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第六話 魔王と勇者

 この解釈をしたヤツ、頭おかしいんじゃないか?!


 それが素直な感想だった。

 ああ、そうさ! 俺が確かに魔神に対し、惚れろとは言った。

 だがな、惚れるという感情を理解出来ないとか、あり得ないだろうが!


 この足元に転がって眠る魔王ことルシフェルは、恋心というものを理解出来なかった。

 愛おしい。大切。誰にも渡したくない。ずっと一緒にいたい。

 そんな、人であれば誰もが味わった事のある恋という感情。

 恋心。

 それが、こいつは理解出来なかったのだ。


 愛おしさや、ずっと一緒にいたいという思いをこじりにこじらせた結果、あろうことか俺を捕食しようとしやがった‼

 自身の中に俺を収めれば、それで未来永劫重なり合える。

 そんなあり得ない解釈を、この魔王ルシフェルはしやかったんだ。

 カマキリじゃないんだから、女が男をリアル捕食とかするんじゃねぇっての!



 そして、捕食しようと襲い掛かるルシフェルの力は、凄まじいものだった。

 周囲一帯の地形が変わってしまうほどに……。


 視線は光線となり、草原を焼き払った。

 指先からは稲妻がほとばしり、遠くの山々を砕いた。

 吐息は熱を帯び、森を炭化させた。

 その両手の抱擁は、浮く島を砕いた……。


 厄災に近いルシフェルの捕食行動ではあったが、新たな命令で上書きし、一応今は沈静化はしてはいる……。

 だが、不安は尽きていない。足元に転がる寝顔からは想像も出来ないのだが。



 だが、一つだけルシフェルの並外れた力のお陰で、自分の今の状況確認が出来たことが唯一の救い。

 自身自身に言い放った『最強』の言葉は伊達ではなく、魔王の筋力や瞬発力、耐久力すら凌駕する程に自身の身体能力は強化されていたのだ。

 ルシフェルから繰り出される、厄災に近い規模の近距離格闘や魔法による撹乱という攻撃を耐え、無傷で生き延びたのだから。

 自分が普通の人間であったなら、とっくに肉片として腹の中に収まっていただろう。



 このご都合さ、この効果、そしてこの無茶苦茶な展開。

 自身が授かったのは、勇者としての力で間違い無いだろう。

 だが、スキルを授けた人間に俺を選んだ事に問題があったな。

 とんだ大間違いをしたものだ。

 普通に召喚されたとしても、俺が世界を救うはずがないじゃないか。


 ふと、あることに気が付く。

 最初の段階で、ルシフェルは間違いなく力を失っていた。

 そして自身がやった事、それは強化などではなくただの力の開放。

 つまりあのルシフェルが持つ力は、従来から持っていたものとなる。そして死を望んだ時のルシフェルは、力を失い絶望していたのも間違いはないはずだ。


 では誰が力を封じたのか?

 これだけ桁が違う魔王の強大な力を……だ。

 神の位に匹敵するはずの魔王としての力。そんな彼女の力を完璧に封じた者に興味が湧いた。


 

 足元に眠るルシフェル本人に聞けば良いのだか、目のやり場に困る姿をしている。

 これって、良くあるパターンじゃないか。

 美女が起きて、服がはだけてて、頬を叩かれるパターン。


 ……一応説明しておくと、黒髪で色白の美女が足元で寝てる。はい、以上。

 ……これ以上はエロじゃない、俺の役得だろ?

 背にコウモリみたいな羽根が生えてて、頭にはカールした角が左右にある。あとはない。つまり、全裸だ。


 少し位触れても……まあ、問題は無いだろうが……。

 相当に高くなったヘタレレベルが、全力で本能を妨害しやがる! くそが!


「女性服よ、出ろ!」


 反応がない。

 たしか、水も出なかったよな。

 と、なると。……ゼロから何かを産み出すことは出来ないと言うことか? ならこうだ。


「俺の吐息はバラだ」


 うむ。吐く息はバラの花びらになったな。

 ん? 通販でやってたんだよ、これ。

 もちろん、元の世界での話だから、花びらになる訳がない。


 さて……と。

 自ら着ていた白いTシャツを脱ぐ。

 ……良く見たらこのTシャツ『go to hell』とか書いてある。

 まあ、いいや。


「このシャツは、女性服となれ」


 Tシャツが白い光を放ち、その形を変えて行く。

 光が収まると、白いワンピースへとその形を変化させていた。

 誰の趣味なのかは分からないが、もう何も言うまい……。


 その服を足元で丸まって寝ているルシフェルへと着させる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……はぁ、はぁ」


 これほど大変だとは、思っていなかった。

 寝ている人……ではないが、服を着させる事が。

 触ってしまったのは、不可抗力だから許される。

 うむ。しかも本人は寝ているのだから、記憶もない訳だし!


 汗を拭い、目覚めをうながす。


「……いい加減に、起きろ!」


 苦労も知らずに眠る魔王に、少しの苛立ちが言葉になった。

 行きなり飛びかかられても困るので、少し身構えておく。

 何やらむにゃむにゃ言いながら、ルシフェルは目を覚ます。


 上書きした情報は、「俺を喰えば、絶対に俺は手に入らない。分かったら寝ろ!」こんなんだった。

 台詞を話している時くらい、攻撃の手を休めてくれても良いだろうに……。涎を垂らしながらの問答無用で攻撃してくる姿には、流石に引いた。


「あ、お早うございます」


 う、うむ。なんか普通だな? 良いことなんたが。


「変わりはないか? ほれ!」


 そう言いながら、腕を差し出してみる。


「やめて下さい。そんな、おいし……素敵な腕を差し出すのは!」


 言い直したな? まあ、まだ襲い掛からないだけ良いか。


「俺を食おうとはしないのか? ルシフェル」


「へっ? だってそんなことをしたら、アタシはあなたといられなくなる」


 一応指示は理解したのか。


「だから、一番近くに居ることにした。アタシの中に収めるのではなく、一番近いその隣に……」


 そう言いながら、頬を染めたルシフェル。

 大人の女性であるのは間違いがないのだが、仕草や言動は子供のように幼さを感じる。


「まあ、良いか……。所で一つ聞きたい。お前の力を封じたのは何なのだ? 神か?」


 ルシフェルはさも当然のように、質問に答える。


「アタシだけじゃなくて、アタシ達魔族全ての力を封じたのは前回の勇者だよ」


 ふっ。前回かよ。

 乳女神の余罪が立証されたな。

 わざわさ異世界から勇者として呼び出し、こっちの世界のバランスに介入する勇者という存在。


 既に事切れたから自身が選ばれた可能性も高いが、世界に勇者が残した物もあるだろう。

 勇者の持つ力の質も気になるが、異世界から呼ばれたであろう勇者としての足跡も気になる。記録があれば、その者の想いも分かるはず。


 神に対する復讐は決定事項だか、どこまでの苦しみを与えるかは余罪の数と質で決めてやろうじゃないか!


「くっくっく」


 思わず笑みが漏れてしまった。

 こんなんでは、ダメだな。

 俺はこれから、勇者を崇めその足跡をたどる一人の青年となるのだから。


 

 


 

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