お金が大事だから仲間なんていらないってば!
中学生のときに書いた話です。ところどころ拙い表現がありますが、あえてそのままにしました。楽しんでいただけたら、あの頃の私が喜びます。
城の中に、彼は居た。
その王国では魔王を倒す為、勇者を募っていた。
何人も立候補者が城に来たが、そんなに簡単になれるはずもなく、一人一人に試練が言い渡されたがなかなかクリアする者はいなかった。何人の才ある者が挫折し、城を後にしていったことだろう。
しかしそんな中、彼はいた。
彼は王が座る玉座にひざまずき、兵隊からとあるバッチを受け取る。
そこは広い部屋で、何人もの兵士が集められていた。彼はまだ十五の少年で、誰からも愛されそうな可愛らしい顔立ちをしている。
「旅人よ、盗賊一団を壊滅させた功績を認め、そなたを正式な勇者に任命する!本日より、魔王退治に専念するがよい。」
王の低い声が部屋中に響き渡り、そして静まる。兵士達は、勇者を穴が空くほど見つめていた。勇者と認められた少年はバッチを胸に付け、立ち上がった。
「この城で認められた勇者はそなたで2人目じゃ。1人では何かと大変じゃろうから、まずは酒場で仲間を集めるがよい。」
「あの。」
勇者が口を開く。その声には、隠しきれない不満が含まれていた。
「報酬とかは無いんですか?」
その言葉に兵士は身じろぎし、王は顔をしかめた。無理も無い。報酬とはすなわち勇者と言う地位であり、これ以上良い報酬があるだろうか?
「報酬とは金の事かね?勇者と認めたのじゃからそれでいいじゃろ
うが。」
そう言い王は笑う。
「では金は貰えないのですか。」
「当たり前じゃろう。さあ、そなたも早く酒場へ…。」
「ならば勇者の座はお返しします。」
「⁉」
勇者の気が狂った様な発言に、その場は一瞬にして騒然となった。
兵士の中には言葉の意味が理解出来ずに仲間に聞いている者もいた。
「私にとっての最高の報酬は金です。金が貰えぬのなら勇者にな
どなりたくありません。」
勿論、勇者の言う事は受け入れられなかった。当たり前である。王国が、腕の立つ戦士をそうみすみす手放すハズが無いのだ。
兵士の中には呆れる者、怒り出す者、逆に興味をそそられた者など様々居たが、皆勇者の腕は認めていた。
何故なら盗賊団は、王国兵士達が何年かかっても倒せなかった悪の組織だったからである。
もちろん王国兵士達は、国の中でも強者揃いであった。しかしそれらでも倒せなかった盗賊団を、勇者はたった1人で倒したのである。悔しくても認めざるを得ないのだった。
しかし、と兵士達は思う。
いくら腕の立つ勇者でも、あの様な守銭奴に魔王退治を任せても良いのだろうか?いや、王の意思なのだから仕方ないのだが。
勇者が部屋を出て行った後、兵士達は各々の意見を言い合った。
「全く、けちんぼな王様だ!」
先程勇者となった少年は今、城下町を歩いて居た。ぷんすか怒りながら。
「世の中金だ!!俺は勇者になったが金が大好きだっ。というか俺は金の為に勇者になったのに!」
そんな事を大声で叫ぶものだから周りの人が引いている。しかし勇者はそんな事これっぽっちも気にせず歩く。
まぁ今は金には困っていないから別にいいか…。
そんな事を考えていると、
「君!」
兵士に声をかけられた。
見るからに優しい顔をしている。
「酒場を過ぎていますよ。仲間を集めないと大変だから、僕が案内します。」
ニコニコと兵士に言われた勇者は、しかし暫く考えこんでいた。
「えーとね。俺仲間要らない!」
「えええええ⁉」
またしても度肝を抜く発言。
人懐っこい顔を輝かせてまた歩き出す勇者だが、兵士は慌てて止める。
「いやいや、よく考えて下さいよ⁉そうだっ、あの人達を見て下さい!」
そう言って兵士は道具屋の前に居る四人の男女を指差す。勇者もそちらに目をやる。
「あれが基本的なパーティです。パーティは四人で組むものでして。勇者は居ないけれど、戦士と魔法使いと僧侶と遊び人です。あの人達は全員レベル4だったと記憶しています。前に、やはり魔王討伐を目的としていると言っていました。」
ふーん、と気の抜けた返事。兵士はため息をついた。
パーティは皆新しい装備を装着していた。立派である。
「それにあれも見て下さい!」
そう言い今度は武器屋を指差す。勇者は自分の装備を難しい顔で見ていたが、兵士にまた声をかけられ武器屋を見る。
「あの方たちは上級職業ですね。まぁ勇者程ではないんですが、かなり珍しいです。」
「ふぅん。賢者と魔法戦士とバトルマスターと、あと……アレはなにかな?」
勇者は四人のうちの1人、中でも特に目立った格好をしている男を指差した。これには兵士も考えた。あまりこの地域では見ない職業だったからである。
暫く考えてから兵士は口を開いた。
「多分あれは錬金術師じゃないかと思います。この大陸ではあまり見ないですが、かなり強く人気な職業ですよ。」
「錬金術師……って、あの無から金を生み出すと言うっ!?」
「ですね。」
とたん勇者は目を輝かせた。
満面の笑みで兵士の顔を見る。
「金出してっていったらくれるかなっ?」
「馬鹿な考えはやめて下さいっ!今すぐ金が欲しいならほら、あなたの装備品でも売ったらどうです?」
幾らなんでもこの申し出には勇者もためらった。勇者の貧相な装備は、これ以上無くなれば命に異常をきたすだろう。
「その盗賊のお頭から奪ったと言う剣なら、100Lくらいにはなるんじゃないですか。」
Lとは、この世界の通貨の単位である。確かに、勇者の装備でめぼしい物と言えば剣しか無かった。
「やめとく……。」
「でしょうね。」
ウム、と兵士はうなずく。いくら勇者とは言え、武器が無くては話にならないだろう。
「でもッ。」
勇者が口を開いた。
「やっぱり仲間とか面倒だし。それに雇うとなると、金も払わなきゃならないだろう?俺は真っ平ごめんだね!」
ハキハキと答える勇者は自信にあるれている。その答えが正しいかは分からないが。
「き、君ねぇ…!」
「じゃあね、声かけてくれてありがとう!」
しかし勇者は根は良いのだ。呆れ
返っていた兵士も勇者の言葉に微笑む。去って行く勇者をあたたかい目で見送っていた……。
「あっ!待って、勇者殿!」
大事な事を言い忘れていたよ、と兵士は数歩先で振り返った勇者に手短かに説明する。
「門からでて真っ直ぐ森へ入って暫く歩くと、道が二つにわかれているんだ。右へ行くと小さな村で、左へ行くと大きな港町だよ!」
「そうか!じゃあ金たくさん有りそうな港町行くな!」
「でも今港町まちは魔物に呪われてるんだ…危険かもね。」
「分かった、村の方行く!」
た、単純な人だぁ…。
苦笑いを浮かべる兵士に二度目のお礼を述べると、勇者は元気良く門から出て行った。
「ふふふ、可笑しな人だな。」
兵士は笑う。
「本当に1人で行ったし。」
また笑うと、兵士は門に背を向け歩き出す。……と、その足が不意に止まった。
「そう言えば、もう1人の勇者も1人で出て行ったなぁ…。」
そう呟き、門を振り返る。
「でもその人は逆に港町の方に行
くって言ってたなぁ…。」
その目には心配と不安が揺らめいていたがそれも一瞬で、兵士はまた門に背を向け自分の仕事に専念し始めた。
勇者は歩いていた。黒髪をなびかせ、口笛を吹きながら。
暗い森だな…今にも魔物が木のかげから襲いかかって来そうだ!
そんな事を考えながらも、腰にくくり付けてある金袋をいじっていた。
勇者にとって装備はたいした価値
はなかった。その為、勇者の装備は古びてほとんどその真価を発揮出来ない物ばかりである。
しかしそんな事、勇者にとっては気にする程の問題ではない。
「村に着いたら何しようかな。」
うーん、と腕を組み考える。
考えこんでいたから、右から近付いて来た不審な音に気が付かなかった。
何かが木のかげから飛びたしてきたのだ!
一瞬勇者には何が起こったのか理解出来なかった。視界が白くボヤけて見える。
「んな……っ⁉」
気が付けば、勇者は地面に這いつくばっていた。木のかげから飛びたしてきた何かと思い切りぶつかったのだ!
何だ…⁉
頭を強く打ったらしく、黒と白のノイズが目の前に広がる。
それでも意識を無理やり起こした勇者は辺りを観察し、そして見つけた。
「だっ、誰だオマエッ!!」
思わず勇者は叫んでいた。
勇者と同じく、地面に這いつくばっている者がいた。おそらくこの少年がぶつかって来たのだろう。
フラフラと上体を起こしていた。
その者は右足首を捻ったらしく、憎々しく足をさすっている。
「貴様こそ誰だ?全く、何でこんな所にいるんだよ。」
勇者を睨む。
ぐうっ、こいつプライド高そうだなぁ…。
黙ってその少年を観察してみる。
美しく整った顔からは、冷たい印象を受ける。その少年はフードをかぶり、皮の鎧を装備していた。その他の装備に関しても、勇者と比べ物にならない程完璧だった。
年は俺とさほど変わらないな…ってことは十五か?
「ジロジロ見るなッ!」
銀の目できつく睨む。
「何だよっ、ぶつかってきたのはそっちじゃんか!それなのに何だよ、謝る事も出来ないのか⁉」
ムスッとした顔で言い返す、が正直勇者は口喧嘩には弱い方なのですぐに目をそらす。
「何だと、俺様は……おっ⁉」
銀髪少年は言葉をきり、勇者の胸に付いているバッチに目を向けた。勇者の証だった。
それと同時に、勇者も気付く。
銀髪少年の胸にも、勇者の証が付いていた。
「俺様の次に勇者になったのか、
忌々しい…。見るからに弱そうじゃないか。」
面と向かって侮辱された。
こ、こいつはぁ~っ!
「俺はレベル15だ馬鹿野郎ッ!弱くなんかないぞっ。」
顔を赤くしながら叫ぶ。
「ぐっ…、15⁉」
銀髪は悔しそうに小声で呟き、しかしすぐに立ち上がる。
「俺様はディーン。勇者だ。」
そう言うと、アゴでこちらを指す。こちらの名を聞いているらしい。
何故自己紹介⁉と疑問に思いなが
らも、
「…アルス。」
ムスッとしながら答える。
アルス、か。とディーンは呟き……そのまま腰にぶら下げていた剣を引き抜く!
「なん…!」
アルスも背中の剣で応戦する。鉄と鉄がぶつかる音が響く。と同時に2人は間をあける。
「何すんだよっ⁉気でも狂ってんのか馬鹿銀髪ッ。」
「馬鹿は貴様だ、馬鹿黒髪ッ。」
銀髪もかなりの腕の様で、その手応えにアルスは舌をまいた。ディ
ーンの手にはレイピアが握られていた。
レイピアは錬金術師同様、この地域ではあまり見ない代物である。
「勇者とは各地の城で認められた者がなる。魔王を倒す事が任務だ。」
ディーンがジリジリとアルスに近付いて来る。アルスも一度しか剣を交えていない為確かな事は分からなかったが、ディーンは盗賊団よりも強そうだと思った。
「だが魔王を倒すのは俺様だ!」
ディーンはレイピアを構え、叫ぶ。その銀色の瞳には強い意思が感じられた。その上、その目は刺す様に鋭い。
「俺様は力を求める…。力こそ全
てだ!俺様は自分の力を証明する為に勇者になった。」
さらにジリジリと近付いてくる。ディーンは笑っていた。
「俺様は、勇者の中でも1番強くなってやる。俺様が1番だって事を勇者全員倒して、魔王も倒して証明してやる!魔王を倒す勇者は1人で十分だっ。」
ディーンは多分こう言いたいのだろう。
勇者とは、強い戦士よりも更に強い戦士のことをさす。その勇者を全員倒せば、自分が人間の中で1番強い。魔王とは、魔界……すなわち魔物の王。魔物の中で1番強い。魔王までも倒せば、自分は人間界でも魔界でも、最強であると。
そして又、剣はぶつかる。
アルスは剣をはねのけた。しかしディーンの技はかなり完成度がたかい。
畜生!装備が劣ってるこっちが絶対不利じゃねーかよっ!
この時ばかりは自分の貧相な装備に舌打ちした。
アルスは防戦一方だったが、ついに隙をつかれディーンから鋭い突きの一撃が……!!
…と、ディーンの体が急にぐらりと傾く。
先程捻った右足が痛んだのだ!
その瞬間を見逃さず、手でディーンの武器を奪った。
「残念だったなぁっ、銀髪ッ。」
勇者アルスは勝利した!!
ディーンの武器をぽいっと地面に捨てた。
「お前みたいな嫌な奴とは二度と会いたくねぇなぁ…。」
しかし、何やら異変に気付いた。
体が軽い様な…?
「気づいたか。」
ディーンが笑う。ディーンの手には袋が握られていた。
「俺の大事な金袋ッ!!」
そう、アルスは金袋を奪われていたのだ!
「馬鹿銀髪ッ、それ返せ!」
「嫌だね。返して欲しけりゃ自力
で奪え。」
「なんだよ、お前今俺に負けたじゃんか!」
「ばっ……、これは俺様が怪我をしていたからだろうが!普段なら絶対負けない。」
「負け惜しみかっ⁉」
「なんだとッ、やるか貴様!」
「仲間割れですか。」
その時2人の横から第三者の声が聞こえてきた。
「「仲間じゃねぇっ!!」」
2人は声を合わせてそちらを見る。
「魔物かっ。」
先に反応したのはディーンだった。
剣先を魔物に向ける。魔物は小さい木の形をしたキモドキと呼ばれる魔物二体。手には大きな鎌を持っている。
遅れながらも反応したアルスも剣先をつきつけた。……ディーンに。
「…なにをしている。」
「あ、やべっ。」
慌てて剣先を魔物にうつす。
「こいつらを倒すまで、貴様との勝負はお預けだ、馬鹿黒髪。」
「馬鹿は余計だって馬鹿銀髪!ひとまず足引っ張るなよなっ。」
「貴様がな。」
その瞬間、2人は同時に足を踏み出していた。
魔物が何か言っていたが、無視した。
「人間ごときが、我等に勝てるとでも………。」
その目で追えない程の速さの踏み込みは、傷付いた足に負担をかける。
「オオオオ!!」
痛みを消す為、ディーンは吠えた。鋭い突きに捻じれを加え、片方の魔物の左眼球を突き刺しつつ深くえぐる。
仕留めた!
と思った直後、魔物が鎌を顔面一直線に振り下ろしてきた。
その魔物がディーンの顔面を斬る……前に、アルスの剣が魔物を一刀両断した。
目の前の魔物は音も無く消滅。
危機一髪の出来事に暫く呆然としていたディーンだが、ハッとして周りを見渡した。
何と、アルスがこの短時間で魔物二体を倒していたのだ!!ディーンのかたわらには、剣を鞘に収めているアルスが居た。
こいつ、動きが速い…!
技の完成度では自分の方が高い。がしかし、素早さそしてレベルはアルスの方が上だと気付く。
「俺様は、助けられたのか…?」
1人呟く。
「んあ…?そうだな、力が有るのは俺の方だなぁッ!はははっ。」
楽しそうに話す。
と、アルスは笑うのを止めてディーンに向き直る。
「力を求めるお前の言いたい事や理屈は分かるよ。でも、強さってのが単純に力だけとは限らねぇだろ。」
「……。」
「それでも勇者を倒すってんなら、俺がお前の前に立ちはだかって、お前の上をいく。」
黒い目で銀の目を見つめる。ディーンも見つめ返す。
「望む所だ。」
ニヤリと笑ってディーンはレイピアを鞘に収めた。
「しかし今回は貴様に助けられてしまったからな。決闘はお預けだ。」
そう言ってアルスに背を向ける。
青いマフラーが揺れ、
「俺様は港町に行く。じゃあな、馬鹿黒髪。」
それを見ていたアルスも背を向け、歩き出す。魔物がおとしたLを拾い、反対方向へ。アルスの行き先は村だったからだ。
ライバルが出来たな。
それは危険な事のハズなのに、アルスは何だか楽しかった。
ザクザクと歩き続ける。
勇者になったのも悪くはなかったなと勇者の証をなでる。
「あれ?」
不意に足を止めた。両手を見つめる。
何か俺、忘れてないか?心なしか何だか体が軽い……。
「あっ!!金袋ッ、あいつから取り戻すの忘れてたぁッ!」
港町は文字通り呪われていた。
空は灰色の雲におおわれ、普段なら有るであろう活気が失われていた。
誰1人楽しそうにお喋りしたり遊んだりしていない。そこに居るだけで気がめいりそうな…。
しかし、町長の館だけは違った。
何故なら……。
「てめぇぇぇ!!金袋返せやッ。それは俺の宝なんだよ、命なんだよっ、俺の全てなんだよッ!!」
「俺様が貴様の上をいってやる。
貴様から金をぶんどり続けてやる。感謝しろ。」
「うるさいっ、誰がてめぇなんかに感謝するか!」
ディーンと、ディーンを追いかけて来たアルスが喧嘩をしていたからだ。
町長の目の前で。可哀想に、年寄りの町長はなかなか会話に入っていけない様だった。
しかしやっと喧嘩も落ち着いて来たので、町長は話し出した。
「お2人とも勇者様ですな?」
「「こいつより優秀なね!」」
ハモった。
クスリと町長が笑うと、2人は鬼の形相で睨み付ける。
「見ての通り、この町は呪われております。呪いで船を出す事ができません。どうか呪いを解いて下さいませぬか。」
2人とも気が乗らぬ様子で鼻を鳴らした。
何て勇者だ…、と町長は肩を落とす。ボソリと呟く。
「とにかく気を付けなされよ。この港町は、魔物に見張られております故。いつ魔物が勇者の存在に気付くか分かりませんぞ。」
この言葉に黒髪の可愛らしい少年は顔を曇らせ、逆に美少年の銀髪少年はニヤリと笑った。
「魔物達は勇者の存在を快く思っておりませんから、気付き次第あなた達を殺そうと来るでしょう。
ワシはもう死んでも良いのじゃが、あなた達はまだ若い。きっとこの町を呪った魔物が来ますぞ。」
アルスが、
「えーっ。俺帰ろっかなぁ。」
と呟くのに対しディーンは、
「力試しに役立ちそうだな。」
そして誰にも聞かれぬ様小さく、
「レベルも12から上げなくては……ッ。」
ブツブツと言っている勇者2人に不安を感じたのか、町長は丁寧に言った。
「お礼の品も用意しています。」
その言葉に、片方の少年が反応した。
「お礼ですか、素敵な町長様!それはお金ですよね?」
「はあ、金と珍しい剣も用意しておりますが…。」
と、今度は銀髪の少年の方が反応した。
「それは本当か。剣がタダで貰えるならそれほど良い話は無い。なぁ、馬鹿黒髪。」
「ああ、同感だなっ馬鹿銀髪。」
町長は驚いて目を丸くする。それも無理はない。ついさっきまで喧嘩していた非常に仲の悪い2人が、頷き合っているのだから。
そして口を揃えて言う。
「「必ず魔物を退治してみせますっ!!」」
「あー、何であんな約束しちまったんだ俺はっ!!」
1人で暗い町を歩きながら、アルスは大きなため息をついた。町中にはちらほら人影があるが、やはり活気が無い。
「あんないけすかない奴と魔物退治なんてッ!…ああ、でも金貰えるならやらなくちゃなぁ。」
あー、クソっ。矛盾する気持ちに段々腹が立って来た!!
と、誰かがアルスの肩に手をかけた。
ん?と振り返ると、そこには見知らぬパーティ3人がいた。
「君、勇者なんだよね?僕は試験に落ちてしまってね。仕方なく戦士としてパーティを組んでいるんだ。」
そこにいたのはアルスよりも4か5
歳くらい年上の戦士だった。やはり立派な装備をしている。
戦士はそこまで話すと、アルスの頭に目をやった。
「君、頭から血がでてるけど。」
「えっ⁉」
触ると手に血がついた。おそらくディーンとぶつかった時に出来た傷だろう。確かに、さっきから痛かったのである。戦士が親切に薬草をくれたのでそれをムシャムシャ食べる。
すると頭部にじんわりとした暖かな温もりを感じた。回復したのだ。
「ありがとなっ。助かったよ!」
可愛らしい顔で笑う。別にいいんだよ、と戦士も笑った。
「それより君、1人?」
「うんっ。パーティは組んでないよ。」
そうか、と戦士はうなずく。
「じゃあ君、僕のパーティに入らないか?」
「えっ、俺⁉」
アルスは思わず声をあげた。思ってもいない誘いだった。
そんなアルスに戦士は頷く。
「僕のパーティはまだ三人なんだ。是非君に入って欲しい。」
「やだ。」
「即答っ⁉」
ニコッと笑う勇者を信じられないと見つめる。しかし勇者の気持ちは変わらない。
そんな、と戦士は呆然となる。
1人で旅するなんてあり得ない!!
「じゃーね!俺、薬草くらいは買っとかなきゃいけないと思うからさっ。」
「で、でも僕の仲間は優秀なんだ。絶対に後悔はさせない!」
「おい。嫌だって言っているだろうが。」
勇者と戦士のパーティの横から、誰かが話に割り込んで来た。
なっ、と戦士は振り返る。
そこにいたのは、
「ディーン⁉」
「アルス、貴様こんな奴等とつるんでいる暇があるのか?さっさと戦闘の準備をしろ。」
早口でそう言うと、
「いくぞ。」
ディーンはアルスを連れて戦士達から離れて行った。あ然としている戦士達三人。それをディーンは横目で見ながら足早に道具屋へ向かう。
「ちょっ、失礼じゃんかっ。」
「あいつらは自分より強い勇者の貴様をパーティに入れて、自分の身を守ろうとしているんだぞ。」
「はぁ⁉」
意味が分からない!
道具屋の前に着く。
「勇者がいれば、弱い魔物との戦いではまず死ぬ恐れはない。だからあいつらは貴様を仲間にと言って来たんだ。わかるか?」
「わ、わからないよ。」
「貴様頭悪いな…。要するに保険だ。あいつらは貴様を利用しようとしていたんだよ。」
「そんな……そんなこと、聞いてみないと分からないだろッ!ディーンの馬鹿っ。」
「分かるんだよッ!」
ディーンが怒鳴る。アルスが冷静さを失ったディーンを見たのは初めてだった。気まずくて言葉が出せない。
「あいつらがさっき、街角でヒソヒソ話をしていた。それを偶然耳にしたんだ。」
冷静さを取り戻し、銀の目が黒の目を睨む。アルスはディーンから目をはなすことが出来なかった。
「……勇者を利用してやろうってな。」
「……。」
返す言葉が見つからない。
「勇者になると、特別待遇されるのは知っているな?」
ディーンはアルスから目をそらした。しかしアルスはディーンから目をはなさない。
「……俺は物を安く仕入れる事ができるって聞いた。」
「そうだ。貴様に買い物を全て任せてしまえば、パーティの出費は安くなるだろう?それに関所もタダで、しかも国の許可無しで通してくれる。」
それは初耳だった。なる程。その様な特別待遇があるならば、勇者を仲間に入れたがったのもつじつまが合う。
「まぁ、貴様は元から入るつもりはなかったらしいからいいが。勇者が、くれぐれも無様な印象を与えるなよ。とばっちり食らうのはこりごりだ。」
ディーンはアルスから目を放し、道具屋に向き直る。
「何を買うか選べ。三秒でだ。」
アルスは金袋をディーンに取られているのでディーンが薬草を二つ購入。それと聖水も一つ。
ショックを受けたらしいアルスは、フラフラと町長の館へ歩いて行った。薬草は一つずつ持ち、聖水はディーンが持っている。
「ふん。」
ディーンが鼻を鳴らした。それはいつもより少し悲しく響いた。
「だから、仲間など要らないんだ……。」
それは突然やって来た。
ズゥゥゥゥン!!!!
町が揺れた。商売道具が棚から落ち、街中の人が皆建物の中にはいる。空の曇りが一層増し、昼間だと言うのに辺りは夜の様に真っ暗になった。
「まっ、魔物が来たぞぉっ!」
口々に叫び、怯える住民。子供を抱きしめる母親。家の窓から外の様子をのぞく男。
ズンズン、と地響きが続く中。
2人は宿屋に居た。
先に反応したのはディーン。すぐにアルスの部屋のドアを開ける。
アルスもベッドから起き上がっていた。
「おい、アルス!」
鋭くにらみつける。
「魔物が、俺様達に気付いたらしい…って言わなくてももう分かるよな。どんなに馬鹿でも。」
「一言余計だって。」
地響きはどんどん近付いてくる。
そして、止まった。
2人は宿屋の入口をあけた。
「わっ。」
アルスが悲鳴をあげる。魔物は宿屋の目の前まできていたのだ!
魔物の身長は、大人の男の三人分くらいもあった。ドラゴンの様な姿で、口からは灰色の煙が出ている。きっとアレが呪いだろう。さらに尻尾には幾つもの鋭利なギザギザがあり、アレに刺されればひとたまりもないだろう。
魔物は黄色い目でこちらを見つめてくる。かなり怖い。
「まさか直々に1人で倒しに来るとはな。肝のすわった魔物だ。」
「魔物を褒める位なら俺を褒めろよ。」
「死んでも断る!」
……と、何の前触れも無しに2人は宿屋から飛び出した。巨大な魔物も目に追えないほど素早い。
しかし、魔物には臭いで何処に行ったか分かった。広場の方だ。民家の少ない場所で戦った方が被害が少なくなるからだろう。
広場に着くと、アルスは急いで剣を引き抜いた。
ディーンに声をかける。
「捻挫治ってんのかよ?自滅すんのは勝手だけど俺を巻き込まないでくれよな。」
魔物がこちらに近付いて来る。その度に地面が揺れる。剣を振るう時は近い。
「言っておくが、一緒に戦いはするが、協力はしないからな。貴様は勝手に死んでいろ。」
ディーンもレイピアを腰の鞘から引き抜いていた。大口を叩いてはいたが、右足は見るからに痛々しく腫れ上がってる。
「貴様の力は当てにしない。1番強いのは俺様だからな。」
「来るぞッ!」
ズドン。巨大な足をおもっきり振り下ろした一撃。2人は避けたがレンガの地面に亀裂が入り、足跡が残る。
そこで2人は悟る。あの一撃を受けてはいけない。
「怪力だな…忌々しいッ!」
ディーンは辛辣な言葉を次々吐くが、ふと民家の方を見た。そこにはアルスを仲間にと誘った三人がいた。しかし三人共腰が抜けている様で、戦いの意思はこれっぽっちも感じられなかった。
「誰が優秀な仲間だ?そんな奴どこにいる。」
口だけの、勇者にもなれなかった弱者だ。しょせん、仲間なんて自分より弱い奴等の集まり。俺様以上に頼れる奴はいない。仲間がいたとしても頼れなければ仲間の意味がない。
「おいっ、ぼーっとしてんじゃねぇッ!!そっちあぶないぞ!」
アルスの声が聞こえ、ハッとする。いつのまにか、ディーンは棒立ちになっていたようだ。
見上げると魔物の右手の一撃がまさに目の前に来ていた。
「危ないのならもっと早く言え、アルスッ!」
レイピアで受け止めるも、あえなく弾き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、そのまま反動で空中に投げ出されてから重力に引っ張り落とされた。
しかしディーンはすぐに立ち上がる。攻撃を直接受けなかった為だろう。
だが、とディーンは呟く。
こいつは思ったよりしっかりしている。
アルスを見、心のなかで思う。
あのボンクラ共とは違う。ビビってはいるが、きちんと戦闘には参加している。流石に腐っても勇者なんだな。
ニヤリ、と笑う。
一応、こいつは信頼しても良さそうだ。
「アルス、よく考えて動け。貴様は馬鹿だから正面から攻撃しそうだからな。」
「なっ、何で分かるんだよっ⁉」
「頭脳派の俺様には、貴様が力だけの馬鹿だとバレバレだ馬鹿。」
「ばかばかうるせぇよッ。」
アルスは嫌な汗をかきながら答える。まぁ、ディーンの言わんとしている事は分かる。要するに、慎重に動けと言う意味だ。
ひとまず、視界から外れればいいだろっ!
アルスは魔物の後ろに回りこんだ。そして…魔物の後ろ足の打撃で十メートル先の地面に叩きつけられた。
「が…ぶはっ!」
やべえっ、みぞおち入った!!
巨大な魔物は立ち上がれないアルスを踏み潰そうと、前足を振り上げる。
それをアルスはなす術もなく睨む…。
ドンッ!!
アルスは何かに突き飛ばされ、その一撃を避けた。
「この大馬鹿者がっ。何をしている、一撃で満身創痍じゃないか貴様!」
ディーンだった。
げほっとむせながらアルスは剣を握り直す。涙目で言い返す。
「だぁーれが。げほっ。」
「貴様がだ、馬鹿黒髪。トコロでこのバケモンの弱点知っているか?」
「んなもん知るか。と言うより弱点なんてあんのか?」
無いだろうとアルスは思い泣きたくなった。魔物は黄色く血走った目をこちらに向けてくる。本当にやめて欲しい。常人ならこの目に睨まれただけで萎縮してしまうだろう。
しかし運良く彼等は剣士だった。
そして勇者なのだ。
魔物は世にも恐ろしい唸り声をあげてこちらに突進して来た。
アルスは避け様に左足を深く斬った。
剣にドロッとした血が付く。
魔物が悲鳴を上げた。
「アルス!」
ディーンに呼ばれた事に気付き、そちらを振り向く。
ディーンの方は右肩に傷を負っていた。もしかしたら捻挫で機敏に攻撃を避けられなかったのかもしれない。
「気付いていたか?奴は攻撃する時手足しか使わない!」
レイピアを左手に持ち替え、数々の攻撃を避けながら言う。魔物の攻撃は雨の様に上から降り注いで来る。
「だから何だよっ、分かりやすく言ってくれ!」
「奴は一見有利そうな尻尾を一度もつかって来ない!奴の弱点は尻尾だ。」
確かに。その通りだ…!
俺が魔物の後ろに回り込んだ時、1番近いトコロにあったのは尻尾だった。それを使わなかったのは、弱点を自ら傷付けないようにする為だったのか!
「やっぱお前の方が戦略向いてんなぁ。いつもこんなこと考えてんのか⁉」
「当たり前だ!俺様は力だけの馬鹿じゃ無いからな。」
「うるさいなっ、この頭脳馬鹿ッ!」
しかし弱点が分かったからとて、すぐにそこを攻撃ができるわけでは無かった。
相変わらず攻撃は天から降って来る。アルスはそれを避けるだけで精一杯だった。
と、魔物は大きく開けた口からそのまま灰色の煙を吐き出した!!
それは目の前にいたディーンを包み込む……。
「ぐはぁっ⁉」
ディーンの体が動かなくなった。
ディーンは呪われた!!
レイピアを持ったまま、直立不動。ディーンは魔物と睨み合った。
「おいっ、何してんだよディーン!やられちまうって!」
「んなこと言われたって体が動かないんだ!貴様、なんとかしろっ。」
「無茶だよ!!」
アルスが魔物の攻撃を避け、左足を二度斬りつけた。
その斬撃は疾く、風のようである。
魔物は叫び、標的をディーンからアルスに変えた。アルスに向かい合い、雪崩のような攻撃をする。
必然的に背中側にディーンがいた。近くに尻尾が揺れている。
「くそがっ。」
ディーンは舌打ちし、上半身に力を込める。少し動いた。
よし、足は動かないが、腕なら動かせそうだ。
微かに口の端をあげ、笑う。
確かバックの中に聖水があったはずだ。
それを使えば、呪いが解けるハズなのである。
アルスは正直、限界だった。数々の攻撃を受け止めた腕は痺れ、走りまくった足の疲労は極限に達していた。
呪いで動けないと分かっていながらも、何とかしてくれと叫ぼうとディーンの方を見た。
「ディーン⁉」
思わず、アルスの口から彼の名が飛び出して来た。
ディーンにかかっていた呪いは何故か解けていた。魔物の背後から沢山の傷を負わせていた。
がしかし、ディーンも無事ではすまなかった。時々ではあるが、後ろ足の攻撃がディーンを襲っていたのである。
ディーンは足の負傷の為攻撃を避けきれず、血だらけだったのだ!
「チッ、忌々しい!右足を捻挫したのは元はと言えば貴様のせいだからなっ!」
しかし彼の口からはいつもの辛辣な言葉が次々と出てくる。
ディーンは魔物の背後でレイピアを構える。
「この怪我の貸しはいつか支払ってもらうぞっ!」
そして、思いっきり尻尾に突き刺した!!
その瞬間、魔物の凄まじいほど悲痛な声が響く。
レイピアは、尻尾を貫通し地面に突き刺さっていた。その為魔物は地面に釘付けになる。
「何言ってんだてめぇはっ!」
常人ではあり得ない程の速さで右足を踏み込み、
「ぶつかってきたのはてめぇの方じゃねぇか、ディーン!!」
飛び上がる!その異常な速さの踏み込みは、巨大な魔物の頭の辺りまで飛び上がることを可能にした。
そして空中で剣を構える。
魔物は尻尾の痛みとアルスの速さに目が追い付かないのとで、反撃すら出来なかった。
アルスは……魔物の首を切り落とした!!
速さに目が付いていったのはディーンだけだろう。
それでも辛うじて、というところだが。
トンッ、と地面に着地する。ニヤリと笑いながら横目でディーンを盗み見る。ディーンもアルスを見ていた。
ブシャアアア。
「ん?」
体がドンドン赤に濡れて来る。魔物の首から血が吹き出してきたのだ。今度は血が雨の様に2人に降り注いで来た。
ドウッと魔物の体が倒れる。
魔物を倒した!
「「倒したっ!!」」
2人の声に反応して、次々民家から人々が飛び出してきた。
人々の目は真っ先に首の無い魔物の巨体に釘付けになった。その後、血まみれになっているアルスとディーンを見付ける。
「あの子達がが、倒してくれたのか?」
「わかんないけど、剣持ってるからそうなんじゃないかしら?」
興奮している住民が次々話し出す。いつの間にか、広場の周りには住民がわらわらと集まって人だかりが出来ていた。
「俺様が協力してやったから倒せたんだ、有難く思え。」
ディーンが右足を重たそうに引きずりながら近くに来た。
「協力?馬鹿言うなって。お前が勝手に怪我して足引っ張っただけじゃんか。アレの何処が協力?」
ふんっ、と鼻を鳴らす。冗談じゃない。誰がこいつと協力するか。
だけど、とアルスは小さく呟く。
一人じゃ倒せなかったのも事実で。
そして、ふっと思った。
俺がパーティに誘われた時、ディーンが助けて(?)くれた。すごく怒ってたけど、もしかしたら心配してくれてたのかな?
複雑な気持ちでディーンを見つめた時、人だかりを避けてこちらに寄って来た老人がいた。
町長だ。
町長はうっすら涙ぐみながら頭を下げた。
「有難うございました。見てください、空が晴れて行くでしょう。呪いが解けたのです!」
その日は風呂に半ば強引に連れていかれ、そのまま感謝祭が開かれた。安心したトコロで疲れがどっと襲って来たんだが、住民達が休む事を許してくれなかった。
豪華な食事を用意し、騒ぎまくっていた。
次の日。2人の姿は町長の館にあった。
「さて。めでたきことです…これがお金、これが剣です。」
その声が耳にはいるや否や、アルスは金袋に、ディーンは剣に飛び付いた。
と、そこで思い出す。
「おいディーン!俺の大事な金袋返せよ。まだお前が持ってたよなっ?」
「さぁ、知らないな。」
「この馬鹿銀髪ッ!しらばっくれやがって!」
そのままもみ合いの喧嘩になる。
昨日の怪我もまだ治っていないのに、2人は町長の目の前で殴り合う。
「この人達は、仲良く出来ないのだろうか…。」
苦笑いを浮かべる町長。
やはり勇者同志、無理も無いのかもしれないのう。
じゃが、と町長は目の前にいる2人を見つめた。
この2人は、どこか似ている。似た物同士、仲良く出来そうなものじゃが。世の中には難しいこともあるのじゃな。
「失礼いたいます!」
突然、町長の部屋の扉が開く。2人の喧嘩も止まる。そこに居たのは、王国の兵士だった。
「あっ、君は!」
兵士はアルスを見て叫ぶ。城下町で声をかけて来た兵士だった。
しかし兵士はすぐに町長に顔を向けて敬礼。
「国王から、魔物が退治されたと聞き確認に参りました!」
「そうでしたか。いやぁ、実はこの勇者様2人が退治して下さったのですよ。」
アルスとディーンはふんっとそっぽを向く。
「俺様が一人で頑張ったんだ。」
「違うだろ!!」
すかさずアルスがつっこむ。
「だけどふたりとも、仲間がいない大変さが分かったでしょう?また城下町に来て酒場に行ってパーティを組んで下さいね。」
優しい笑顔を振りまきながら町長を振り返る。
「いくら勇者でも、1人で魔王を倒す事は出来ないですよね。」
「勿論ですな。」
町長がうなずく。これには2人とも思うトコロがある様で、苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。今回の戦いで、確かにパーティを組んだ方が良い事は分かった。
しかし、アルスは金を払うのは血反吐を吐く程嫌で。ディーンは他の者に頼るのが死んでも嫌で。つまりは、2人とも頑固なのであった。
「まぁ呪いも解けて一段落しましたし、ゆっくり傷を癒して下さいね。それから酒場で仲間を募って下さい。決まったら僕に伝えて下さいね、パーティ登録するのは僕の仕事ですから!」
勝手に話を進めないで欲しい。
アルスは今にも血反吐を吐きそうだった。金袋をディーンに奪われた挙句に、これ以上自分から金を奪おうと言うのか!!
「俺様は断る。」
兵士を睨みつけ、ディーンが強く言う。
「魔法使いも僧侶も武闘家も信用ならない。勇者が1番強いのだからな。」
つまりは、勇者の自分以上に信用できるものはいないと言いたいらしい。
「あっ、俺も断る!」
はいはいっ、と元気良く手を上げるアルス。
「真似すんな馬鹿黒髪。」
キッとアルスを睨む。アルスもディーンを睨む。また喧嘩が始まりそうである。
町長はハラハラした。
……しかし、そうはならなかった。何故なら。
「勇者しか信頼できないのですか?だったら2人でパーティ組めばいいじゃないですか!」
兵士の発した衝撃的な言葉に暫く思考停止したからだ。
気でも触れたのか、と思う様なあり得ない提案だった。それもそのはず。パーティと言うのは、勇者1人とその仲間たちの事を示すからである。
誰か考えた事があるだろうか?勇者2人で組んでいるパーティなんて。
「し、正気かよぉぉぉ⁉」
アルスは絶叫。ディーンなどは兵士に向けて剣先を向けていた。
「それはいいのう。名案じゃ。早速登録してやってくれ。」
今度は兵士に肩入れした町長に向けて剣先を向ける。
「誰がこいつなんかと手ェ組むかよっ。確かにディーンは腕は立つけどっ、」
ディーンを褒めてしまった事に気付き、慌ててアルスは付け加える。
「俺よりは弱いけどね。」
剣先がアルスの喉元に突きつけられた。ディーンの逆鱗に触れたらしい。
「何だと貴様…俺様が貴様より下だと?腐れ馬鹿黒髪。俺様は勇者の中でも1番強いんだ。」
凍える様な冷たい目線でアルスを射抜く。冷や汗をかきながらもアルスは平静を装う。
嫌な静寂が訪れた。その静寂を破り、はじめに口を開いたのは兵士だった。
「じゃあ、旅の中でどちらが上かどうか知って行けば良いんじゃないかな?魔物と戦いながら、どっちが腕が立つか。」
はぁ⁉とアルスは否定しようとしたが。
フン、とディーンは鼻を鳴らしレイピアを腰の鞘に収め、
「それはいいな。この馬鹿よりも腕が立つ事が証明出来るなら。…それにまだレベルも追いついてな……。」
その意見を肯定してしまった!
ディーンは言ってから失言してしまった事に気付き、帽子とマフラー同様に青ざめる。
「わかりました!すぐに登録して来ますね~。」
「「ちょっ、待っ……!!」」
アルスとディーンは引き止めようとするが、それも虚しく既に兵士の姿は見当たらない。
ふぉっふぉっふぉ、と町長の笑い声が木霊する。
2人は兵士を追いかけようとするが、あまりの衝撃に地に足が生えたように動かない。
「お前がろくに考えもせず答えるからこんな事になったんだッ!なんてことしてくれんだよっ、馬鹿銀髪!」
「うるさい腐れ馬鹿黒髪!元はと言えば、貴様が仲間を募っていないからこうなったんだろうが!今すぐ死んで詫びろ、馬鹿がッ!」
口々に罵る。
「それはお互い様じゃないかッ!お前が勇者しか信用出来ないとか言うからッ!」
「それは本当の事だ!勇者以上に強さを認められた者はいないだろうがっ。」
「うるさいっ!てか俺の金袋返せよこの泥棒っ。」
「盗まれる方が悪い!!」
会話から外されている町長は暫く2人のやり取りを聞いていた。しかしなかなか収まらないと推測し、黙って部屋から出て行く。
「さて。」
廊下に出たトコロで1人呟く。
「勇者2人のパーティとは聞いた事が無いが、……。」
フッと笑って、部屋を振り返る。
「この出会いが世界にとって、どんな運命をもたらすのか。もう少し生き延びて、見届けてみたくなったわい。」
勇者達が力を合わせて戦えば、魔王を倒せるのだろうか?
果たして、2人は仲良く旅をする事が出来るのだろうか。
金を求めし勇者と、力を求めし勇者。
相対する2人は出会い、運命は動き出す。
お読みいただきありがとうございました!




