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7話

 小さなイトが大きくなった!


 見下ろしてたイトを今、私はほぼ同じ高さの視線で見つめている。

思ってた以上にこうやって見るとイトは……かっこいい。可愛いじゃなくてかっこいいから驚きだ。

 

 イトの手が私に伸びて強く引き寄せる。

私はイトの胸にスッポリと収まり……あれ? なんだこの状況。


 「泣かないで。僕、叶を喜ばせたかっただけなのに……」

 そう言いながら頭を優しく何度もなでてくれるイト。人の胸の中がこんなに落ち着くものだなんて思わなかったなあ。人の手がこんなに優しいなんて思わなかったなあ。

 涙によって吐き出された感情に、イトの温かさがじんわりと染み渡るような気がする。


 「イトが使った魔法、分かったような気がする。あの真珠のようなものは……優しい思い出を見せてくれる魔法なのかな?」


 「うん、ちょっと違うけど。叶が寂しそうだったから一番楽しい思い出の魔法なんだよね……おかしいな」


 「そっか……うん、なるほど」


 こんな私にも楽しい記憶はある。とっても小さな頃、近所には仲の良い男の子がいて。その子のお父さんもお母さんもとても優しくて、私に親切にしてくれた。

 ある日、一緒に遊園地に連れて行ってくれたんだよね……それが私の一番楽しい思い出。

 だからこそ、私にとってはとても思い出したくない辛い記憶。


 幸せな思い出が良い思い出とは限らないんだよ……その言葉を私は飲み込む。


 大丈夫だよ、昔の事だもの。イトが私の事を考えて私の為に使ってくれた魔法だもの、その気持ちがとても嬉しい。

 顔をあげてイトの顔をじっと見つめるとイトが心配そうに私を見つめていた。

 「イト、ありがと」目から溢れる涙を止める事はできなかったけど、私は精一杯微笑んでお礼を言う。


 イトは納得してないみたい。そりゃそうだよね、楽しい記憶の魔法を使ったはずなのに何故か私は泣いてるんだから。

 それでもやっぱりイトは大人だ。

 何も聞かずに私をギュッと抱きしめて頭をなでてくれるのだから。


 でもさ、これ。


 時間がたって落ち着いてくれば妙に気恥しいのだけど。

相手はイトだけど男性に抱きしめられるなんて初めての事。私、汗臭くないかな、大丈夫かな? シャンプー、特売の安物使ってるんだけどもっといい香りのシャンプー使ってればよかったな。


 てか。イト、いつ離してくれるのかな。


 ふいにイトの手が、体が私から離れていく。まるで突然消えてしまったかのように。


 「ん。時間切れです」

 声のする方、目の前……かなり下に視線を移すとそこには小さなイトが顔を真っ赤にして立っていた。


 うん、いつものイト。大きなイトはとってもかっこいいけど、私は小さな可愛いイトの方が落ち着くなあ。大好きだなあ。


 「あはは。時間制限とかあるんだ?」


 「まあ、体調、体質にもよるけどせいぜい3~5分ってところ。改善の余地ありだよ」


 「大きくなる魔法があるなら小さくなる魔法もある?」


 「あるよ。いや、ダメ。内緒。企業秘密です」


 うふふ。可愛いなあ、イト。ある、って言っちゃってるのに内緒にするところがもう愛おしい。顔がつい緩んでしまう。


 「さて、帰るか。ごめんね、叶。次こそは叶を楽しませてみせるよ」

 

 茶々が急にのっしのっしと歩きイトの前で止まると、当たり前のようにイトは茶々の背によじ登り始めた。

 「もしかして茶々に乗って帰るの?」


 「ん。茶々が運んでくれるってさ」


 「仲良しだねえ。ちょっと羨ましいな」


 「なんで? 茶々と叶も仲良しだろ? それに僕も」

 

 イトを乗せた茶々がのっしのっしと歩いていくとイトが私にむかって笑顔で手を振ってくれた。

私も手を振り返しながらイトを乗せた茶々を視線で追う。

 「またね」小さく呟く。また来てね。また来てくれるよね? また来てくれるかな? そんな事を考えながら。


 


 



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