた《スローイングピック》を三本指に挟んで投擲。一匹に三本すべてが突き刺さり、クリティカルダメージを与えました。

 続いて更にピックを持てば、別の影の鳥へと向けて投擲。これがシリュウの元で開発した新戦術でしょう、斥候という役割なら《投擲》によるダメージの稼ぎ方もありますか。

 そのうちに私は《鑑定》をしておきましょう。挙動を見切ったトトラさんとイチョウさんがもう仕留めに掛かっていますものね。


シャドウバード? Lv43

属性:闇

状態:正常


 おっと、なんですかそのクエスチョンマークは。《汚染》状態が付いていない正常ということは、元々ここに住んでいる魔物ということですが。

 皆の意識が背面に向いているので、私とフロクスさんは前方を警戒。何か一匹、動いているように見え……槍を持つ手に力を籠めます。

 松明の僅かな光に照らされ、一瞬動く物体が目に留まり。私は反射的に《フレアプロード》をブッ放していました。

 爆炎に照らされて映ったのはこちらにもいると思っていた闇属性の狼が一匹。全身隅々まで真っ黒というのがまた異様に見えますが。


「前方にもいますわ! 狼型!」

「ヒュウ! 見えさえすればアタシの出番だね、先に行くよ! 《三撃・陽速》!」

「譲りますわ! 明かりを維持しますの!」


 敵を捉えた瞬間にフロクスさんはバフを三重掛けして突撃、その手に持つ大金棒を大きく横振りにして殴り付け。

 以前より形を変えてより凶悪な、それこそ鬼の金棒に近いそれによる打撃は影狼の体力を一撃で四分の一を削り取ります。

 バフによる加速もあるその重い一撃を貰った影狼が怯んだ隙に《竜眼》を使い、久々の眼から《ダブル・フレアプロード》で射貫き。

 もう一度前方が紅蓮の閃光で明るくなれば、他にいない事を知らしめてくれますが……返しにもう一撃殴りつけながらフロクスさんは微妙な顔を見せました。


「どうかなさいましたの!?」

「確かに殴った感覚はするんだが、手応えが妙だ。あとで話す!」

「先に仕留めてからですものね!」


 フロクスさんが攻撃してくる前に更に返しにもう一撃を振って殴りつけますが……先程よりダメージの通りが悪いですわね?

 追い打ちを掛けるように私も火を灯した槍を突き出して貫くように。増援もないようで、ようやく初戦が終わったようですが……

 なんて思っていれば目の前の影が揺れて沸き立ち、ぶくりと膨らめば三体の狼の形を成して。なるほど、先程の鳥もそれで湧いて来たわけですか……!

 ただし、先程の一匹に比べれば三等分されたかのように小柄なサイズ。分裂したように見えますが、そうなると叩けば叩くほど増えますが。


「こいつら倒しても増えるのだ!! ジュリア、何か手はないのだ!?」

「こちらも増えました! そちらの数は!」

「最初は三匹でしたが、もう十匹にまで増えてますー!」

「ここまで増えるとダメージは少ないですが流石に……! それに蝶々みたいなサイズになってます!」


 流石にそこまで小さくなれば、矢も投擲も当たらないと来るでしょう。ちらりと一瞬背後を見ればアマジナさんとイチョウさんが下がり、ウケタさんが前に出て防御に出てますね。

 分裂するにも回数制限がある筈ですから、そうならまとめて砕くか、或いはその分裂をさせないか。まとめて砕くがこの場は正答でしょう。

 まだ答えは見えないのが苦いですが、流石に無限に分裂するという事は無い筈。その上限を叩かせるのが一番の策に見えますが。


「トトラさん、ご自慢の《拡散(ブレス)》や《爆発(プロード)》行けますか!」

「まだ試してなかったのだ! 何しろここ狭いのだ、ウケタは余波に注意なのだ!」

「いつでも! ここまで来ると流石にどうしようも!」

「なら遠慮なしなのだ!《コールドプロード・リロード》!!」


 ウケタさんに集る蝶々サイズのまで縮んだ鳥の群れに対して、寸前まで引き付けたウケタさんが跳び退くと同時にトトラさんは容赦なく《コールドプロード》を浴びせ。

 強力な冷気を伴った炸裂弾が爆発して黒い鳥の群れを丸ごと吹き飛ばし。分裂すれば耐久力がそれだけ低下するようで、読み通り分裂させればさせるだけ範囲攻撃には弱いようですわね。

 おそらく分裂するにしても二度までが限度でしょうか。それでも一度に三体に分裂するので厄介とかそういうレベルではありませんわね、魔術師必須……いえ、範囲技なら判定で薙げますか。

 その分裂した相手を一纏めにするのにタンクが最重要、と言った意味では趣旨通りというわけですね。分裂するほど当然ながらダメージが低くなりますし、タンクなら殆どダメージも喰らわない程ですから。

 戦い方さえわかればあとは始末するだけ。《フレアプロード》を撃つ準備をしながらフロクスさんの方へと振り返れば。


「フロクスさん!」

「理屈は判った、合わせてくれ! 《二撃・陽防》……っそぉい!」

「さっすが……! 《ダブル・フレアプロード》!」


 事情を一瞬で把握したフロクスさんは防御バフを掛け、六体に分裂した影狼を引き寄せ。横薙ぎに振るわれた金棒の一撃によって、牽制しつつ引き寄せるように誘導。

 集まった瞬間を狙って《ダブル・フレアプロード》でまとめて爆破すれば、影狼が爆散し……跡も残らず砕け散ってしまいました。

 ……先程の鳥もそうでしたが、何か違和感を覚えるんですけれね……とりあえずドロップ品の確認もしませんと。

 さて爆散した後に残っているのは一体、と、うん? あれ?


「……ドロップ品、なんですのこれ」

「鳥系なら羽根、獣系なら牙や毛皮が鉄板ですけどー……これは、ええっとー?」


 とりあえずドロップ品を確認したのですが……今までの《DCO》の傾向とはまるで違う物がドロップしました。

 むしろ普段であれば残る筈の倒した後に《解体》するための跡すら残っていないというのも珍しく……ドロップ品は直接手に入る、みたいなのですが。

 そもそも影から出て来て分裂する、ということからそういう可能性は考えていましたけれど……


「《黒い液体》なのだな……」

「黒く粘性のある、闇属性の力を宿した物体……ですね」

「素材としては最高級品でもありますが、正体不明もいいところですわね」

「一応、想定こそ付くが本当にそれが正体とも限らないのがな……」

「……スライム、ですかー?」

「そうなりますわね。RPGではポピュラーですが、本来はあれほど弱いものではありませんからね」

「と、トトラは幽霊だと思ってたのだ……」

「私もですぅ……」

「その可能性もまだ捨て切れないがな、妙な感触といい」


 ドロップした魔物の素材は《黒い液体》。実際に出してみるとちょっと大きめの瓶に詰まっていますが、どろっとした粘体のようです。

 説明を読めば、純粋な闇属性の魔力を含んだ液体とのこと。これ、ハイムさんとか《錬金》を専門にしている人達にとっては超高額取引されそうですわね。

 装備にしても武器の素材にするにしても、コーティングすればそれだけで……そう考えるとじっくり狩りたいものですが、そうはいかないのが悔しいところ。

 そうなると相手の正体も自然と絞り込めてきますが……汚染状態ではないとなると、自然に存在するに何か、そして液体とするなら心当たりがあるのは《スライム》ですね。


「どちらにせよ《感知》にも引っかかり辛いくらいの厄介者だな。引っかかったのはおそらく動物の姿になった時だ、すまねぇ、ギリギリになるが出来るだけ研ぎ澄ます」

「仕方ありませんわ。ともかくこのダンジョンの仕組みが判った以上、戦法は先程確立したやり方で行きますわ」


 アマジナさんが言う通りに近くに接近するまで得意の《感知》にも引っかからなかったところを見るに、突発的に襲い掛かって来ることも警戒しておかないとですわね。

 基本的な方針は、適度に分裂させたらウケタさんかバフを掛けたフロクスさんに集めて《爆破》魔術で吹き飛ばす。この方針でしょう。

 ……今回の《唯装》ダンジョンもなかなか凝った仕掛けがございますわ……その分のリターンはあるのですけれど。

ジュリア「お二人共、ひょっとして……幽霊が……」

トトラ「い、言うんじゃないのだー!」

イチョウ「そそそそうですよっ、そんなことありませせせ……」

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