表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

紋白蝶

作者: 怠慢ウサギ

お盆ですから不可思議な話を一つ。

高2の7月中頃、モンシロチョウがよく飛んでいた。

学校の中でも外でも、窓の外や運動場や植込みだとか、いつもは気にしないのになぜかチラチラ視界に入って来て正直ちょっと鬱陶しかった。


あと数十日で夏休み。教室では夏休みの計画を話し合う会話がチラホラと出始めていたが、演劇部に所属していた俺は夏の大会に向けて台本の確認やどの役を演じるかを考える為に授業を聞くフリをしていた。


午後、体育の授業はテニスだった。相変わらずモンシロチョウはフヨフヨ飛んでいたがその日はいつもより多く3〜4羽ほど飛び交っていた。



その日の晩、父が倒れた。


原因は脳内出血。過去に同じ事が2度あり、人工透析も受けていた父は以前決めた本人の意向により延命措置はせず、3日後に亡くなった。


初日の深夜、伯父が祖父母を車に乗せて高速道路を運転中に一瞬寝てしまい鹿と衝突、車が大破した。鹿は即死、しかし伯父と祖父母は無傷で親戚は父が護ったんじゃないかと言っていた。


2日目に窓に近い空いているベッドに移された時、ふと窓を見るとモンシロチョウが左から右へと漂って行った。額を窓に押し付けて後を追ったが既に居なくなっていた。この時くらいからモンシロチョウに嫌悪感を感じ始めていた。


3日目、いよいよ容態が悪くなり最期に伝えたい事を、言えなかった事を伝え、聞き遂げた後に父は息を引き取った。皆泣いていたが、幼い頃の父との約束で俺は泣くつもりは無く懸命に堪えた。

その日のモンシロチョウは下から上へ真っ白な曇り空に吸い込まれるように飛んで行った。



納棺から告別式、外に出るとやはりモンシロチョウが飛んでいた。嫌悪はすれど近づく気は全くしなかった。告別式に学校から担任や生徒会長と副会やら部活の先輩後輩同期やら、で、知らされる、劇の役が全部決まった事を。


出棺から火葬場までの道中、車中からあちこちでモンシロチョウを目撃した。最早不気味だった。


火葬場は毎日忙しいらしく、他に2家族が待機していた。


火葬後、骨壺は俺が運ぶことになった。涙は出なかった。あの日我慢した時からピタリと止まったままなのだ。

火葬場の出口の反対側に駐車場があるのだが、出口を出て角を曲がると少し長い直線が、その先はカクカクと軒下に沿って歩き駐車場に到着するのだ。この通路は軒下に沿って生垣が植え込まれている。

この長い目の直線を歩いた時、今までの事を思い出し顔を上げると屋根の上からモンシロチョウが降りてきた。

モンシロチョウはそのまま突き当たりの生垣の向こう側に消えた。

でもその時はいつもと違って全く違うチョウが出て来た。

真っ黒な羽に白い斑点が一つずつ、初めて見るチョウだった。

そのチョウはモンシロチョウが現れた時と同じ屋根の上へと飛んで見えなくなってしまった。


その後はずっとあの黒いチョウの事を考えていたと思う。

モンシロチョウもぱったりと現れなくなった。



もしかしたらあのチョウが父の魂を導いてくれたのかと、そう信じたい。


あとがき


実はまたたくさんのモンシロチョウを見るコトがあって、それが一年後に祖父(父の父)が亡くなった時、火葬場へ行く道中の車中からでした。

その日は高校最後の体育祭の日で色んな意味で凹んだ日でもありましたが、その時に見たモンシロチョウの数は父の時の比じゃなかったです。おそらく4〜5倍ほどでした。

祖父自体も不思議な人で、大の甘党で虎屋の羊羹を躊躇無く平らげたり、回転寿司で穴子オンリー10皿とか、町一番の太鼓の達人(寺の住職が仰ってらした)だとか、日本人なのかと疑うほど透き通った銀色の眼を持ってました。享年90歳。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 私の祖母から聞いた話ですが、曾祖父が亡くなった時、窓の隙間から入ってくる虫を殺さずに外に逃がした。祖母は「父が虫に生まれ変わって来てくれている」と言っていました。似たようなエピソードがあった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ