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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
0-1幕 ゲームスタート、王都への道のり
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13.こんにちは、アルラウネ

四方浜の探検です。なにがでるかな!

 日が明けて月曜日。私たちは学校です。

 学校に行けばほとんどの同級生は《DCO》の話で持ち切りでした。

 とは言ってもその矢面に立っているのは当然ですが朱音です。配信は元より、イメージキャラクターでもありますから当然ですね。

 配信の事を知らなかった人たちにもまるで伝染、爆発するように周知されて行きます。先日の配信視聴者もなかなかの数でしたが、これは次からも増えそうですね。

 元より母親が女優、妹は人気子役ですからこういう風であれデビューするのを待っていたのでしょう。校内で一躍人気者となりました。

 ……その仕掛け人はここにいるのですが、微笑ましく見守らせて貰うとしましょう。周りも楽しそうですからね?


 そんなこんな、何時もより少し騒がしい学校の時間はあっという間に過ぎ去っていきました。

 春菜が物陰から人気な朱音をじーっと見て、手を出そうとして秋華にお仕置きされたり。下の学年クラスから千夏と紫音がやってきて、更に一波乱起こしたりとか。

 千夏……ジュリアはまだ配信に出ていないにも関わらず、勉強の際のキャス配信の時、掲示板でちょっとだけ書き込みをしてから少しばかり有名になっているようです。

 私の話は皆無ですが、逆にそれでいいのです。変に絡まれて足止めされるのは苦手ですから……。

 いえ、まあ。昨日の件もあるので掲示板で少し話題に上がっているのは知っています。人の多い《及波》の広場で、でしたからね。


「ただいまーっ」

「帰りました」


 学校が終わって帰宅すれば、まずは配られた課題を片付けるところからとなります。

 金曜日を除いて課題をしっかり片付けてから遊べ、これも幼いころから躾けられた事です。なので、平日でログイン出来る時間は割と短くなります。

 何故金曜日だけ除外してもよいか、というと。休日を前提とした量が出されますからね、三分割してよいからだとか。

 リビングのテーブルに着いて、早速課題の入ったボードを取り出します。昔は紙媒体でしたが今では電子媒体ですからね、教科書もこれで済みます。

 もちろんそれでも、紙媒体に拘るところもあるそうですが。紙媒体の書籍も数こそは減りましたが、それでもまだそちらを愛好する人々も多いですから。


 夕飯や課題、その他の身支度を済ませてようやくログイン。時刻は20時を回っていますから、明日の事も考えて長くても3時間ほど、でしょうか。

 明日からもこんな感じの日程が続きますが、それはいつものことなので。……春菜はだいたい0時ぐらいまでやっているらしいのですが。



――◆――◆――◆――◆――◆――



 今日は《四方浜》からスタートです。昨日の二番道路の突破時点で四人ともヘトヘトでしたからね。

 楽になりはしたのですが、夜になって人が増えたのでしょう。その分敵に感知される回数が増えて、より多く戦闘が増える事になってしまいました。

 その分経験値やスキルレベル上げが出来たのはいいとしましょうか……フリューも新しい召喚術を習得していたようですし。


「姉様、お待たせしました」


 ぐるりと街を見回しているうちにジュリアもやってきました。風呂争奪戦、私が勝ちましたから当然です。

 先にログインしたとしても、やる事は大してある訳ではないのですが……そろそろ話題にしてみましょうか。

 ゲーム開始時からずっと見えている、私達の最初の目的地である王都から西の方向。富士山の方向にあるそれです。

 

「……あれ、現実や過去を照らし合わせてもないですよね?」

「確かに……あんな富士山の半分以上大きい大樹ですからね。多分皆さんも一番気になっているのでは」


 そうです。遥か巨大な大樹が聳え立っているのです。

 青々とした、あれだけの大きさをしていて崩れることなく。風に揺れるその枝に付いた無数の葉。

 しかもこの大樹は世束からも見えていたのです。この辺りが平野であるからというのもありますが、それでもなお強烈な存在感を放っていました。

 それは例え今の様に陽が沈んでいるとしても、ほんのりとした明るみを持って周辺を僅かに照らしているほど。


「世界樹ですよね」

「世界樹だとしても違和感ないですわね」


 世界樹、そう表現するしかない代物でした。

 ちょっとこの街で聞き込みをしてみましょうか。さすがにここまで大きな街であれば、幾らか情報は掴めるでしょうから。

 まずは昨日行き損ねた冒険者ギルドへと向かいます。とは言っても、中はそう違いはありませんでした。

 張り出されているボードクエストを軽くチェックしてみます。

 ……主にパープルクレイジーラビット、ディアホーンと……少し高額なワイルドボアのクエストがありますね。

 納品のクエストも幾らかあります。幾つか手持ちのある品を納品するクエストもあるので、そちらを納品してしまいましょう。

 所持金が昨日の諸々を合わせて5万程になりました。ジュリアとの半分ではなく個人で、です。


 その後装備を更新できればと街の中を歩きます。お目当ては《四方浜》にもあるにはあったのですが《及波》と同じ品揃えでした。

 一番道路をほとんど直進してきた、或いはほとんど戦闘をしなかったせいで買えなかった人用でしょうか。となると、次の更新は王都になるのでしょうか。

 この先にはボスがいるそうなのですが、恐らく武器はこのままということもあって三番道路の突破には時間が掛かるでしょう。

 ボス含め、三番道路に出没しそうなMobを含めて或る程度覚悟して進めた方がいいかも知れませんね。休日程のハイペースな進行度は無い……とは思いたいですが。

 と、なんだかんだと見て回っているうちに時間は過ぎて21時になり、ルヴィアが配信を始めたようです。早速茶番劇をしているようです。

 どうやら神社があった様子。ルヴィア達がそちらに行くのであれば、私は先に港の方へと行ってみましょう。


「ひろーい!」

「でかーい!」


 姉妹揃って桟橋の上で叫んでみます。いえ、実際に海が一望できるのですから叫びたくもなります。

 静かな水面には月と星々を反射し、幻想的な光景を演出しています。眺めていれば、時折魚が跳ねている音くらいしか聞こえません。

 ですが、不自然なことに港町だというのに外洋にも港にも船の一隻も見当たりません。どういうことなのでしょうか?

 近くの船屋で漁師さんが網を整えながら溜息をついていました。少し聞いてみましょう。


「おや、《来訪者》の娘さん方。どうかしたかね」

「すみません、少しお聞きしたいのですが、港町だというのに船が動いている様子が無くて。今は動いてないんですか?」

「船なら魔物が暴れ出してから不安定でねえ、その上どんな航路を通っても通る船全部襲ってしまうんだ」

「海坊主のような化け物……ですか」

「そうだ。特にこの湾に棲み付いた大蛸のような化け物が困りものでさぁ、漁船でも運搬船でもみーんなひっくり返しちまうんだ。お陰で誰も海にでなくなってねえ……」

「それを私達が討伐する事はできるんですか?」

「いーや、多分無理だねえ。やるなら王都から頑丈な船用意してもらわんと、近づく前にひっくり返されるさぁ……」


 漁師さんはがっくりと肩を落として溜息をつき、とぼとぼと街の方へと歩いて行ってしまいます。

 恐らくこの街が元の名前の通りであれば、ここはとても活発な港のはずなのですが。湾内に棲み付いた蛸の化け物ですか、そのうちクエストがありそうですね、これは。

 海の方へと視線を戻せば……先程から魚が跳ねている、ように見えるものの中に、人影の様なものが時折混じって見えます。

 とはいってもその下半身には蛸の脚らしき触手が付いているようにも見えます。あれが近海のヌシもといタコでしょうか。

 どうあれ王都に着かないとこのクエストは進まないし発生もしないようです。船を用意するのも容易いことではないので、きっとベータ終了後……でしょうか?

 

 横目で眺めていた配信で《夜草神社(よぐさじんじゃ)》なるキーワードが出てきました。《四方浜》で新しく出てきた施設、神社で聞いたそうです。

 新しい施設のため、私も行こうかと思いましたが先にルヴィアが行ってしまったので先送りにしたのです。その分、先に海の情報を手に入れられることが出来たのですが。

 《夜草神社》。王都の西にある、この世界で有数の大きな神社だそうです。

 アルラウネ達が管理しており、そのうちの一人がこちらに訪れているらしく、ルヴィアは彼女に接触して話を聞いたようです。

 ……暫定的なアドバイスは貰ったようですが、私はさらに幾つか聞きたいことがあるのです。ストーリー大好きな私からすれば情報の宝庫です。

 樹の加護を受けた、ということなのですが、何の樹の加護までは聞いていませんからね! 掘れる情報は掘りますよ!


 ということで神社にやってきました。配信でも言ってましたが、一般的なRPGでいう教会と同一と考えてもいいでしょうね。

 小さめな神社ですが、設備はしっかりと揃っているようです。祭殿にひとりぽつんと、座椅子に座っている巫女さんが……ああ、あの子が先の配信で出てきた蓮華と言う子でしょう。

 話を聞くために、そっと近づいていきます。他の巫女さんは他の来訪者の方々の対応をしているようですね。


「あの、《蓮華(れんげ)》さん……で、合っているでしょうか?」

「……うん、そう。私が、蓮華……」

「よかった。合っていたようです」


 ぼんやりと祭殿の奥、小さな祭壇に乗せられた九尾の狐と太陽を象った木像を眺めていたようです。あれがご神体なのでしょう。

 蓮華さんに声を掛ければ、気が付いたようにこちらを向いて見つめ返してきます。肌の色が緑がかっている……アルラウネっぽいですね。

 とはいえ、私達が見た最初のアルラウネであるみつひめさんに比べて肌に色が付いているということは、それこそ彼女は何処で出るNPCなのでしょうか。

 後で掲示板で知った話なのですが、あのみつひめさん。どうやら私達のキャラクターメイク以外では現れていないようです。

 私達限定で公開した先行情報なのでしょう。その件についても聞きたいことがありましたからね。


「それで、何が……?」

「幾つか聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」

「うん、いいよ……蓮華が答えられることなら……」

「では最初の質問です。《夜草神社》……というのは、何を祀っている場所なのでしょう?」


 まず最初。《夜草神社》は現時点では一番大きな神社であるという情報だけですからね。

 幾つか情報を仕入れておきたいのです。


「《夜草神社》は、《綾鳴》様を祀り……《幻双界》のあらゆる植物を管理する、神様が住まう場所。でも、魔物が暴れ出して、私達はその人に先に逃がされた、の」

「その神様の名前は……?」

「ん、ん。今は、言えない。それに、無事なのか、どうか……でも、一番大きな樹、世界樹が健在しているから、多分、大丈夫……」


 神様については秘匿情報のようですね。ですが、やはりこの世界では綾鳴さんの影響が強いようです。

 先に祭壇にあった九尾の狐はそれを象っている証拠です。それに太陽もとなると、昼の長いこの世界では神格視されるものでしょう。

 世界樹が無事であればその人も無事……ということは、あの世界樹は依代ということでもあるのでしょうか?


「世界樹が無事であれば、というのは?」

「……植物の神様は、あの樹の精霊でもある、から」

 

 ドライアド、なのでしょうか。確かにあんな大きな大樹であれば、そうであってもおかしくはないでしょう

 ともかく、そんな人物が管理する《夜草神社》で大事があったということでしょう。それも、巫女たちを逃がさないといけないというほどに。

 これは割と大きな事件になっていそうですね。今後にも関わりそうな重要な事が次々に出てきました。


「次にですが、貴女達の受けている加護とは一体?」

「うん、えっと、私は植物の神様に《予言》の力を貰った、けど。私以外に、七人いて、逃げる時に、散り散りになっちゃった」

「他の方は、いったい何の力を……?」

「《豊穣》《幻惑》《増殖》《策謀》《誘惑》《復讐》《再誕》……この七つと、私の《予言》。全部、植物の性質に関与する、って、言ってた……」

「どこかで聞いたような……でも似てるだけでしょう、あちらは違いましたし」

「ですね、あのゲーム……からだと思いますが」


 先に挙げられた八つから考えて、過去に流行ったゲームをひとつ思い出しますが……意味がまるで違いますし、中身も変わっているのでしょう。

 それに植物に準じるというのであれば、確かにどれも関係するものでもあります。

 判りづらいものを示せば、彼女の予言も植物による予知や報せとも取れるでしょうし、復讐に似た花言葉を持つものも存在しますからね。


「それでは次なのですが……ええと、みつひめさん……という方にはご存知でしょうか?」

「……ん、え。おねえちゃん、を、知ってるの?」

「いえ、実際にお会いしたことは無いですが……まあ少し、彼女を知る機会がありまして」


 一番気になっていたこくとを聞くと、蓮華さんの少し怯えていたような顔がぱあっと明るくなりました。

 お姉ちゃん、と言っているところを見るに、親しい方なのだと窺い知れますが。


「ん、っと。みつひめおねえちゃん……は、《龍北》にいるとっても強い竜のお嫁さん、で、とても力を持つアルラウネのひとり」

「……意外と有名な方のようですね。その方は現在?」

「龍北に繋がる道が、魔物のせいで途切れて……今は、何してるか……」

「成程、現在は消息不明と……それは……」

「ううん、いいの……きっと、ちゃんといる、と思うから……」


 またすぐに蓮華さんの顔は暗くなってしまいました。龍北といえば……東北のことですね、私達の知っている日本の姿から変わっていた場所のひとつですね。

 これもまた何かに関わって来そうな案件になりそうです。憶えておきましょう。


「……聞きたいことは、もう、ない……?」

「はい、以上です。ありがとうございます、蓮華さん」

「うん、がんばって……来訪者……まずは、王都に、行って……あ、そうだ」


 蓮華さんが何かを思い立ったかのように、近くにいた巫女を呼び寄せて手紙を書くように指示をし始めました。

 物を書く事が出来ないほどにまで衰弱していると判ると少し痛々しいですが、同時に健気さも感じられます。

 しばらくして出来上がった手紙を私へと手渡してきました。あ、アイテム化されるようですね……


「これ、を……多分、王都の《転移門》の前にいる、サクさまに渡して……」

「転移門前にいるサクさんに、ですね。わかりました、しっかりとお渡ししておきますね」

「……おねがい。サクさまなら、みつひめさんの事、もっと知っていると、思うから……」


〔ダイレクトクエストが発生しました:蓮華の手紙〕


○蓮華の手紙

 区分:ダイレクトクエスト

 種別:イベント


●蓮華からサクへの手紙を受け取った。《転移門》前にいるサクへと手紙を届けよう。

 報酬:蓮華の好感度(小) 、サクの好感度(小)


○蓮華の手紙

 分類:情報

 備考:イベントアイテム

 蓮華が書かせた手紙。巫女さんが書いたので達筆だ。


 ……見るからに重要アイテムですね。サク様という方に渡すということですが、アイテムには朔月さんと書かれていますね。

 インベントリに仕舞い、ちゃんと届ける事にしましょう。ひょっとして、アルファテスター限定のイベントでしょうか?

 そうだとするなら、ちょっとした抜け駆けに……本来は別のどこかで名前を聞けるので、本来であればそれから始まるクエストなのでしょう。


「それでは、私達はそろそろ」

「うん、気を付けて、ね」


 微笑みと一緒に、軽く手を振って見送ってくれます。いい子ですし、早く他の巫女に逢わせてあげたいですね。

 その後神社を幾らか探検しても特にそれ以上の収穫はありませんでした。強いて言えば、蓮華さんが予言を行う際の兆候くらいでしょうか?

 予言を行う際は目が虚ろになり、難しい言葉で詩のように紡ぐそうです。本人は言った記憶が無いので、周囲の方が書き取って解読するそうです。


 神社を離れた後はログインできている時間も残り少なかったので、ジュリアと組んで三番道路入口で狩りを少し行ってからログアウトしました。

 明日はまた新しく習得したスキルの試用を行いつつ、三番道路の奥に控えるというボスを見に行きましょうか。

 とはいえ、まだ二番道路の安全を確保できていないらしく、その二番道路を突破しようとしているプレイヤーも多いとか。

 進行度を考えると、ボス戦の開始は今週末くらいになりそうですね。

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