file1.失踪
「--上代君、ちょっといいかね?」
そう呼ばれ、振り返る。部長だ。
「何でしょうか部長」
「捜査してほしい事件があってな。君にしか頼めないことなんだよ」
「俺にしか頼めないこと、ですか?」
俺にしか頼めないこと?一体どういうことだ?
「ああ、現在、夜宮村で発生している失踪事件を調べて欲しくてな…」
「失踪事件?それならその地区担当の地域課が担当すれば…」
その言葉を遮るように部長が言う。
「それがな…無理なんだよ」
「無理?どうして?」
「夜宮村は噂があってな…その地区担当の刑事が誰も行きたがらないんだよ…」
何て身勝手な。
「それで、どんな噂なんです?」
「村の入り口付近で夜に長身の女を見ただとか化け物を見ただとか…怪しい噂が絶えないんだよ」
「怪物?」
過去の出来事が頭の隅を横切る。忌々しい過去の記憶。
結局あの化け物は何だったのか、まだ分かっていない。
せめて正体を掴むことさえ出来れば…
「ああ、何でも長い爪を持ってて二足歩行の生き物らしくてな。まだ正体がわかってないんだよ」
長い爪で二足歩行…行くしかない。行って、確かめるしかない。
「部長。俺、行きます。その村に」
部長にそう告げ、自分のデスクへと戻って行った。