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9話

 天狗はいるらしい。なら、やっぱりいるならお社だよね?


 天狗の社の木陰、適度に座りやすい岩を詩織が指さし「あそこ座ろ」と駆けてゆく。日差しは強いが木陰が光を程よく防いでくれる。

 暑いのだけど、生暖かいながらも風が吹くので割と心地がよい。

 詩織が自分の買った駄菓子の中からスナック菓子を取り出し、お社にお供えしていた。

 

 「天狗さん、天狗さん、つまらない物だけど食べてくださいね」


 手を合わせ目をつぶって祈る詩織の姿を見て、私もそれに習うように買った駄菓子からチョコレートを選びお供えして手を合わせる。

 そよそよと頬を掠める風を感じながら。

 「気持ちいいねえ」

 「いいねえ」

 そんな事を二人で言い合いながら、二人でのんびりと沢山の話しをした。学校の事をいっぱい教えてくれたのは新学期の不安を取り除いてくれようとしてだと思う。

 優しい良い子達ばかりだからすぐ皆と仲良くなれるよ、って言ってくれたのはちょっと有難い。

 詩織がそういうならきっと本当に皆優しい良い人達ばかりなのだろう。


 楽しい時間は過ぎるのが早くて。あっという間にお昼がきてしまった。

 そう言えばお昼どうするんだろう? この町にはファーストフード店やカフェみたいなお店はないみたいだし。ううん、私が知らないだけであるのかも?

 「お昼だね。一度ご飯食べてからまた遊ぼうよ! 他にもおすすめの場所があるんだ~」

 ぐーとなったお腹を押さえて詩織が言うので、お察し。やっぱり気軽に入れる飲食店はないのかもしれない。


 お昼は素麺。帰ったらばぁちゃんがお昼ご飯の準備をしてくれていた。

 じぃちゃんとばぁちゃんと私、テレビを見ながら素麺をツルツルとすする。外では蝉が大きな声で鳴いていて夏特有の空気というかなんというか。ただそれだけなんだけど凄く落ち着く。

 のんびりと食事を終えて部屋に駄菓子を置きに戻るとイトがいた。

 「あれ!? どうやってきたの!?」

 「茶々に迎えに来てもらったー」

 横になってゴロゴロしていたイトが顔だけ起こして答える。随分くつろいでいる様子なので何だかちょっと嬉しかったりする。

 「そっか。私、またお出かけしなくちゃならないのだけど……」

 早めに帰るようにするからこのまま居てくれる? なんてお願いするのは図々しいだろうか?


 「そっか、じゃあ僕帰るよ」

 「え!? 帰っちゃうの!?」

 急いで手で口を塞ぐ。自分は出かけるのにこんな事言うのは勝手すぎる。

 「……待ってていいなら待ってるけど……」

 「じゃあ! なるべく早く帰るから待っててほしい!」

 

 イトだって忙しいのは分かってるんだよ? でも色々お話ししたいじゃない? だって私にとってイトは初めての友達だし。だからちょっと強引かなと思いつつも強く言ってしまいました。

 イトは特に気にした様子もなくにっこりと微笑んでくれた。

 「うん、じゃあ待ってる」


 やったあ!

 「じゃあ、お茶用意するね! あ。そうだ。駄菓子買ってきたんだった! イト好きなの食べて!」

 イトの前にざっと駄菓子を並べると急いで階下に行ってお茶と小皿を用意する。うーん、やっぱりイト用のカップとか食器が欲しいなあ。


 部屋に戻るとスナック菓子が部屋に散乱していた。それを呆然と見つめる青い顔をしたイト。

 「あ。叶、ごめ……袋を開けようとしたら……」

 「いいよ、いいよ。大丈夫。こんなの掃除機かければ平気だよ」


 そう。こんな事はたいしたことじゃないのだからそんなに気にしないでほしい。大丈夫だよーって頭なでなでしてあげたいけど、それはやってはいけないよね。たぶん。

 そもそもイトでは袋をあけるのも大変な労力だったに違いない。私が袋を開けていけばイトにこんな顔させずにすんだのにと深く反省。

 「こっちのお菓子の袋もあけちゃおうか。転がったものは片づけるね」

 新しい駄菓子の袋を縦に開いて取りやすく置く。散乱した物はとりあえず集めてゴミ箱の中に。掃除機は……うーん、今かけとこう。虫わいちゃいそうで怖い。

 「ごめんね、ちょっと五月蠅くするけど」

 押し入れから掃除機をとりだすとイトがしょんぼりしながらもう一度「ごめんなさい……」と声をかけてきた。ああ、やっぱり掃除機後にすればよかったかー!

 「ううん! 全然大丈夫だよ! そんな事よりイトが遊びに来てくれて嬉しい!」

 

 「あ、違う。僕、遊びにきたんじゃないんだよ」


 遊びにきてくれたのだとばかり思っていた私としては凄くショック。用があってきただけなのか。

 「あ、そうなんだ……。ああ、それじゃあ待たすの悪いしイトの用事、すませちゃおうか?」

 「ん。いや、ちょっと話したい事があるから後ででいいよー」

 「そう? ……ごめんね、なるべく早く帰るから」

 「いやいや、ごゆっくり。楽しんできなよ」


 なんて話してると。

 「叶~。詩織ちゃんきてるでよ~!」

 階下からばぁちゃんの大きな声。私も大きな声で「はーい!」と返事をする。


 「じゃあ、行ってくるね」

 「うん、気を付けて」


 気を付けてでふと思い出した。


 「あのね。今日、誘われて天狗さんのお社行ってきちゃったよ……ごめんね」

 「そう? なんで謝るの。別に叶がやりたいようにやればいいよ」

 「でも折角イトが――」

 「叶、変。自分で考えて自分で決めた事でしょ。僕はただ忠告しただけ。どうするかは叶の判断だろ?」

 

 私をじっと見つめるイト。私にはイトが何を考えてるかはわからない。こんな時どうしたらいいのかわからない。


 ただ深くため息をつくとイトは駄菓子を掴み口に放り込んだ。もぐもぐと口を動かし食べ終わるともう一度私をじっと見つめた。

 「友達が待ってるんじゃないの? 叶、行ってきなよ」

 ニッコリと微笑むイト。


 いつも通りのイト……だよね?




 

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