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Dual Chronicle Online Another Side ~異世界剣客の物語帳~  作者: 狐花にとら
0-1幕 ゲームスタート、王都への道のり
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11.二日目の朝 ―焼ける肉の匂いを添えて―

 おはようございます、朝です。

 外は春前特有の肌寒さを感じますが、布団も恋しくならない程度に暖かくなる頃のいい天気です。

 昨日は課題を終わらせたあと、軽くストレッチをしてから風邪を惹かないようにしっかりと布団を被って就寝したはずです。

 ……したはずなのですが。


「んにゃぁ……」


 はい、小鳥のような妹が胸元で眠っています。ぐっすりと。

 いえまあ、よくあることなのでいいのです。特に少し前、冬場は勝手に潜り込んできますし。

 小動物ですか、と突っ込みたくなるのを抑えつつ、揺すって起こそうとします。


「……朝ですよ、起きてくださいー?」

「ふみゅぅ……んぅー……あーさー……?」

「朝です。早く起きないとエクスカリバーしますよ」

「ふみゃーい……くぁ」


 起き上がって目元をくしくしの仕草、小鳥のようで可愛いです。しっかり起きてるといつもの暴れ鳥になるのですが。

 ひと欠伸をすればまた私に抱き着いてきました。完全にまだまだ寝惚けていますね……?

 はぁ、こうなっては……全く、仕方ないですね……。


「……起きて」

「あと……さんぷん……」

「エクスカリバー!」

「あだぁぁぁ!?」


 一応3分間の猶予は与えますが、結局また眠り始めたので聖拳エクスカリバー。もとい聖なるチョップです。

 朝からセクハラを仕掛ける悪い妹には聖なる制裁です。脳天に直撃を貰った妹はベットの上を転がり回ります。

 これが我が家の休日、朝の光景。到底家族以外には見せられませんね。


「おは、おはよう……」

「はい、おはようございます。早く朝ご飯食べて、課題の残りを片付けてから《DCO》に行きましょう」

「うああい……」


 ちょうど昨日ログアウトした後に合流したのですが、紫音ちゃんの配信にちらりとだけ入り込む形になりつつも《VRクラブハウス》でそれなりに課題は進みました。

 とはいえ、それで掲示板を眺めて雑談に花が咲き、課題が終わらなかったのも事実。それを終わらせてからゲームにログインするとしましょう。

 掲示板を眺めていての発見もそれなりにありましたからね。早いうちに実践したいものです。


「お姉ちゃん、あのあと何かスキル覚えたりしたの?」

「《円月》、回転斬りを覚えましたね。そろそろ大技を覚えるかも」

「ほへー、回転斬りかぁ。こう、くるっと?」

「そうですね。あ、でも……今考えれば、振り抜く分単体にも使えるかも……?」

「回転、と言えば工夫のし甲斐がありそうだよね」


 今考えれば、他と違って大きく振り回しているということは、それだけ力が乗るという事。

 巻き込んだ数に均等にダメージが通るとしても、それはひょっとしたら相手の数によって減衰するタイプかも知れません。そういう範囲技もありましたから。

 そうであれば、まだ一番道路の兎程度しか掃討できなさそうなそれでも単体に対して使い道はありそうですね。いえ、むしろ……複数に見えて単体なのでは……?

 研究する事項がひとつ増えました。これは楽しみです。


「おかーさんおはよー」

「はい、おはよう。昨日は春ちゃんと秋ちゃんが配信に出てたわね」

「まあ朱音がいますから、当然と言えば当然ですね……」

「それもそうね。朝ご飯はハムサンドイッチ……と目玉焼きとサラダです、今日は好きにしていていいわよ」


 リビングへと二人で降りて、朝食をし始めます。調理中なのか、卵の焼ける香りがします。

 テーブルに置かれた各自の皿には、サラダが盛られた皿と三角形に切られたサンドイッチが二つずつ乗ったお皿が置かれていました。

 見知っている現実の姿から離しているとはいえ、母はそれを言い当てますか……あ、ちなみに春菜の朱音好きは橙乃を含めて四家族が認知しています。

 或る意味公認です。それ故にストッパーが存在していますし、その対処法は何度も論議されていますからね。


「んきゅ、お父さんは?」

「まだ寝てるわよ。呼出しもないから熟睡してる」

「そっかー」

「あの猫のこと、聞きたかったんだけど。うーん……」


 昨夜遭遇した黒猫が置かれている目的は何だったのかと聞きたかったのですが、聞けそうにないですね。バグだとしても呼出しされていないということは予定通りなのでしょう。

 掲示板でも話題になっていましたが、あの後も何人か遭遇したようです。誰にも懐かないし襲われもしないそうで、まだふらふらと一番道路に出没するそうです。

 半ば検証班のようなことをしていますが、私の目的はどちらかといえばその猫にまつわるバックストーリーですからね。

 あれほどの厄介な能力、どうして持っているのか気になるじゃないですか。ねえ?


「……お姉ちゃん、楽しそうだね」

「頭の中でゲーム中に見たストーリーを反芻して十二分に堪能した上で深堀と考察をするの、深冬のいつもの癖だものね」

「んぐ……またそんな顔してましたか?」

「「してた」」


 妹と母から同時に。……否定はしませんけれど、こういう時に顔に出るらしいです。

 妹曰く、ぽやーっとした顔を浮かべながら頬を緩めているそうですが、自覚は全然ないんですよね……。

 メインストーリーに遭遇する可能性を考えて、朱音の配信にはあまり顔を出さないと言いましたが、これが本当の理由です。傍で見せられたら間違いなくしてしまうでしょうから。

 そんなこんなで、朱音の配信に関する母の感想を耳にしながら、出来上がった卵焼きを食べて課題の残りを片付けます。

 課題が終わる頃は九時を少し過ぎたところ。それでは、二番道路突破を始めましょうか。



――◆――◆――◆――◆――◆――



 二日目の《DCO》です。日付も変わったことで再び昼になりました。

 昼というよりはまだ朝ですね、現実世界とリンクしているのでしょう。この時間、休日と言えどまだ人は少ないですね。


「おねえ……ごほん、姉様。ちょっと一人で二番道路見てきてもいいですか」

「そうですね、先に私だけ見に行ってますからね……。わかりました、少しぶらついてます」

「ありがとうございます、では先に」


 そう返すと一気に走っていきました。……我慢してたんですね、バトルジャンキーですし。

 私は何をしましょうか。……そう言えば、料理キットをまだ見てませんでしたね、確認しておきましょう。

 町の中を散策すると、ちょっとした村外れにいい広場がありました。

 ここで内容物のチェックをしましょう。幸い人がいる訳でもありませんし、出来る事なら少しだけある兎肉と鹿肉を料理しますか。


 インベントリから料理キットを選択すれば、展開が出来ました。それとレシピ本も取り出しておきましょう。

 出てきたのは簡易コンロ、鍋とフライパン、フライ返しに包丁と俎板のセットと最低限の調味料……塩と油の小瓶がひとつずつ、これぞ料理の基本というセットです。それと花瓶にストローが付いた水差し……のようなもの。

 ……説明書……はないですね、一緒に購入したレシピ本を開いてみます……おっと、ウィンドウが開きました。目次からポップアップでも、一ページごとからでも見れるようです、目を通していきますか。

 目次の次ページに調理キットの器具説明がありました。簡易コンロは見た目の通りだとして、火の代わりにこの……《魔石》なるものが使われています。

 あ、《魔石》についてのヘルプが出てきました。《魔石》はこの世界の生活基盤になっているようで、本来は霊脈のある鉱山から多数採れる魔力の結晶体を加工したものだそうです。

 Mobから取れる汚染された《魔石》を《錬金》で浄化、加工することによって同じように使えるようになるそうですが……前述の日用品以外にも様々な素材や燃料などとしても使われるようですね。

 水差しの方にも中に仕込んであるようで…あ、底に取り換え口が付いていますね。どちらも此方から触れてMPを少し使うだけで無限に火を灯し、水を沸かせてくれるようです。

 この程度の事になら大きな《魔石》に取り換えなくても使えるようです。ですが、一応消耗品ではあるので使えなくなったら交換しないといけません。

 もう一度レシピ本を手にして、ポップアップウィンドウから目的のページを探し出します。ありました、これですね。


○ラビットステーキ

・ラビットの肉をじっくりと焼いたもの。

 品質:料理結果に依存


○ディアステーキ

・ディアホーンの肉をじっくりと焼いたもの。

 品質:料理結果に依存


 料理結果に依存…ですか。そりゃあそうでしょうけれども……ううん。とりあえずラビットステーキを作ってみましょうか。

 美味しいものを作れるように頑張ってみましょうか……というわけで、《料理》スキルを取得してフライパンを乗せ、早速簡易コンロ着火してみます。

 《魔石》が赤熱して、フライパンへと熱を伝え始めます。直火ではなくIHのようなものですか……熱量は足りるのでしょうか?

 念のために、付属していた油を注ぐ前にフライパンに手を近づけて…大丈夫そうですね。意外としっかりとした熱があるようです。


 インベントリからまずはラビットステーキを取り出して、下準備…はあんまり必要無さそうですね。軽く塩だけ振っておきましょう。

 油を薄く流し込んでフライパン全体に広げて熱し、用意したラビットステーキをフライパンの上に乗せます。

 肉の焼ける香りが充満し、油の跳ねる音が静かに響きます。この時点でもう美味しそうです。じゅるり。

 フライ返しを手にして、肉の上に血が滲んだところで上手くひっくり返します。綺麗な焼け目も付いていますし、この調子で……。

 火をしっかりと通したのを確かめれば、火を止めて余熱で蒸らして……できあがり。

 親切な事に完成すると適した食器が勝手に現れる仕組みです。現れたお皿にお肉を乗せて…ナイフとフォークが添えられます。


○素焼きのラビットステーキ

・ラビットの肉をじっくりと焼いたもの。

 品質:F+


 じゃじゃーん。

 出来たからと言って右腕を上げても完成物が一瞬光ったりはしません。何れはもっと高品質なものが作りたいですね、……本来の目的である保存食で。

 調理時間は現実に比べてゲーム内でお手軽にできるようにと短くなっているようでした。

 でないと今後カレーなどの鍋物が作れるようになった際に膨大な時間を使いますし、仕方ないでしょう。

 さて、お試しとしては十分なのではないでしょうか。……おいしそうです、食べてもいいですよね?

 調理台の上へと乗せてナイフとフォークを取り出しまして……いただきます。お昼ご飯前のちょっとした間食になってしまいますが。


「……はむ……!」


 食感は鶏肉、ミディアムになる程度には火が通っています。……ううん、タレとかソースとか欲しくなりますね。

 唐揚げにも出来そうですが、そうしたらよりさらに……ですね。レモンも欲し……いえ、あれは戦争になるのでやめておきましょう。

 それにしてもこう……柔らかい鶏肉という味に食感、数の集まるこの兎肉であればどこでも食べられそうですね。

 あっと言う間に完食。ごちそうさまでした。また作って食べたいものです。

 ついでに料理のスキルレベルも上がりましたが…ふむふむ。スキルレベルに応じて作れる品目が増えて、さらに完成品の品質補正も入るようですね。

 そこは他にもやる方はいるでしょう。掲示板も時々見ながらこちらも上げてみるとしましょうか。


「いいなぁ……姉様いいなぁ……おいしそう……」

「あ、おかえりなさい」

「わたしのー! わたしのはないのー!?」


 フライパンを水差しから出した水で軽く洗い流し、料理キットを納めようとするとちょうど妹が戻ってきた様子。

 恐らく食べているところを見ていたのでしょう。恨めしいオーラがはっきりと見て取れます。

 素直に作ってご機嫌を取った方がよさそうです……二番道路で猪肉も集めてボアステーキも試してみましょうか。

 猪を家畜化したものが豚ですから、非常に濃い豚肉の味がするんですよね、猪肉。そう考えるとちょっと楽しみですね?

 とはいえ、作れるのはこれから二番道路を進めるだけ進んだ後、昼食ついでの休息に戻ってきた時になるでしょう。


「……鹿肉で作ってあげますから、どうどう」

「うぅー……」


 もう一度料理キットを取り出して料理の準備を始めます。早期にクラフターをしているのが珍しいのか、人目を集め始めているのがちょっと困りものなのですが。

 先程は選択肢から外した鹿肉ですが、本来であれば解体が大変で下準備も大変というものです。その分このゲーム内であれば、切り出した状態で鹿肉が手に入るので一番面倒なところは程度はカットできます。

 血抜きとして長時間水に漬けてはいないので臭みは取れないんですけれども……と、レシピ本を捲れば簡単な方法として、鍋に水を注いでたった一分ほど漬けると臭みが取れるとの記述を発見したので、早速試します。

 自分のより手がちょっと込んでいる気がしますがこの際気にしない事にしましょう。

 牛肉に近い食感を持つとのことなので……筋切りくらいはしてみておきましょう。血抜きを終えて臭みの消えた鹿肉に包丁で薄く表面を撫でるように刃を通します。

 ……これでやっと下準備は終わり。フライパンに油を敷いて、いきますよー。 


「じゅわー……いい音! いい匂い!」

「この辺りは監修されているそうですから、出来上がりに応じた味になる筈ですよ」


 擬音を口で言いますか妹よ。いえ、昨日の狩りの時と言い、崩れると口で言う癖があるんですが。

 先程と同じように、両面にしっかりと火を通して焼き上げていきます。刺身にしてもいいそうなのですが、衛生面でオススメはされないようですよ。

 今度は自分が食べるのではないので、多少手が掛かったとしても丁寧に仕上げて……皿に乗せて、出来上がりと。


「いただきます!」

「ゆっくり召し上がれ」


 妹へと差し出した瞬間、手を合わせたと思えば一気に食いつきました。ロールプレイ……はこの際問わないとしましょうか、もう。

 実際の鹿や兎の料理法を何故知っているか……というと、これも先日話した祖父の仕込みです。調理部分については祖母の方なのですが。

 流石山育ちと言いたいほど実家に帰るたび野性味溢れる料理を出しますからね。熊肉も出されたことがあります。

 その辺はさておき、食べている間に後片付けをしましょう。ちらちらとこちらを見てくる通りすがりの方々は自分で作ってくださいね。

 ……ふと、この辺も売り物にできるのでしょうか? できるのなら一考の余地はあるのですが、インベントリに入る……のでしょうか。

 一度食事をしてから長時間効果が出るので、現物しか作れないということもありえますし。今のところSPを回復できる販売物が干し肉だけなので、保存食のみインベントリに入るのかも知れません。

 あとそれと、インベントリ内に料理が入れられてもインベントリの中で時間経過で腐る……なんとこともあるかも知れません。以前やっていたゲームにあったんですよ、お陰で使おうとしていた命中補正バフの料理がなくて、泣く泣く切り上げて一度街に戻ったりとか……。

 レシピ本を読んだり調理についてもう一度じっくりと検証したりしたいところです。それも午後に試しておきますか。とりあえず午前の料理実験はここまでとしましょう。


「ごちそうさまでした!」

「お粗末様でした」

「お肉美味しいね、これで品質がCなの?」

「そう。これで品質がCだから……もっと上手く料理できれば、より美味しくなるかと」

「……期待していい?」

「勿論。今日は寝る前にできるだけ調理の手順も調べておくつもりです」


 あっさりと食べ終わったようです。そう大きくも量もない肉でしたから、当然といえば当然なのですが。

 満足していただけたようでなによりですが、ここからは運動です。実際に食べたわけではないバーチャルの料理ですが、食べた気分になれるのはいいことですね。


「二番道路、どこまで把握できましたか?」

「こほん。狂化兎と鹿の群れ。時々出てくる猪が少し厄介でしたが、突進のみだったので」

「あの猪の属性は光と風らしいので……風の方はジュリア、お願いしますね」


 ついでにお肉が美味しいことも吹き込んでおきます。

 そんなに多くは焼けないかもしれませんがそれはそれ、やる気が出てくれるのであればオーケーとします。

 それでは二番道路、突破を目指して改めて行ってみましょうか。

VRでもおいしい料理が食べられると気分的にはおいしいですよね。

……気分だけですけど。

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