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6話

 改めてイトを私の部屋にと招待し、私は階下におやつを取りに来た。お友達にはおもてなししないと!

でも私はあまりお菓子をたべない人。飲み物もジュースよりは紅茶やコーヒー、お茶なんかを好むわけで。


 家にあるのは羊羹とかおせんべいとか……じぃちゃんのおやつしかないんだよねえ。そりゃあ羊羹やおせんべいは美味しいけどもさあ、どうせなら変わったお菓子とかだしてあげたい。飲み物も普段飲まなさそうなジュースとか。


 でも無い物はどうしようもないので、お茶と羊羹をもって行く。羊羹はかなり小さく切り刻んだし、お茶もやっぱり小皿にいれてなんだけど。


 うーん……人形用のミニュチュアサイズのカップとかお皿とか買っちゃおうかなあ。だったらテーブルとか椅子とかもあったらいいんじゃないの!?


 なーんて興奮しながら部屋に戻ると寝転がってくつろいだ様子のイト。ふふっ、やっぱり可愛いなあ。


 「おまたせー」


 「む。なんだ? ……イモ?」

 鼻をひくひくさせながら私の方に向いて座り直すイト。


 「すごい! 正解だよ、芋羊羹もってきたよ~。お芋嫌いじゃないといいんだけど……」


 「わーい。イモ好き!」


 「よかった。お茶ももってきたよ。また小皿で悪いけど」


 「いやいや、おかまいなく。……何?」


 イトが『おかまいなく』なんていうからつい噴き出してしまったんだけど、その様子に気づいたイトが不思議そうに問いかけてきた。


 「いや、だって何だか……イト、人間くさいんだもの」


 「そりゃあね。そんな変わらないよ、僕ら」


 そっとイトに羊羹とお茶をさしだすと、いつの間にかいた茶々が羊羹に鼻を寄せてくる。

 「あ、茶々ダメよ……って!」

 うわあああああ!

 私は声にならない叫び声をあげながら茶々を急いで抱きかかえた。なんて危ない! 


 イトもさぞや驚いた事だろう、と思ったけど、彼は平然と羊羹を食べている。


 至福の表情で。


 呆然と見つめる私に気づいたイト。

 「ん? あ。 ごめんごめん。言うの忘れてた。茶々とはもう友達だから大丈夫だよ」


 え? いつの間に? そんな簡単に友達になれたりするもの? 動物と友達になれる秘訣とかがあるのだろうか? それともイトだから出来る事なのだろうか?


 「動物と友達になるのにはコツがあるんだよ。まあ、人間には内緒」


 むぅ。教えてくれてもいいのに……ケチ。でも、人間とは友達になってはいけないっていう規律があるみたいだから教えられるわけないか。納得納得。残念だけど。


 ぶにゃあ、と茶々が不満そうに鳴く。あー、はいはい。離して欲しいんだよね。

 でもさあ。


 茶々の顔を見つめながらぼぞりと呟く。

 「いいなあ。私も動物と友達になれたらなあ。茶々、私とあなたは友達だよね? そう思ってるのって私だけなのかな……」


 「茶々は叶の事大好きだってさ」

 イトがモグモグ口を動かせながら話す。


 「イトは動物の言葉、わかるの?」


 「まさか。ただなんとなく感情が理解できるんだ。怒ってるとか悲しんでるとか、好きだ、とかね」


 「茶々は私の事、好き……?」


 「ううん。大好きなんだってさ」


 「……そう。そっかあ……。私も茶々、大好きよ」

 嫌がる茶々の耳を唇で挟む。はむはむ。不満の鳴き声をあげ、大暴れをする茶々がスルリと私の腕から抜け出してしまった。もうっ、このツンデレさんめ。


 「ご馳走さまでした」


 見ると羊羹を食べ終え、お茶もすっかり飲み干してしまって満足そうなイト。可愛い。見てるだけで和む。

 「おかわりもってこようか?」


 「いやいや。ちょっと寄ってみただけだし今日はそろそろ帰るよ」


 「え!? もう帰っちゃうの……?」


 「こう見えて多忙なんでね。あ、そうだ。叶、これ、食べてみて」

 

 イトがポケットから小さな包みを取り出して開いて見せた。

目の前に差し出されたそれはとても小さくてお米粒よりももう少し小さいぐらいの……丸くてツルツルしててまるで真珠のような何か。


 何だろうこれ。食べ物? にしても、こんだけ小さくては食べてもきっと味も何も感じないよ。と思いつつもそんな事を言えば折角のイトの好意を無駄にしてしまう。

 もちろん私は「ありがとう、頂きます」と感謝の言葉を口にしたわけだけど。


 「まあ、ちょっと待って」


 「え?」


 「目を閉じて。『いいよ』と言うまで絶対に目を開けないで」


 私の頭の上にはきっとクエスチョンマークが浮かんでいる事だろう。わけもわからずイトの言うように目を閉じて待つ。


 「はいはい。目を開けていいよ!」


 目を閉じていたのはわずか10秒ぐらい。最初に目に入ったイトは何故か得意げな顔をして満面の笑みを浮かべている。


 「はい、召し上がれ」


 彼が指さした方向、芋羊羹を乗せてきた小皿の上には先程の真珠のような何かが置いてあった。

しかし先程のとはサイズが違う。ビー玉ぐらいの大きさになっていたのだ。


 「……あれえ? 大きさが……」


 「ふっふっふ。これが魔法というものだ!」


 「!? イト、魔法使えるの!?」


 「……冗談だよ。魔法なんて使えるわけがない。ん、でもまあ人間にとってはこれも魔法なのかな。ってか叶は何でも簡単に信じるよね。騙されやすそうで心配になるなあ」


 「簡単に信じてるわけじゃないよ、イトの言う事だから信じるんだよ」

 イトの顔が赤く染まる。照れてるのかな。


 「ま、まあ、それはいいから。食べてみてよ」


 「うん」


 見た目的には真珠。食べ物だとしたら飴みたいな物かな? なんて思いながら口に含む。

 口に入れた途端、溶けてなくなってしまったそれは確かにほんのりと甘くとても優しい味がした。

ふんわりと鼻孔をくすぐる何故かなつかしい匂い。


 「あれ? おかしいな……叶、ごめん。だいじょうぶ?」


 「え?」


 「人間には合わないのかな……、ちょっと待ってね?」


 ポケットからさっきの物とは違う、小さな赤く輝く粒を取り出し飲み込んだイト。

何だろう、視界がぼやける。にじむ。ぽろりと何かがこぼれる。あれ? これ、涙? 私、泣いてるの? ああ、だからイトが『だいじょうぶ?』って聞いたのか。


 でも、私、大丈夫じゃないみたい。


 イトが。

 あの可愛いイトが。


 今、私の視線と同じ視線で心配そうに見つめ返している。

私の頬に触れる手は私よりも大きくて力強い。私の涙を拭う親指は意外と長くてゴツゴツしている。


 「気のせいかな? イトが大きく見える……」


 「まあ内緒なんだけど」

イトがニッコリと微笑む。あの可愛い小さなイトと同じ笑顔。


 「これもまあ魔法みたいなモノかもね」



 


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