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8話

 言葉は難しい。だから話すのは苦手。

 何気ない一言で簡単に人を傷つける事ができるから。


 「叶。お友達がきとるよ」


 ぼんやりと寝そべって天井を見つめていた私はばぁちゃんの言葉にハッとして身を起こした。

 イト!? ……そんなわけないか。


 「ゴロゴロしとらんで遊んでらっさいな」

 ばぁちゃんの小言。子供は元気に外で遊ぶものと思っているのかよく言われる。私はインドア派なのになあ。

 けど、たまになら小言も悪くないかもしれない。

 そう言いながらばぁちゃんはお財布からお札を五枚とりだし私に渡してくれたのだし。

 

 「あ、ありがとう!」

 お札をポケットにしまい、とりあえず玄関に向かう。そういえば友達って?


 「叶、遊びにきたよ!」

 玄関にいたのは緩く巻いたふわふわの髪の可愛らしい女の子。見たことないんだけど?

その女の子は私を見てポカーンとした。

 

 「叶……家では学校ジャージなん?」


 あ。前の学校のジャージ。もう使わないし部屋着にしたんだ。程よいくたびれ感が肌に心地よくお気に入り。……というか、もしかして。


 「詩織……ちゃん?」

 「詩織でいいって言ったのに~!」

 「え? え!? なんだかこの間と全然違うよ!?」

 「そりゃあさあ。学校の外でまであんな恰好はしてないでよ~」

 

 そう言いながらキャラキャラ笑う詩織。なるほど、こっちが本来の姿なのか。


 「ね? ちょっとお散歩しようよ、ご近所だしそのままでさあ」

 「んー。わかった。ちょっとばぁちゃんに言ってくるー」


 さすがにこのジャージで外に出るのはどうかとも思ったけど。まあいいか。服なんて着てさえいればなんでもいいよね。

 ばぁちゃんに「出かけてくる」と言うと私の頭からつま先までジッと見た後「今度、町に服買いにいこうね……」と複雑な顔をして言われたけどもねー。


 「お菓子屋さん寄って天狗さんとこで食べよう!」そう言いながらスタスタ歩く詩織。


 天狗さんか。イトには気をつけろって言われてるんだけどな……。折角出来たばかりの友達に行きたくないなんてとても言えない。


 「詩織、は天狗さんのところが好きなんだね」

 さりげなく呼び捨ててみました。全然さりげなくなかったから詩織にニヤリとされてしまったけど。


 「うん、あのね? んー……」

 口を濁す詩織。なんだかとても言いづらい事らしい? そのまま黙ってしまったと思ったら急に私の方に顔を向けじっと私を見つめる。

 一体どうしたっていうの!? ちょっと怖い。


 「うち……天狗さんの事、好きなんよ……」


 顔を真っ赤にしてうつむく詩織を見て……私は、どうすればいいのでしょうか……?


 「変だよね!? 変だってわかってるけども! 好きなのはしょうがないやんね!?」

 怒鳴るように話す詩織の目に涙がたまっている。


 「詩織は天狗さんに会った事あるの?」

 「ない。けど。好き……」


 会った事もない人を好きになるなんて私には理解できないけど。

 彼女の言う好きとはどういう意味での好きなのだろうか。憧れ? 恋? どちらにしても。

 「いいなぁ……」

 思わず口をついてでた言葉。詩織は驚いた顔をした後、本当に嬉しそうにニッコリと微笑んだ。

 あまりにも可愛い笑顔に見惚れてしまう。

 天狗さんが本当に女好きなのだとしたら、さっきの笑顔をみたらきっと詩織の事好きになるにちがいない。

 「ね。叶は? 叶の彼氏はどんな人なん?」

 

 え”? 彼氏なんていませんが? いない歴=年齢ですが?


 その後、詩織の怒涛の質問攻めが始まる……。

 「年上? あ、もしかして年下とか!? やんちゃな弟タイプ……うん、ありやね。いや、でもやっぱり髭の似合うイケメンおじさん……お洒落なカフェのマスター! うんうん! いいよねいいよね!! 眼鏡のインテリ大学生とかも……きゃああああ!」

 「遠恋だと叶から電話かけちゃう? それとも彼氏から毎日電話かかってきちゃう? 毎日愛してるとか囁かれてたりするん!? うひゃあ!」

 「彼氏とは……いや! やっぱりいいや!」

 「ね。どんな人なん? 写メとかないん? 見ーたーいー!」


 口を挟む間もなくついた場所は古ぼけたお店。

 木の扉をガラガラと開けると色々な駄菓子が並んでいた。

 一番最初に目についた色とりどりの飴は――うん、イトが食べるにはちょっと大きいよね。


 「ねえ、叶! 勿体ぶらないで見せてよぅ~!」

 お菓子屋さんについたけど、彼女の興味は未だ私の彼氏の事らしい。


 「……いないよ、彼氏」

 「えー!? やっぱ遠恋きびしいから別れてしもたん?」

 「ううん、そうじゃなくて。彼氏はずっといません」

 「そっかぁ。何か月くらいおらんの?」

 「いや、あの。生まれてからずっといないよ」

 「!?」


 何故こう「彼氏いなくてすみません」みたいな気持ちになるのだろう……。

なんとなく詩織の顔が見れなくて駄菓子に視線を向けながら答えた。


 折角だからイト用に何か買いたいのだけどどれもイトが食べるには大きい。小さく分けれる物を選ぼうと思うけどどれがいいのかなあ。イトの好みもわからないし。


 とりあえずは黄色の綺麗な飴。かなり大きい。10円玉大の丸い可愛らしい飴は人間でも苦労しそうな大きさだ。

 そしてスナック菓子。これなら小さく分ける事も可能でしょう。

 あとは何だかよくわからない薄っぺらいもの……イカ? これが?

 他にもちょこちょこ買ってたら合計で300円ぐらいになりました。安いね! 駄菓子!


 「あはは!」


 無言だった詩織が大笑いしだした。私を見て。何?


 「真剣に選びすぎ! なんかホンット、イメージと違うよね。叶って。良い意味でよ。私、叶と友達になれてよかった」


 そんな風に言って貰えた事なんてなかった。そんな風に思って貰えるなんて思わなかった。例えその言葉がただの軽い気持ちでのものだったとしても。

 

 「私も詩織と友達になれてよかった……」


 私は強くそう思う。


 お菓子、私結構いっぱい買っちゃったのだけど、詩織はスナック菓子1袋と板チョコ1枚買っただけ。私、ちょっと買いすぎちゃったかな、なんだか少し恥ずかしいや。


 で。お菓子をもって天狗さんのお社へ。


 ――天狗の社には近づかない方がいいよ。

 

 イトの言葉を思い出す。

 理由は教えてくれなかったけど。

 社を目の前に不安が心に重くのしかかる。


 社、ついちゃったけど……いいのかなあ……。



 


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