5話
なんでだろう。
皆と同じ制服を着ているのに、何故か妙に注目されている。学校中の生徒が私を見ている気がする、と思うのは自意識過剰と言うものなのだろうか?
一番最初に声をかけてくれたのはクラス委員の田所詩織さん。今時の子とは程遠い、三つ編み、眼鏡な真面目そうな女の子だった。
退屈な先生の話を聞き、掃除をすると今日は終わり。さっさと帰ろうとした私に田所詩織は「うちの家、同じ方向やけん一緒に帰ろ~」と誘ってくれたのだ。
他の子達はチラチラ見るものの声をかけてくれないから、早速孤立したのかと寂しく思ったのだけど。
実は朝緊張して道をよく見てなかったので帰り道の記憶がかなりあやふや。一緒に帰ってくれるというのもかなり有難い。
「佐東さん、こっち。天狗さんとこ寄ろ」
天狗?
意味はわからないが言われるがままに田所詩織の後をついていくと木々に囲まれた神社にたどり着いた。
広く、小ざっぱりとしている。心地のよい風がゆるやかに流れていてなんだかとても落ち着いた気持ちになれた。
「ここね。天狗さん、奉っとんよ。心地いい風吹くのは天狗さんがおるからなんやて」
おぉ? 天狗さん? 小さい人だけじゃなく天狗さんもいるなんて凄い! いいなあ、天狗さんにも会ってみたいなあ!
「……信じたの?」
「え!? 冗談なの……?」がっかりする私。
「いや、冗談ちゃうよ? でも、佐東さんみたいな人はこんな話信じんかと思てた」
「私みたいな?」
「佐東さんみたいな綺麗でおしゃれで……いかにも都会人みたいな人。でも……佐東さん、思ってたような人と違うみたい」
うん、違う。綺麗でもないしおしゃれでもない。そもそも同じ制服きてるんだからおしゃれも何もない気がするけど。都会から来たというだけでそんなイメージを持たれてしまうのか。
「天狗さん、もの凄い女好きなんやて。女の子には甘いらしいから佐東さんもお願いしたらええよ」
そう言って笑う田所詩織。私も一緒になって笑う。女好きの天狗さん、どんな感じなのかなあ? なんて思いながら。
田所詩織の家はうちから結構近く、新学期から一緒に学校へ行こうという事になった。しかも「叶って呼ぶから私の事も詩織って呼んでえな」と言われた。なんだか照れくさいような、でも凄く嬉しい。
早速友達が出来るなんて!
嬉しくて家に帰るなりばぁちゃんに「友達ができたよ!」って報告してしまった。ウキウキして、でも軽い気持ちだったのだけど、ばぁちゃんときたら目に涙を浮かべて「そりゃあよかったでよお……」なんてしみじみ言うんだから驚いちゃうよ。
……私はそんなにばぁちゃんを心配させていたのかな。
「かーなーうぅー」
なんて事を考えていたらイトの声が聞こえたような気がして、急いで外に飛び出した。
「ちがーう! 叶、ここ! こっち!」
声のする方……さっきまで私が座ってた場所を見ると、テーブルの脚の陰にイトがいるのが見えた。
「ちょ、ちょっと! イト、そんなところにいたら誰かに見つかっちゃうよ!?」
「だいじょーぶ。叶のじぃちゃんもばぁちゃんも外出かけてったよ」
「あ、そっか。畑仕事行ったのかな」ホッと一息つく。……が。あんなに近くにイトがいるのに気づかなかったなんて。これからは歩く時気をつけよう、と秘かに決意した。
そして。
今朝の松ぼっくり!
「そうだ! イト、今日松ぼっくり置いて行ってくれた?」
「おおお! 気付いてくれた?」と嬉しそうなイト。
「じぃちゃんが凄いって言ってたよ。私も驚いた。綺麗だよね、あれ」
「ナスのお礼だよ。僕が彫った中で一番綺麗なの持ってきたんだけど気にいってくれたならよかった」
ニッコリと笑うイトの愛らしさときたら。私もついつい笑顔になっちゃう。
「あれね、私のお守りにしたよ。早速効果あったんだよ」
私は今日の出来事をイトに話した。学校に行った事。凄く不安だった事。友達が出来た事。それもこれも全部イトのくれた松ぼっくりのおかげ! って言うとイトは照れて顔を赤くしてた。
イトはとても聞き上手みたい。「ほー」とか「うんうん」とか本当に興味深そうに私の話を聞いてくれるんだ。それはイトが人間に興味があるからだけなのかもしれないけど、私は本当に友達に話してるみたいに楽しくお話しできてたのでとても嬉しい。
「なあ、叶。天狗、気を付けた方がいいぞ」
そう、当然天狗さんの話しもした。するとイトはちょっと表情を曇らせて心配そうな目で私を見つめた。
ちょっと躊躇い、そして困った様子で。
「うーん……。天狗はさあ、人間が大好きで。特に若くて綺麗な女が大好きなんだ。気に入られるとちょっと厄介だと思う。叶、天狗の社にはもう近づかない方がいいよ」
「人間が大好きな天狗、それって凄く良い人なんじゃないの?」
「うーん、それはそうなんだけどもさあ……」
「ふうん……イトがそう言うならなるべく近づかないようにするよ」
なんだかハッキリしないイト。そう言うからにはそれなりの理由があるんだよね、きっと。だから私は天狗さんには近づかない事にした。
そう言うとイトも安心してたみたいだしね。