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第一話 常識破り、異世界に立つ

「くっそっ?! 何処だ、ここ?

 ……あの乳女神め……! マジで俺を転移させやがったのかっ! ふざけんな!」


 翼を持つ異形の生き物がはるか上空を飛び、「ピギャア!」と間の抜けた鳴き声を上げた。

 巨大な島々がいくつも宙に浮き、流れる川はそのまま空へと注いでいる。水はやがて飛沫となり、虹のアーチを形成している。

 ゲームや物語の中だけに存在する空想風景である筈なのだが、風景の色鮮やかに彩鮮やかに広がる目の前の風景は、ここが間違いなく日本の都心ではないことを如実に物語る。それどころか、この常識との解離っぷりは、ここが異世界であると確信させる条件を十分に満たしていた。


 俺は、奥歯をギリギリと音が鳴る程に噛みしめ、拳を固める。この世界へ転移させたある人物を思い描いて。


「あの乳女神は……絶対にぶっ飛ばす‼」


 静かに吐き出された決意の言葉……。

 誰に聞き届けられるはずもなかったが、自身の胸へ深く刻み込まれた。


 異世界へ転移させられ、早々に出来た目標。

 異世界に転移させられ、早々にこれほどに明確な目標を持った者はいないだろうな。


 しかし、あの乳女神の言葉では、何度もこんな転移や転生をやっているような口振りだった。

 何処かの誰かであったとしても、やはりこんな理不尽な転移など許せない。

 望んで異世界に行きたがる奴などいるはずがないんだ!


 勝手に勇者として吊し上げられ、世界を救って欲しいなどと抜かしやがって! 全くもって冗談じゃない。

 だが少し気になるのは、あの乳女神がまるで転移し勇者として世界を救う事が当然であるかのように話していた事だ。どう考えても普通じゃないのに。

 となると、異世界召喚する一連の魔法には被召喚者の洗脳効果も含まれているのだろうか。ますます気持ち悪い手段としか思えないな。


 つまり、そうか! そうなんだ!

 ライトノベルなんかで良くあるパターンがこれだったんだ! 

 突然神とか女神の前にいきなり喚ばれ、ロクに説明をされなくても適当なスキルとかギフトとかを貰い世界を救う勇者になるとかいう物語は洗脳されているという設定があったからなのか!


 だがな、乳女神よ。残念ながら、俺は違うぞ。


「残念だったな、乳女神! 俺は世界など救わない! そうだな……俺は常識破綻者として、貴様等神の常識をぶち壊してやるよ!」

 

 高らかに神に対して宣言してやったぞ。呪いの言葉を。

 言葉は島々を吹き荒ぶ風に乗り、世界に届いた筈だ。

 そう。曲がりなりにも、奴らは神という名を冠しているんだ。全知全能ではないにしても、俺ごときの声が届かぬ筈もないだろう。


 俺は乳女神の慌てぶりを想像し、右側の広角だけを上げる。


 俺は決して目立つ存在ではない。どちらかと言えば目立たず暗い印象を持たれる事が多かった。

 細い体躯に、短髪黒髪のごく普通の日本の大学生。見た目だけなら、まあ害の無い日陰男だ。

 だが今この瞬間、そうではなくなった。

 内に秘めた想いは、神を貶めること望んでおり、それを前提とした思考をする。言葉は世界を汚染する呪いを吐き、行動は神の世界を破壊する事を前提として動く。


 俺は不敵な笑みを浮かべたまま、乳女神の口走った言葉を思い返す。


『貴方は勇者としてこの世界に転移させました。どうか、どうか。世界をお救い下さい』


 確かこう言っていた。

 では世界を『すくって』やろうじゃないか!


 さて、本当に世界は『救われる』のか?

 それとも『世界の足元を俺に掬われる』のか?

 『世界が俺に巣食われる』もかもな。


「あーはっはっは。とんだ勇者を転移させてしまったな!」


 色彩鮮やかな景色とは全くもって釣り合わない、神を冒涜する言葉。その乾いた笑い声は、周囲に響き渡っていた。


 

 

 


 

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更新頻度に影響するかも知れません。

が、こんな物語は需要あるのでしょうかね……


また、本日中にもう一話更新予定です。

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